転生ニートは迷宮王

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第4章

117 悪ィ

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「……はっ、何を言うかと思えば! 俺は負けない、負けるわけにはいかない!」
「そうかよォ!」
 
 レイが構えるよりも先に、カインが前に飛び出し――目にも留まらぬ早さで斬撃を繰り出す。
 当然、レイは受け切れずに後方に飛ばされる。受け身もままならずに肩から地面に突っ込んだ。
 
「っ……」  
「へっへ、どうしたァ? 随分疲れちまってるみてェじゃねェか? え? 俺は女だろうと容赦しねえぞォ?」
「黙れ! ――炎よイレミア!」
 
 無詠唱の割には太めの熱線がカインを襲う。が。
 
「っとと、危ねェ危ねェ。火傷するとこだったぜェ」
 
 軽く回避。こいつ強くなってやがる。アイラに鳩尾刺されて死んでた頃なら、多分今ので塵になってる。
 
「くそ! ラステラ! もういいだろう、ここは地下40階だ!」
「よォ随分と舐め腐ってくれてんなァ? 誰と喋ってやがンだ? え? てめェの相手は――」
「こんな奴に時間をかけている場合じゃない!」 
「――俺だろうがよォ!」  

 再度突っ込むカイン。だがレイは今度こそ上手く回避、連続で斬り込み返す。
 
「チッ、悪くねェ太刀筋だぜェ……まァ、オレには遠く及ばねェがなァ?」
「ぐっ……」
 
 鍔迫つばぜり合いはそう長くは続かなかった。カインが思いっきり上に斬り上げ、レイの無防備な腹に向かって斬撃。
 刀で受けるのは無理だと悟ったか、レイは弾かれた勢いを利用して後方に跳ぶ。両方スピード型って感じの戦い方だから動きが派手だな。
 
「――ラステラ! 前借りだ! これが俺の願いだ!」
 
 と、レイの周りの素因エレメントがザワつき始める。変身タイムか? っつっても今もう変身済みみたいなもんだしな。元の姿に戻るとかかね。
 まあカインは変身中でも普通に斬りかかってくるだろうし、多少熱いくらいは無効にしてきそうだ。
 ……が、少し経ってもレイの姿に変化はない。周囲の素因エレメントには全く落ち着く気配がないが、それだけだ。
 
「なんだァ? 来ねェならオレから――!?」 
「言っただろう。お前ごときにかけている時間はないと!」
 
 気付いたら、レイがカインの目の前で刀を振り下ろしていた。一瞬だ。
 
「ッ!」 
 
 カインは反射的に握った剣で受ける――意外なことに、弾き飛ばされたのはレイの方だった。斬撃が思った以上に軽かったのか。
 
「ンだよ、ビビらせやがって。オレごときがなんだってェ? そういうこたァ勝ってから言えってなァ!」
 
 カインが距離を詰める、が、レイは既にカインの後方にいた。速すぎる。
 
「見えてんだよォ!」 
 
 見えてんの? マジ? 勇者の俺でも見えないんだが。レイスがBランク魔物とか言ってる冒険者ギルド、かなりテキトーな気がしてきたぞ。
 ……迷宮街のギルドで、公式とは別の迷宮内魔物ランク表みたいなの作るか。迷宮産の魔物が例外なだけって可能性もある。
 
「逃げてんじゃねェぞ!」
 
 どうやらレイは、高速で近付いて少し斬って離れる、ヒットアンドアウェイ的な戦法に切り替えたらしい。
 だが斬撃が軽い。本当に軽い。カインはほぼ無傷だ。加速する前の方が圧倒的に強力だった。覚醒して弱くなるなんてことあるか? だが�##��素因エレメントのザワつきは収まってないし、何か奥の手を隠してるような気もする。
 
