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13 勇者、旅をする
しおりを挟む盗賊の隠れ家を出てから何日か経った。ぼくらふたりはあいかわらずのんびりと旅をしていた。
不思議なことに出会う人間はひとりもなく、ここ数日もいくつかの村を見かけたが、どこも無人で荒らされていた。ひどいものは焼け跡となっていて、家畜とか、そういう生きているものさえ見当たらなかった。
「いくさでもあったのかなあ」
「おまえほんとのんびりしてるな。いまは人間と魔族が大変ないくさをやらかしてんだぞ」
リエガは不服そうにそう言った。なんにも知らないのか、という気持ちが伝わってきた。だって知らないんだもん。仕方がないじゃないか。村から出たのも初めてだし、こうして旅してるのも初めてなんだから。
「でもなんか気が楽だ」
それは本音だった。もうあの恐い森に入らなくて済む。鉱山にも行かないでいい。このままずっとこうして旅をしていれば、きっと何かいいことがある。そう考えたらなんか楽しくなった。
「また盗賊とか出たらどうすんだよ」
「リエガは心配性だな。そうしたらまたコックにでもなって、そしてやっつけちゃえばいいだけさ」
「そんなのほんとにうまくいくと思ってんのか?」
思ってないけど、そう思わないとやってられないんです!
「もしだめなときはリエガ、お前はためらわず逃げろ。獣人なんだから足は速いだろ?」
「獣人だから足は速い?決めつけんな!獣人だからって…」
な、なんだこいつ?なにか嫌なことでもあったのか?
「別に決めつけたわけじゃない。可能性を言ったんだ。獣人の能力って凄いんだろ?」
「あ、あったりめーじゃねえか。そりゃ、すげーんだぜ!」
「な、ぼくは間違ったことは言ってないだろ?」
「お、おお…なんか誤魔化されたみたいだけど…」
「気のせい気のせい」
空は青い。鳥も飛んでる。ああ、今夜は焼き鳥にしよう。
「なあおまえ、ほんとうに弱いのか?」
獣人のリエガは不思議そうにぼくを見た。
「弱いに決まっているだろ?武器だってこの通り扱い方わかんないし」
盗賊から剣と弓をかっぱらった。まあもう使うやつがいないからね。泥棒じゃないよね。弓は袈裟懸けに背負って、剣は腰に釣っている。なんか重くて歩きにくい。騎士って大変なんだなあ。
「見かけはさまになってるんだけどなあ」
「いいけど、おまえ四つ足でしか歩けないのか?」
リエガは獣のように四つ足で歩く。剣は腰に吊るせないから背中に背負っている。
「おまえのようにも歩けるけど、この方が楽なんだ。ダメか?」
「いや、そうじゃないけど、話しするのに遠いというか」
「耳はいい方だ。大丈夫」
そういう問題か?なんとなく犬の散歩みたいで変だぞ。
「まって、マティム。血の匂いだ」
リエガが地面に顔を近づけて何か匂いを嗅いでいる。
「誰か傷ついているのか?」
「そうらしい。この茂みの中だ」
灌木と雑草が生い茂っているそこに、それはいた。
「こ、こいつ…魔族だぞ!」
大きな人型の何かが仰向けに倒れていた。部分部分に鎧をつけていたが、全身じゃなかった。だから薄緑色の皮膚がよく見える。へえ、血は赤いんだ。
「見なよ。矢が刺さってる。でも普通の矢じゃないよ。きっと魔法の矢じりがついているんだ。でなきゃ魔族なんか倒せないからね。だからもうじきこいつは死ぬ。息が荒く小刻みだ」
リエガが冷静に傷の具合を見ている。大したもんだな。ぼくはリエガが指切ったときもちょこっとの傷でビビったっていうのに。
「んじゃ、運ぼうか。そっち、足持って」
「おいおいおい!なに考えてんだよ!こいつは魔族!わかる?魔族なんだよ!なんで助けちゃうかなー!」
「はいはい、苦情はあと。いまは急を要するんだろ?ほっときゃ死んじゃうんだろ?なら手当てが先でしょ」
「意味わかんない!なんで魔族助けにゃならんの?」
「いや、死にそうだから」
「はあ?」
リエガは絶句したけどぼくはかまわなかった。怪我をしたものを放っておけない。人間にはそういう義務があるんだ、と高校で教わった。ただそれだけ、だけどね。
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