転生ニートは迷宮王

三黒

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第5章

145 章末

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「やったか!?」
「おいやめとけイヴェル、それは失敗フラグってやつだ」 
 
 セシリアは動かない。細剣を構えてはいるが、俺らの方を見たまま固まってる。
 失敗……ってことはないと思うんだが。時遡ヒールはしっかり発動したし、現にセシリアの攻撃は止んでる。そろそろ動いてくれてもいいんだぜ。
 
「小僧、うっかり殺してはいないだろうな?」
時遡ヒールで死ぬことなんてあるか?」
「さあなあ? だが術名と全く別の魔術を使うようなのがゴマンといるのもまた事実」
 
 そんなのいるのかよ。俺は見たことない……まあ魔物相手にそんなことする必要ないか。無詠唱が必須になるんだろうが、対人ならかなり効果がありそうだ。
 そんな会話からさらに見つめ合うこと数分、ようやくセシリアが口を開いた。
 
「……イヴェル、まずはお詫びしますわ」
「セシリア!」
「どうやら私は傀儡のような状態だったようですわね。未だにかの大罪の命令――意思が私の思考に残留していますわ」
 
 契約者だったときに比べれば、幾分かは理性的な話ができそうな雰囲気だ。
 
「それが自覚できているなら、小僧の魔術は効いていたということだなあ! 見かけによらずなかなかやるわ! グァハハハ!」
 
 見かけによらずは余計だっつの。まあ上手くいって良かった。これで失敗だったら恥ずかしいどころじゃすまない。
 
「ええ。貴方にも感謝を。私一人では大罪の魔力から逃れることは到底不可能だったでしょう」
 
 セシリアは剣を収め、俺に深々と礼をした。さっきまでの狂人ぶりからは想像も付かないな。こうして話すと確かにイヴェルの言った通りの人間に見える。
 
「おう、どういたしまして。まあイヴェルの友達だって話だしな。このくらいお易い御用だ」
「そうだセシリア、君はどうしてここに?」
 
 それは俺も気になってた。イヴェルを探すとかいう発言を聞くに、大罪の考えってだけじゃなさそうだったし。
 
「最初はイヴェルを生き返らせるためでしたわ」
「生き返らせる!? 僕は別に死んでなんか」
「あの指輪は死に限りなく近づくと壊れますの。普通なら死んでいてもおかしくない状態から、奇跡的に助かったのではなくて?」 
 
 イヴェルにも心当たりがあったらしい。新米とはいえ宮廷筆頭召喚士アルクコンスが一瞬で昏倒させられたわけだが、まあ相手が天使――それも上級天使エイフリッドなら仕方がない。
 
「……でも、生き返らせるなんて無理だ。ロロトスのときにも話したけど、あれは多数の犠牲の上に成り立つ禁術なんだから」
「ええ、私も禁書庫でそう実感しましたわ。ですがそこに現れたのが――''傲慢''だったというわけですの」
 
 なるほど。弱みに付け込んで、ってのもあながち間違いじゃなかったというわけだ。
 
「甘言に踊らされた結果ですわ。命あるだけ良いものの、もう街には戻れませんわね」
「既に大罪との契約は破棄されてるし、種類が種類だ。宮廷筆頭アルクの僕からも話せば、きっとなんとかなると思う」
「いいえ、私は戻るには多すぎる数の罪を犯してしまいましたわ。シレンシアからの追手が来る前にどこか遠くへ逃げます」
 
 何をやったのかは知らんが、大罪と契約するくらいだし試せることは試したんだろうな。
 
「なら僕も行くよ。もうこんな仮の地位に執着はないし、セシリアさえ良ければ……だけど」
「ええ、ええ! 喜んで!」
 
 リア充センサーの反応を確認。即死トラップでも敷いてやろうか。
 
「……で、行くアテはあんのか?」
「子供の頃従者に用意させた遊び場がありますわ。遊び場と言っても、追手が来るまでは不便なく暮らせるでしょう」
「仲間が人数を増やして僕を探し――助けに来るかもしれない。動くなら急いだ方が良さそうだ。ロロトスのゼレィトスに乗せてもらえば移動時間も短縮できる」

 なるほど。そこまで決まってんなら話が早いな。ここの近くで死なれるのも寝覚めが悪いし、ほとぼりが冷めるまで安全な場所でゆっくりしといてくれ。
 
「じゃあその、慌ただしいようだけど……僕らはもう行こうと思う。僕の仲間が来たらこれを渡しておいてほしい」
 
 イヴェルは服の袖を破ると何か書き込み、俺に手渡した。相変わらず何書いてあるか読めない。こういうときに読めないのは不便だな……こっちの文字も勉強してみるか。時間はあるし。
 
「アイラさんはもう大丈夫だと思うけど、何かあったらここに連絡をくれれば答えられる。というか、このこと以外でも困ったときはいつでも呼んでほしい」
「おう、アイラに関しては世話になったな」
 
 イヴェルがいなければ術式は完成しなかったし、成功もしなかった。奇跡みたいな話だ。神と敵対してもなんだかんだ救いはあるもんだな。
 
「僕の方こそ助かったよ。またそのうち遊びにくる――今度は君の友人として」
「そりゃ楽しみだ、美味い茶菓子を用意しとく。んじゃ、達者でな」
 
 手を振って、イヴェルたちが転移するのを見送る。……一気に静かになったな。俺も最終階層に戻るか。とりあえずレルアとカインの回復が最優先だ。
 色々と気になることはあるが、今すぐ新しいのが攻めてくるってこともなさそうだしな。見る限りじゃ数グループの探索者が上層に少しいるくらいだ。
 
「よォマスターァ!」
「ああカインか……ってカイン!?」
 
 なんでもう動けてるんだお前。生命力バケモンか。元気すぎるだろ。
 
「お陰様で完全復活だぜェ! 大罪相手だろうがもう負けねェし油断もしねェ!」
「お、おうそうかそうか。まあ大罪は逃げてったからもう大丈夫だぞ」
「マジかよォ、まァ撃退できたのは嬉しいよなァ……ウン。オレはゴーストと殴り合ってくるぜェ」

 まさかリベンジする気だったのかこいつは。命知らずというかなんというか。
 
「あらマスターさん。おかえりなさい」
「ただいまラビ。レルアの具合はどうだ?」
「まだダメみたい。私も少し手伝ったけど、魔力の調整が上手くいかなくて」
 
 ここには回復専門のやつもいないしなぁ。一応普通のゴーストレベルならいるんだが、今回みたいな重傷だと役には立たない。
 ここで気を揉んでても意味がないのは分かってる。どうせ何もできないなら新しい階層のことでも考えろって話だ。
 だがなかなか集中できない。なんつーか不安だ。考えても無駄なことで頭が埋まる。レルアは本当に治るのか、''傲慢''がいつまた攻めてくるのかも分からない、反強制だってレルアかリフィストしか使えないらしいし、使ったときの反動はシャレにならない。
 
「マスター? 大丈夫?」
「ん、リフェア。俺は全然問題ないぞ。怪我もしてないしな」
「そう? なんだかくらーい表情だったから」
「ああ、ちょっと考え事してた。心配かけて悪い」
 
 そんな分かりやすく暗い感じだったか俺。いかんいかん。明るく楽しくがモットーだからな。
 あまり気分は乗らないが、細かい修正辺りから手を付け始めるか。作業を始めてしまえば多少は気も紛れるだろ。
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