「オイオイ、あンだけ偉そうにしといてその程度かァ?」
 
 カインが挑発する。決定打は入れられないものの、目で追うのが精一杯みたいだし、こいつもかなりイライラしてそうだ。
 
「言ってろ! 余裕ぶってられるのも――」
「隙ありィ!」 
 
 そんな真正面から行っても躱されるに決まってるだろ。まあカインらしいが。
  
「畜生ォ! てめェ……それでも男かァ!」
「俺はそんな安い挑発には乗らない。……いや、そろそろか。お前の望み通り、近距離戦闘といこう」
 
 そう言うと、レイの体の結晶部分が赤く輝く――瞬間、レイの刀はカインの首筋を捉えていた。
 
「終わりだ」
 
 まずいな、恐らく更に速度が上がってる。確実にカインは反応しきれない。剣で受ける時間すらもない。
 いくら弱い斬撃っつったって、首に受ければ致命傷だ。
 
「ッッねェ!」
 
 まさに間一髪。ギリギリで上体を反らして躱すが、レイは背後で次の斬撃に移っている。
 
「――ッ」

 こっちは辛うじて剣で受けたが、カインの体は無防備なまま後ろに弾き飛ばされる。それを見逃すレイではなかった。
 
「ぐ、ァ」
 
 追撃。脇腹を深めに抉られたカインは、受け身すら取れずに岩壁に衝突する。
 
「立場が逆転したな。気分はどうだ?」
「その偉そうなのが……気に食わねェんだよなァ……!」
 
 カインはフラフラになりながらも立ち上がり、剣を構える。
 出血が酷いな。左の腿の辺りまで真っ赤だ。
 
「見様見真似だがよォ……俺だって炎は得意なんだぜェ……?」
 
 初耳だ。見様見真似か……アイラに言わせれば才能だけで剣を振ってるやつ、だそうだが。イレミア斬りでもするのか?
 
「そのスカした顔を叩っ切ってやるよォ――炎熱斬ファライヴ!」
 
 カインが剣を振ると同時に、高波のような炎が地面を割ってレイに襲いかかる。範囲も広すぎる。これは躱せないだろ。
 つーかこんな強い技使ってる奴いたか? 俺は知らない。
 
「どう、だァ!」 
「俺が他の大罪の契約者であれば、火傷くらいは負わせられたかもしれないが――」 
 
 いつの間にか後ろに回っていたレイが、カインの肩を叩く。マジか。
 
「――憤怒が得意とする属性は、炎だ」 
「……悪ィマスター、オレの負けだ」 
炎よイレミア!」 
 
 カインの体が炎に包まれ、そしてその炎ごと数秒で消えた。あっという間の出来事だった。
 
『使い魔:カインが死亡しました』 
 
 カインがここまで強くなってたのにも驚いたが、レイはやっぱ段違いだ。流石は大罪、リッチ戦でかなり弱ったと思ってたが甘かったか。
 
「さぁ、出てこい迷宮王マスター! お前の最後の従者は今! 俺が殺した!」
 
 最後でもないし少し経てば生き返るけどな。
 まぁそれはさておき、少し困ったことになった。カインがやられたらレルアとリフィストに頼むつもりだったが、どうやらあいつは俺をご所望らしい。
 ここは責任取って俺が出ていくべきなのか? だが俺の場合死んだらそこで終わりらしいしな。確かにあいつの家族殺したのも俺みたいなもんだし、ここで出てってやっと対等みたいな感じなのかもしれないが……。うっかり死んだら洒落にならんぞ。ただのゴーストのままならどうにでもなっただろうが、今のあいつは大罪の契約者だ。
 時空魔術でハメ殺せるとは思えないし、大罪パワーで全部燃やされたら普通に負ける。てか大罪ってことはラビと同じくらいの強さってことだろ? 100パー勝てない。
 
「どうした! 何故出てこない! 従者がやられて怖気付いたか!」
 
 ぶっちゃけその通りです。俺は戦うの苦手なんだよ! 大罪えーよ!
 
(ロード)
(おおおおうゼーヴェか。なんだ?)
(私が出ましょう。よろしいですか?) 
 
 出るってつまり、レイを殺しにいくってことだよな。
 
(い、いや、もしアレならレルアとかリフィストとかに頼むぞ。相手は大罪だし、ゼーヴェじゃ勝てないかもしれない)
(いえ、身内の恥には身内で決着をつけたく思います) 
 
 うーん、そこまで言われちゃ突っぱねる理由もないんだが。負け戦じゃないか?
 
(……本当にいいのか?)
(はい。どうか許可を)
(……よし。じゃあゼーヴェ、お前に任せた) 
(感謝致します)
  
 そう言うとゼーヴェは地下40階へ向かった。子殺しをさせるわけだし多少の罪悪感はあるが、他ならぬ本人の頼みだしな。今はとにかく頑張ってくれ。
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