転生ニートは迷宮王

三黒

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第5章

124 来客

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***アヤト視点に戻ります。***



 さて本日も探索日和。普段通り、迷宮街は探索者で賑わっている。
 レイの記憶改変は上手くいったらしい。ラステラが死に際に契約を解除してくれたお陰もあってか、肩の部分はすっかり元通りになってた。これからはシレンシアで冒険者としてやってくはずだが、うっかりここに来ても記憶は戻らない……はずだ。
 
 ゼーヴェの復活まではかなり時間がかかった。正確な日数までは分からないが、一月弱くらいはかかってた気がする。
 もしやと思ってゴーストの方も調べてたが、復活までの時間は個体の強さに応じて変わるらしい。俺から諸々のステータス表示が消えたときに、レベル概念も消えたらしいが……それでも復活システムの方は変わらないのか。不可視の内部データ化されたってとこかな。
 カインも最近二週間くらいはかかってるし、なんだかんだ強くなってきてるってことなんだろう。もう立派な主力の一人だ。未だにアイラには勝てないらしいが。
 
『称号:魔を統べし者を獲得しました』 
 
 称号は数少ない可視データの一つだ。だからこうやってアナウンスもされる。
 魔術とか、新しく覚えても使い方がわからないからな。覚えたってのはなんとなくわかるし魔術名も思い浮かぶが、その効果は雰囲気しか掴めない。
 ……で、なんだって? 魔を統べし者?
 
『従える魔物の数が一定数を超えた証。新規召喚に必要なコストが低下し、魔物の能力が上昇する』
 
 強化系の称号か。上層の魔物は強くなりすぎても困るし、様子を見て配置換えをしよう。
 ……いや。街に流す武器も強くなってるし、探索者の練度も上がってきてる。強化の具合にもよるが、下手にいじらなくてもいいかもしれないな。正直な話、上層の微調整よりも下層の方を作り始めたいんだ。DPはもう十分すぎるほど貯まってる。
 それこそ数百万単位で余裕が出てきて、街を大幅にアップグレードしたくらいだ。この世界には新しい技術に抵抗ない人が多そうだから、今回は結構張り切ったぞ。
 なんでもかんでもデジタル化しすぎて、ちょっと異様な光景になったりもした。レンガ造りのファンタジーな街なのに、ところどころ近未来的すぎる。そこはちょっとずつ直してってもいいかもな。
 
 そのうち所持エル確認用の超小型端末でも作るかと思ったが、それで買い物できたら更に楽そうだ。店頭受け取りでもいいが、ゴーストは余ってるし料理とかデリバリーしてもいい。あ、どうせなら通信結晶とか映像の記録結晶とか吸収して探索者同士が簡単に連絡取れるようにするか。…………それってもうスマホだな?
 エルからルナ、ルナからエルの換金もできるATM的な大型筐体は、既に何台か設置してある。つっても迷宮入口・探索者ギルド・宿屋のフロントとかに置いてあるだけだし、まだまだ便利とは言いにくい。これもスマホと連動させてある程度数を増やせれば――
 
「や、こんにちは」
 
 ――耳元に声が響いた。念話とは感覚が違う。そもそも聞いたことがない声だ。
 そっと後ろを振り返るが、部屋には誰もいない。
 
「――誰だ」 
「ごめんごめん、自己紹介してなかったよね。僕はⅡの騎士のラルザ」
 
 Ⅱの騎士……聖騎士か!
 どこにいるんだ? 何人で来た? ここからじゃ魔力を捕捉できない。
 
「そうかそうか、聖騎士か。まあ迷宮に挑むってんなら止めはしないぜ。じゃあな!」
「あ、ちょっと! 待――」
 
 魔力遮断結界を発生させて強引に会話を切る。罠を組み合わせて作ったものだが、その試作機を置いておいて良かった。
 
(ゼーヴェ、今自由に動かせるゴーストは?)
(アイラの隊と、レルア様……ではなく、ラティスの隊です。が、ラティスの隊は訓練後でして)
 
 ラティスってのはこの間の地下墳墓のリッチだ。あまり乗り気ではなかったみたいだが、一応三騎将の座についてくれた。
 
(了解。じゃ、アイラの隊に迷宮の外の見回りをさせてくれるか? で、聖騎士みたいなのがいたら報告するように言ってほしい)
(承知しました)
 
