転生ニートは迷宮王

三黒

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第8章

216 合理

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 いやあ、凄かった。レルアに比べて天使としての階級は低かったはずだが、威力に大して差はないように見えた。
 なんたって全滅だからな。アイススライムみたいなのとか、結構魔術耐性高かったはずなんだが。
 まあそれはそれとして、あいつらにも結構な被害が出た。リョーガはボロボロだし姉妹の片方――シルキーも派手な傷が残ってる。
 
治癒ヒール……リョーガ、リョーガ!」
「シエル、とりあえず場所を移動しよう。ここじゃ火も満足に起こせない」
「う、うん……」 
 
 一定時間で魔物もリポップするしな。それがいい。
 ただ今回は安全地帯があるわけじゃない。転移門ゲートのある部分は多少は雨風凌げる感じになってるとはいえ、エリアとしては他と同じ扱いだ。
 ちなみに、転移門ゲートの先はもうボス前。まあ俺としては転移先で休憩をとるのを勧めるがね。
 
「マコト、マナポーションの残りは?」 
「あと二本くらいはある、けど。シエルはこれ以上飲まない方がいいんじゃ……」
「そんなこと言ってられないよ。リョーガをこのまま放置できない!」  
 
 そうだな。だがあの姉妹も治癒ヒールを使えるし、シエルが無理する必要はないだろ。もう隠すのやめていいと思うんだが。
 と、マコトが諦めたような顔で口を開いた。
 
「ルイン、治癒ヒールをお願いできないかな」
 
 おお、遂に謎天使に頼ったか。そこまでして姉妹の魔術は隠したいのか。
 
「ルインちゃん、力を貸して……?」  
 
 シエルも続けて言う。さあ出てくるかな。
 
「……他ならぬシエルの頼みだ。それに、今勇者が倒れては作戦の継続は不可能」
 
 出たァ! 
 短く切り揃えられた薄緑の髪に、同色だがどこか冷たい印象を受ける瞳。シエルのふわっとした感じとは対照的だな。こいつが切り札か。
 
「しかし、今の私はシルキーの傷を塞ぐので精一杯だ。他に回す魔力がない」  
「ってことは、今僕から彼女に逆に魔力を回してるってこと?」  
「そういうことだ。自覚はなかったか」 
 
 精一杯? 実力はそこまでって感じなのか?
 画面越しじゃ直接魔力を感じるとかできないからな。そこだけ不便だ。……システムさんも沈黙してるしやっぱりできないらしい。
 
「なら仕方ない。勿体ないけど置いていこう」
「置いていく……って?」
「シルキーのことだよ。僕ら側から魔力を回すのは無駄だし、マローナだけでも十分足りる」 
  
 いやいやいや、置いてかれても困る。せめて次のボス階まで行ってくれないと外にも出られないぞ。つーかそんな状態で置いてったら死ぬだけだ。 
 
「だ、ダメだよマコト。一人で置いてなんていけない。それならボクもここに残る」 
「それこそダメだ。僕らは魔王を倒さなくちゃならない。確実にだ。こんなところで時間を使うわけにはいかない」
「それは仲間を見捨てていい理由にはならないよ! 相手が強くても力を合わせれば勝てるよ。逃げたらまたそのとき考えればいいよ!」  
 
 そうだな。まあ俺は逃げないから安心してくれ。今だって余裕の表情で君らを眺めている。バスローブでワイン片手にペルシャ猫を撫で回すくらいの余裕だ。 
 
「それでも、今のシルキーが足でまといだってことに変わりはない。彼女は僕のものだ。つまりここで手放してもいい、そうだよね? 本人だって――」
「良くない! 良くない良くない良くない! マコト、どうして? 本当にそう思ってるの? 焦りすぎだよ、普段のマコトに戻ってよ」 
 
 うーわ、マコト教授と同じタイプの価値観かよ。引きました。アヤトが気を付けろっつったのも分かる気がするな。
 
「……分かったよ。シエルがそこまで言うなら連れて行こう」
「できる限りお邪魔にならぬよう、早急な回復に努めます」 
「うん。そうしてほしい」  
 
 うーん、こいつは好きになれねえな。嫌なやつって感じだ。隣のルインとかいうのも止めろよな。姉妹のもう一人も黙ってるし。勇者の意思優先なのかね。にしても仲間見捨てるか普通?
 
「――治癒ヒール!」
「んあ……シエル?」
「リョーガぁ!」  
 
 おうようやくお目覚めか。見た目以上にダメージいってたみたいだな。

「俺はあの後……ってシルキーさん! 酷い怪我だ、俺はいいから彼女の手当てを」
「シルキーは大丈夫だよ。僕が魔力のパスを繋いでるから、治すにしても後回しでいい」
「あ、ああ……そうなのか」  
「それより、龍牙もまだ完治したわけじゃないはずだ。そっちに集中してよ」 

 と、そこで遠くから狼の遠吠え。そろそろリポップだな。よく見れば、凍った地面の隙間からアイススライムが染み出してきてる。
  
「――解析アナライズ。ここもそろそろ安全じゃない。龍牙も目覚めたことだし転移門ゲートを使って次にいこうか」   
「分かった。転移門ゲートの方は安全そうか?」 
「少なくとも今回みたいなことはないよ。通常エリアに繋がってるとこまで確認した」 

 そうだ、マコトは前回の転移門ゲートに安全判定出してたもんな。確かに転移門ゲート自体に仕掛けはないし、壁の中に出るとかの詰む罠でもないが、行先はしっかり危険なモンハウエリアだった。それを踏まえて更に深く解析したのは偉い。
 
「なら良かった。また魔物まみれだと流石に苦しいからな」
 
 今後のモンスターハウスは苦しいじゃ済まないぜ。とはいえ、あのシエルの大技みたいなの出せば突破できそうだが。これは今後の課題だな。何か対策を考えたいが、お頭が全部ぶっ壊して進んだときとは訳が違うし、どうしたもんかね。
  
「よっし、到着。周りに魔物はいなそうだけど、一応解析アナライズ頼めるか」
「了解。――解析アナライズ」 

 マコトは少し苦い顔で溜息を吐く。まあその気持ちも分かる。大方デカい反応が一つあったんだろう。
 そこを曲がったらすぐあの門がある。ここのボスは白竜だ。  
 
「シエル、顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「ごめんリョーガ、ちょっとふらふらしちゃって」
「魔力の波長が安定してない。あまり無理はするなよ?」 
  
 無理はするな、ねえ。誰のせいだか。いやまあ、知らないし仕方なくはある……のか?
 症状自体は普通にマナポーションの飲みすぎだろうな。リョーガが復活する少し前からかなり気持ち悪そうだったし。
 
「龍牙、どうやらまたボス部屋らしい」 
「うげ、マジか……なら少し休まないか? 俺もまだ本調子じゃない」
「じゃあ、そうしよう。でもあまり時間はない。僕はマローナと辺りを警戒しておくよ」 
   
 姉妹の元気な方と共に門へ歩き出すマコト。別にいいがしっかり休むの推奨だぜ。そもそも門の中は極寒、半端な状態で行ける環境じゃないんだ。
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