転生ニートは迷宮王

三黒

文字の大きさ
上 下
207 / 252
第8章

205 黒騎士

しおりを挟む
***前半マコト視点、後半アヤト視点です。***



「……人が多いな。下手すればシレンシアよりも活気がある」
「そうだよね。それに、歩いてる人もみんな人族みたい」
 
 街は活気に溢れていた。魔界の魔王城とは大違いだ。
 それにシエルも言ってたけど、歩いてるのが人族だってことには驚いた。レイレスは一人でここに来たのか、そもそも元々ここに街はなかったって聞いてる。魔物とかならともかく、無から人族を生やす魔術なんてあるはずがない。
 でも奴隷を集めて冒険者ごっこをさせているというわけでもなさそうだし、これだけの人が集まる理由があるってことなのかな。
 
「なあ誠、迷宮は向こうから入れるみたいだぜ。また前回みたいに裏口を探すか?」
「いいや、迷宮として運営されている以上そう簡単には見つからないはずだ。少し面倒だけど正面から突入しよう」 
 
 迷宮の魔物だってどうせ僕らの敵じゃない。少なくとも、僕の敵ではない。 
 
「二人とも、準備はいい?」 
「ええ、私は万端整っています」 
「私も、お姉様と同じく」 
 
 ……そう、僕には二人がいるから。もう魔力のパスは繋いであるし、道中で試し撃ちしたときも上手くいった。
 龍牙とシエルには二人が魔術を使えないって言ってある。その代わりに消費魔力を肩代わりできて、しかもその威力を高められるって。
 
「じゃあ、行こう」
 
 巨大な城に向けて歩き出す。今度こそ魔王討伐を成功させる。僕自身の手で。

 
 
* * *  
  
 
 
「おお?」 
 
 もしかしてもしなくても、あれが天使じゃないか?
 レルアやリフィストが元々着てた白ローブじゃないが、纏う雰囲気が天使のそれだ。ってことは一緒にいるのは勇者か?
 妙だな、天使っぽい子の他にもお嬢様っぽい双子の少女がいるが、そっちからはなんというか、天使のオーラみたいなものを感じない。勇者は二人組って聞いてたが片方は違ったのか? 天使もパッと見、アヤトが警戒しろつってた方じゃないやつ……明らか勇者って感じのやつとペアに見える。
 じゃあ天使が一人死んだってのか? まさかな。
 
(レルア、天使っぽいやつが来た。映像を送るから確認してくれるか)
(了解しました)  
 
 レルア用の端末に映像を共有と。ちなみにサブ端末はレルアと三騎将に配ってある。何かと便利だからな。
 
(これは確かに中級天使ヴェーラミスト、天使です。個体名はシエル。彼女もまた勇者の補佐としてこちらへ来ていたはずです) 
(つーことは、隣のは勇者ってことか?) 
(いえ、そこまでの判断はできかねますが……彼女がいるということはその可能性は高いかと) 
 
 あいつらどっからどう見ても日本人顔だし、こっちじゃ黒髪も少ないって聞いた。ついに、ついに勇者が迷宮攻略にやってきたってことか。
 
(しかし、彼らが勇者なのだとしたらもう一体の天使が気になります。姿を消しているだけというわけではないようですが、天使が消失したほどの素因エレメントの揺らぎも確認できていません) 
(そう、それなんだよ。俺もそれが気になってた)
(単独で別行動をとっているのかもしれません。迷宮街の巡回を続けます)  
(ああ、よろしく頼む) 

 双子の少女と天使――シエルはゲストアカウントで攻略を始めた。どうやら冒険者証明書がなかったらしい。
 ちなみにゲストアカウントでも、特に追加で制限がかかるとかはない。出場時に迷宮用の探索者証明書ってのも発行される。「(上層じゃ)死なない迷宮」ってのもあって、割とそういう冒険者以外の探索者も増えたんだよな。村一番の力自慢とか、自警団で魔物との戦いには慣れてるとか、そんな感じの。
 
