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第8章
212 解呪
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ふぃー。アヤトタクシー、到着と。なんだかんだ余裕はあったな。勇者といっても所詮は人か。
腕を掴まれたときだけはマズいと思ったが、もう痺れもない。爆破のブラフが効いたな。
「リフェア、お疲れ。紅茶飲むか?」
「飲みたい。……それと、その、少し横になってもいい?」
「ああ勿論。俺のベッドでもソファーでも好きな方を使ってくれ。報告はレルア達が戻ってきてから聞く」
思ったより疲れてたみたいだな。まあ目の前で殺すだの殺さないだの言われてたわけだし、それに対して何か術式も組んでた。疲れてない方がおかしいか。
(レルアとリフィスト、戻ってこれるか?)
(はい。只今)
(やっと帰れるのか! 童、菓子を用意しておけ!)
菓子ね。あいつ普段から大量に貰ってるだろうに。まあポテチでも用意しといてやるか。あとコーラ。これ最強。
と、寝ていたはずのリフェアに裾を掴まれる。
「リフェア、どうした?」
「――マスター、ありがとう」
「ん? ああ、いいっていいって。俺も何度も助けてもらってるしな。お互い様だ」
急にどうしたんだ。颯爽と現れた俺がイケメンすぎて惚れちゃったかな。ハハハ。
「マスターが来てくれて、嬉しかった。不安が一気になくなって、助かったって思ったの」
「なんだよ改まって、死亡フラグみたいだぜそれ。まあ無事で何よりだ」
「今言っておかなきゃと思って。感謝と謝罪は、先延ばしにすると後悔するから」
茶化していい雰囲気じゃないな。じゃあこの照れをどうすればいいんだ俺は。とりあえずこのニヤケ面をなんとか真面目な顔に変えてと。
「ま、そうかもな。じゃあ俺の方からもありがとう」
くぅ、気恥ずかしさがある。俺こういうの苦手なんだよな。
「あー、それと、まだレルア達が戻ってくるまで少しかかる。もう少し横になっとけよ」
「うん、そうする」
リフェアはソファに寝転がると、目を閉じた。それで俺は何しようとしてたんだったかな。ああそうだ、紅茶を淹れようと思ったんだ。それとDPショッピング。ポテチとかはあったら食べちまうしすぐ買えるしってんで、最近は迷宮内に在庫がない。
「えーとポテチポテチと」
お、期間限定で醤油バターとかいうのが出てるな。たまにはこういうのも買うか。
あとはリフィストが好きなコンソメ、俺が好きなうす塩と。紅茶に合う茶菓子みたいなのもいくつか買っとくか。
『合計:150DP』
相変わらず安いな。アフタヌーンティーにあるようなオシャレなやつとか、ちょっと高めのマカロンとかも買ったのにこれだ。
次はポットとカップを用意してと。
「――流水」
紅茶は自分で淹れるに限るね。この微かな香りを楽しむ瞬間からティー・タイムは始まってるんだぜ。
「――起動せよ」
俺は着火の方は使えないから、これは魔術結晶で。これを買うルナ分のDPで100均ライターを大量に買えるわけだが、こういうのは風情が大事だ。つーか普通にコンロ使った方が早いってのもあるんだが、折角だし買った魔道具使いたいよな。
実はこの湯沸かし魔道具も結構探索者に人気で、野営とかのときに使われてたりする。着火さえ使えてしまえば準備も処理も楽ではある。
「――戻りました」
「おう、お帰り」
「疲れた、疲れたぞ童! ポテチを出せ! そして歌い踊り我を楽しませよ!」
お、すげえテンション。まあ働きたくないって意思の塊みたいな奴だからな。レルアとは対極にいるというか、まあ大変だったんだろう。
「リフィスト殿、リフェアさんが眠っていますよ」
「ええい黙れ優等生! そもそも貴様と同じように動けるはずがないだろうが! 肉体の作りが違うのだ! 我は下級だからな!」
疲れすぎてんのか超声がデカい。リフェアに関しては二人が戻ってきたら起こすつもりだったし、問題はないが。
「いやまあ、肩揉むくらいならしてやるが……」
「いえ、勿体ない。リフィスト殿は日頃の運動不足のせい、自業自得というもので…………」
と、レルアが俺の方を見て動きを止める。
「マスター。その場で立ち止まってください」
「ど、どうした」
「お願いします。目を閉じて、深呼吸を。可能ならば魔力を安定させてください」
ま、魔力を安定ってどうやるんだっけ。アルデムがなんか言ってた気がするんだよな。魔術を使う基礎になるとかなんとか。
「カカカ、むしろブレが大きくなったぞ、童!」
「すみません、マスター。普段通りで大丈夫です」
「あ、ああ。悪い」
多分魔術を使う前のあのちょっと集中する感じをやれって言ってるんだよな。平常心。無。瞑想。
