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第8章
240 決戦前
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「レルア、いるか?」
「はい、マスター」
扉が開く。良かった。休んどいてくれとは言ったが、自分の部屋でとは言ってなかったからな。
「そろそろ勇者がここまで来そうだ。レルアも準備が終わり次第、制御室の方まで来てくれるか」
「了解しました」
ちゃんと休めたかね。多分何かしてくれてたんだろうな。机の上に少し散らばった紙とペン、そしてインクの匂い。
「それじゃ、また後で」
あ、念話使わない方がいいっての伝え忘れたな。まあいいか。
さて、シルヴァの方にも何か仕事が残ってるかもしれない。とりあえず戻って――
「マスター?」
「おお、リフェア。……どうした?」
「私も戦うわ。いいでしょう?」
突然だな。心強くはある。だが、ラビとの約束もある。
リフェアは元々正面からの戦闘には向いてないんだ。ラビによる強化もない今、マコトたちと戦わせるっていうのはな。
「あー……っと。そのだな」
「ラビのことは知ってる。でも私だって戦えるの。私はただのか弱い女の子じゃない」
知ってたのか。まあ契約者だし、そうだよな。
「でもダメなんだ。それくらい危険な相手で――」
「どうして、どうしてダメなの? ラビがそう言ったの? 仇を討ちたいのに!」
涙目になるリフェア。どうするべきなんだよ俺は。ただこの状態のリフェアがあいつらに向かってったとして、一太刀入れば御の字ってとこだろ。それは嫌だし、ただ死にに行くようなもんだ。死なねーけど。
それで満足なのか? それとも本気で勝てると思ってるのか?
どちらにせよ、ちょっと冷静じゃないってのは確かだ。冷静でいられるはずもないが。
「じゃあ、言葉を変えよう。シルヴァを手伝って、そして守ってくれ。これはリフェアにしか頼めない。全員で掛からないと勝てない相手なんだ」
いや、こんなので納得するわけねえだろ。言ってから思った。
だが、意外なことにリフェアは小さく頷く。
「……うん、分かった。我儘言って、ごめんなさい」
大人だ。……いいや、我慢させてるだけか。この歳の子にこんな表情させるなよ、ラビ。そして俺。
違うんだ、とか何とか言いたくなったが言葉が出てこない。やりたいようにやらせるべきなのか? それは無責任すぎるってもんだよな。
「じゃあ、頼んだ。俺もまだ少し余裕があるから、一緒にシルヴァのとこまで行こう」
この選択が正しいかは分からん。自信はないが、正解もないか。
「シルヴァ、戻ったぜ」
「お手伝いに来たわ」
「ありがとうございます、マスター。そしてリフェア!」
相変わらず慌ただしく動き回るシルヴァ。
「早速ですが、マスターは勇者の監視をお願いします。彼らが入ってくる時間を把握したいので」
「任せろ」
「リフェアはこちらへ。このメダルと同等の物を影で運んでもらうことになるかもしれません。よく見ておいてください」
例の秘密兵器だな。シルヴァは戦闘に関しては俺とどっこいってとこだし、やっぱり発動のときにリフェアがいる方が安心だ。
「マスター、この後の作戦についてご説明しても?」
「おう、頼む」
失礼します、と移動式黒板を運んでくるシルヴァ。描いてあるのはこの階層の間取り図か。
「彼らが入ってきた瞬間――できればその少し前に、結界でこの一角を感知不可能にします。解析と彼の魔力波は読めていますが、賭けではあります。マスターの運の強さだけが頼りです」
「俺の!?」
「冗談ですよ。ここは相手に知られていない新規の結界を構築しますし、先生方の名にかけて成功させます」
おいおいビビるぜ。こういう状況で冗談をぶっ込んでくるとは、やりやがるなシルヴァ。誰に似たんだ。ラティスか?
「僕たちが魔道具の最終調整をする間、表ではレルアさんに戦っていただく予定です。マスターにはその補佐をお願いできればと」
「了解。もしかしたら俺らだけで勝っちまうかもしれないぜ」
「ふふ、期待してますよ」
そのくらいの気持ちでいくのが重要ってもんだ。
と、そこでレルアが到着。
「――お待たせしました」
腰に提げてるのは具現化で作り出した剣か。格好は天使のローブ、正装って感じだな。そして……頭に髪飾り。
確か対アヤトのときに破壊されてたはずだ。もしかして頑張って復元したとか? 可愛すぎる。よく似合うぜとか言いたい。そんなこと言ってる場合でもないか。じゃあ全部終わったら言うから。いやダメだこれ死亡フラグだ。
「レルア、その……髪飾り、似合ってるぜ」
「あ、ありがとうございます」
頬を赤く染めるレルア。ああ言っちまった! 照れてるのも可愛いなあ! 結婚してくれ!