 にしても聖騎士か。リフェアは外だが、最近は暇を持て余したリフィストと一緒にいることが多い。恐らくは大丈夫だろう。
 むしろリフィストの方が危ないくらいだな。まあヤバそうならすぐ念話を送ってくるだろうが……。
 
「よし、これで聞こえるかな?」
「!」
 
 結界は破壊されてない。今度は耳元じゃないが、一体どこを通して話しかけてるんだ。
 声はリビング――広間の方から聞こえてきた。草むらの転移門ゲートは、仮に見つかったとしても俺らにしか使えない。それに、転移門ゲートの結界はかなり強力だから破られないはずだ。
 ……いや。転移門ゲートに乗せて音声を送るくらいなら、結界に干渉せずとも可能か。まさか。
 
「その様子だと聞こえてるみたいだね」 
「……迷宮攻略なら、ちゃんとお客様用入口を使ってくれよ?」 
「ああいや、言い忘れていた――というか君が聞こうとしなかったんだけど――僕は別に攻略に来たわけじゃない。無論、君の仲間を傷付けに来たわけでもない」
 
 なんだって? じゃあ観光にでも来たってのか?
 だがわざわざ俺に話しかけた理由がわからない。リフェアやらが狙いなら街で行動を起こせばいいし、嘘は言ってなさそうだが……。
 
「僕は聖騎士だけど、今日はシレンシアの正式な使者としてここに来たんだ」
「使者?」
 
 なんでシレンシアが使者を寄越す? と思ったが、影のリフェアに天使のリフィスト・レルア、大罪のラビまでいれば誰かしら嗅ぎつけられるか。
 
「どうやら、王は迷宮の主と話がしたいらしい。詳しいことは聞かされてないけど、国賓として招へいするとかいう噂だよ」
 
 なんか怪しいな。シレンシアにとって、この迷宮は邪魔な存在のはずだ。貴重な冒険者を引っ張ってきちゃってるわけだし。
 今後の迷宮探索は全てシレンシア冒険者ギルドへの依頼という形で~とか言われるのか? それは面倒だし、嫌だぞ。
 
「断る」
「……なんとなくそう言いそうだとは思ったんだよ。なんたって迷宮に引きこもってるくらいだからね」
 
 失礼なやつめ。たまに街に出たりするし、シレンシアに行ったことだってある。
 
「ただ、それは駄目なんだよ。ここは本来シレンシア領で、勝手に街を作るのは認められない。普通の迷宮なら、とうに攻略されて国の管理下に置かれている」 
「だがそうはなってない。だろ?」
「うん。だから僕が来たんだよ。こうやって意思の疎通ができる主は珍しい。どうせなら、お互いになるべく血の流れない方法で解決したいよね?」
 
 まあ俺は迷宮の外で争う気はないけどな。攻めてくるっつったって大勢いればブロックが分かれるし、それはそれでいいような気もするが。
 
「もし戦いになれば、シレンシアの民は沢山死ぬし、君の部下だって沢山死ぬ」
 
 俺の部下は復活するぞ。迷宮内ならな。
 ……まあいいか。折角探索者とも仲良くやってきてるわけだし、街だって上手くいってる。ここで変に争ったりはしたくない。
 
「わかったわかった。行けばいいんだろ」
「そう言ってくれて嬉しいよ。近いうちに、数台の車を引いてここへ戻ってくる。国一番のエクィトス達だから、ここからシレンシアまでもそう長くかからないはずだよ」
「ああいや、いいよ。これは機密事項なんだが、俺たちにはエクィトスよりもはるかに早く移動する手段がある」 
 
 ずばり転移ラムルト。俺もこの前行ったし、今回はレルアに連れてってもらう必要もない。
 まあ同行はしてもらう予定だけどな。流石に一人で行くのは危険すぎる。
 
「それは興味深いね。流石は迷宮の主というわけだ。……では、その言葉を信じて僕は帰るとするよ。いいかい、必ず来ておくれよ」
「わかってるって。じゃあな」
 
 この間の城脱走時の記憶は、レルアが全部消してくれたはずだ。ローレンツとかいうヤバい騎士に効いてなかった可能性もあるが……まあ一人だけ覚えてたって、周りに頭のおかしいやつだと思われるだけだろ。
 さて、久々の遠出といくか。
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