任侠高校生 ~The ultimate appointment

さかなで/夏之ペンギン

文字の大きさ
上 下
8 / 12
第一章 平和の国の高校生

謎の女

しおりを挟む
 
マンションに帰ってきてもドキドキは収まらなかった。

あたしはでかいぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめた。

父と母と、東京ディズニーランドで買ってもらったやつだ。あの頃は楽しかったなあ。大好きなパパ。毎日お話しした。大好きなママ。毎晩一緒に明日幼稚園に着ていく服を選んだ。いっつも手を繋いで、頭をなでてくれて、転んで泣いたらふたりでオロオロしてくれた。

涙が出た

ああ、泣いちゃいけないんだ。泣いたらパパとママは困るんだ。あたしは毎日楽しく暮らしているんだと、ふたりに思われないといけないんだ。でもこぼれちゃう涙の止め方なんか知らない。誰か教えてよ。

それは意外に簡単な方法で止まった。

ピンポーン

玄関のチャイムだ。このフロアには誰も許可なく入れない。宅配業者の人だって、驚くことに警察官さえも。

「はい」

聞こえないけど返事は大事。こっちが迎えるって意識ができるから。だから不必要な涙は止まる。いつもなら家政婦のみゆきさんが出てくれるけど、今日はもう帰ったからね。あたしひとり。

「あ、青木さん!」
「あかねさま。何度も言いたくはありませんが、無防備にドアを開けるな、と申し上げたはずです」
「だってモニターで見えたし、それにほら」

あたしは後ろ手で隠した盾型のスタンガンをみせた。ポリカーボネート製の盾にスタンガンが装着されている。これもアメリカ製。きっと恐ろしいほど電流が流れると思う。アメリカ人って、ないわー。

「上出来です」
「わーい、褒められちゃった」
「失礼だな。ぼくはいつも褒めてますよ?」

優しいな、青木さんは。あたしの顔の涙の跡や、目の腫れぼったさをわかってくれてる。そうやってあたしの気持ちを…。

「今日はちょっと大事な話があります。これはお母様にお話しして、そしてご了承をいただいたことです」
「はあ」

何だろう、あらたまって。


「ぼくは来月昇進します。警視庁の警視になるんですが、管理官としてSPの職務を離れます」

それは昇進と、そして別れを意味する。青木さんは警視庁でえらくなるんだ。

「おめでとうございます!すごいじゃないですか。やっぱエリートだったんですね、青木さんって!」

別れるのは辛いけど、青木さんの出世なんだ。よろこばなくっちゃ。


「そう言ってもらえると思いました」
「コーラで乾杯しましょうよ」
「お断りします」
「え?」

な、何か気に障ったかな?あたしなにか嫌なこと青木さんに言ったかな?

「お嬢さまがこの数日間、どうしていたか、ご自分でもわかりますよね?」
「はあ、まあ、いろいろと」
「それについて何か弁明は?」

つまりあたしがヤクザの家の子の友だちになって、町のチンピラを一掃して、ついでに暴力団まで関わりあいになった。そういうことを言っているんだ。

「ありません」
「つまりお嬢様の意思で、そしてこれからもそうしてご自分の意思を貫き通す、ということですか?」
「ごめんなさい。青木さんが何を言おうとしてるかわからないですし、でもあたしを諫めようとしてくれている気持ちは伝わってます。そのうえで、あたしはあたしの、思う通りの生き方をしたいんです」
「なるほど」

青木さんには呆れられた。まあ仕方がない。青木さんにはダメな子って思われたのは悲しいけど、お祝いしたいって言って拒否られたのも悲しいけど…あー、これって悲しいことばっかりじゃない。どうかしてる、あたしって。もうどうにかなっちゃうのかしら?

「わかりました。あなたの気持ちはね」
「すいません。こういう性格なんですね、あたし」
「ぼくは嫌いじゃないですよ。いつも真っすぐで。ときに暴走しますが」
「なっ?」

なにが言いたいんですか、青木さん!

「ぼくも踏ん切りがつきました。いえ、警視庁のキャリアとして出世するのはまあいいんですけどね」
「はい?」
「あなたのお父さんに、じつに魅力的な提案をいただいて」
「パパが、ですか?」
「民間のSPの会社を立ち上げると。それにぼくがどうかと」
「はあっ?」

つまり青木さんをパパの設立する民間のシークレット・サービス会社にということらしい。なに考えてんだ、パパ!

