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トンネルのなかの愚者
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これは失敗だったかもしれない。
あたしは歩きだしてからかなりの時間をそのトンネルのなかで過ごしていた。そして考え出した結果がこれだ。
「まったく後悔ってのは先にできないものなのね」
そうつぶやいてもあいつの声は聞こえてこない。なるほどなるほど、トンネルのなかではあいつの声は届かないんだ。ということはあいつの目も届かないってことね。しめしめだわ。とはいうものの、これじゃどうしようもないじゃない。
「いっそのこと戻る?いやいやそれは無駄だ!もとのあのジオラマの世界に戻って、モブたちと一生過ごすなんていや!」
などと大声で言ってみたりする。あたしの声がトンネル内に反響しながら消えていく。
「うるさい!」
わ!びっくりした!誰かいる。誰かがトンネルの壁のすみで座っている。少年のようだ。
「あんたなにもんよ」
「それはこっちのセリフだ!」
ふたりの声がトンネル内に反響しあう。
「あたしは未来。みらいと書いてミキ。もう苗字は忘れたけど」
よくよくあたしを見たら、あたしはまだ中学生だった。なぜなら背も伸びていないし制服も中学のだからだ。あんなに時間が経ったのに、あたしは全く変わっていない?いや、たしかに高校生くらいにはなってたはずだ。
「ああそう」
「ああそう、じゃないわよ。あんたの名前は?名前くらいあるんでしょう?あんたこんなところでなにしてんのよ。なんであんただけ顔があるの?ここはいったいどこよ」
「そんなにたくさんの質問を、ぼくにひとことで答えられるほどぼくは賢くない」
あーあ、回りくどい言い方。ハッキリ答えたくない、もしくは知らない、といってほしいもんだわよね。こいつ、あたしと会話したいのかな?まあ、こんなとこでひとりじゃ、それも仕方ないかもね。
「いいわよ、何の話題から行く?こう見えて、あたしアニメと映画の話ならいくらでもできるわよ?」
「そうゆうの、いい。黙ってて。って言うか、どこかに行って」
「はあ?何よせっかくこっちはあんたがさびしそうにしてるから話でもしてあげようって親切に言ってやってんのに」
「別にそんなこと頼んでないよ」
可愛くないわね。絶対モテないタイプだわ、こういうヤツって。
「わかったわよ。ほっといてやるから、この先になにがあるか教えなさいよ」
ずっと座り込んでいる少年はあたしをじっと見ていた。そしてつまらなそうに口を開いた。
「その先にあるのは『幸せの国』さ」
「しあわせのくに?なにそれ」
「行けばわかる。ぼくに説明なんかできないから」
「じゃあ行くわ。なんだかわかんないけど。あんたも来るでしょ?まさかこんなところにひとりでいるつもり?」
少年はないか怯えるような目をした。
「ぼくは行けないんだ。だってそこから追い出されたんだから」
「はあ?何でよ。なにしでかしたのよ」
「決まってるだろ?」
「何が?」
「殺人だ。人殺し。ぼくはね、人を殺したんだ」
「まさ…か…あんたが?まだガキなのに?」
嘘だと思った。まさかこんな少年が?
「嘘じゃないよ…ほら…」
少年はよろよろと立ち上がると、その小さな手を差し出した。少年の手は血で濡れている。いや、よく見ると、全身血まみれなのだ。頭からつま先まで、全部血に染まっていた。
「い、いや!」
あたしは走り出してしまった。なんで人を殺したか、理由を聞かないまま。いやもうそれどころじゃない。少年が追いかけてくる…いや、来ない。まだあそこに立っている。まだだれかに手をみせているみたいに、ずっと立っている。
もうそれを見た瞬間に、あたしは走り出していた。トンネルの先に見えるかすかな光に向かって。
あたしは歩きだしてからかなりの時間をそのトンネルのなかで過ごしていた。そして考え出した結果がこれだ。
「まったく後悔ってのは先にできないものなのね」
そうつぶやいてもあいつの声は聞こえてこない。なるほどなるほど、トンネルのなかではあいつの声は届かないんだ。ということはあいつの目も届かないってことね。しめしめだわ。とはいうものの、これじゃどうしようもないじゃない。
「いっそのこと戻る?いやいやそれは無駄だ!もとのあのジオラマの世界に戻って、モブたちと一生過ごすなんていや!」
などと大声で言ってみたりする。あたしの声がトンネル内に反響しながら消えていく。
「うるさい!」
わ!びっくりした!誰かいる。誰かがトンネルの壁のすみで座っている。少年のようだ。
「あんたなにもんよ」
「それはこっちのセリフだ!」
ふたりの声がトンネル内に反響しあう。
「あたしは未来。みらいと書いてミキ。もう苗字は忘れたけど」
よくよくあたしを見たら、あたしはまだ中学生だった。なぜなら背も伸びていないし制服も中学のだからだ。あんなに時間が経ったのに、あたしは全く変わっていない?いや、たしかに高校生くらいにはなってたはずだ。
「ああそう」
「ああそう、じゃないわよ。あんたの名前は?名前くらいあるんでしょう?あんたこんなところでなにしてんのよ。なんであんただけ顔があるの?ここはいったいどこよ」
「そんなにたくさんの質問を、ぼくにひとことで答えられるほどぼくは賢くない」
あーあ、回りくどい言い方。ハッキリ答えたくない、もしくは知らない、といってほしいもんだわよね。こいつ、あたしと会話したいのかな?まあ、こんなとこでひとりじゃ、それも仕方ないかもね。
「いいわよ、何の話題から行く?こう見えて、あたしアニメと映画の話ならいくらでもできるわよ?」
「そうゆうの、いい。黙ってて。って言うか、どこかに行って」
「はあ?何よせっかくこっちはあんたがさびしそうにしてるから話でもしてあげようって親切に言ってやってんのに」
「別にそんなこと頼んでないよ」
可愛くないわね。絶対モテないタイプだわ、こういうヤツって。
「わかったわよ。ほっといてやるから、この先になにがあるか教えなさいよ」
ずっと座り込んでいる少年はあたしをじっと見ていた。そしてつまらなそうに口を開いた。
「その先にあるのは『幸せの国』さ」
「しあわせのくに?なにそれ」
「行けばわかる。ぼくに説明なんかできないから」
「じゃあ行くわ。なんだかわかんないけど。あんたも来るでしょ?まさかこんなところにひとりでいるつもり?」
少年はないか怯えるような目をした。
「ぼくは行けないんだ。だってそこから追い出されたんだから」
「はあ?何でよ。なにしでかしたのよ」
「決まってるだろ?」
「何が?」
「殺人だ。人殺し。ぼくはね、人を殺したんだ」
「まさ…か…あんたが?まだガキなのに?」
嘘だと思った。まさかこんな少年が?
「嘘じゃないよ…ほら…」
少年はよろよろと立ち上がると、その小さな手を差し出した。少年の手は血で濡れている。いや、よく見ると、全身血まみれなのだ。頭からつま先まで、全部血に染まっていた。
「い、いや!」
あたしは走り出してしまった。なんで人を殺したか、理由を聞かないまま。いやもうそれどころじゃない。少年が追いかけてくる…いや、来ない。まだあそこに立っている。まだだれかに手をみせているみたいに、ずっと立っている。
もうそれを見た瞬間に、あたしは走り出していた。トンネルの先に見えるかすかな光に向かって。
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