転生ニートは迷宮王

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第8章

241 開戦

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***後半レルア視点です。***



 ――来た。
 
「シルヴァ!!」
 
 俺が声を張り上げるとほぼ同時に、階層内の様子が変わった、気がした。結界は上手く作動したらしい。まさか俺からも感知できないとは思わなかったけどな。
 
「こんにちは。君が今の魔王か」
「踏破おめでとう! 俺も命は惜しいんでな、一生遊んで暮らせるだけの財宝で手を打たないか?」 
「独特なセンスの冗談だね。……いや、無しじゃないか。僕は君本人に恨みがあるじゃない。魔王を殺したという事実が欲しいだけなんだ」
 
 おっと? いけるのか?
 やっぱり平和が一番だな。とはいえ仲間やられてる分はそのうちお返しさせてもらうが。俺もそうだがまずリフェアがお前を許さんよ。悪いが一応魔王なんでね。夜道に気を付けな。   
  
「じゃあ、まずこの迷宮を貰うよ。そして君と君の従者の財産全て」
 
 何言ってんだこいつ?
 
「君たちは最低限死なないようにして地下で飼ってあげよう。住む場所はほとんど変わらないんだ。悪くない提案だよね?」 
「だが断る」 
 
 こいつこそどういうセンスの冗談だよ。俺がそんな条件飲むと本気で思ってんならお笑いだぜ。 
 
「へえ、まあ僕はいいけど。仲間と一緒に全滅したいなら止めはしないよ」
「言ってろ。レルア!」
「はい――」 
  
 レルアの剣は、シエルに弾かれた。
 
「ひっさしぶりレルアちゃん! 元気だった?」
「……!?」

 続く斬撃もことごとく弾かれる。マジかよ。いやそのために俺がいるんだ。
 
「――遅延ディロウ!」 
「――創造クリエイト解呪ディスペル」 
 
 止められるか。まあそうだよな。
  
「あれれ、もしやボクのこと覚えてない? 悲しいなー」 
「――土刃グライス!」 
「わっとと!」 
「――創造クリエイト・断界__メリエラ__#」
   
 レルア達との間に頑丈そうな結界が張られた。つい最近見たことがある。これはかつてアルデムが作った――そしてラビも使ったやつだ。
 
「シエルはそっちの天使と遊んでおいてよ。この魔王は思ったより弱そうだ」 
「後悔するぜ――」
 
 ならぶっ壊すのは不可能。んで相手が格上な以上、逃げ回っても捕まるだけだ。
 つまり先手を打つのが最善策。カインの声が聞こえるぜ。攻撃こそ最大の防御ってなァ!
 
「――起動せよイダイア!」  
 
 投げた魔術結晶が空中で爆発する。と言ってもパーティーグッズみたいなもので、見た目ほどの威力はない。ちょっと派手な花火ってとこか。それでもビビらせんのには十分だろ。弱そうとか言いやがって。
 さてここからだ。相手も時空魔術を使えるらしいが、それでも俺が知らないのは使えないはず。そう考えればアヤトの方が余程怖かったぜ。
 

 
* * *  
 

 
 シエルのことを忘れていたわけではない。記憶の片隅にその姿は残っている。しかし、その中の彼女は、少なくともこんな形ではなかった。
 マスターが仰っていた。これはマコトによって蘇生された紛い物だと。操られる人形だと。
 だが、天界にいた頃よりも遥かに能力が上がっているのは何故か。今の彼女の力は上級天使エイフリッドのそれをも凌ぐ。
 
「――加速アクサール!」 
「鬼ごっこだ! 負けないよ――加速アクサール!」
 
 当然のように私の速度に追い付いてくる。
 
「待て待てー! ――聖雷イクセアリ!」 
 
 私の胸を目掛けて飛んできた槍。躱そうとするが二の腕辺りを掠り、そこで初めて気付く。
 この力は、リフィスト殿の。  
 
「――土鎖グライド!」
「――聖盾セイリード!」  
 
 その盾は、堅く、厚い。ならば回り込ませるまで。
 
「わわ――大聖浄エル・リファイス!」 
「!」 
 
 肌に灼かれるような痛みが走る。本来、上級アフである私に聖魔術は効かないはず。考えられるのは加護の差――既に私は|上級__アフ__#ではないと?
 