「ありがとうございます。目を開けてください」
言われるままに目を開けると、少し不安そうな顔のレルア。
「やはり魔術的な仕掛けを埋め込まれているようです。リフィスト殿はどう思われますか?」
「元は腕か。丁度これに似たのを坊とラティスが試していたな。あ奴らを呼ぶか」
「それなら私が。念話は使わない方がいいでしょう。盗聴されている可能性があります」
なんだって。痺れがないから油断してた。あの時点で既に何かされてたってわけか。
「我が呼びに行こう。仮に発動前だった場合、対処可能なのはお主しかおらん。そうだろう」
「では、任せます」
「うむ任された」
部屋を出ていくリフィスト。これ呑気に紅茶とか淹れてる場合じゃなさそうだぞ。
「マスター、そう心配なさらず。あくまで最悪を想定した話です。相手の任意のタイミングで発動できるものとも限りませんし、仕組みも複雑ではなさそうでした」
「ああ。レルア達がいるんだし安心だよな」
「はい。必ず取り除きます」
実際ここには魔術系のエキスパートも多いし、あの短時間で仕掛けられるようなものなんてたかが知れてる。仮に腕が爆発してもめちゃくちゃ痛いだけですぐ治してもらえるしな。できれば爆発は御免こうむりたいが。だって痛いもんは痛いし。
そういや痛みを感じなくなるとかいう怪しい薬を街で売ってたな。今のうちに買いに行っとくか……。
「やあマスター、何やら困っているようだが?」
「おうラティス。今ちょうど腕が爆発するかしないかってとこなんだ」
「崩落に巻き込まれるのは勘弁だな。まあ冗談はさておき、腕を見せたまえ」
とりあえず掴まれた方――左腕を出す。
ラティスは興味深そうに眺め、手首から肘の内側辺りまでを指でなぞるように触れた。くすぐったい。
「……これは珍しい。解析の形を変えるなど聞いたことがないが、なるほど確かに我々の播種に形態が似ている」
「で、どうなんだドクターラティス。消せるんだよな、これ?」
「勿論だとも。私でもいいが、念の為天使のお二人に頼みたい。普通の解呪で十分だ」
えっそんな簡単に取り除けるんですか! やったー!
「我よりも優等生に頼んだ方が確実であろ。上級の術に間違いなしというやつよ」
「それでは、失礼します」
今度はレルアが俺の腕に触れる。ただ解呪かけてもらうだけなのに謎に緊張するぞ。
「――解呪」
封印されし俺の左腕は眩い光を放ち、バチっと音と火花が上がって――直後、激痛が走った。
「痛ってえ!?」
結局痛いじゃないですか! やだー!!
腕を掴まれたときだけはマズいと思ったが、もう痺れもない。爆破のブラフが効いたな。
「リフェア、お疲れ。紅茶飲むか?」
「飲みたい。……それと、その、少し横になってもいい?」
「ああ勿論。俺のベッドでもソファーでも好きな方を使ってくれ。報告はレルア達が戻ってきてから聞く」
思ったより疲れてたみたいだな。まあ目の前で殺すだの殺さないだの言われてたわけだし、それに対して何か術式も組んでた。疲れてない方がおかしいか。
(レルアとリフィスト、戻ってこれるか?)
(はい。只今)
(やっと帰れるのか! 童、菓子を用意しておけ!)
菓子ね。あいつ普段から大量に貰ってるだろうに。まあポテチでも用意しといてやるか。あとコーラ。これ最強。
と、寝ていたはずのリフェアに裾を掴まれる。
「リフェア、どうした?」
「――マスター、ありがとう」
「ん? ああ、いいっていいって。俺も何度も助けてもらってるしな。お互い様だ」
急にどうしたんだ。颯爽と現れた俺がイケメンすぎて惚れちゃったかな。ハハハ。
「マスターが来てくれて、嬉しかった。不安が一気になくなって、助かったって思ったの」
「なんだよ改まって、死亡フラグみたいだぜそれ。まあ無事で何よりだ」
「今言っておかなきゃと思って。感謝と謝罪は、先延ばしにすると後悔するから」
茶化していい雰囲気じゃないな。じゃあこの照れをどうすればいいんだ俺は。とりあえずこのニヤケ面をなんとか真面目な顔に変えてと。
「ま、そうかもな。じゃあ俺の方からもありがとう」
くぅ、気恥ずかしさがある。俺こういうの苦手なんだよな。
「あー、それと、まだレルア達が戻ってくるまで少しかかる。もう少し横になっとけよ」
「うん、そうする」
リフェアはソファに寝転がると、目を閉じた。それで俺は何しようとしてたんだったかな。ああそうだ、紅茶を淹れようと思ったんだ。それとDPショッピング。ポテチとかはあったら食べちまうしすぐ買えるしってんで、最近は迷宮内に在庫がない。
「えーとポテチポテチと」
お、期間限定で醤油バターとかいうのが出てるな。たまにはこういうのも買うか。
あとはリフィストが好きなコンソメ、俺が好きなうす塩と。紅茶に合う茶菓子みたいなのもいくつか買っとくか。
『合計:150DP』
