転生ニートは迷宮王

三黒

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第5章

131 合流

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「ッらァ!」
「――っと……お前は変わってねえなあ、カイン。ちょっと速くて重いだけの、クソ正直な切り込みだ」
「てめェは変わっちまったなァ、ツェー。なよなよした勢いのねェ剣だァ。犬は犬でも、牙を抜かれた飼い犬だなァ?」

 いつにも増して煽りまくるな。過去に何があったか知らんが、何か因縁の相手って感じがする。
  
「ああ変わったさ、もうあの頃の俺じゃない――お前と違ってな!」
「オレだって変わってンだぜェ? 一人で突っ込むだけのバカは死んだァ。今のオレには仲間がいるンだ――居場所があンだよォ!」
 
 煽るだけあってカインの方が優勢か? だがそれは単純な斬り合いの話だ。前回戦ったときはレルアが押され気味だったし、油断はできない。
 
「愚者の従者で満足か、笑わせる宮廷筆頭騎士アルクヴレスの名において命ず――起動せよイダイア!」
 
 ローレンツが放り投げた魔術結晶は、空中で一際眩しく光って砕け散った。
 直後、無数の光る槍が俺らの頭上に現れる。数は数十本ってとこだろうが、これは……
 
「――天使の魔術の再現だ!」
 
 やっぱりな。操られたレルアが使ってたやつに似てる。色は黄金じゃないし数もあれに比べりゃ少ないが、困ったことに俺もカインも解呪ディスペルを使えない。
 一応時空魔術で似たようなことができるらしいが、まだ術式としては覚えてないんだよな。
 
「この魔術は対魔族の軍勢用だからなあ、お前らに勝ち目はねえ!」
「やべェぞマスターァ! こンなの食らったら死ンじまう!」 
「落ち着け、俺がなんとかする!」
「どーすンだよ!?」 
 
 それを今考えてる。あれほどの魔術だと時緩エゼイルからの減速ディセイルコンボでも防ぎきれないだろうし、俺らの頭上に範囲を絞って置換レプリアスするのが正解か?
 ただ、落下時のエネルギーが置換レプリアスで向こうに飛んでくれなかった場合、結局高速の何かに頭を潰されて二人とも死ぬ。そこは賭けだ。
 
「死ね――滅槍ニスタ!」
「――置換レプリアス!」 
 
 一瞬のお祈りタイムのあと、近くの噴水が轟音と共に爆発――俺らの頭上にだけ、バケツをひっくり返したような大雨が降り注いだ。賭けに勝った。
 
「ッ……! ……!?」
「大丈夫ただの水だ、成功した!」 
 
 降ってきた水も、別に殺人的な速度ではなかった。恐らく槍と一緒に向こうに行ってくれたんだろう。
 他の光の槍は、周りの地面を抉って消失した。俺もカインも無傷だ。
 派手な音を立ててるとは思ったが、地面は酷い有様だった。綺麗に舗装されてた道も、丁寧に世話されてたであろう草花もめちゃくちゃだ。
 
「何故だ……何故! 何故天使の魔術を食らって生きてやがる!」
 
 食らってないからな。再現とは言え、多分食らったら肉片すら残らん。
 
「どんな手を使ったのか知らないが、聖魔術が効かないゴーストなんていないはずだ……聖なる光よ! 此より広がり魔を祓え――」
 
 のんびり詠唱なんてしてる場合か? 相手はあのカインだぜ。
 
「らァ!」 
「くそっ!」
「どうしたァ! 聖魔術とかいうの使ってみろよォ! なァ!」
「ゴーストが……ゴースト風情が……調子に乗るな! ――土鎖グライド!」
「当たらねェよォ!」
 
 カインは、焦り始めたローレンツの土鎖グライドを軽々避けると、その懐に飛び込み――
  
「――壊骨ラゴス!」
 
 ――強烈な一撃を叩き込んだ。
 斬撃というよりは、最早打撃と言ってもいいような鈍い音が鳴った。白目を剥いて崩れ落ちるローレンツを後目に、カインが口を開く。
 
「あいつはオレにかなわねェよォ、昔から器用貧乏な奴だったァ……」
 
 ……勝ったのか。カインって、もしかして最強冒険者だったのか?
 俺は魔術結晶のとき以外特に何もしなかったし、ほぼソロで宮廷筆頭騎士アルクヴレスをぶっ倒したことになる。普段アイラに負けっぱなしだから強いイメージなかったが、これはちょっと予想以上だ。
 