「そいつが給料破格なんですよね。迷っちゃうでしょ?」
「悪いことは言わない!青木さん、地方公務員から国家公務員に出世でしょ?ありえないわ!退職金とか年金とか民間じゃ考えられないほどもらえるのよ?」
「意外にセコイですね、あかねお嬢さま」
「何言ってんのよ!それに出世よ?警視庁よ?ああ、あんたって!」
「まあそういうわけで、来月退職です。つきましてはまた、よろしくお願いします」

青木さんはペコリと頭を下げて帰っていった。あたしはもうどうしていいかわからず、また部屋にもどった。

佐伯さんからメールが来ていた。なんだろう?あの謎の女の人のことかな?


〈あたしも青木さんと民間のシークレット・サービス会社に就職します。よろしく〉


はい?なにそれ。

〈やめた方がいいわ〉

あたしはそう返信した。

〈いやよ。結婚資金貯めるんだから。それにもうこれは決定事項です〉

ああもうこいつら…。まったくバカばっか。でも、涙を忘れちゃった。




今日、『下田組』を潰した。

都内にいる反グレどもを集めたヤンキー集団で、暴力団のその下請け的な存在だ。しかもおこがましく『組』を名乗った。ヤクザとして放っておけない。断固叩き潰す。そうしないとあかねやミレイが危険だ。それに最初に手を出してきたのはこいつらだ。誰に遠慮がある。

「若、お気持ちはわかりますが、ひとりで何でもやるのはちょっと…」

そう言って安藤は火のついていないタバコをくわえた。

安藤はぼくの後始末をしてくれている。叩き潰した奴らだ。二度とこの世界に足を踏み入れさせない脅しをする。有望そうなのは星野組に勧誘だ。あとどうしようもない連中は、ちょっと人に言えない。まあどこかの地方都市のタコ部屋に放り込まれるか、どこか外国に労働者として送り込まれる。サウジアラビアとかオマーンとかそっち方面らしいけどね。

「今日の奴らは?」
「そいつは聞かない方が」

つまり全員外国行きってことか。気の毒に。

「アメリカに留学って話、知ってる?」
「はい、聞いております」
「どう思う?」

ちょっと考えてるみたいだ。サングラスの奥の目はきっと閉じられている。

「いいと思います。若にはこの日本は少し窮屈ではないかと」
「窮屈だけど、いいところもあるよ」
「ちょっと前までは、はそうおっしゃらなかったですが?」
「そうだね。不思議だな」

確かに安藤の言う通りだった。少し前までは何もかも憎んでいた。世の中も、暴力も、組も、そして自分自身をも。そしてそれを解決するのがまた暴力だった。そんなジレンマが絶えず自分を責めた。

十歳のときはじめて拳銃を撃った。いや、拳銃だけではなかった。ありとあらゆる武器の使い方を教わった。祖父は大金を出してある施設に定期的にぼくを通わせた。それはぼくが身を守るため必要だと、そう祖父が判断したからだ。それはロシアの人里離れた場所にあった。

「ゲルグゴーギにようこそ」

中年の男はそう言った。見るからにがっしりとしたその男は元軍人だと言った。ここで傭兵を育てているとも言っていた。ゲルグゴーギは傭兵の養成所だ。

「今日はヘリの操縦を教えよう」
「スペツナズでもヘリの操縦を?」
「いや、これは趣味でね」
「趣味で武装ヘリねえ」

十五の夏だった。あれからありとあらゆる戦闘術をこの男から教わった。男の名前はグルジミール・シチェンコフと言った。もちろん本名かどうかはわからない。だが確かなことがある。この男は強かった。この養成所の教官の中で群を抜いていた。ロシアの特殊部隊である『スペツナズ』出身だということもうなずけた。毎年夏と冬、この男とともに訓練に明け暮れ、そして生活した。ときどき安藤も来て、ここで訓練を受けていた。

そこは好きな場所でもあった。すべてが暴力で解決した。軍とはそういうものなのだ。国家が保持する純粋なる暴力機関。それこそが国家の力だとグルジミールに教わった。だがいま世界は大きく変わった。戦争そのものの数が減り、質も変わった。かわりに内戦や民族紛争が頻発し、国家の軍では対応しきれなくなったのだ。

そうして傭兵がかわりにそれに対処し始める。傭兵はどんなところにでも出向き、そして殺す。それだけだ。べつに義勇的なものでもなく、賛同や共感をしたわけでもない。ただ金のためだ。れっきとした経済活動だ。

