聖霊流し ――君の声が聞こえたら――

さかなで/夏之ペンギン

文字の大きさ
上 下
11 / 23

誰かの…

しおりを挟む
それは予想外の恐怖だった。

なんで持田が…殺人の容疑で警察に追われているはずの持田先生がここにいる?

考えられない。

考えられないと言えば、あたしがこんなことになっている状況こそ考えられない。

つぐみはいったいどうした?あたしをほったらかしてどこ行った?

音がする。つぐみ?戻ってきた?だけど変…。

ドアを無理やり開けようとする音がした。すごい力のようだ。つぐみじゃない?誰?

息遣いがする。男の人だ。主事さんか?いや、今日は休みのはずだ。だからこうして閉じ込められてんだ。じゃあ誰?

恐い怖い。鍵はかかっているようだけど、何でって思いたくなっちゃう。だってカギはここ…ううん、つぐみが持っている?あ、そうだ、つぐみがカギを持っているんだ。じゃあ、つぐみがカギをかけたってこと?なんで?あたしがいるのに?

また熱が上ってきたようだ。目の前がくらくらする。もうドアを開けようとする音は、聞こえなかった…。






金根幹と最後の鎮魂歌チャイム
それは華々しく、放課後の校庭に響く
誰もがそれを聞いて、悲しむ者はいない
むしろ心うきうき
それは生者の時間の終わりだから



九時限目が終わったよ


そう脳裏に誰かがしゃべった




前略

季節外れ、というかまだ夏が始まったばかりだというのに、アキアカネが飛んでいます。

セミやバッタもまだまだこれからだというのに。

虫たちはきっと放射能とかに強いんだと思います。

きみのもとにこの手紙が届くときには、きみはもう死んでいると思います。それでもぼくが手紙を送るのは、これはもう、なんだか習慣のようになってしまったからです。

姉は、そんなことはもうやめなさいと言います。確かに他から見ればおかしなことですが、いまのぼくにはこれしかすることがありません。こっちの世界に、ぼくの居場所がないからです。

ここは町の人の、ううん、姉の世界なんです。ぼくはすっかり姉の世界に、取り込まれたってわけです。

ぼくの脳髄を含め体のありとあらゆるものがこの世界に閉じ込められています。でも心はそうではありません。まあ、ようやく自我が保たれている、といったレベルですが。要するにぼくは物理的にとても不自由な立場なんです。

でもこうしてぼくはきみの未来にいれるわけだし、大して悲しいと思いません。

さて、そんなきみにひとつだけいいことを教えてあげましょう。もう死んじゃってるのに意味ないじゃん、とおっしゃるかも知れません。でもこれはぼくの自己満足であり、あくまで可能性なのだから。

壁をごらんなさい。壁です。暗くてよくわからないかも知れませんが、小さくポツンと真っ赤な明かりが見えると思います。

あとはわかりますね?

これからはきみの問題です。もう終わりにしたいなら、そこでゆっくりお休みなさい。まだぼくに文句を言いたいのなら、さあ、考えて。

あと、ろくでもないことを考えているようですから、言っておきます。それは頭の構造がもとから違う、とだけ。ではがんばって。




誰かいた。体育倉庫。あそこは鍵が壊れている。おとといも生徒が閉じ込められた。知らん顔したが、夜中教室を徘徊してるとき、きっとそいつのだろう、携帯が鳴っていた。通話じゃなくメールを送ってやった。早く助けてやれ。ここにいられると、俺が隠れていることがバレてしまうからな。

さっき縛った生徒はたしか二年の磯崎とかいう女子生徒だ。知っている。だがまさかまだ学校にいたとはな。一緒にいた小西先生は殴り倒した。とっさだったんで力任せに殴った。それを見た磯崎が気を失った。縛りつけているあいだ、小西先生はピクリともしなかった。スカートから長く細い白い足が見えた。ああ、今はそんなことを考えている場合じゃない。どうにかしなければ。だがどうすればいい?いっそ火をつけるか?そうすりゃ俺がやったとは思われないだろう。だがいつかバレる。いや、すぐにバレる。だが、やらないよりましだ。校舎に火を放つ。そして体育倉庫の、誰だかわからないやつも、殺す。そうだ、それでいいんだ…。


誰かの嫌な感情が流れてくる。憎悪と恐怖に支配された感情。ああ、こいつも怖がっているんだ。

火をつけるだと?なんて馬鹿なことを。そんなことすりゃ、学校にあるみんなの思い出とか成績表とか、燃えてしまうんだぞ?

ん?成績表?燃えちゃう?いいんじゃない、それ。いやいやよくない。バカかあたし。あたし成績そんな悪くないじゃない。そりゃ、上には上がいて、手の届かないような点数とる子が何人もいて…。いやいや、違う違う。どうしてそっちの方向に?ああ、あたし劣等感でいっぱいなんだ。人は人って、いつも言ってたけど、ホントはうらやましくって悔しくっていっぱいだったんだ。

ああそうよ、悔しいわ。悔しくって仕方ない。勉強なんかしないつぐみがあんないい成績取るなんて、なんかおかしい!いっつもゲーセン行ったり遊び歩いてるあいつがなんで学年トップなの?毎晩毎晩勉強してるあたしじゃないの?


それは頭の構造がもとから違う


わかってるわよ!





雪の上についた足跡は消しながら歩く。消すって言ったってあとは残る。まあどうせ消防だのが踏み荒らす。関係ない。倉庫から灯油。冬でよかった。たっぷりある。こんな校舎、丸焼けにできるほどな。いや、最初にあの体育倉庫を燃やすか。誰が中にいるのか知らないが、手っ取り早く燃やした方が手間が省ける。ああ、火をつけるものがない。俺はたばこは吸わないんだった。ライターを持っていない。主事室に行けば何かあるだろう。今さら引返すのも時間の無駄だけれど、仕方がない。

主事室にあのおっさんはいなかった。命拾いしたな。まあ、嫌いなやつじゃなかったからな。この学校の、クソみたいな連中よりいくらかましって程度だけどな。ああ、引き出しにあった。ストーブの点火用のやつだ。いいぞ。さあ、バーベキューだ。俺はそれを手に取る…いきなりそれは聞こえた。



非常ベルが鳴った。火災を知らせる警報だ。それはけたたましく、あたりを震わせるように、雪空に鳴り響いた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...