「やるねえレルアちゃん! でもね、今のボクは強いんだよ?」
 
 シエルが右手に持った剣の形を変える――弓。
 
「――聖箭サールレーン!」
 
 撃ち出されたのは、大量の魔術による矢。躱せない。
 
「――風衝ルウィズ――聖盾セイリード」 
 
 風衝ルウィズで着弾箇所の中央から移動したところまでは良かった。が、体を覆うように少し広範囲に展開したのが裏目に出た――強度が不足――矢を完全には防ぎ切れず、少し食らう。
  
「っ、」
   
 矢に抉られた脚の一部が白炭のように固まり、ひび割れ、崩れ始める。
 
「知らなかったでしょ! 昔の術なんだって!」 
治癒ヒール――」 
  
 傷口を治しつつ走る。致命傷というほどではないが、治りが遅い――毒か。力こそ残ってはいるが、私が天使でないと仮定するなら、シエルの術が毒となっても不思議ではない。
 
「――隠蔽バルド
「今度はかくれんぼ? いいよ!」 
 
 魔術に限らず、あまり攻撃は食らえない。ただの斬撃ですら、彼女の天使としての魔力を纏っている。
 
「どこかなー?」 
 
 ひとまずは傷口の再生に専念する。最高の状態で初めて今の彼女に並べる。
 
「――ぐああ!」
  
(マスター!)
 
 衝撃音と、マスターの苦しげな声。壁際に姿が見えた。
 あの結界の破壊は難しい。だが治癒ヒールを向こうに通すくらいならば、或いは。
 
「そこだっ!」 
「――聖盾セイリード!」 
 
 何故、視えた。治癒ヒールの魔力操作には細心の注意を払っていた。そもそも先程までは正常に機能していたはず。
 
「レルアぁ!」
「――大聖陽エル・リドラ」 
「わわ、眩しいよ!」 
 
 これで少しは足止めできる。マスターの元へ急ぐ。
 
「悪い、念話はダメだ! 捕捉される!」
「いえ、迷宮の機能が掌握されていることを失念していた私の責任で――」 
「いいんだ気にすんな! そして、俺は大丈夫だ。まだ奥の手があるからな」 
 
 頭部から出血している。とても''大丈夫''には見えない。だが、それよりも目の前の敵に集中しろということだろう。
 
「了解しました。どうかご無事で」 
 
 返事があったかは定かでない――再びの衝撃音に掻き消された。
  
「あ、戻ってきた! 次は何する?」 
 
 このままでは、勝てない。
 それでも、負けられない。
 以前の戦いで分かったことがある。神による枷は生きていて、それは己の意思では外せないこと。
 そして、それを外す方法も。
 
「――起動せよイダイア」 

 ''強制''の術を自らに掛ける。
 
「えっ!」
 
 驚いた様子のシエル。突き出した剣はいなされた、が、左に持った二本目の剣で一太刀入れる。 
 
「き、急に強くなったねぇ!」
 
 この術は改良済み、今の私は肉体の限界を超えている状態だ。以前のものより狂化に近い。あまり長引くとその後は動くことすら難しくなるが、どの道解呪ファストを使えるのはシルヴァしか残っていない。
 
「と、と、わわぁ!」 
 
 斬撃を中断して、勢いをそのまま蹴りに乗せて放つ。全身が悲鳴を上げるのが聞こえる。だが私の意思とは無関係に動き続ける。赤い靴の少女の様に。
 
たた……模擬戦は全敗だったのを思い出すなぁ」 
 
 吹き飛んだシエルの場所まで移動、再び斬撃を入れようとするがこれは大きく弾かれる。次にどう動くのかの予想が付かないので気分が悪くなってくるが、目を閉じることもできない。
 再び攻撃に移ろうと剣を構えた、その時。

「――解呪ファスト」 
 
 ガク、と力の抜ける感覚。膝を地につけ、剣も地に突き立てることでギリギリ倒れずに済む。
 ……そうか。リフィスト殿の。
 
「やっぱり効いた! マコトから直接力を貰ってるんだ、ただの天使のレルアちゃんじゃ勝てないよ」
 
 ''強制''の魔術結晶は先程の一つのみ。幸い魔力は残っているので、戦闘の続行は可能。
 
「――具現化リディア」 
「でも諦めないよね。それでこそレルアちゃんだよ!」 
 
 シエルが地面を蹴る、とほぼ同時に、私と彼女の間に雷のように光が落ちた。
 光の中から現れたのは新しい天使。見覚えはないが、敵だろうか?
 
「ルインちゃん!?」 
 
 シエルの反応を余所に、ルインと呼ばれた天使は私の方を向いて口を開く。
 
「――レルア様、力をお貸しください」
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