転生ニートは迷宮王

三黒

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第5章

133 転生者

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「……なるほど、な」

 レルアの話を聞いて大体状況は理解できた、が、あの偽レルアについては分からずじまいだ。
 とにかく、これでシレンシアとは完全に敵対することになった。今後この迷宮を武力で奪いに来るんだろう。ブロックごとの上限があるから大人数が怖いってことはないが、まあ下層をしっかり作っとかないとな。
 それにあたって三騎将……あとカインの配置なんかも考えたいが、今すぐ会議ってわけにもいかない。アイラが迷宮戻ってからダウンした。原因は不明だ。
 
 戻る前から頭痛がどうとか言ってたが、思った以上にキツい痛みだったらしい。レルアの根源治癒ヒールでも治らなかったから、あの偽レルアになんかされたとかだとは思うが……。
 レルア曰く、仮に呪いだったなら、街一つ生贄に捧げるレベルでも問題なく解けるらしい。魔術によるものっていう線もほぼないらしいし、結構不安だ。
 
「とりあえずアイラが復活するのを待とう。街に出てるやつには戻るように言っておく」
「それでしたら、私が伝えてきます。丁度ギルドの方に用事がありましたので」
「お、マジか。助かる」
 
 リフィストとか念話送っても来なかったりするしな。すっかり教会に引きこもって、信者の貢物で悠々自適ニート生活だ。……それは俺も似たようなもんか。
 
 さて、アイラが起きるまで迷宮でもいじるかね。
 ちなみに、アイラはレルアのベッドに寝かせてある。上には仮眠用のものしかないし、俺のは流石に嫌だろうしな。三騎将用の部屋も早いとこ作りたい。
 ……っと。迷宮編集モードに移って思い出したが、街の方も色々考えなきゃならないんだった。探索者が増えて宿も足りなくなってきてるし、拡張も視野に入れる時期ってことなんだろう。
 DPで迷宮としての地上面積を広げることができるらしいが、そこそこ高額でまだ手が出せてない。今後を考えると絶対拡張すべきだし、地下は急がないから先に地上の方をいじるとするか……
 
「……彩人?」 
「おう……ん?」 
 
 違和感の正体はすぐに分かった。迷宮内に俺を名前で呼ぶやつはいない。
 そもそも俺の名前なんて、ここではレルアくらいしか知らないはずだ。
 
「……なんで、いいえ、それより今は? 敵は? 私は、私は」 
「ちょ、落ち着けアイラ……アイラだよな?」
 
 明らかに様子がおかしい。つーか、こんなに動揺してるアイラは初めて見た。
 
「そう……私はアイラ。でも、彩人は死んだはずで、私も死んだはず……っ!?」 
「お、おい、大丈夫か?」 
 
 アイラが頭を抱えて膝をつく。呪い的な何かの影響なのか? レルアとか呼んだ方がいいか……?
 少しして、アイラはふらつきながらも立ち上がった。
 
「……大丈夫。全て思い出した。けど、時間がない。簡潔に話すから、よく聞いて」
「あ、ああ」
「……これからシレンシアの軍がここに攻めてくる。前回は私はいなかったけど、騎兵を従えた召喚士に注意して。同じ道を辿ってしまうと、またみんな死ぬことになる」
 
 なにがなんだかわからない。つまりどういうことだってばよ。
 
「……記憶が戻ったということは、恐らく召喚が成功したんだと思う。私のときはここに出たから、座標とタイミングが同じならもうすぐ」
 
 何が出るって? ダンツクの新作か?
 
「……直に、昔の私がここに現れるはず――コードネームはエア。タイムパラドックスについては理解してるし、今の私はここから離れておく」

 タイムパラドックス。そんな単語をこっちの世界で聞くことになるなんてな。
 色々聞きたいことはあるが、もしアイラが言ってることがマジならそんな余裕はない。
 
「……これは私へのメモ。出会ったらまずこれを渡して」
 
 懐から取り出した紙に、サラサラっと何かを書いて手渡してくる。
 
「分かった。だがどこに行く? 周辺の知識はあるのか?」 
「前回学んだから、大丈夫。それじゃ――」
「あ、おい!」 
 
 部屋から出ていったアイラを追いかけ、扉を開けると、
 
「……誰?」
 
 遅かったか。
 見た目はほとんど同じだが、服装が黒い戦闘服に変わってる。隠密行動に適してそうな格好だ。

「俺はアヤト・ミズシマ……あ、怪しいものじゃない! えっと、これを預かってるんだ、君宛の」 
「……それ以上近付かないで」
 
 寄らば斬るって感じがビシビシ伝わってくる。っていうか寄らなくても斬られそうだ。一歩も動けん。
 
「じ、じゃあここに置いておくから、読んでくれ」
 
 足元にさっき渡されたメモを置いて、後ろ歩きで部屋まで戻る。冷や汗かいたぜ。
 
「……! これを書いたのは誰?」
「未来の君だ、あー、アイラでいいか? それともエアだっけ?」 
「名前まで……アイラでいい。……一時的な催眠、洗脳というわけではなさそうだけど」 
 
 そんな警戒するなよ。俺はどっからどう見ても人畜無害系ニートだろ。
 
「……あなたは私たちの仲間ファミリーではない。けど、あなたを親だと思えと書いてあった」
「親……まあ、ここのボスは俺だ。マスターって呼ばれてる」 
「なら、私もそう呼ぶ。で、マスター。何か聞きたいことはある? あれば話すし、逆に話したいことがあれば聞く」 
 
 何から話す、というより何から聞く?
 とりあえず自分のことでも話してもらうか。
 
「えっと、アイラのことを聞いていいか? 自己紹介的な」 
「私のこと? あなたが言った通り、名前はアイラ。表で使っている名前はエア。生まれ……詳しくは分からないけど、日本。好きな食べ物は苺のケーキ、苦手な食べ物は特になし。趣味は……って、こんなこと聞いてどうするの」
「いや、どうもしないが……すまん」
「……別に、謝る必要はないけど」  
 
 元からケーキ好きだったのか。ってか、俺と同じ転生者ってことでいいのか?
 メモにはどこまで書いてあったんだろ。
 
「あー、メモなんだが。他に何か書いてあったか?」
「読む? よく分からない部分もあったから、そこについてマスターの意見も聞きたい」 

 アイラから渡されたメモを開く……が。
 
「……なんだこれ。日本語でおーけー」
「日本語で書くはずない……マスター、もしかして読めない?」 

 読めるわけないだろ。なんだこの暗号。基本ローマ字っぽいが、数字とかも混ざってるし内容は検討もつかん。
  
「……その様子だと読めないのね。マスターこそ、どこまで知ってるの?」
「俺は何も知らない。俺が転生者ってことと、アイラも転生者かもしれないこと、それとなんだっけ? 召喚が成功?」
「……ふーん。メモによれば私は転生者らしいけど、本来はシレンシア? の王宮に出る予定だったみたい」
 
 王宮……つまり、勇者として召喚される予定だったのか。どうりで強いわけだ。
 
「とりあえず、近いうちになんか強いのがここを攻めてくるらしいんだ。アイラにも防衛をお願いしたいんだが、頼めるか?」
 
 一拍置いて、アイラが口を開く。
 
「……ごめんなさい、マスター。今ここで――私を殺してほしい」
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