転生ニートは迷宮王

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第8章

243 形見

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「――発射ファイア!」
「――減速ディセイル!」 
 
 かなり連発してきてるな。勘弁してくれ。減速ディセイルだってそこそこ魔力持ってかれるし、タイミングもシビアな方なんだ。
 つーか魔力と言えばマコトの方こそだ。魔力消費がどうのとか言ってた割には、全然そんなふうに見えない。
 
「――創造クリエイト――」
「――加速ヴァレーク!」 
「――炎獄ファルジュ!」 
 
 少し隙のある術――炎の檻を巨大化する前に上手く打ち消して、すかさず斬り込む。
 
「――裂空斬!」 
「――創造クリエイト吹風ウィレスカ!」 
 
 吹風ウィレスカで微妙に狙いが外れる、が、伸びる刀身はその斬撃を届かせる。
 
「ッ!」 
 
 腕に弾かれた。なんだよこの腕。怪しいとは思ってたがやっぱり普通の腕じゃないな。
 狙うなら生身の方――右か。 
 
「――創造クリエイト氷槍ジャスペア複式ダブル!」
 
 右腕に狙いを定めた瞬間、氷の槍が地面を抉り、そして爆発するように砕けた。
 
って……――時遡ヒール
 
 砕けた氷片が掠っただけ。たったそれだけで、ふくらはぎの内側辺りに深い傷ができた。 
 鋭利な刃物にやられたような感じだ。結構ザックリいったな。本当は見ながら治した方が早いんだが、直視したら確実に気分が悪くなる。
 
「――起動せよイダイア置換レプリアス!」 
 
 白煙モックルを使ってから置換レプリアスで距離をとる。どうせ|解析__アナライズ__#ですぐにバレるが、まあ傷を塞ぐだけの時間が稼げればそれでいい。
 当然と言やそうだが、右はかなり警戒されてるな。やっぱり左を狙うか……幸い、マコトは右でしか魔術を使ってこない。わざとやってんのかとも思ったが、これは''楽しむ''宣言の前からそうだ。つまり普通に使えない可能性がある。
 
「――破空フェーヌ!」 
 
 っと、スカだ。こんな簡単なすら作れないなんて珍しい。人の魔術のこと考えてる場合じゃねえな。今の怪我で動揺してるか。
 
「――破空フェーヌ」 
 
 んで向こうのサイズがかなりデカい。
 
「――遅延ディロウ!」 
 
 が、破空フェーヌレベルなら遅延ディロウで十分。これはちゃんと出た。
 
「もう魔力切れかな? 魔王様ともあろう者が!」 
「お前こそ、そろそろ限界なんじゃないのか!」
「まさか! 持つ者と持たざる者の違いを教えてあげよう――創造クリエイト幻影ファントム連展複式クアッド――」
 
 本人を囲むように、次々に幻影ファントムが展開されていく。
 おいおい待てよ、本気を出すのはまだ早い。やっと弱点にたどり着けそうってときに。
 
「――創造クリエイト炎鎖ファレイド・|連展複式__クアッド__#!」 
 
 視界を埋め尽くす炎の鎖――鞭。網みたいに広がってくるならまだ良かった。どっちかっつーとリフェアの影の波だ。呑み込まれる。
  
「――減速ディセイル――」 
 
 前方の炎の到着を遅らせて、置換レプリアスで入れ替われそうな場所を探す。……ない。
 
「クソっ――」
 
 走馬灯が一瞬見えて、消えた。
  
 対魔術用簡易結界。俺の周りに展開されたのは、レルアの魔力を纏った解呪防壁ディスペラーシルトだった。
 
「――置換レプリアス!」 
 
 ひとまず目に入った椅子と場所を交換、そのまま転がるようにして戸棚の陰に隠れる。
 危なかった。これがなけりゃゲームオーバーだったな。レルア様々だ。
 つーかこれ、粉々にされたはずだよな。それで、いくら頑張っても直せなかった。なんで復活してんだ。これはこの世に二つとない、レルアの愛情手作りネックレスだぞ。……いや、違った。俺以外にもこれを持ってるやつがいた――アヤト。俺のを壊した張本人。
 
 確かにあいつのを壊した記憶はないが、ずっと俺のポケットに入ってたのか? だが今まで一度も魔術を打ち消す素振りを見せたことはない。今初めて展開され、そして壊れた。俺が知ってるのと少し違う?
 
「まだ立ってられるなんて驚いたな。でも、僕には見えてるんだ。君が地に伏せている姿がね」
 
 そんなこと考えてる場合じゃないか。今は運良く助かった、次はない。それだけだ。
 
「何度だって繰り返してみせよう――創造クリエイト幻影ファントム連展複式クアッド――」
 
 さっきので一つ分かったことがある。大技の展開中のマコトは、普通の魔術師以上に無防備だってことだ。
 アルデムがいつだか講義で言ってた、最低限防御用に回すべき魔力すら攻撃に充ててる。つまりつっつけば弾ける肉の塊。
 
「させるかよ――穿空フェルラス――」  
 
 面倒そうに詠唱を中断するマコト。素因エレメントの動き的に、恐らく解呪ディスペル
 
「――創造クリエイト解呪ディスペル」 
「――置換レプリアス!」 
 
 解呪ディスペルは枕に当たって消える。きっとここで無意識に解析アナライズを展開し、穿空フェルラスの場所を探すだろう。だから――
 
「――置換レプリアス!」 
 
 もう一度。素因エレメントが揺れる。今のマコトはほとんど集中しなくても解析アナライズを使えるだろうが、まっすぐ突っ込んでくる俺を無視はできない。
 
「――創造クリエイト――」 
 
 イラついたように、再び俺に照準を合わせるマコト。それでいいのか? 今度の穿空フェルラスは右から来るぜ。
 
「!」
 
 気付いたようだがもう遅い。さあどうする。
 
「――裂空斬!」  

 斬撃は左腕に防がれた。穿空フェルラスを受ける方を選んだか。
 ――直後、衝撃が俺を横から殴り飛ばす。
 
「圧倒的な差は埋めようがないんだ。君が走り回ったところで、結果は変わらない」 
 
 霞む視界に、俺を見下ろすマコトが映る。
 何が起こった?
 全部上手くいってたはずだ。穿空フェルラスは当たったのか? あいつの術の方が出るのが早かった? 俺は何を食らったんだ?
 
「ほら、言った通りになっただろう。チェックメイトだ。でも安心してよ。僕は慈悲深いからね。君を幸せな夢に閉じ込めるくらいのことはしてあげよう」
 
 クソ、指一本動かねえ。呼吸すらも上手くできている自信がない。
 
「折角だ、君自身の魔術でっていうのはどうかな」
 
 時空魔術か。幸せな夢って何だよ。お前がその中にいりゃいいだろうが。
 
「ただの時空魔術じゃない。君にはできないアレンジを加える――見せてあげよう。神を名乗るに相応しい、全てを超越した全能の力を」
 
 素因エレメントの震えが大きくなる。なるほど確かに大技を使おうとしてるらしいな。
 
「それじゃ、いい夢を――創造クリエイト送界メラシア」 
 
 脳を鷲掴みにされて、思いっきり揺らされているような感覚。気分が悪くなってくる。
 だがこいつの話じゃどうやら俺は死なないらしい。なら諦めない。戻ってくるぞ。必ず。
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