転生ニートは迷宮王

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第8章

215 奥の手

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「誠ぉ! なんかの冗談だよなぁ! ――創造クリエイト具現化リディア!」
「それなら良かったんだけどね! ――解析アナライズ!」 
 
 どこを見ても魔物、魔物、魔物の山。ようこそ雪山特殊エリアへ。
 上の方から光が差し込んでるが、実はこう見えて完全独立エリアだ。まあ砂漠の地下階層みたいな感じだな。直接繋がってるわけじゃない。
 ここへのアクセス方法は何種類かある。まずあのボスを爆速で倒した後の転移門ゲート、次にクレバス落下後に一定時間生存してた場合の強制転移(これは半分救済措置だ)、で最後にドッキリトラップのハズレ枠。こっちも強制転移ではある。
 わざわざ独立エリアにしたのは魔物配置数上限の問題でな。ドッキリ罠なんかはわざと周りの雰囲気を寄せたから、普通の探索者なら突然魔物が湧いてきたように見えるはずだ。
 
「ダメだ、数百体はいる! 全部相手するより出口を探した方が早い!」 
「でもでもマコト、魔物だらけで見つからないよ!?」
「今頑張って探してる! っ、炎界ファリジア!」 
 
 いくら探したって無駄だぜ。全部倒してはじめて出現する仕組みなんだから。てかそもそも出口はその転移門ゲートしかないし、行き先も決まってる。大人しく魔物を片付けるんだな。ちなみに今んとこ脱出率は0パーセントだ。まだ数える程しか引っかかってないが、これでも初期よりは難度が下がってんだぜ。
 それより、おめでとうマコト。ここの相手は炎に弱いのが多い。真面目にやればさっきよりは活躍できるはずだ。お前の望み通り火力枠としてな。

「このままじゃやられる! 創造クリエイト――」
「龍牙、そこは危ない!」
「なっ――」  
 
 降ってきた雪の塊に見事に全身埋もれるリョーガ。イエティが嬉しそうに手を叩いている。今日の晩飯メニューは勇者の氷漬けか? 
   
「わわ、リョーガ! 大丈夫? ――炎弾ファルダ!」 
 
 シエルの炎弾ファルダも悪くない威力だが、次々降ってくる雪に押され気味だ。周りの魔物が攻撃の手をゆるめるわけでもないし、単純にメイン火力が消えたってのも戦況を悪化させてる。
 
「全然溶かしきれない! マコトも手伝っ……うわあ!」 
「シエル! っ、炎柱ファラスト!」 
 
 次々に地面を割って立ち上る炎の柱が、シエルの周りの魔物を焼き尽くしていく。
 いい感じにリョーガの雪も溶かせてるみたいだ。術の加減がうまい、うまい!
 
「マコト様!」 
 
 姉妹の片方がその体を盾にしてマコトを庇う。狼――シルバーヴォルフの爪がの辺りを裂いた。低温すぎて傷口が凍ったおかげで出血はほぼないが、それはそれで別の問題が出てきそうだ。
 
「シルキー!」
「私のことは、お気になさらず……」  
「ごめん、後で必ず治す! ――炎弾ファルダ!」 
 
 そうだな。傷を気にしてる場合じゃない。今すぐ治さなきゃ死ぬってんなら別だが、とりあえずリョーガが出てくるまでは人員を火力に割くのが優先だろ。
 
「――炎界ファリジア!」
「うーん、あの白猿を先にやらないとだめかも! いってくる!」  
「ちょっ、シエル!」 
「だいじょーぶ! マコトはそっちの魔物をお願い!」 
 
 シエルがそう言うと、リョーガが作った武器を握って、高台のイエティの群れに突っ込んでいく。
 
「ヴァウア、ヴェア」
「ヴォ、ヴァオア」  
 
 突然向かってきたシエルに、雪を落とす手が止まるイエティ。魔術組も詠唱をやめて目標を変えるが、少し遅い。
 
聖盾セイリード! やあーっ!」 
 
 数体のイエティが殴り掛かるも、天使の盾は壊せない。そりゃそうだ。
 
「――炎柱ファラスト!」 
 
 順調にリョーガの周りの雪は溶けてってる。やたら溶けにくいと思ったら、上のイエティが魔術で固めてたみたいだな。
 
「ヴォ……ヴァウヴァオエア」
「ヴォッヴォッヴォ」 
 
 っと、何体か降りてきたな。逆にマコトの方をやっちまおうってか。
 
「あ! 待てー!」 
「――炎界ファリジア!」  
 
 器用に炎の柱を避けて走ってきたイエティも、広がってくる何重もの炎の幕には後退せざるを得ない。
 
「そら! とうっ!」 
 
 そこを後ろからバッサバッサと切り飛ばして、イエティは全滅。リョーガはもう髪の毛くらいまで見えてきてる。凍傷とかが気になる……っつーか、息できてたのかね。
 
「マコト、そっちはどう?」
「あと少しかな――炎弾ファルダ!」
「おっけー! じゃあ一気に溶かしちゃおう! 炎獄ファルジュ!」 
   
 炎の渦がかなりの速度で雪を溶かしていく。最初からこれ使っとけば良かったんじゃ、と思ったが多分消費魔力も多いんだろうな。
 
「げほっ、がはっ」
「リョーガ! ――治癒ヒール……あれ? リョーガ?」 
「シエル、応急処置が済んだら攻撃に戻って! もう一息だ!」  
「で、でも……」 
 
 リョーガは思ったよりヤバそうだな。意識も朦朧としてるように見える。
 ただ今の間に魔物はガンガン距離を詰めてきてる。マコトが炎柱ファラストを打ち続けてればまだマシだったんだろうが。そういうとこだぞ。
 
「どうした、シエル!」
「リョーガが大変なんだよ!」
「僕らも大変だ、このままだと全滅する!」  
 
 おいおいこんなとこで全滅してていいのか? 残念ながらもう不死エリアは抜けてる。死んだらそのままあの世行きだぜ。
 
「――じゃあ、奥の手だよ。リョーガへの治癒ヒール分だけを残して、全魔力を注ぎ込む!」
 
 聖盾セイリードを身に纏って、シエルが再び宙に浮く。
 
「マコト、皆を連れて少し離れてて! 近すぎると巻き込んじゃう!」  
  
 素因エレメントの震えに敏感な魔物は既に距離を取り始めてるな。よっぽどデカいのが来るか。
 
「ええと、神力によりて、汝らが存在を滅せん! ――滅槍ニスタ!」 
 
 シエルを囲むようにして、あの黄金の槍が大量に出現した。
 一瞬の間を置いて、それらが一斉に撃ち出される。
 
「うわ――」 
 
 まさに槍の雨だ。触れる先から魔物を次々に消滅させていく。
 一通り撃ち終わる頃には、魔物はもう一匹も残っていなかった。
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