「ええと、すみません。レルアさんにも作戦をご説明したいのですが……?」
「あ、ああ悪い! じゃあまた!」
「は、はい!」
ふー、
よし、
落ち着いた。モニタを見るぞモニタを。
「――連展複式」
『使い魔・ロロトスが死亡しました』
っていきなり全滅だ。つまりもう猶予がない。
つーかモニタもシステムもいつの間にスリープモードなんかに入ってやがったんだよ。マコトの干渉の影響か?
入口付近にも最低限の簡易罠は張っておいたが、この階層に入った瞬間に管理権を奪われたらそれまでだ。
あんまり作り変えられたくはないな。というよりかなり嫌だな。部屋を全部合体されたりなんてしたら、それだけでそこそこの辛さがある。家具全撤去とか笑えないぞ。
「皆、もうすぐだ。俺とレルアは入口の方に移動する!」
「お二人とも、ご武運を!」
「ああ、そっちもな!」
* * *
「――創造・治癒」
先程失った左腕。そこに向けて素因が集まり……そして散る。
「……クソっ」
イラついた様子でマナポーションを呷るマコト。
「シエル!」
「な、何?」
「ちょっと体を借りるよ――僕のために唄ってくれ」
駆け寄ってきたシエルは、その途中で勢いを失い、膝から崩れ落ちた。
「――創造・転呪」
何も起こらない。そこには素因の動きすら存在しなかった。
「これでも駄目か!」
マコトはもう一本マナポーションを呷り、瓶を投げ捨てる。
「かくなる上は――」
再び左腕に素因が集まり始める。
「――創造・我が腕!」
三度目の正直。素因は渦を巻くように動き回り、腕の形を取って沈黙した。
「……完璧な再現はまだ難しいか。でもこれで十分だ。最低限動けばいい。左なんて使わない」
腕を軽く動かした後、気絶したシエルを起こす。
「さ、行こうシエル。最後の戦いだ」
勇者は再び歩き出す。魔王を斃すために。
「はい、マスター」
扉が開く。良かった。休んどいてくれとは言ったが、自分の部屋でとは言ってなかったからな。
「そろそろ勇者がここまで来そうだ。レルアも準備が終わり次第、制御室の方まで来てくれるか」
「了解しました」
ちゃんと休めたかね。多分何かしてくれてたんだろうな。机の上に少し散らばった紙とペン、そしてインクの匂い。
「それじゃ、また後で」
あ、念話使わない方がいいっての伝え忘れたな。まあいいか。
さて、シルヴァの方にも何か仕事が残ってるかもしれない。とりあえず戻って――
「マスター?」
「おお、リフェア。……どうした?」
「私も戦うわ。いいでしょう?」
突然だな。心強くはある。だが、ラビとの約束もある。
リフェアは元々正面からの戦闘には向いてないんだ。ラビによる強化もない今、マコトたちと戦わせるっていうのはな。
「あー……っと。そのだな」
「ラビのことは知ってる。でも私だって戦えるの。私はただのか弱い女の子じゃない」
知ってたのか。まあ契約者だし、そうだよな。
「でもダメなんだ。それくらい危険な相手で――」
「どうして、どうしてダメなの? ラビがそう言ったの? 仇を討ちたいのに!」
涙目になるリフェア。どうするべきなんだよ俺は。ただこの状態のリフェアがあいつらに向かってったとして、一太刀入れば御の字ってとこだろ。それは嫌だし、ただ死にに行くようなもんだ。死なねーけど。
それで満足なのか? それとも本気で勝てると思ってるのか?