ここで傭兵として鍛え上げられた者たちは、すぐにどこかに行った。帰ってくる者もいたし、帰らない者たちもいた。教官たちも、いなくなった者もいる。十五の冬、グルジミールはぼくに最後の訓練をさせた。卒業試験だと彼は言った。次の朝、彼は訓練所を出て行った。中東に行くとだけ聞いた。それ以来彼とは会っていない。連絡さえ来ない。

あの、恐くて優しい目をした男は、どこか知らない戦場で、きっと孤独に未だ戦争をしている、とぼくはそう思うようにした。



「あなたは誰ですか?」

ぼくは暗い隙間を見てそう言った。そこから誰かの視線がぼくを見ていたからだ。悪意はない。ただ、見ていた。

「そのうちわかるわ。だけど今はこれだけ。でも、わたしに気づいたのは感心ね。さすがだわ。あんたよっぽどの修羅場をくぐってきたのね」
「おねえさんもでしょ?」
「あんたほどじゃないわ。ご褒美に教えてあげる。これからわたしはあんたと関わる。まあ、敵か味方かはあんたたち次第ってことだけどね」
「あんたたち?それはぼくの家と?」
「そんなもんあたしの範疇じゃないわ。専門外」
「じゃ、まさか」
「おっと、感情が揺らいでるわ。そいつがあんたの唯一の弱点かもね。まあ、そいつは強みでもあるか…。なかなかヤバいわね、あんたって子は」
「本当に誰なんです?」
「それはそのうちに、ね」

そういって声の主は消えたようだ。不思議ですごいと思った。まるで気配を感じさせなかった。グルジミールにそっと背後から忍び寄られる、そういう感じだった。ぼくは少し身震いした。

「鳥肌立っちゃった」

ぼくは正直に、そうつぶやいた。




それは意外にすぐに訪れた。学校のチャイムが鳴る。午後の授業の終わりの合図。それを見計らったように学校に真っ黒い乗用車とバンが乗りつけられた。

「星野、森坂、それから吉崎。お客さんだ。いったいお前ら何したんだ?ありゃあ役人だぞ?どこの所属かわからんけど」

あたしたちを見て担任の堂島ゆたかが困った顔で言った。会議室で待っているといった。生徒指導室じゃない?なんだろう。お客って、どういうことかな?心当たりがない。いや、まったくないわけじゃない。そう…一番嫌な心当たりがある。警察だ。ずいぶん暴れたからなあ。でもそうならSPの青木さんたちが何か言ってくれるはずだ。

あたしたちは担任に連れられて、学校の、校長室のとなりにある会議室に向かった。不思議なことに、竜児は一言も発しなかった。

会議室の前には安藤ちさとが立っていた。どうやら一緒に呼ばれたみたいだ。会議室に入ると、若い三人の男が立っていた。みんなラフな格好で、どうにも役人には見えない。どこを見て先生はそういったんだ?

「連れてきました」

先生がそう言うと、ちょっと年かさの男がふん、というような顔をした。

「あんたは出てってくれないか?」
「俺はこいつらの担任だ。そしてここは学校だ。ここにいる権利はある」
「あんたの権利や職務権限を軽く超える権限がこっちにはある。それはわれわれの身分を明かせば、ということ限定だけれどね」
「つまりあんたたちは身分をおおやけにしたくない、と?」
「そうじゃない。ただそう言っただけだ」

なによくわかんない。って、この人たち誰?

「この子たちで間違いない?」

他の若い男に年かさの男が聞いた。

「間違いありません」

こいつらきっと先生も信用していないんだと思った。

「ではついて来てくれたまえ。これは任意だから拒否もできる。だがそうなった場合の責任の所在は、わかるな?」

なにそれわかんないよ!そうおおっぴらに拉致られ宣言されても困る。しかも威圧的で有無をも言わさないって感じなんですけど。

「いいでしょう。行きます」
「ちょ、ちょっと星野くん?どういうことよ」

竜児はあたしのそれには答えず、その年かさの男をまっすぐ見た。

「あの女の人の招待なんですね?」
「察しがいいね。ぼくらも荒事は好まない。得意だけどね」
「そのようですね」

竜児は淡々とそう言う。いったい何?あの女の人って誰?

「ついてきたまえ。車を用意してある」

そう言って年かさの男が会議室を出ようとしたが、ドアのところで立ち止まった。

「そうか、車のナンバープレートか」

はあ?何言ってる?

