転生ニートは迷宮王

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第7章

177 ラルザ

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***三人称視点です。***




「チッ……まだか? 一体いつになったら次の魔王が生まれるんだ?」
 
 レイレスは暗闇で一人、イラついた様子で宙を睨む。
 本来なら前魔王を殺した時点で座の継承が行われるはずだったが、どういうわけか未だにその通知は届いていないのだった。
 
「やあ王子、調子はどうだい? その分だと計画は失敗しちゃったかな?」
「そのむかっ腹が立つ喋り方をやめやがれ、」 
 
 闇を裂いて現れたのはラルザ。シレンシアにいたときとは違い、今の彼には立派な角が生えていた。
 
「まあまあ、そうピリピリしないで。僕の方は順調もいいとこさ。上手く地下監獄に入れたから、身代わりを置いて出てこられたしね!」 
「……そりゃあいい。で? 向こうの様子は?」 
「それがさ、勝手に分裂して争ってるんだよ。その滑稽さといったら!」 
 
 ラルザは可笑しそうにけらけらと笑う。それを見て、尚もイライラした様子でレイレスは続ける。
 
「リフィストの方は?」
「結論を急ぐねえ、君は。当然完璧にやったとも。大勢の神父を同時に操るのは骨が折れたよ、ほんと。消滅までは確認してないけど、無力化までは持っていけた。これは確実だ、なんたってシレンシアからの魔力消失を最初に――」
「悪くはねえが、足りねえな。お前ならもう少しやれただろう――遊んだな?」
 
 投げかけられる冷たい視線に、おどけてみせるラルザ。
 
「さてさて、なんのことやら! でも、継承が終わるまで時間があるんだろう? ではどうだ、僕と二人で城攻めというのは!」 
 
 ここで初めてレイレスの表情が変わった。少し口端を上げ、取り出したシレンシアの地図を広げる。
 
「いいじゃねえか、時間潰しに最適だ。中央は俺様がやる。お前は周りのゴミ共を片付けろ」 
「ああ勿論、勿論だとも王子よ! 楽しみだなあ、二人での出撃は何時ぶりだろう? こうしていると幼い頃を思い出す――」
「無駄口はいい。ぬかるなよ、ラルザ」 
「いけないいけない、少し興奮してしまってね。一般兵ごとき敵ではないさ。この僕にお任せあれ!」
 
 ラルザは現れたときと同じように、闇に裂け目を作る。二人は順番にその中に入っていき、そして消えた。
 

  
* * *
 
 
 
 部屋に鐘の音が鳴り響き、連絡用の通信結晶が光る。これに起こされるのもそろそろ慣れた、とハルティアは溜息を吐いた。
 
「敵襲! 敵襲です!」 
「ふああ……何? また獣人?」
 
 欠伸を噛み殺しながら窓を開けるが、辺りは静かなものだった。
 
「いえ、それが……彼らとは違うようでして! 只今調査中であります!」
「ええ、じゃあまだ僕いらないよう。寝てていいかなあ?」 
「こ、困ります!」
 
 焦ったような声を聞きながら、ハルティアはベッドに腰掛けた。時計の針は刻三を指している。空には星月が輝いているし、起きるには早すぎる。
 
「着替えるのも面倒だしさあ、また正体とか分かったら呼んでよう。昨日も遅くまで任務だった――ふああ――んだから」
「しかし、異常時には聖騎士の皆様にもご協力いただくようにと」 
「他を当たってよう。僕じゃなくてもいいでしょお?」 
 
 遂に再びベッドに寝転がったハルティアは、目を閉じて脱力した。通信先にもその様子が伝わったのか、声の主は更に焦り始める。
 
「ほ、他の皆様はシレンシアにおられないのです! 騎士団員、そして宮廷筆頭アルクの方々だけでは足りません、どうか!」 
「うーん、そうだねえ。まあ考えておく――」 
「不在の団長から直々に指名されているんですよ!?」 
 
 ハルティアの眉がピクリと動く。団長――シレンシア騎士団の団長、アナのことだ。ハルティアは彼女に借りがあった。というか、借りがありすぎた。今までかなり自由に魔術をっ放__ぱな__#せてきたのも、八割くらいは彼女のお陰だったりする。
 彼女の頼みとあらば断るわけにはいかない。いくら眠かろうが仕方がない。ハルティアは観念したように起き上がって、大きく伸びをした。
 
「……分かったよう。でも見回りをするだけだ。何もなければ、すぐに戻ってくるからねえ」 
「ありがとうございます! では城内でお待ちしております!」 
 
 通信結晶の光が消え、部屋の中には静けさが戻ってきた。ハルティアはもう一つ溜息を吐くと、のろのろと着替え始める。名残惜しそうに寝具を眺めながら。
 
 
 
* * *
 
 
 
「ラルザ殿、なぜ貴方が!」
「おやめください、うわっ!」 
「はいはい、どいてどいてー」

 次々と現れる騎士団員を、まるで埃でも払うかのように蹴散らして走るラルザ。
 目立つ通りを行ったり来たりして、もう数十人は戦闘不能にしたか。途中から死亡確認はしていないが、レイレスならば拘らないだろうと考えてのことだった。
 
「ふう、流石にちょっと数が多いね。爆発起こしたのは失敗だったかな?」
 
 額の汗を拭っていると、また次の集団が走ってくるのが見えた。やれやれ休む暇もない、とラルザは剣を抜く。
 そのときだった。
 
「おやおやあ、どうしてこんなところにⅡの騎士の君がいるのかなあ?」 
「おっと、これはハルティア殿! 息災か? 顔色が優れないようだが……ははん、寝不足というやつだな! しっかり寝ないとダメじゃあないか、君は前から……」 
「無駄話はいいよう。僕はどうして君がここにいるのかって聞いてるんだ」
「ああ、怒らせるつもりはなかったんだ。ごめんよ。こんないい夜には気分が上がってしまってね……」
 
 ハルティアが杖を抜くと、ラルザは慌てたように言葉を続ける。
 
「そうだった、僕がここにいる理由だったね。ずばり牢を抜け出して来たからさ! 勿論計画が終われば元に戻るよ。次は仲間が助けに来てくれるまで大人しくしているつもりさ。僕は規則は守る男だからね!」 
「やっぱり脱獄だよねえ。君が許されたという話は聞いていなかった。もっとも、あの件は革命派の仕業じゃないかって話だけどさあ」
「ああそうそうその通り! だけど決まりは決まりだから――」 
「収監され続けていたのにはもう一つ理由があったんだよう。君が間諜なんじゃないかって噂だ。遂に尻尾を出したってわけだよねえ」 
 
 沈黙。ラルザは困ったように笑って、頬を少し掻いた。
 
「これは謀反だ、君は重罪人だよう。――Ⅳの騎士、ハルティア・ベス・ファルンスターク。これより罪人ラルザの処刑に入る。風の精霊よ――」 
「困ったな、そんな激しい運動をするつもりじゃなかったんだけど!」
 
 放たれた風の刃を、街灯の上に飛び乗って躱す。地面は大きく抉れていた。まともに食らったらただでは済まない。
 
「いい魔術だ、燃えてきたよ! じゃあ最後に一つだけ。実は謀反っていうのは間違いなんだ。ラールザッカー・レギドンレリスは、最初から王子レイレスの友人であり、部下だからね!」 
 
 聞こえているのかいないのか、はたまた聞こえていても聞いていないのか、風の刃は休みなく放たれ続ける。
 皆せっかちだなあ、とラルザも構える。吹き荒ぶ暴風に、楽しげな笑みを零しながら。
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