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第8章
226 結界
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(マスター。少し話せるか?)
(おおラティス、どうした?)
(最終調整が終わった。その確認をしてほしくてな。できればこちらで共に実際の様子を見たい)
きたきた。タイミングもいい。
解析は既に不調らしいが、こっち側から封じておけばより安心だ。
(了解、そっちに行こう)
(我も行くぞ!)
突然の声に隣を見るとニヒヒ、と笑うリフィスト。これ個別念話だったはずだよな。心読むのと同じ感覚なのか。
「一緒に来てもいいが、別に面白いことないぞ」
「構わん構わん! どうせ暇であるしのう」
任せた仕事は全くやらないくせに暇とか言いやがる。やれやれ。まあ緊急時以外は少し暇なくらいでいてくれた方がいいのかもしれないが。
「ようラティス。邪魔するぜ」
「入りたまえ。……リフィスト殿? まさか本当にいらっしゃるとは」
あからさまに嫌そうな顔をするラティス。そんな顔すんなよ。こいつが首突っ込むと碌なことにならんのは同意だが。前勝手に魔法陣書き換えられたときは大変だったな。
「あ、あれは事故であろうが! わざとやったわけではない!」
「わざだとかそうじゃないとか関係ねーんだよ。今回は何も触るなよ?」
早速謎魔道具を触ろうとしてるリフィストに牽制。好奇心旺盛な子供かっての。リフェアでもここでは大人しくしてるぜ。むしろあいつを見習えよな。
「黙っていれば散々に言いよって! 我は理性なき童でないわ!」
「はいはい。じゃあラティス、結界の方を見せてもらえるか?」
「ああ。……リフィスト殿、私からも重ねてお願いしたい。これは''フリ''ではない」
「なんと……そこまで……我は。この間は……」
急にしょんぼりした様子のリフィスト。ラティスから言われるのは効いたか? まあ仕方ないな。一歩間違えば大事故なんだし。リフィストも魔術に詳しいとはいえ、専門家の言うことには従うべきだ。
「さてマスター。既に結界は起動済みだが、効果は出ているか?」
「あー……?」
もしや、あの不調は結界の効果だったのか?
「一応出てるっつーかむしろ強く出すぎてるが、まだ不安定ってとこだな」
「不安定か。恐らくそれは調整の痕跡だ。結界自体は現在安定状態にある」
ラティスがモニタを操作し、文字列の一つを指さす。だから読めないんだって。
「一時完全に無効化したため、不安定だったのはその影響だろう。そこから調整を重ねて今に至る。念の為、その時点での映像を共有してくれないか」
「ああ、勿論だ」
とりあえずマコトの解析が死んでる部分の録画をいくつか送る。ラティスはそれを見て満足そうに頷いた。
「問題ない。しっかり意図した通りに機能している。実は割り出した魔力波から術式限定で制限をかけるというのは初の試みでな。アルデム殿の遺した魔術書を読みつつ試行錯誤を繰り返したというわけだ」
「そうだったのか、ありがとな」
「礼は不要だ。それより、現在の映像も共有してくれ――ここに大きなモニタがあるだろう?」
まさか……繋げちゃったりするのか? それこそ初の試みだが。
『可能です。映像を転送します』
モニタに映し出される勇者一行の姿。すげえ。テンション上がってきた。映画とかも見れんのかな。
「――創造・探知」
画質も音質もいい感じで、そこに文句はないんだが……肝心の内容の方が微妙だ。リョーガが探知して進んでいくのがメインになってて、一向に解析を使う気配がない。
「マスター、あの解析士は諦めたのか?」
「さっきまではちょいちょい使ってたんだけどな……」
今までも魔力の温存がどうとか言ってたし、もう全部リョーガに任せる方向にシフトしたのかもしれない。そんなんでいいのかよ。熱い血燃やしてけよ。もっと熱くなれよ!
「魔物はいないけど、また行き止まりだ」
「ええ!? 分かれ道は一本しかなかったし、怪しげな宝箱が置いてあるだけだったよね?」
「ああ。探知で見たけど、あれには何かの罠が仕掛けられてた。行き止まりだったのも確認したのを覚えてる。つまりこっちで合ってるはず……なんだけどな」
はいはいハズレハズレ。見えてるものを信じるな。そして見えないものを見ようとしろ。
「めちゃくちゃ言っとるな、童……」
いやいやリフィスト、割と真面目な話なんだぜ。特にこの辺の階層からはな。探知では宝箱の誘引罠しか見えなかったみたいだが、あの箱開ければ次の階に飛べた。飛び込む勇気さえあれば魔物全無視でも移動できる仕組みだ。
んで、今回のも勿論ただの行き止まりじゃない。心の目で見れば分かるはずだ。そうだろ?
