転生ニートは迷宮王

三黒

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第4章

118 助っ人

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「……醜い姿だな」
「親父……!」 
「大罪の体を借りたばかりか、それすら失って魔術で補ったか。堕ちても尚な貴様には、最早哀れみすら覚える」
 
 いきなり煽っていく。だがそいつは大罪・憤怒の契約者だぜ。あんま怒らせるのはまずいんじゃないか……?
 
「堕ちただって? それは親父の方だろ? 俺は家族を殺した相手に尽くすほど堕ちてない」
我が王ロードを侮辱するか! ……これ以上の問答は無用だ。貴様の下らぬ復讐心を、その罪ごと滅してくれよう」
「やれるもんなら!」
  
 レイが刀を抜いて駆け出す。相変わらずの速度だ。
 対するゼーヴェはまだ動かない。剣すら抜かない。
 
「舐めるな――」 
「――惣闇の泥中に眠れレス・ヴィアル・アルメーニス
 
 刀がゼーヴェに届くことはなかった。レイは周囲に現れた黒い霧に押し潰されるようにして、地に膝をつく。
 
「羽虫を落とすのに大層な仕掛けは必要ない。貴様は私の術を幾つ知っている? 碌に知らないだろう。知っていた上でその行動ならば、上層のゴーストにも勝てまい」
 
 ゼーヴェが静かに剣を抜いた。邪竜剣よりももっと細身でシンプルな形状。吸い込まれるような、それでいてどこか艶めかしく輝く黒剣。
 
「よもや、私が油断しているとでも思っていたのか?」
 
 ゼーヴェが剣をレイの首筋に這わせた。これはチェック・メイトだろ。意外にあっさり勝てちゃったりする?
 
「禁忌に手を染めてこの程度か。愚者には似合いの最期だ」
「く……」  
 
 レイ死んだな、と思った瞬間。
 
「――うおおおおお!!」 
「っ!?」 
 
 凄い速さで何か――誰かがゼーヴェに突っ込んだ。
 流石のゼーヴェもこれには驚いたようで、衝撃は綺麗に殺したものの、その目の動揺までは隠しきれていない。
 
「間に合った!」 
「アレン!? 生きていたのか――だがダメだ、今は逃げろ! お前だけで戦っても勝ち目はない!」
「ああそんなことはわかってる。だがよレイ、お前がその霧を抜け出す時間くらいは稼げるはずだぜ」
 
 アレンか! 確かに死んだのは確認しなかったが、運良くどこかに引っかかってたのか?
 
「誰だ貴様は――」
「銀狼双斬!」
 
 言葉が終わる前にアレンが斬り込む。ゼーヴェのテンポが崩れたな。まあ乱入者ってのは予想外すぎた。
 
「邪魔だ……!」
「おらぁ!」 
 
 さっきからかなり強引な斬り込みだが、双剣で手数が多いのもあってゼーヴェは防戦一方になってる。
 素因エレメントの動きを見るに、ゼーヴェは無詠唱の魔術を挟もうとしてるみたいだが……中々に難しいらしい。
 
「――銀狼、双斬!」
「――はっ!」 
 
 少しの剣戟の後、遂に剣が片方弾かれた。尚も果敢に攻め続けるアレンだが、ここでゼーヴェも反撃に出る。
 
「――闇鎖ダレイド!」 
「ぐぁっ!」 
 
 ゼーヴェの手から漆黒の鎖が数本伸びる。アレンの足首を貫いて絡みついたそれは、胴、首へと向かって体を完全に拘束――動きを封じた。
 
「終わりだ! 眠っていろ――繋檻ジェノン!」 
「ぐ――ぬ――」 
 
 アレンは抵抗むなしく、鎖と同じ漆黒の繭に飲み込まれた。まあ健闘した方だと思うぜ。慣れない双剣でそこまでやれれば十分だろ。
 
「とんだ邪魔が入ったものだ――次は貴様だ」 
「――炎よイレミア!」
 
 レイに斬りかかったゼーヴェが咄嗟に飛び退く。どうやらその判断は正解だったらしい。あのまま強引に首を落としにいってたら、今頃ゼーヴェの下半身は消し炭になってる。
 
「……少しは考える頭が残っていたようだな」
 
 だがレイに余裕がなさそうなのは変わらない。結局霧の中からは出られていないし、左肩から先の結晶部分の光も弱くなってきてる。この分だと魔力も厳しくなってきてるんじゃないだろうか。
 
「――っく、そ」 
 
 思ったより疲弊してるな。ずっと霧と格闘してたのもあるだろうが、もしかすると黒い霧自体にそういう効果があるのかもしれない。
  
「――ラステラ! 俺は解呪ディスペル浄化キュアも使えない! 代わってくれ!」
「敵の前で大声で会話とはな。或いは、それも作戦の内か……」 
 
 じりじりと距離を詰めるゼーヴェ。多分そのままいけば勝てる。それカインと戦ってるときもやってたが、多分普通に打ち合わせだ。大罪と契約者の間で念話は使えないらしい。
 
「この戦いだけは絶対に負けられない! 例えこのあとあいつが来ても手伝わなくていい! ああその通りだ、別に俺自身の手で勝つ必要はない――頼む――」
 
 
「――やれやれ、全く仕方のないやつなんですケド」 
「! 成程……」 
 
 表情が変わった。入れ替わったな。
 余裕そうなその表情。本来の顔って感じだ。この姿で常に必死な感じなの、なんか違和感あったんだよ。
 さて、こっからはガチで大罪相手ってわけだ。
 
「――ノィ其の魔術の解呪を望むリズィル・ライアス・ラ・ファスタ!」

 黒い霧が晴れていく。レイは……いや、もうレイ要素残ってないか。ラステラは、結晶化した腕を軽く動かして溜息をつく。
 
「こんなに体ボロボロにして……信じらんないんですケド」
「我が息子をたぶらかし、その肉体を貸した貴様が悪い。この売女が」 
「ちょ、ちょっと! 傷付くんですケド!? それに、売女っていうならアンタのとこの……」
 
(マスターさん?)
(? おうラビか。どうした?)
(いえ、大したことではないのだけれど……憤怒ラステラちゃんの発言によっては、私もゼーヴェさんに加勢するわ。させて頂戴ね?) 
(あ、ああ……) 
 
 なんとも言えない圧を感じた。ゼーヴェには悪いが、場合によっては大罪対大罪だ。
 
「……なんでもないんですケド……。何よ、地獄耳ってワケ? なら言っておくんですケド。色欲ラビ、私はアンタと戦う気はないんですケド!」

(ええ、ええ。わかっているわ。憤怒ラステラちゃんは私に勝てないもの。でも、念の為待機しておくわね)
(そ、そうか……)

 怖い怖い。圧が怖い。俺知ーらね! やっぱ大罪ええわ。
 
「誰と喋っているのだか。とにかく、大罪は生前でも相手にしたことはない。心してかからねばな――」
「はあ? ただのレイスとか相手にならないんですケド。さっさと片付けてマスターとかいうの殺すんですケド?」  
「――ゼーヴェ・アーゲンデルト、参る」 
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