「これで中に入れる……のか?」 
「凄いねえ、ボクこんなの見たことないよ!」 
 
 一行も、こっちの冒険者と同じように近未来的な入場口に驚いてた。ここの通貨が電子化(っていうのが正しいのかは知らないが)されてるのを知ったら、どんな顔をするのか楽しみだ。
  
「わ、わ」 
創造クリエイト雷裂アイデルツ。落ち着けよ誠、ただのゴーストだ」 
「あ、ああごめん。最初に解析アナライズをかけるべきだった」 
 
 このマコトとかいうやつ、やっぱ大したことなさそうだな。動きも素人くさいし、これといって目立った能力もなさそうだ。
 どっちかっていうとあのいかにも勇者っぽい方、リョーガの方が怖いな。何もないとこから色々出して攻撃してるし、腰の杖を使うまでもなくゴーストを一掃してる。あれはかなりの魔力だぞ。調子が良ければ、ソロでも地下4-50階までいけそうだ。
 
「ふぁ、炎界ファリジア!」 
「ナイスだ誠! よっし次の階行こうぜ!」 
 
 ああ、一応マコトの方も魔術は使えるらしい。威力はそこそこだが使い慣れてない感じがあるな。後ろの双子は戦闘中はマコトに力を送ってるだけみたいだが、リョーガの方を強化した方が効率いいんじゃないか?
 まあいいや、パーティにはパーティごとのやり方がある。俺も探索側はプロじゃないからな。
 
「順調順調……ん? 気をつけろ、あいつちょっと強い!」
 
 お、黒騎士だな。確か定期的にゼーヴェの訓練に参加してた気がするし、今じゃ中層のボスくらいの強さだぞ。
 
「シエル!」
「うん、防御結界プロテクション!」 
「――解析アナライズ!」 
 
 マコトが使った術で黒騎士が起動した、直後衝撃波を伴った斬撃。
 
創造クリエイト――っ!」 
 
 それを真正面から受けたリョーガはすっ飛んでいったが、ギリギリで何かの術を発動していたらしく、思いのほか軽傷だった。流石は勇者だな。
    
「龍牙! そいつは剣術の他にも闇魔術を使うみたいだ!」 
「ああ分かった――創造クリエイト雷刺スェルツ!」 
 
 雷の弾丸が、レールガンみたいな速度で撃ち出された。俺でも目で追えなかったし、黒騎士が反応できるはずもなく、それは甲冑を貫通して轟音を響かせる。
 
闇鎖ダレイド》 
 
 だが、黒騎士の強みは甲冑の中が空っぽってとこだ。今のがコアを貫通してたら終わりだったが、逆にコアを破壊されない限りは戦い続けられる。
 
「あっ――」 
 
 うねる鎖が双子の片方を縛り上げ、首の部分を持ち上げるようにして宙に浮かせた。少女は首の鎖に手をやって足をばたつかせる。ありゃ相当キツく縛ってるな。後ろの弱そうなお嬢様を狙うなんて卑怯な! それでも騎士か! だがその勝利への執念は高く評価したい!
 そもそもここはね、迷宮ですよ。上層じゃ死なないっつったって、遊戯場ってわけじゃない。
 
「マローナ! ――炎弾ファルダ!」 
 
 マコトが炎の球を放ったが、絡み合った鎖はビクともしなかった。弱。率直に言うと弱いぞ君。いや黒騎士が強いのもあるけど。
 つーかさっきよりも更に弱く見えるな。もしかして双子が両方近くにいて初めて最低ラインなのか?
 
「待ってろ今助ける! 創造クリエイト――」
 
 詠唱を待ってたかのように、黒騎士が思いっきり前に跳んだ。当然リョーガは反応しきれない、が、
 
「やあああ!」  
 
 飛び込んできたシエルがその剣を弾き飛ばす。一転黒騎士の胴体はガラ空き。そこを逃すリョーガではない。
 
「――天刃雷フルグロ!」 
 
 青白い爆発。煙が晴れるとそこには黒騎士の姿はなく、宝箱一つと魔法陣が出現していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

処理中です...