転生ニートは迷宮王

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第8章

248 幕引

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「……おっ?」
 
 数秒前までの気持ち悪さが、まるで波が引くように消えていく。死なないどころか痛くも痒くもねえぜ。何かの罠なのか、既に術中なのか……マコトの表情を見るに、何か予想外のことが起きたってとこか。
 
「何故だ――創造クリエイト送界メラシア連展複式クアッド!」 
「お」「い」「お」「い」
 
 接続の悪い回線みたいに、意識がブツブツ切れる感覚がある。
 そして、痛くも痒くもないわけじゃなかった。一回切れるごとにとんでもない魔力、そして体力を持ってかれる。

「はぁ、はぁ、何故立っている? これは僕のオリジナルだ、君が対応できるはずがない!」 
「企業秘密だ。教えるわけにはいかねえな」
「ふざけるな! 何を隠している!」 
「自分で考えてみろよ――破空フェーヌ!」 
「――創造クリエイト解呪ディスペル!」 
 
 この距離の破空フェーヌなら躱せるだろ。随分動揺してるな。余程あの術に自信があったのか。

「調子に乗るな敵キャラごときが! お前は踏み超えるべき障害に過ぎない――創造クリエイト雷裂アイデルツ・|複式__ダブル__#!」 
「俺にとっての敵キャラはお前なんだよ、勇者サマ――穿空フェルラス!」 
 
 裂ける電撃の間に転がり込み、その真ん中を通す。直撃。ナイスエイムだ俺。
 
「――創造クリエイト治癒ヒール!」
 
 治されるか。まあそうだよな。
 本格的にダメージを入れるなら圧空フルシアとか$閉空__ケーシア__#とかなんだろうが、魔力消費と隙を考えるとリスクがデカい。
 
「主人公は僕だ! 僕に倒されるだけのお前が、お前がぁ! この僕に! 勝てるなどと思うなよ! ――創造クリエイト轟雷ガルツ!」
「――遅延ディロウ――置換レプリアス!」 
 
 爆発する光線をギリギリで躱す。範囲が広すぎて遅延ディロウだけなら死んでたな。危ねえ。
 つっても、このペースで魔力を使えるほどの余裕は向こうにもないはずだ。こうなったらいっそ魔力切れを狙うか。
 
「さっきから知ってる術ばっかだぜ。どうした、まさかネタ切れか? ――遅延ディロウ!」 
「舐めるな――時緩エゼイル――創造クリエイト送界メラシア!」 
 
 また一瞬意識が飛んで、どっと疲れた感覚。これはそこまで危険な術には思えないが、あんまり食らいたくはないな。
 
「何故だ、何故! 僕の術に間違いはない!」  
「さあな……お前の想像力とやらがその程度だったってことなんじゃねえのか?」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ! なら殺してやる! お前が何者だろうと触れるだけで死に至る裁きの雨だ! 今なら創造つくれる! 神代の魔術、その原点!」
 
 天使みたいな魔力を纏って、空中に浮かび上がるマコト。おっとマズいぞ、決めにきたか。
 これなら送界メラシアとやらを使わせておいた方が楽だった。さてどうするか……とりあえず、
 
「――圧空フルシア!」 
 
 マコトを周りの空間ごとし潰し、術を中断――させようとしたが、全く効いてる様子がない。嘘だろ。そんな変身シーンみたいな扱いなのかよ。
 
「ははは、今の僕にその程度の魔術は届かない! これが勇者の力! 魔王は勇者によって斃されるべきだ――世界はそうできている!」
 
 天井付近が黄金に染まる。待て待て。このままだと迷宮ごと吹っ飛ばすレベルになるぞ。俺の方はもう魔力もほとんど残ってないんだ。残ってたところでどうにかできるとは思えないが。
 
「マスター!」 
 
 背後から声。リフェアの影が俺に伸びていた。来た。
 
「これを!」 
 
 水面――影面からシルヴァがぶん投げたメダルをキャッチ。使い方が分からないが聞いてる時間もない。
 
「――創造クリエイト天裁イクリース!」
「――起動せよイダイア!」 
 
 降り注ぐ光の雨にメダルをかざす。起動せよイダイアで合っていたのか、或いは自動発動だったのか、光の雨はその全てが嘘だったかのように消滅した。 
 
「な……く、創造クリエイト吹風ウィレスカ!」 

 距離を取ろうと思ったのか知らないが、その術すら出ない。
 
「それを、寄越せ!」 
「おっと」 
「――闇鎖ダレイド!」 
 
 メダルに手を伸ばしたマコトは、鎖に巻かれて地面に転がる。
 
「ナイスだリフェア。そして……よく間に合わせてくれた、シルヴァ」 
 
 ギリギリだった。作戦は成功だ。
 
「さて……チェック・メイトだな」
「待て、いや、待ってほしい。考え直さないか。僕を生かしておいた方がいい。君にもメリットがある! 迷宮には今後一切関わらないと誓うし、身の安全も保証しよう。特別な地位だって授ける」
「おいおい、今更命乞いか? どっちが魔王だか分かんねえな。生憎俺は闇の世界の半分なんかに興味はないし、情けをかけるつもりもないし、まずお前を殺すのは俺じゃない」 
 
 俺はあいつみたいに慢心しない。
 
「リフェア。やるか?」
 
 リフェアは頷き、その腕に影を纏う。
 
「命乞いならこの子にするんだな」
「頼む、勿論君にだって望むものを与えよう。だから――」 
 
 腕から流れ出る影が、マコトを鎖の上から強く縛り上げる――斜め上を向いた状態で固定された。

「やめろ、やめてくれっ! 僕はこんなところで死んでいい存在じゃない! そんなのは間違ってる! 僕は、僕は勇者なんだぞ!」 
「黙って」 
 
 口元まで広がった影が、マコトの声をくぐもった呻き声に変える。
  
「あなたは許さない――」

 中で何が起こっているのか、呻き声がその必死さを増す。

「――ラビの仇よ」
 
 影の中から無数の棘が撃ち出され、マコトの全身を貫いた。一際大きい――悲鳴。シャドウ・メイデンってとこか。
 影が引いた後のマコトの死体も、何も特別なことはなく、他の探索者と同じように塵になっていく。
 それが完全に消えるのを見届けて、はじめて緊張が解けた感じがした。戦いが、終わった。 
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