「行こうぜマスターァ、もうアイラの魔力は感じンだろォ?」
「あ、ああ。向こうの方だよ……な?」
「なんで不安そうなんだよォ、オレよりはそういうの得意だろォ?」 
 
 そうでもない。魔力探知みたいなのとか素人もいいとこだぜ。
 ただ、アイラのとは別にレルアっぽい魔力も感じる気がするんだよな。流石に気のせいだろうが、ひょっとかしたら別の天使が城内にいるかもしれない。
 
「対象を発見しました!」 
「ローレンツ卿がやられたようだ! 警戒を緩めず増援を――」
「――時緩エゼイル減速ディセイル!」
 
 アイラがいる場所に近付くにつれて、兵士の数も多くなってきた。だが、今更一般兵士なんて怖くもない。まとめて遅くするだけでいいしな。
 
「アイラ!」
「……マスター……っ!」 
「どうしたァ、調子悪そうじゃねェか!」
 
 カインの言う通りだ。王の側近的な騎士相手ならともかく、数だけの一般兵士相手に手こずるなんてアイラらしくない。
 
「どけェてめェら!」
「ぐあっ」
「……助かった。少し……頭が痛くて」 
「大丈夫か? ――時遡ヒール」 
 
 風邪でもひいたか? てかレイスも風邪ひくのか?
 応急処置的に時遡ヒールしといたが、効くかは分からん。一応市販薬はDPで買えるし、迷宮戻ったら買って渡そう。
 
「……少し楽になった。ありがとう」
「なら良かった。とりあえず妨害術式の範囲外に出よう。そこで転移ラムルトを使う」
「……分かった。けどマスター、気付いてる?」
「? なんのことだ?」
「……レルア様の魔力を感じる。少しだけ、だけど」
 
 気のせいじゃなかった。アイラも感じるってことはマジなんだろう。
 
「勘違いだと思ってたんだが、やっぱりそうか。どこにいるか分かるか?」
「ん……こっち」
 
 アイラは城門の方に進んでいった。妨害術式は城の中央から広がってるっぽかったし、レルア拾ってすぐ帰れそうだな。
 城門の近くで左に曲がり、茂みを抜けてちょっとした庭に出た。レルアの魔力は相変わらずぼやけたままだ。
 
「……この辺りだと、思うんだけど」
「――マスターァ! 上だァ!」
「うぉ!」
 
 天から真っ逆さまに落ちてきたレルアをギリギリでキャッチ。筋力には自信がなかったが、レルアが軽かったのと勇者補正のお陰でバッチリ映画のワンシーンだ。
 
「マスター! し、失礼致しました、お怪我などは……」
「ああいや、俺は大丈夫。レルアも怪我ないか……って、どうしてここに?」
「実は――いえ、戻ってからお話します。マスターと合流できたので、もう彼女と戦う理由もない」
 
 レルアの視線の先には、
 
「残念です。やっと楽しくなってきたところだったのですが」 
「……レルア?」 
 
 レルアが二人? 幻覚か?
 
「ああ、ご心配なく。本物だと偽ってマスターを惑わすような真似は致しません。目的もほぼ果たせましたし」
 
(マスター。相手の正体は不明ですが、恐らく大罪かそれに匹敵するほどの存在だと思われます。交戦は避けるのが無難かと)
(大罪か……分かった)

 確かに、大罪レベルと今ここで戦うのは悪手だな。そもそも、ただの迷宮王に過ぎない俺に大罪を殺す義務はない。そういうのは公に勇者認定されてるやつらがやればいい。
 幸い、この壁付近は既に術式範囲外だ。何があったかは帰ってから聞く。
 
「皆、俺に掴まってくれ。いくぞ――転移ラムルト
 
 俺らは青白い光、そしてあの独特の浮遊感と共に転移した。
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