どちらにせよ、ちょっと冷静じゃないってのは確かだ。冷静でいられるはずもないが。
「じゃあ、言葉を変えよう。シルヴァを手伝って、そして守ってくれ。これはリフェアにしか頼めない。全員で掛からないと勝てない相手なんだ」
いや、こんなので納得するわけねえだろ。言ってから思った。
だが、意外なことにリフェアは小さく頷く。
「……うん、分かった。我儘言って、ごめんなさい」
大人だ。……いいや、我慢させてるだけか。この歳の子にこんな表情させるなよ、ラビ。そして俺。
違うんだ、とか何とか言いたくなったが言葉が出てこない。やりたいようにやらせるべきなのか? それは無責任すぎるってもんだよな。
「じゃあ、頼んだ。俺もまだ少し余裕があるから、一緒にシルヴァのとこまで行こう」
この選択が正しいかは分からん。自信はないが、正解もないか。
「シルヴァ、戻ったぜ」
「お手伝いに来たわ」
「ありがとうございます、マスター。そしてリフェア!」
相変わらず慌ただしく動き回るシルヴァ。
「早速ですが、マスターは勇者の監視をお願いします。彼らが入ってくる時間を把握したいので」
「任せろ」
「リフェアはこちらへ。このメダルと同等の物を影で運んでもらうことになるかもしれません。よく見ておいてください」
例の秘密兵器だな。シルヴァは戦闘に関しては俺とどっこいってとこだし、やっぱり発動のときにリフェアがいる方が安心だ。
「マスター、この後の作戦についてご説明しても?」
「おう、頼む」
失礼します、と移動式黒板を運んでくるシルヴァ。描いてあるのはこの階層の間取り図か。
「彼らが入ってきた瞬間――できればその少し前に、結界でこの一角を感知不可能にします。解析と彼の魔力波は読めていますが、賭けではあります。マスターの運の強さだけが頼りです」
「俺の!?」
「冗談ですよ。ここは相手に知られていない新規の結界を構築しますし、先生方の名にかけて成功させます」
おいおいビビるぜ。こういう状況で冗談をぶっ込んでくるとは、やりやがるなシルヴァ。誰に似たんだ。ラティスか?
「僕たちが魔道具の最終調整をする間、表ではレルアさんに戦っていただく予定です。マスターにはその補佐をお願いできればと」
「了解。もしかしたら俺らだけで勝っちまうかもしれないぜ」
「ふふ、期待してますよ」
そのくらいの気持ちでいくのが重要ってもんだ。
と、そこでレルアが到着。
「――お待たせしました」
腰に提げてるのは具現化で作り出した剣か。格好は天使のローブ、正装って感じだな。そして……頭に髪飾り。
確か対アヤトのときに破壊されてたはずだ。もしかして頑張って復元したとか? 可愛すぎる。よく似合うぜとか言いたい。そんなこと言ってる場合でもないか。じゃあ全部終わったら言うから。いやダメだこれ死亡フラグだ。
「レルア、その……髪飾り、似合ってるぜ」
「あ、ありがとうございます」
頬を赤く染めるレルア。ああ言っちまった! 照れてるのも可愛いなあ! 結婚してくれ!
「ええと、すみません。レルアさんにも作戦をご説明したいのですが……?」
「あ、ああ悪い! じゃあまた!」
「は、はい!」
ふー、
よし、
落ち着いた。モニタを見るぞモニタを。
「――連展複式」
『使い魔・ロロトスが死亡しました』
っていきなり全滅だ。つまりもう猶予がない。
つーかモニタもシステムもいつの間にスリープモードなんかに入ってやがったんだよ。マコトの干渉の影響か?
入口付近にも最低限の簡易罠は張っておいたが、この階層に入った瞬間に管理権を奪われたらそれまでだ。
あんまり作り変えられたくはないな。というよりかなり嫌だな。部屋を全部合体されたりなんてしたら、それだけでそこそこの辛さがある。家具全撤去とか笑えないぞ。
「皆、もうすぐだ。俺とレルアは入口の方に移動する!」
「お二人とも、ご武運を!」
「ああ、そっちもな!」
* * *
「――創造・治癒」
先程失った左腕。そこに向けて素因が集まり……そして散る。
「……クソっ」
イラついた様子でマナポーションを呷るマコト。
「シエル!」
「な、何?」
「ちょっと体を借りるよ――僕のために唄ってくれ」
駆け寄ってきたシエルは、その途中で勢いを失い、膝から崩れ落ちた。
「――創造・転呪」
何も起こらない。そこには素因の動きすら存在しなかった。
「これでも駄目か!」
マコトはもう一本マナポーションを呷り、瓶を投げ捨てる。
「かくなる上は――」
再び左腕に素因が集まり始める。
「――創造・我が腕!」
三度目の正直。素因は渦を巻くように動き回り、腕の形を取って沈黙した。
「……完璧な再現はまだ難しいか。でもこれで十分だ。最低限動けばいい。左なんて使わない」
腕を軽く動かした後、気絶したシエルを起こす。
「さ、行こうシエル。最後の戦いだ」
勇者は再び歩き出す。魔王を斃すために。
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