転生ニートは迷宮王

三黒

文字の大きさ
上 下
169 / 252
第6章

167 加速

しおりを挟む
「――起動せよイダイア!」 
 
 まずは加速アクサール。からの――
 
「――破空フェーヌ!」
 
 勿論アヤトに向けて撃ったわけじゃない。その周りだ。考え通り、自分に対する攻撃魔術以外は無効化できないらしい。
 まだ動き出す様子はない。躱した様子も。真正面から受けるつもりか? 罠か?
 だが相手が仕掛けるのを待ってたら100%負ける。
 
「――穿空フェルラス!」 
 
 今度はアヤトを狙って撃ったがこれはブラフ、本命は次。
 
「――裂空剣!」 
 
 加速アクサールのスピードを活かしての、背後に回り込んでの斬り込み。これを完全に躱すことはできないはずだ。俺なら。
 案の定、伸びる斬撃に少し驚いたような表情をした、が。
 
「なんだ、何かと思えばただの斬撃か」 
 
 
 俺はこれを知っている。当たったはずが当たっていない。斬った場所が斬れていない。
 急ぎバックステップで距離をとり、今度は守りの姿勢に入る。直後、ギィン! という派手な音と共に、何もない場所からの斬撃を受けた。
 これだ。俺は前回これで死んだ。アヤトは剣を抜いていなかった。仕組みは分からない。オートカウンターか? いや、恐らくそんなに便利なチートスキルじゃない。何か自分で魔術を使ったはずだ。素因エレメントの動きがあった。だが何を使った。そんなのが時空魔術にあるのか? 受けた衝撃をそっくりそのまま返すようなのが?
 
「おお! これを受けきるのは予想外だった。お前の知る俺は、どこまで手の内を見せたかな」
 
 残念ながら今ので最後だ。それに、気付かなければ同じ攻撃で二回死んでるところだった。
 
「しかし、咄嗟のことだったとはいえ無詠唱で使わされたのは痛いな。意外と魔力消費が馬鹿にならないんだ。こんなことなら、街の売店でマナポーションを買っておくべきだったか」 
 
 魔力消費が多いのは本当だろう。素因エレメントの動きは戦闘中でもハッキリと分かるくらいのものだった。
 これを使わせるために斬り込みを続けるか? いや、無謀すぎる。相手がどんな魔術を使えるのか分からないんだからな。
 
「どうした、まさかネタ切れか?」
「んなわけねえだろ――起動せよイダイア!」 
「そう来ないとな」
 
 なわけねえなんて大嘘だ、今起動したのは白煙モックル。言ってしまえばただの煙玉。目くらましにしかならない。
 
「うおおおおお! 裂空剣――」 
「――吹風ウィレスカ」 
 
 煙が吹き飛ばされた。まずい、今回は真正面からの斬りかかりなんだ。背後警戒を予想したのが仇になった。
 だがもう止まれない。こっちの胴はガラ空きだが、相手が剣を抜くのよりは早い。
 
「なんだ、本当にネタ切れだったのか――保持レディスト」 
 
 剣を片手で、掌で受け止められた。斬り込んだ感じがない。何も跳ね返ってこない。俺の体はそのまま空中で静止した。
 ……理屈は分からないが、とにかく一刻も早く距離を取らないとまずい。ラッキーなことに手も足も痺れていない――
 
「遅えよ。解放イルクス」 
「――っ!?」 
 
 瞬間、体が宙に浮いた。
 吹き飛ばされたと理解できたのは数秒後のことだった。受身を取ろうにも、浮遊感で目を瞑りそうになるのを抑えるので精一杯だ。
 置換レプリアスで何かと入れ替わっても、落下時のエネルギーはそのままだったはずだ。つまり死ぬ。落下死なんてしてたまるか。
 かくなる上は自分に少しの間だけ軽い遅延ディロウをかける。ミスれば終わりだがそんなことは言ってられない。集中しろ俺、やればできる。
 
「――遅延ディロウ!」 
 
 って待て失敗か、全然速度落ちてないぞこのままだと――
 
「……お、あ」 
 
 ――大丈夫だった。精々1、2メートルの高さからジャンプしたくらいの感覚だ。まあ成功したならいい、次の動きを考えないと。
 
「――痛ってえ!」
 
 右手首に激痛が走る。……そういやさっきの魔術。無理な姿勢で受けたせいで骨から嫌な音が鳴ってたんだ。あの掌から発せられた衝撃は、重い斬り込みのそれだった。
 
「――時遡ヒール」 
 
 幸いそこまで時間も経ってないからすぐに治った。と、同時に考える。
 
 アヤトの言葉を借りるならネタ切れか。勝つ手段がまるで思い浮かばない。
 情けない話だが、俺はいつも皆に助けられて戦ってきたんだ。能力もサポート寄りだし、タイマンで戦えるようになったアヤトに勝てるわけがない。
 ……それでも諦めるわけにはいかない。残機は1、死ねば即ゲームオーバーだ。
 
「どこまで吹っ飛んだかと思ったぞ。気絶すらしてないとは感心だな」  
 
 まずはこの状況を抜け出す。相手が作った、相手に有利なこのタイマンって状況を。
 
「――破空フェーヌ!」
「無駄だ!」
「――起動せよイダイア!」 
 
 加速アクサールを起動して走る。幸い勇者になってスタミナは増えてるからな。多少無駄に動き回っても息切れすることはない。
 そして魔力もそこそこある。まあBランクの魔術メイン冒険者と同じくらいか、それより少し多いくらい。破空フェーヌ換算で数百発ってとこだ。
 
破空フェーヌ――置換レプリアス!」
「なんのつもりだ――っ!?」 
 
 アヤトの足元の花と、発動したばかりの破空フェーヌを入れ替えた。ほぼダメージはないだろうし、これはまあちょっとした嫌がらせみたいなもんだ。
 問題はここから。俺の読みが外れてれば何の意味もなかったことになるが、そうならないことを祈る。
 
「――加速ヴァレーク!」 
「どこ狙って撃ってんだ、ついに狙いも定まらなくなってきたか!」
「さあ、そうかもな――穿空フェルラス!」 
 
 今度はアヤトの近くの柱を叩き折る。
 レルアのネックレスは自分に対する攻撃魔術しか防がない、つまりこういう地味なのが効くってわけだな。
 ただこれはあくまで時間稼ぎ。間に上手く加速ヴァレークを挟み込んでいく。
 加速ヴァレークの魔力消費はそこまで重くない。恐らく加速倍率を上げると大変なことになるんだろう。大昔それで魔力切れを起こした覚えがある。……当時は術式名すら言ってなかったし、そういうのも関係してそうだが。
 
「武器の劣化を狙っているわけじゃなさそうだな? 俺を老けさせようってのか! 老人相手なら勝てるとでも?」
 
 違う、だが加速ヴァレークを多く使ってることには気付かれたか。
 状況のわりに不思議と焦りはない。これが俺の戦い方だからな。時間稼ぎは得意分野だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...