転生ニートは迷宮王

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第5.5章

147 消滅

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「ようイヴェルぅ? まだその骨飼ってんのかぁ?」
「な、なんだよ。僕がどんな使い魔を連れてても、君たちには関係ないだろ」
「ああ? 何生意気言ってんだてめぇ――風衝ルウィズ!」 
「ぐっ……」 
 
 僕は風の衝撃波に吹き飛ばされ、壁にしたたかに腰を打ち付けた。朝からついてないな。
 この数人組はよく僕に絡んでくる。僕に召喚術の才能がないのを笑うことに人生をかけてる馬鹿共だ。
 確かにスケルトンは強い使い魔ではないし、ロロトスも例に漏れないけど。でも強さが全てじゃない。
 ロロトスは僕の言葉を理解するし、僕の言う通りに動く。幼い頃から一緒にいるし、もう親友みたいなものだ。
 
「いよっ、流石ディッセ! ただの風衝ルウィズでその威力!」
「はは、イヴェルごとき風衝ルウィズだけでも十分ってなぁ?」
 
 ディッセールト・ベス・ファルンスターク。いつもこいつらの中心にいる、上級貴族の五男だ。
 上級貴族と言っても、セシリアとは違って高貴さの欠片もない。長男は聖騎士だとかいう話だけど、こいつを見てる限りじゃとても信じられない。 
 
「おいイヴェルぅ? なんだその不服そうな顔はぁ? 俺様の華麗な素因エレメント捌きがもっと見たいってのかぁ? 仕方ねえなぁ――風槍ウィスペア!」 
「……っ!」 
 
 思わず目を瞑って手で顔と頭を覆った――けど、風槍ウィスペアは僕の足元に軽い傷を付けて消えていた。
 
「ぎゃはははは! 面白ぇ、おい見たか今の!」
「女々しいビビり方だなあ? え? イヴェルきゅーん? 女の子になっちゃったんでちゅか?」
「あのイカレ女としかまともに喋らねえもんなぁ、イヴェルきゅんは」
 
 ……セシリアのことだ。あのセシリアを悪く言うのは、彼女の友人として、許すわけにはいかない。
 
「――氷弾シャルダ
「っ! ――あ?」
 
 気付けば、僕の手のひらから拳大の氷塊が発射されていた。ディッセールトの頬に直撃したけど、そこまで勢いはないし怪我もないはずだ。
 
「なんだ? おい……? イヴェルてめぇ……? 死にてぇのか?」
「……セシリアのことを悪く言うな。それに、いつもやられっぱなしってのも癪だしね」
「ああわかった、カッコつけて反撃してみたってわけだな? 下らねぇ、アホくせぇ。俺様に歯向かったことを後悔させてやるよ――風槍ウィスペア!」
 
 咄嗟に横に避けたけど、今のは確実に僕の腹部を狙ってきてた。ちょっとまずいかもしれない。ディッセールトは出来損ないの五男だけど、ここでの魔術の成績は上から数えた方が早いんだ。
 
「ヤバい、おいお前らぼーっとしてねえで下がれ! ディッセあいつマジだ!」
「あーあー、イヴェル死んだなこれ。俺知ーらねっと」
 
 周囲にいた学生が、輪を描くように僕らから距離をとる。ディッセールトの取り巻きも同じだった。
 
「クソが、イヴェルの分際で避けてんじゃねえよ! ――風刃ウィレイス!」
 
 服の端が少し破れた。怒りに任せて魔術を使ってるように見えるけど、その狙いは冷静で、正確だ。
 今だって、さっきと同じように横に避けてたら腕に深い傷が入ってただろうし……最悪、切断されていたかもしれない。
 
「――#氷弾__シャルダ#!」 
 
 僕は攻撃魔術が#氷弾__シャルダ#しか使えない。それも、とても殺傷力があるとは言えないようなお粗末なものしか。
 
「てめぇこの期に及んで――風衝ルウィズ!」
「――来いリコスト! ロロトス!」
「カカ、ココココ」 
 
 ――でも、僕には使い魔ロロトスがいる。
 
「――刺突パルス右方シグラ!」  
「雑魚が――」 
 
 ディッセールトは懐の短剣を軽く当てて、ロロトスの突きをいなした。
 けど、所詮は魔術師。近接戦闘なら僕に、というかロロトスに分がある。
 錆び付いてボロボロの剣でも、上手くいけば軽い怪我くらいはさせられるはずだ。
 
「俺様を! 舐めてんじゃねえぞ!! ――風衝ルウィズ!」
「――移動アック後方アルル――斬撃ゼスト前方ヴァス!」 
 
 風衝ルウィズの勢いを利用して後方に跳び、突っ込んできたディッセールトにカウンターを食らわせる。咄嗟に杖で守ったみたいだけど、反動で膝をついた。今だ。
 
「畳み掛ける! 刺突パルス――」 
「クソ骨が、てめぇは死ね――起動せよイダイア!」
 
 ディッセールトが魔術結晶を放り投げた。途端、辺り一帯が眩い光に包まれる。 
 聖陽リドラのような魔術か、或いは閃光ナーシャを目眩しとして使ったかと思ったけど、ディッセールトに仕掛けてくる気配はない。それどころか、余裕そうな笑みを浮かべて僕の方を眺めている。なんのつもりか知らないけど、油断しているならそこを叩かない理由はない。
 
「――刺突パルス前方ヴァス!」
 
 ロロトスがディッセールトに向かって駆けて行く……ことはなかった。ロロトスはいつの間にか消えてしまっていた。
 
「ロロトス! ロロトス?」
 
 呼び掛けても返事はないし、どこかから出てくる様子もなさそうだ。ディッセールトはまだ仕掛けてこないし、今のうちに再召喚するしかない。でも……なんだか嫌な予感がする。
 
「――来いリコスト!」
 
 ロロトスは召喚に応じなかった。これは拒否じゃない。。つまりは。
 
「……消滅」
「はは、はははははは! やっと気付いたかよイヴェルぅ? 俺様は笑いを堪えるのが大変だったぜぇ?」
 
 使い魔は、死にさえしなければ一度素因エレメントに還して、再召喚することができる。術者の魔力や使い魔の強さ次第では、短い間に何度も再召喚することだって可能だ。
 でも、消滅してしまったらそれはできない。再契約することすらも、叶わない。
 
「今のは兄貴の大聖浄エル・リファイスだ! クソ骨ごときに使ってやるのは勿体ねえ代物だが、まぁまた作ってもらえばいい」 
 
 大聖浄エル・リファイス。……アンデッド系の魔物の体を灼く、聖なる炎。高位魔術だ。

「なんか言えよ、おい?」
 
 そんなものを食らったら、スケルトンの肉体ではとても耐えられない。
 
「…………つまんねぇな。丁度いい、てめぇも死んどけよ。――ウィス――」
「何をしている! 学内での私闘は禁じられているぞ!」
「――ああ先生。何、これはちょっとした遊びですよ。な、イヴェル?」
 
 僕は、こんなくだらない諍いで、長い付き合いの使い魔を喪ってしまった。もうロロトスは僕の呼び掛けに応えることはない。未来永劫。
 
「ははは、本当に大丈夫ですよ。そこにいる皆に聞いてもそう言います。じゃあ、俺はこれで」
 
 何も考えられない。今日の講義は全部欠席しよう。王立図書館に行けば、何か見つかるかもしれない。僕が知らないだけで、何か、何か方法があるはずだ。
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