転生ニートは迷宮王

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第7章

179 シルヴァ

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 あれからアルデムは気絶した子供の体を魔術的に調べたが、結局魔力がない原因はわからず終いだった。まあ攻撃機構とかってわけではないそうだ。アルデムは周囲の魔力を吸い取って起動するタイプのやつだと睨んでたらしいんだが、曰く中身は詰まってるんだと。それも恐らく普通の人間と同じようなものが。
 この同じってのがキモで、厳密には違うらしい。俺もこの世界の奴らとは色々違う――というかそもそも人族じゃないし、そこは気にする必要ないだろうと言っておいた。
 で、問題の魔力は先天的なものって説が有力だ。かなり珍しいが、それ以外に考えられない。わざわざあんな子供の魔力を消滅させる理由がないし、その過程でいくつか禁術に触れることにもなると聞いた。要はめちゃくちゃ手間がかかるってわけだ。
 
(マスター)
(アルデムか、どうした?) 
 
 とか考えてたらアルデムから念話。多分あいつのことだろう。
 
(例の子供が目を覚ましましたゆえ、ご連絡を) 
(おうサンクス、今行く) 
 
 まだあれから一日くらいだ。どうやって目を覚まさせたのか気になる。自然に覚醒するとは思えない雰囲気だったしな。
 
 アルデムの実験室――研究室――もとい私室は、いつも独特の空気が流れている。匂いがどうとかではなくて、温かな静けさというか。平日の昼にフラっと寄った、人の少ない図書館みたいな。
 なんとなく落ち着くんだよな。週に一度の魔術講座は毎回ここだし、俺が休まず出席してる理由の一つでもある。
 
「よう」
「あ……」 
 
 扉を開けると、遠慮がちに俺を見上げる顔。着てるのはカインのスーツか? ぶかぶかだし後でなんか用意しよう。
 
「その……はじめまして。僕はシルヴァといいます」
「俺はアヤトだ。ここの主をしてる」
 
 アルデムは作り物というか人形というか、とにかく違和感のある綺麗さだと言ってたが……外見はマジで普通の人間だ。確かに肌は白いし瞳も澄んでるが、レルアとかの異次元の美しさに比べれば劣る。天使と比べりゃそうなるか。リフィストもああ見えてかなり整った顔と体型――ってそんなことはいい。
 
「早速質問したいんだが、大丈夫か?」

 質問という言葉を聞いて、シルヴァは少し俯いた。
 
「実は、僕は記憶をなくしているんです。覚えているのは名前だけ……それも誰かにこう呼ばれていた気がする、というだけの朧気なもので」
「マジか、参ったな。ここに飛んできた理由くらい知りたかったんだが」
「それについては、儂から報告が。彼の着ていた布ですが、これが――」 
  
 アルデムがボロきれを机の上に広げた。薄汚いのはそのままだが、それよりも、
 
「四角いな。服ってわけじゃなかったのか」 
「そのようですな。しかし、ただの布きれというだけでもないようですぞ。儀式的な意味を持つ可能性があるゆえ、これの解析を進めれば彼に繋がる情報も得られるかと」 

 これまた魔力が一切感じられなかったらしい。一切ってどういうことだよ。魔力のある人間が使っていたならその残滓が感じ取れるはずだし、やっぱりシルヴァが代々魔力のない家系?
 だが何者かと接触すれば、その時点でそいつの魔力が残るはずだ。アルデムが分からなかったってことは、少なくともここ数週間で外部との接触はなかったと思っていい。どうなってる?
 
「あー……っと、了解。じゃあ引き続き解析を頼む」
 
(んでシルヴァの今後だが、どうする?)
(記憶のない状態で放り出すのも人の心がないというもの。この肉体が絡繰であれなんであれ、今のところ敵意もない様子。引き続き儂の下に置いてもよろしいかな?)
(ああ。じゃあこいつのことは全部任せる) 
(御意に) 
 
 シルヴァについてはまだまだ謎な部分が多いが、餅は餅屋だ。アルデムに任せるのが吉と見た。別に面倒事を押し付けたとかではない。ああ、後でシルヴァ用のベッドとかも用意してやった方がいいかな。アルデムの部屋にスペースはあるが、ベッドは使わないから置いてないんだよ。
 にしてもリフェアと言いシルヴァと言い、なんか子供らしくない子供が多いな、ここは。いや、リフェアは最近マシになってきたか? 昔はラビ二号みたいな口調だったが……今は迷宮街の皆にも可愛がられて、徐々に歳相応になってきたような気もする。
 それでも冒険者への対応はどこか大人なんだよな。俺があのくらいの歳の頃は辿々しい敬語しか使えなかったぞ。シルヴァも態度が随分落ち着いてるし、混乱してる感じもない。なんだかな。
 
「マスター?」
「おお、リフェア。交代か?」 
「交代じゃない、もう夜だからお休みするの」 
 
 おっといけねえ。本当に時間の感覚がなくなる。まあ腹も減らなきゃ眠くもならないわけだしな。時計を見ても昼だか夜だか。
 
「それより、誰かお客さんが来てるの?」 
「ああ、分かるか? 今はアルデムの部屋にいる」 
「うん……ゼーヴェさんが忙しそうにしていたから。でも不思議、地上にいるんだと思ってた」 
 
 リフェアがひょいっと天井を指さす。このクリスタル性の天井、どうにかして外の時間と連動させられないもんかね。そうすりゃ昼か夜か分かりやすくていいんだが。
 
「地上か。まあ普通ならここまで招かないしな」
「それに、そもそも存在感を感じなかったから。本当にそこにいるの?」 
「ああ。あいつは魔力がないらしいし、それのせいで存在感もないのかもな」
 
 魔力がない、と聞いた途端リフェアの目が輝き始めた。
 
「……魔力がないの? 魔力がないのはすっごい珍しいんだよ! どんな人なんだろう、会ってみたいな、お爺ちゃんの部屋に行ってもいい?」  
「ん、まあいいんじゃないか? 仲良くなれるかもしれないぞ」 
 
 やっぱり同年代の友達って必要だろうしな。シルヴァがもし実家に帰ったりすることになっても、文通したりこっそり会ったりはできる。
 
「ありがとう、お菓子持って行ってくるね!」 
「おー、走って怪我するなよ」 
「だ、大丈夫だって! それじゃ!」 
 
 リフェアは大丈夫って言うが前科があるんだぜ。影に乗って滑るように移動してたせいか、未だに足元が怪しいことが多い。特にここの床はちょっと滑りやすいし気を付けてもらわないとな。魔術ですぐ治りはするが。
 さーて、俺も迷宮造りの方に戻るか。区切りの、そして現状最終階層までの部分だ。気合い入れていこう。
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