転生ニートは迷宮王

三黒

文字の大きさ
上 下
144 / 252
第5章

142 傲慢

しおりを挟む
「あらイヴェル、ごきげんよう――あなたのこともついでに探すつもりでしたの。手間が省けて良かったですわ」
「……単刀直入に言うけど、大罪と手を切ってほしい。今ならまだ大丈夫だ、国にバレそうなら遠くに逃げればいい!」
「おかしなことを言いますのね。これは私のためであると同時に、イヴェルのためでもありますのよ」
 
 なるほど、まずは話し合いで解決を試みるってわけか。だがそう簡単にいくかね。
 
「おかしい、君はそんなことを言う奴じゃなかったはずだ! 大罪に操られてるだけで、きっと――」
「お黙りなさい。私の道を阻むのであれば、例えイヴェルであっても許しませんわ」
 
 おっと会話が通じないタイプか? イヴェルに聞いてたのと随分印象が違うな。大罪に操られてるっつっても、性格まで変わるもんなんだろうか。
 
「大方、精神操作系の術であろうな」
「ええ、アタシもそう思うわ。大罪の中に精神汚染を使うのは二人……だけど、面倒事が嫌いな子がこんなことをするとは思えないし……''傲慢''かしら」

 傲慢か。なんで彼女と契約したんだろうな。他にもっと適役がいたような気もするが……。
 ある程度なら変えられるしってことで、雰囲気で選んでるのかね。まあ詳しいとこは本人に聞かなきゃ分からないが。
 
「だからといって引き下がるわけにもいかない――来いリコスト!」
 
 イヴェルの足元に黒と紺の二重の魔法陣が展開される。よしよし、召喚制限の解除は上手くいったみたいだな。
 
「……あら、もしかして戦うおつもりですの? 私も随分と甘く見られましたわね」
「――よせ愚民、大罪と戦うなど無謀の極みだと理解していないのか?」
 
 おおっと誰だ――自問するまでもない。大罪だな。灰色の生地で襟元に軽く金の刺繍、上品な感じのトレンチコート的な何かを羽織ってる。うっすら魔力を感じるし、魔術に耐性があるタイプと見た。
 空中からイヴェルを見下ろす奴は、いかにも傲慢って感じの嫌な表情だ。顔自体は普通にイケメンなのがなんか腹立つ。
 
「グァハハハハ! 何やら異様な匂いがするなあ我が友よ!」
「ロロトス!」
 
 階層中に響き渡る笑い声。ロロトスお前喋れたのか! こいつもゴースト的な、元人間の使い魔なのかね。
 重そうな黒鎧をまとって、肩に両手剣を担ぐ姿はまさに歴戦の騎士。かっけえ。
 今回は馬ごと召喚じゃなかったみたいだが、それは場所のことも考えてだろうな。そう広いスペースがあるわけでもないし、馬がいたらかえって邪魔になりかねない。
 
「あくまで歯向かうつもりか、愚民が」
「全く、お仕置きが必要ですわね」
「我々を愚民呼ばわりとは笑止千万! 王にでもなったつもりか、ええ?」
 
 おお言い返した。あの雰囲気に飲まれてないのは凄いな。俺なら萎縮してなんも言えねえ。
  
「�ではない。正しく王であり、そして私こそが絶対の神だ」 
「王であり神と申すか! グァハハハ、その座を騙る器か、貴様が?」
「愚民め、発言には気をつけることだな。やれ、下僕」
「言われずともそのつもりですわ」 
 
 っておい、そんだけ言っといて自分は上で見てるだけかよ。まあ俺も似たようなもんではあるんだが。
 
「私の主を侮辱した罪、その身をもって償っていただきます――氷界シャルジア――氷弾シャルダ
 
 セシリアの体が宙に浮き、周りを大量の魔法陣が取り囲む。溢れ出した冷気が、地面を白く塗り潰した。
 ああ、これで罠も全部躱したのか。凍らせた上に浮いてるとなっちゃ検知のしようもない。これは対策が必要だな。
 イヴェルたちは、広がった魔法陣から高速で発射される氷塊を躱すので精一杯って感じだ。大罪バフで魔力量がバグってやがる。
 
「己は戦わんのか、神とやら! 逃げてばかりでは負け犬と変わらんなあ!」
 
 ロロトスが''傲慢''を見上げて声を張り上げる。
 まあ笑い飛ばされて終わりだろうと思ったが、意外というかなんというか、''傲慢''は端正な顔を歪めて叫んだ。
 
「黙れ、黙れ黙れ黙れッ! 貴様ごとき私が手を汚す程でもないということだ、身の程を知れ!」
 
 急にキレんなよビビるだろ。煽り耐性カイン以下か? ひょっとして憤怒も兼ねてたりするか?
 