相変わらず安いな。アフタヌーンティーにあるようなオシャレなやつとか、ちょっと高めのマカロンとかも買ったのにこれだ。
次はポットとカップを用意してと。
「――流水」
紅茶は自分で淹れるに限るね。この微かな香りを楽しむ瞬間からティー・タイムは始まってるんだぜ。
「――起動せよ」
俺は着火の方は使えないから、これは魔術結晶で。これを買うルナ分のDPで100均ライターを大量に買えるわけだが、こういうのは風情が大事だ。つーか普通にコンロ使った方が早いってのもあるんだが、折角だし買った魔道具使いたいよな。
実はこの湯沸かし魔道具も結構探索者に人気で、野営とかのときに使われてたりする。着火さえ使えてしまえば準備も処理も楽ではある。
「――戻りました」
「おう、お帰り」
「疲れた、疲れたぞ童! ポテチを出せ! そして歌い踊り我を楽しませよ!」
お、すげえテンション。まあ働きたくないって意思の塊みたいな奴だからな。レルアとは対極にいるというか、まあ大変だったんだろう。
「リフィスト殿、リフェアさんが眠っていますよ」
「ええい黙れ優等生! そもそも貴様と同じように動けるはずがないだろうが! 肉体の作りが違うのだ! 我は下級だからな!」
疲れすぎてんのか超声がデカい。リフェアに関しては二人が戻ってきたら起こすつもりだったし、問題はないが。
「いやまあ、肩揉むくらいならしてやるが……」
「いえ、勿体ない。リフィスト殿は日頃の運動不足のせい、自業自得というもので…………」
と、レルアが俺の方を見て動きを止める。
「マスター。その場で立ち止まってください」
「ど、どうした」
「お願いします。目を閉じて、深呼吸を。可能ならば魔力を安定させてください」
ま、魔力を安定ってどうやるんだっけ。アルデムがなんか言ってた気がするんだよな。魔術を使う基礎になるとかなんとか。
「カカカ、むしろブレが大きくなったぞ、童!」
「すみません、マスター。普段通りで大丈夫です」
「あ、ああ。悪い」
多分魔術を使う前のあのちょっと集中する感じをやれって言ってるんだよな。平常心。無。瞑想。
「ありがとうございます。目を開けてください」
言われるままに目を開けると、少し不安そうな顔のレルア。
「やはり魔術的な仕掛けを埋め込まれているようです。リフィスト殿はどう思われますか?」
「元は腕か。丁度これに似たのを坊とラティスが試していたな。あ奴らを呼ぶか」
「それなら私が。念話は使わない方がいいでしょう。盗聴されている可能性があります」
なんだって。痺れがないから油断してた。あの時点で既に何かされてたってわけか。
「我が呼びに行こう。仮に発動前だった場合、対処可能なのはお主しかおらん。そうだろう」
「では、任せます」
「うむ任された」
部屋を出ていくリフィスト。これ呑気に紅茶とか淹れてる場合じゃなさそうだぞ。
「マスター、そう心配なさらず。あくまで最悪を想定した話です。相手の任意のタイミングで発動できるものとも限りませんし、仕組みも複雑ではなさそうでした」
「ああ。レルア達がいるんだし安心だよな」
「はい。必ず取り除きます」
実際ここには魔術系のエキスパートも多いし、あの短時間で仕掛けられるようなものなんてたかが知れてる。仮に腕が爆発してもめちゃくちゃ痛いだけですぐ治してもらえるしな。できれば爆発は御免こうむりたいが。だって痛いもんは痛いし。
そういや痛みを感じなくなるとかいう怪しい薬を街で売ってたな。今のうちに買いに行っとくか……。
「やあマスター、何やら困っているようだが?」
「おうラティス。今ちょうど腕が爆発するかしないかってとこなんだ」
「崩落に巻き込まれるのは勘弁だな。まあ冗談はさておき、腕を見せたまえ」
とりあえず掴まれた方――左腕を出す。
ラティスは興味深そうに眺め、手首から肘の内側辺りまでを指でなぞるように触れた。くすぐったい。
「……これは珍しい。解析の形を変えるなど聞いたことがないが、なるほど確かに我々の播種に形態が似ている」
「で、どうなんだドクターラティス。消せるんだよな、これ?」
「勿論だとも。私でもいいが、念の為天使のお二人に頼みたい。普通の解呪で十分だ」
えっそんな簡単に取り除けるんですか! やったー!
「我よりも優等生に頼んだ方が確実であろ。上級の術に間違いなしというやつよ」
「それでは、失礼します」
今度はレルアが俺の腕に触れる。ただ解呪かけてもらうだけなのに謎に緊張するぞ。
「――解呪」
封印されし俺の左腕は眩い光を放ち、バチっと音と火花が上がって――直後、激痛が走った。
「痛ってえ!?」
結局痛いじゃないですか! やだー!!
応援ありがとうございます!
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