「分類番号が8で始まっている。パトカーや消防車なんかがつけている」

先生、わけわかんないこと言わないで。

「ふん、先生にしとくのはもったいないな」
「そいつはどうも」
「だがあんたは招待されていない。ここでお別れだ」
「子供たちは無事に帰してくれるんだろうな?保証が欲しい」
「いい度胸だ。ほかの教師とはちがうな、あんた」
「いいから保証だ」
「わたしの名刺だ。だが誰にも見せるな。いいな?」

堂島先生はその名刺を見て表情を変えた。そしておもむろに上着の内ポケットにしまった。もちろんちょい悪スーツのだ。そして黙った。

「さあ、来たまえ」

あたしは先生を振り返り振り返り歩いた。なんかまるで出荷される子牛の心境だ。ドナドナでも歌うか。

校舎の横に停められた真っ黒なバンに乗せられた。下校する生徒たちが見ている。なんか嫌だった。まるで警察に連行されるみたいだ。そういえばこいつらも先生も警察ってひとことも言わなかった。それに竜児がおとなしく、なにも言わないのも謎だ。なにか知っている?いや、なにか知りたいって顔だ。あ、いやだ。なんでそんなことわかるんだ、あたし。

「ねえ、途中でマック寄ってくんない?」

今さら竜児の無茶振りには感心させられる。男たちはさぞ困ることだろう。

「マック?ハンバーガー屋かい?」
「うん。おなか減っちゃって」
「そうだな…着くまで四十分てところか。おい、そこの交差点のドライブスルーに入ってくれ」

運転する男にその年かさの男はそう声をかけた。こいつらも余裕じゃないの。信じられない。

「あかね達も食べる?おごるぜ」
「あたし食べる!ダブルチーズバーガー!」
「ちさとには聞いてないんだけどなあ」
「あら、あたしは仲間外れ?」
「だってさっきメロンパン隠れ食いしてたろ」
「てへ、バレてた?」

なんだって!こいつどういう神経してんだ?

「いいよ。チーズバーガーね」
「ダブルよ、そこんとこ重要」
「はいはい。で、あかねたちは?」
「あたしは普通の。ポテト大盛。おっきいコーラ」
「ミレイ、あんたって子は」

あたしは正直呆れた。

「ふふん、腹が減ってはナントかよ」

誰といくさするつもりよ?

「あたしもコーラ。あ、ダイエットの」
「ダイエット!そうそれ!」

ミレイに同調したちさと。ジャンクフードになにダイエットって。意味わかんないわ。

「あかね、ほら早くしろ。注文」
「あ、あたしビッグマック。コーラもおっきいの。もちろんポテトも」
「あかねの食いしん坊」

あたしはなぜだか真っ赤になった。年かさが笑っている。べつにあんたを笑わせようと思ったわけじゃないんだからねっ!




なにかいかつい建物を想像していた。でも意外に地味な感じのビルだ。それの裏に回るようだった。裏口は地下の駐車場に繋がっていて、そこの明るい入口に車は止まった。

『家庭裁判所墨川支部』

入り口の金属プレートに書いてある、そういう字が目に飛び込んできた。げっ、これって家庭裁判所じゃない! あたしたちやっぱり家裁送りになったのね。ああ、お父さんお母さんごめんなさい!

建物の中に入ると、そこはやはりそういうポスターや印刷物が所狭しと貼られていた。

「この部屋で待っていなさい」

そういって年かさの男が部屋のドアを開けた。大きな窓があったが、そこには鉄の格子が嵌め込まれていた。ああ、もう逃げられないんだという強迫観念があたしを襲った。ちさととミレイは呑気にまだポテトを食べている。アホか。

「ふうん、みんなまとまってってことは、捕まったわけじゃないのかもね」

な、なに言ってんですかつぐみさん。物騒なことは言わないでください。

「まだわかんないさ。やつらは心理戦じゃ上級者だよ。巧妙に緩急つけてくるのは常套手段さ。とりあえず座ろう」

なにそれ恐い。ハンバーガーが緩で鉄格子が急?ないわー。

「なんでそんなに冷静でいられるの?ここがどんなとこか知ってるでしょ?」

あたしの声は震えていた。当然でしょ?