「愚民の分際でこの私を苛立たせたな……致し方ない……私の手で消してやる! く死ね! ――滅槍ニスタ!」
 
 金色に光る槍が一本、ロロトスに向かって放たれた。
 これ神力によりてなんちゃらって詠唱のやつだよな。マジで神の魔術使っちゃうのは反則だぜ。

「ぐっ……ぬ……」  
「ロロトス!」
「そうだ、これでいい! 神である私の前では全て等しく雑魚、雑魚、雑魚だ!」
 
 っととまずいぞ。なんとか直撃は避けたっぽいが、鎧の脇腹の辺りが大きく抉れてる。幸い血とかは出てないが、確実に小さくないダメージが入ってるな。

「マスター!!」
「! おおアイラ、目が覚めたか――」
「私は大丈夫。それよりイヴェルはどこ? 早急にイヴェルを保護して、さもないと」
「まあ落ち着け餅つけ。起きたばっかだしもう少し安静にだな」 

 凄い勢いでノックもせずに部屋に突撃してきたアイラだったが、調子は万全ってわけじゃなさそうだった。むしろ具合が悪そうにも見える。
 
「そんなことしてる場合じゃない。イヴェルが死ぬと私たちも全員死ぬの。まさか、もう帰してしまったの?」
「いや、まだ迷宮内にいるっちゃいるが」 
「ならまだ間に合う――レルア様とリフィスト様、そして私で救助に向かわせて」
 
 鬼気迫るって感じだな。まあ救助するならそれでもいいんだが……
 
「大罪の方はどうする?」 
「大罪? ……まさか!」
 
 アイラはモニターを覗き込み、苦々しい顔で呟く。
 
「遅かった……!」 
「その通り。最早あの領域は下僕のもの、貴様ら愚民が立ち入って良い場所ではない」
 
 すぐ後ろから''傲慢''の声がした。
 なんでいるんだ、お前が、ここに。

「何を不思議がる? 私は神であるぞ。私が従えと言えば従い、開けと言えば開くのだ」
 
 小脇に抱えていた何かを投げ捨てる――って、
 
「カイン!」
「……あ……あー……」
 
 死んではない、が、とても会話できる状態じゃなさそうだ。こいつはカインを使ってここまで来たのか。許せねえ。
 
「相変わらず小狡いわね。あの子だって、どうせ弱みに付け込んでの契約でしょう」
「何を言うか。下僕が私の崇高な理想に感激し、自ら同行を願ったのだぞ。このような地下に隠れている方が余程小狡いと思うがな」
「さて、それはどうかしら。元はああではなかったようだけれど……?」
 
(まずいわね、マスター。今の私たちでは強制への対抗策がない)
(……参ったな。聖魔術で一気に片をつけるってのは?)
(ここにいる全員が聖騎士と同程度のものを使えれば、可能性くらいはあったでしょうけど……) 
 
「相変わらず口の減らぬ老耄よ――平伏せよラミス
 
 何か強烈な力で押さえ付けられるようにして、膝と腕の自由が効かなくなった。……首もだ。
 全身が土下座みたいな格好をしたがってるのを感じる。強制ってのはこれほどの力なのか。勝ち目がない。
 
「悪くない眺めだ。この城、そして街は今より私のものとする。ここを拠点としてシレンシアを落とす」
 
 畜生その玉座は俺のだぞ。好き勝手させてたまるか。相手が油断してる間に、何か策を考えないと。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

聖なる幼女のお仕事、それは…

咲狛洋々
ファンタジー
とある聖皇国の聖女が、第二皇子と姿を消した。国王と皇太子達が国中を探したが見つからないまま、五年の歳月が過ぎた。魔人が現れ村を襲ったという報告を受けた王宮は、聖騎士団を差し向けるが、すでにその村は魔人に襲われ廃墟と化していた。  村の状況を調べていた聖騎士達はそこである亡骸を見つける事となる。それこそが皇子と聖女であった。長年探していた2人を連れ戻す事は叶わなかったが、そこである者を見つける。  それは皇子と聖女、二人の子供であった。聖女の力を受け継ぎ、高い魔力を持つその子供は、二人を襲った魔人の魔力に当てられ半魔になりかけている。聖魔力の高い師団長アルバートと副団長のハリィは2人で内密に魔力浄化をする事に。しかし、救出したその子の中には別の世界の人間の魂が宿りその肉体を生かしていた。  この世界とは全く異なる考え方に、常識に振り回される聖騎士達。そして次第に広がる魔神の脅威に国は脅かされて行く。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

処理中です...