「――解析」
使った! どうだ?
「誠、何か分かったか?」
「……いや。でも前の部屋と同じ違和感がある。入ったら起動するタイプの罠だ」
「なるほどな。どうするか……」
部屋そのものがそういう仕組みとして作られてるからな。普通の罠とはレベルが違えのよ。レベルが。
それはともかく、
「これって成功だよな!」
「ああ、私はそう考えている。今なら微調整を承るが?」
「いいや、これで十分。完璧だ。分からなすぎてもつまらないだろうしな。このくらいが丁度いい」
「フ、ならいい。私もこの調整は上手くいったと思っていたところだ。考える余地が残っていた方が面白い。最初から答えが分かっていて、ただそれをなぞる行為に意味はない」
「そうそう。話が分かるな」
ある程度情報が出回ったら色々変えたりしてるんだぜ。上層も。
「理解できぬな。正解が分かっていた方が楽でいいであろうが」
「自分で見つけるからいいんだよ。サボってばっかじゃ人生つまらんぜ?」
「ハッ、知ったような口を。我は童らのように体力が無いんでな」
なんだよ、こいつ一周目から攻略本読むタイプか? 分かり合えないな。
「それではマスター、私は残った作業を片付けて地下90階に向かう」
「お、攻略は見てかなくていいのか?」
「興味はあるが、そうのんびりもしていられなくてな。私は私でそこそこ忙しいということだ」
思えば、ラティスも最近バタバタしてるよな。シルヴァのことを言ってる場合か。……いや半分くらい俺のせいか。
「悪いな、色々仕事頼んじまって」
「構わない。魔術のことならなんでも任せたまえ、それによる発見もある。しかし道を切り拓くには時間が幾らあっても足りないものでな。人のままではこうしているのも不可能だった。この肉体には感謝しているんだ、マスター」
「そりゃあ良かった。これからも魔術プロとしてよろしく頼むぜ」
「こちらこそ、迷宮の管理をよろしくお願いする。早々に迷宮ごと消えるのは御免だからな」
モニタを元の結界管理画面に切り替えてから、魔道具を眺めるリフィストを連れて部屋を出る。勇者一行はまだ部屋の前で悩んでいた。ったく、いつ入っても中のギミックは変わらないってのにな。もう前回ので大体想像付いてるだろうし、チキン片手に自分の名前叫びながら突っ込むくらいが丁度いい。
(おおラティス、どうした?)
(最終調整が終わった。その確認をしてほしくてな。できればこちらで共に実際の様子を見たい)
きたきた。タイミングもいい。
解析は既に不調らしいが、こっち側から封じておけばより安心だ。
(了解、そっちに行こう)
(我も行くぞ!)
突然の声に隣を見るとニヒヒ、と笑うリフィスト。これ個別念話だったはずだよな。心読むのと同じ感覚なのか。
「一緒に来てもいいが、別に面白いことないぞ」
「構わん構わん! どうせ暇であるしのう」
任せた仕事は全くやらないくせに暇とか言いやがる。やれやれ。まあ緊急時以外は少し暇なくらいでいてくれた方がいいのかもしれないが。
「ようラティス。邪魔するぜ」
「入りたまえ。……リフィスト殿? まさか本当にいらっしゃるとは」
あからさまに嫌そうな顔をするラティス。そんな顔すんなよ。こいつが首突っ込むと碌なことにならんのは同意だが。前勝手に魔法陣書き換えられたときは大変だったな。
「あ、あれは事故であろうが! わざとやったわけではない!」
「わざだとかそうじゃないとか関係ねーんだよ。今回は何も触るなよ?」
早速謎魔道具を触ろうとしてるリフィストに牽制。好奇心旺盛な子供かっての。リフェアでもここでは大人しくしてるぜ。むしろあいつを見習えよな。
「黙っていれば散々に言いよって! 我は理性なき童でないわ!」
「はいはい。じゃあラティス、結界の方を見せてもらえるか?」
「ああ。……リフィスト殿、私からも重ねてお願いしたい。これは''フリ''ではない」
「なんと……そこまで……我は。この間は……」
急にしょんぼりした様子のリフィスト。ラティスから言われるのは効いたか? まあ仕方ないな。一歩間違えば大事故なんだし。リフィストも魔術に詳しいとはいえ、専門家の言うことには従うべきだ。
「さてマスター。既に結界は起動済みだが、効果は出ているか?」
「あー……?」
もしや、あの不調は結界の効果だったのか?
