転生ニートは迷宮王

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第8章

236 ゼーヴェ

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「シエル! 僕に治癒ヒールを! シエル!」 
「わっわ、待ってマコト、」
「――唱えラーナ! 我が忠実なるノィ・ファッタ・闇の下僕よデルス・デノン!」
 
 ゼーヴェの周囲に散らばっていた茨の残骸が、溶けて波打つようにエリッツを襲う。
  
「この……っ――聖鎖イサイド!」  
「く、っ!」  
 
 ゼーヴェはうねるドロドロ――闇ごと地面に縫い付けられ、沈黙した。素因エレメントの揺らぎ的に、破ろうと思えば破れそうだが。何か策があるのか。
 
「ダメだ! どうしよう! これは普通の傷じゃないんだ、塞がらない!」 
「まーくん! 大丈夫!?」  
「……根源魔術を使うよ! エリ姉、手伝って!」
 
 おお、あれをやるのか。レルアが昔に話してくれたっけな。
 だが魔力消費もバカにならないはずだ。
 
「「根源より出でし力よ、我らが願いに応えよ――」」
 
 聞いていた通り、凄まじい勢いで素因エレメントが渦巻く。その中心にあるのは、マコトの腹部のあな
 
「「――その力で彼の者を癒したまえ! 治癒ヒール!」」  
 
 白金の光が、傷口を覆うようにして集まる。が、一向に治っていく気配はない。
  
「……そんな」 
 
 絶望した様子の二人。これで全部か? どうせまだ打てる手が残ってるんだろ? 
 
「ごめん、エリッツさん。ちょっとの間、眠っていてほしい」
「え? まーくん?」 
「――創造クリエイト昏睡スナイド」 
 
 ほらなんかやり始めた。ただ今のは眠らせただけだよな。
 
「マコト! 平気なの!?」
「いいや、痛みが消えただけだ。でもおかげで術式名を唱えるくらいの余裕はある――創造クリエイト転呪カヴェラ
 
 マコトが詠唱を終えると同時に、その傷口はマジックみたいに消えた。代わりにエリッツの腹部によく似た……いや、全く同じサイズの孔。
 
「移せたのは呪いの術式だけだ。だからこうする――止界テルメス!」
 
 俺の術じゃねえか!!!
 いや、迷宮の管理権が持ってかれてんだ。時空魔術も同じでもおかしくない。だがこう……やっぱつれえわ。 
 
「これで僕は戦える。エリッツさんは後で治そう。もう一人を倒した後で!」
「う、うん!」 
 
 ゼーヴェはまだ沈黙している。動く気配はない……が、素因エレメントの方は元気だな。カウンター系の術か?
 
「圧し潰す! ――巨岩弾エル・グラルダ!」 
「――抱擁をガトス・――」 
 
 隕石のごとき大岩を包み込むように、ゼーヴェの周りの闇が盛り上がる。
 
「――受けよミーテン!」
 
 岩をバラバラに砕いた闇の奔流は、今度は大量の蛇……いや、腕のような形をとってマコトに襲いかかる。
  
「……っく――創造クリエイト解呪ディスペル!」
 
 幻影か何かだと思ったのか、波のど真ん中に解呪ディスペルを放つマコト。
 当然止まらない。その程度で止まる術じゃない。
 
「――創造クリエイト天刃雷フルグロ!」
 
 諦めた様子で大技。上手く相殺できたみたいだが、そいつは第一波に過ぎない。
 
「マコト! ――大聖浄エル・リファイス!」 
 
 シエルの大聖浄エル・リファイスも、大波の一部を削って消えた。
 
「――踊り狂えプリミーセス!」 
 
 畳み掛けるゼーヴェ。マコトの体はついに闇の中に沈んだ。
 が、
 
「勇者を……舐めるなぁっ!!」
 
 光る剣を片手に、闇を裂いて現れるマコト。姿だけは勇者っぽいな。
 
「――聖天使よミストレール魔を滅せし光の遣いよエクサーヴィン・アインツ・ハール・エスタ! 彼の者らをエクサル・殲滅せよシェーダ!」
 
 剣を天に向けて、叫ぶ。半透明の鳩みたいなのが、大量に闇に突っ込んで諸共消滅していく。が、やはり数が少ないだけあってまだゼーヴェの方が優勢だ。 
 
「――聖雷イクセアリ!」 
「――聖盾セイリード!」
「っ、魔物のくせに!」  
 
 聖雷イクセアリは闇で受けずに、わざわざ聖盾セイリードを展開、打ち消した。
 そうこうしている間にマコトの呼び出した鳩も全滅。古代魔術みたいなの使い始めるからビビったぜ。威力は大したことないみたいで助かった。
   
「やっぱり、偽物じゃ限界があるか……! だが、これで!」
 
 マコトはゼーヴェに向けて手のひらを突き出し、唱える。 
 
「――創造クリエイト解呪ディスペル!」  
「なっ……」
 
 突然闇が消えた。分解されて、キラキラと光りながら降ってくる。
 
「それは僕の術になった。解析アナライズで完全に理解してるし、弱点も把握してる。君の敗因は、時間を掛けすぎたことだ」 
「まだだ――闇霊よグレーティス! 我が肉体アディス・ルオを喰らい顕現せよ・マークィン・ノィ・ロナ!」 
 
 僅かに残った闇を纏い、具現化リディアで作り出した剣を握るゼーヴェ。詠唱通り肉体は早くも崩れ始めてるし、短期決戦を狙うのか。
 
「ならば!」 
 
 マコトの方もまだ何かあるらしい。
 
「シエル――僕のために唄ってくれマイス・ルオ・ノゥン!」
「う、ん……」 
 
 シエルの目が虚ろになり、腕も力なくだらんと垂れ下がる。数秒後にフラフラと歩き出し、飛んだ。 
 
「ははは、やっぱり本物は違う!」 
 
 目を閉じて笑うマコト。ゼーヴェは一直線にその元に向かおうとするが、先程までとは段違いの速度で斬り込んできたシエルに止められる。
 
「っ――繋檻ジェノン!」 
「――聖浄リファイス――」 
「――聖盾セイリード!」 
 
 繋檻ジェノンをものともせず聖浄リファイスを放つシエル。咄嗟の聖盾セイリードは、張った瞬間に砕け散った。
 
「――聖浄リファイス聖浄リファイス聖浄リファイス」 
 
 相変わらず焦点の合わない目で、機械的に聖浄リファイスを繰り返すシエル。一発一発がとにかく重いようで、聖盾セイリードは出すそばから消えていく。
 
「――聖浄リファイス」 
「っぐ、は」
 
 キツいのを食らった。既にボロボロの体から、煤のような闇が大量に出てくる。
 
「――リファ――」 
「!」 
 
 何度目かの聖浄リファイス。ゼーヴェはその詠唱中に素早く立ち上がると、両手で思いっきりシエルの腹に剣を突き刺し、叫ぶ。
 
「――終幕オーヴィンテス!」 
 
 無音。だが一瞬素因エレメントが震えたのを確認した。シエルは全身が真っ黒に焦げたようになって、その場に倒れる。
 直後、ゼーヴェも倒れた。纏っていた闇が剥がれ落ちていく。
 
「終わりか。まさかシエルが負けちゃうなんてね」
 
 マコトが歩いてくる。ゼーヴェは……もう一歩も動けなさそうだ。
 
「でも僕は負けない。正義の勇者で主人公だから――創造クリエイト聖焔フリディア
 
 ゼーヴェの体が白い焔に包まれた。口元が動いてるように見えたが、音声は届いてない。
 
『使い魔:ゼーヴェが死亡しました』 
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