「そりゃ知ってるよ。まあ離婚調停や遺産相続とはぼくたちは今のところ関係ないから、少年事件ってとこかな」

竜児がすらっと答えた。

「な、なんで事件なのよ!あたし何も…してないわけじゃないけど、悪いことはしていないわ!」
「ぼくに怒鳴るなよ。それに逮捕されたわけじゃないんだから。通常、補導なり逮捕されてからここに送られる。そういう手順てものがあるんだから」
「じゃさっきのがそうなんじゃない!捕まって車に乗せられて…」
「呆れた」

ちさとがポテトを食べながらあたしにそう言った。

「あんた気が早いわよ。まだ令状とか見せられていないでしょ?まだ任意の同行の範囲なのよ。逮捕されたわけじゃないわ」
「わー、ちーちゃんもの知りー」

ミレイもポテトを食べながら感心してる。ま、まあ仮に百歩譲ってそうだとしても、こうして監禁されてんだから逮捕と一緒じゃない!

「なんだ、心配なの?」
「あ、あたりまえでしょ!こうして監禁されてんだから」
「だったら証明してやるよ。そのドアを出てみれば?」

ドアを出る?は?何を言ってるの?だってドアって…。

「どうしたんだよ」
「うるさいわね」

あたしはドアにおそるおそる手をかけた。あれ?開く。鍵かかってないの?

外にはさっきの若い男がひとり、立っていた。

「あのー」
「なんだ、トイレ?そこの角曲がってすぐ。迷わないと思うよ」
「あ、ありがとございます」

なんであたしお礼なんて言ってるんだ?と、とにかくトイレに行こう。怪しまれないのと、ホントにトイレに行きたいからだ。

「わーい、あたしもー」
「あんたも?」
「うん、おしっこ」
「は、はしたないこというんじゃないわよ!」

若い男の前で、こいつ!

「何怒ってんの?今日は怒りっぽいね、あかねちゃん、もしかして生理?」
「バカ!いいから行くわよ!」

こんちくしょう、水洗に流してやる!


おしっこしたら落ち着いた。ああ、なんてことだろ。なんであたしこんなところにいるんだ?そう思ったら涙が出てきた。洗面台で顔を洗った。あり?ハンカチねえ。そうだカバンだ。カバンに入れてたんだ。

「はいハンカチ。まったく、ハンカチくらい持ってなさいよ、女の子が」
「はい?」

ちさとが鏡を見ながらリップを塗っていた。

「ななななななななな」
「なによ」
「なんであんたがここにいんのよ!ここは女子トイレよ!」
「しょうがないじゃない。こんなカッコしたあたしが男子トイレなんか入ったらそれこそ騒ぎになるでしょ?」

い、いやまあそうだが、いやいや犯罪じゃね?これって犯罪じゃね?女装した男が女子便所って法的に問題あるんじゃね?しかもここは裁判所だぞ!ありえない!

「も、もしかして星野くんも…」
「ああ、あいつは男便所。苦労するわね、あいつ」
「あんたもよ!シレっと言ってるあんたもよ!」
「はいはい、うるさいわねー。ひょっとしてあんた生理?」

まったくどいつもこいつもバカにして!信じらんない!

「おやおや、なかよさそうですねー、おふたかた」

ミレイ!どう見りゃそう見えんのよっ!

「おーい、早くって呼んでるぞー」

竜児が外から声をかけてきた。

あたしたちはとくに急ぐこともしないで、壁のポスターを眺めながら部屋に戻った。

そこに女の人が座っていた。見たことがある。マンションの前で声をかけてきた人だ。

「はじめまして。あたしは添田涼子。家庭裁判所調査官よ」



彼女の美しく大きな目…それは何か獲物を狙う、豹のような目だった。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

制服の胸のここには

戸影絵麻
青春
金田猛と氷室基子はともに曙高校の2年生。 ある日ふたりは”校長”から協力して極秘のミッションを遂行するよう、命令される。 その任務を達成するための条件は、搭乗者同士の緊密な心の結びつき。 ところがふたりはそれぞれ深刻な悩みを抱えており、特に基子は猛に全く関心を示そうとしないのだった。 猛はといえば、彼もまたある事件から己の性癖に疑問を抱くようになり…。

#消えたい僕は君に150字の愛をあげる

川奈あさ
青春
旧題:透明な僕たちが色づいていく 誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する 空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。 家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。 そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」 苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。 ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。 二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。 誰かになりたくて、なれなかった。 透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。

ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。 ほんのりと百合の香るお話です。 ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。 イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。 ★Kindle情報★ 1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4 2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP 3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3 4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P 5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL 6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H ★第1話『アイス』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE ★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★ https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI ★Chit-Chat!1★ https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34

処理中です...