「一応出てるっつーかむしろ強く出すぎてるが、まだ不安定ってとこだな」
「不安定か。恐らくそれは調整の痕跡だ。結界自体は現在安定状態にある」
ラティスがモニタを操作し、文字列の一つを指さす。だから読めないんだって。
「一時完全に無効化したため、不安定だったのはその影響だろう。そこから調整を重ねて今に至る。念の為、その時点での映像を共有してくれないか」
「ああ、勿論だ」
とりあえずマコトの解析が死んでる部分の録画をいくつか送る。ラティスはそれを見て満足そうに頷いた。
「問題ない。しっかり意図した通りに機能している。実は割り出した魔力波から術式限定で制限をかけるというのは初の試みでな。アルデム殿の遺した魔術書を読みつつ試行錯誤を繰り返したというわけだ」
「そうだったのか、ありがとな」
「礼は不要だ。それより、現在の映像も共有してくれ――ここに大きなモニタがあるだろう?」
まさか……繋げちゃったりするのか? それこそ初の試みだが。
『可能です。映像を転送します』
モニタに映し出される勇者一行の姿。すげえ。テンション上がってきた。映画とかも見れんのかな。
「――創造・探知」
画質も音質もいい感じで、そこに文句はないんだが……肝心の内容の方が微妙だ。リョーガが探知して進んでいくのがメインになってて、一向に解析を使う気配がない。
「マスター、あの解析士は諦めたのか?」
「さっきまではちょいちょい使ってたんだけどな……」
今までも魔力の温存がどうとか言ってたし、もう全部リョーガに任せる方向にシフトしたのかもしれない。そんなんでいいのかよ。熱い血燃やしてけよ。もっと熱くなれよ!
「魔物はいないけど、また行き止まりだ」
「ええ!? 分かれ道は一本しかなかったし、怪しげな宝箱が置いてあるだけだったよね?」
「ああ。探知で見たけど、あれには何かの罠が仕掛けられてた。行き止まりだったのも確認したのを覚えてる。つまりこっちで合ってるはず……なんだけどな」
はいはいハズレハズレ。見えてるものを信じるな。そして見えないものを見ようとしろ。
「めちゃくちゃ言っとるな、童……」
いやいやリフィスト、割と真面目な話なんだぜ。特にこの辺の階層からはな。探知では宝箱の誘引罠しか見えなかったみたいだが、あの箱開ければ次の階に飛べた。飛び込む勇気さえあれば魔物全無視でも移動できる仕組みだ。
んで、今回のも勿論ただの行き止まりじゃない。心の目で見れば分かるはずだ。そうだろ?
「――解析」
使った! どうだ?
「誠、何か分かったか?」
「……いや。でも前の部屋と同じ違和感がある。入ったら起動するタイプの罠だ」
「なるほどな。どうするか……」
部屋そのものがそういう仕組みとして作られてるからな。普通の罠とはレベルが違えのよ。レベルが。
それはともかく、
「これって成功だよな!」
「ああ、私はそう考えている。今なら微調整を承るが?」
「いいや、これで十分。完璧だ。分からなすぎてもつまらないだろうしな。このくらいが丁度いい」
「フ、ならいい。私もこの調整は上手くいったと思っていたところだ。考える余地が残っていた方が面白い。最初から答えが分かっていて、ただそれをなぞる行為に意味はない」
「そうそう。話が分かるな」
ある程度情報が出回ったら色々変えたりしてるんだぜ。上層も。
「理解できぬな。正解が分かっていた方が楽でいいであろうが」
「自分で見つけるからいいんだよ。サボってばっかじゃ人生つまらんぜ?」
「ハッ、知ったような口を。我は童らのように体力が無いんでな」
なんだよ、こいつ一周目から攻略本読むタイプか? 分かり合えないな。
「それではマスター、私は残った作業を片付けて地下90階に向かう」
「お、攻略は見てかなくていいのか?」
「興味はあるが、そうのんびりもしていられなくてな。私は私でそこそこ忙しいということだ」
思えば、ラティスも最近バタバタしてるよな。シルヴァのことを言ってる場合か。……いや半分くらい俺のせいか。
「悪いな、色々仕事頼んじまって」
「構わない。魔術のことならなんでも任せたまえ、それによる発見もある。しかし道を切り拓くには時間が幾らあっても足りないものでな。人のままではこうしているのも不可能だった。この肉体には感謝しているんだ、マスター」
「そりゃあ良かった。これからも魔術プロとしてよろしく頼むぜ」
「こちらこそ、迷宮の管理をよろしくお願いする。早々に迷宮ごと消えるのは御免だからな」
モニタを元の結界管理画面に切り替えてから、魔道具を眺めるリフィストを連れて部屋を出る。勇者一行はまだ部屋の前で悩んでいた。ったく、いつ入っても中のギミックは変わらないってのにな。もう前回ので大体想像付いてるだろうし、チキン片手に自分の名前叫びながら突っ込むくらいが丁度いい。
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