転生ニートは迷宮王

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第3章

90 シレンシア王城

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「さーて、どうするか……」
 
 やたら広い部屋に通されたのはいいが、部屋の外に(恐らく見張りの)兵士が一人、廊下にも大量の兵士ときた。ちなみに窓から庭に降りても兵士まみれだ。
 うっかり捕まれば器だかなんだかってのを取り出すために殺されかねんし、ルートは慎重に選ばないとな。転生したら王様にとっ捕まって殺されましたはシャレにならん。
 転移ラムルトで戻れるならそれでいいんだが、正直めっちゃ怖い。迷宮にいたときの圧迫感みたいなのはないにしろ、成功する気もしない。てか上半身だけ転移して下半身置いてけぼりとか――ありそうじゃん?
 
「よっこらせ。少し失礼するよ」
「……!?」
 
 振り返ると、部屋の中に老紳士風の男がいた。ぼーっと空を眺めてる間に入ってきたのか。ノックくらいしてくれ俺は勇者だぞ。
 
「君が三人目の勇者か。思ったより面白い形をしているね。解析士アナライザーよりは戦えるが、創造者クリエイターには遠く及ばなそうだ」 
 
 老紳士は俺を見てブツブツ独り言を……いや、白髪だけどシワは少ない。案外若かったりするのか、ってそうじゃなくて。
 一体誰なんだ。王様が言ってた''指導に長けた者''か?
 
「あなたは?」
「私はしがない研究者さ。三人目の勇者が見つかったというので、一目見ておきたくてね」
 
 研究者と言われればそんな気もしてくる。っつーかふと思ったけど俺この部屋入ったときに鍵かけたよな。こいつどこから入った?
 
「おっと、血の匂いでもしたかな? そう警戒しないでおくれよ。天使もいないようだし、君は脅威に値しない」
 
 男は、ニコニコと余裕そうな微笑みをこちらに投げかけてくる。どうやら敵意はないらしいが、非常に怪しい。
 遠目に確認したとこでは、鍵は閉まったままだった。大体、部屋の外の兵士に見つからずに扉から入ってくるのはほぼ不可能だ。
 
「敵対する理由もないだろう? それより、逃げるなら早くした方がいい。枷が付いたら終わりだ」
 
 ではね、と言って男は消えた。文字通り、瞬き一つの間に。
 研究者ってのが本当か嘘かはわからんが、少なくともここの関係者ではなさそうだ。逃げるなら早くしろとか言ってたし。
 とりあえず城の外を目指す。男のことも気になるが、枷とかいうのも嫌な響きだ。さっさと逃げるに限るね。
 外への出やすさを考えても、窓から庭に降りた方が良さげだな。兵士まみれと言っても穴はある。
 
「……っし!」
 
 気合い十分、魔力も十分。まともに交戦したら余裕でやられるからなるべく隠れながら行くぞ。
 そっと窓を開けて、下の足場を確認。兵士が向こうに行った隙に足場を伝って茂みに着地。
 思ったよりガサっといったがバレてなさそうなので良し。このまま壁際を進んで塀をよじ登れば……
 
「何――」
「っ遅延ディロウ!」
 
 やべ。反射的に遅延ディロウ撃ったが、小動物か何かだと思っただけの可能性もあったな。やっちまった。
 
「――時緩エゼイル減速ディセイル
 
 勇者だってのはバレてないかもしれんが、侵入者ならどのみち追われる。急がないとまずい。
 
「おい、どうした? おい!」
「何遊んでんだ……石化!? 違うな、なんだ、魔物? 敵か!?」 
 
 あーあー早速人が集まってきやがった。が、ユネとルファスが時空魔術のこと喋ってなければやりようはあるな。遅延ディロウとかで遅くして、街に出たら速攻で外に走る。
 
時緩エゼイル減速ディセイル!」
「な――」
  
 一人ずつにかけるのも面倒なので、とりまこれだけ。効果は長続きしないから、物音立てないように移動するのは一旦やめだ。
 ……あ、どうせなら使ったことないあの魔術使ってみるか。範囲っぽいし。
 
「――強制送還デポラシエ
 
 伸ばした手から深い青色の雫が滴り落ちた。雫は地面を青く光らせ、ゆっくり動いてる兵たちの足元に広がっていく。
 …………。
 ……………………え? まさかそれだけ? 失敗?
 
「――んだこれは! 我々は攻撃を受けている!」
「――った! 侵入者はどこだ!」
「――だ! この床は……?」 
 
 おいおい待ってくれあんな強そうな魔術でそりゃないぜ。いや魔力あんま使わなかったし怪しいとは思ったが。畜生、欲張りすぎたな。
 と思った直後。
 
「お――!?」
 
 かなりの魔力を持ってかれる感覚とともに、兵たちの姿が消えた。なるほど発動までに時間かかるタイプか。
 で、あいつらどこに消えたんだろ。頼むから遠くに飛んどいてくれよな。
 
「侵入者はまだこの辺りにいるはずだ! 探せ!」
「アンス一匹逃がすな!」
 
 めっちゃこっち来るじゃん。一箇所に固まってもらってまた強制送還デポラシエでもするか――
 
「!?」
 
 頭上で爆音。見上げると、城壁に何かが派手に突っ込んだような大穴が空いていた。
 俺なんもやってない……よな?
 
「なんだ!?」
「城壁が……逃げろ! 崩れるぞ!」
  
 やべ、ここにいたら俺も崩落に巻き込まれる。騒ぎに乗じて外に出られれば最高なんだが、そう上手くいくかね。
 
「侵入者め、城を破壊する気か!」
 
 や、俺なんもしてないぞ。あのなんか大量に出てる光の槍も俺のじゃない。
 
「久しいのう、マスター。元気にしておったか?」

 声の聞こえた方に視線を下げると、目の前に銀髪少女。

「んな!? ディ――」
「待て待て、まさか愛しの我の顔を忘れたわけではあるまい?」
 
 構築途中の遅延ディロウが、腕の一振りで術式ごと消された。効果を打ち消す魔術があるってのは知ってたがこんなの聞いてないぞ。
 つーかこの子どこかで見たことあるような……?
 
「むう、冗談はさておいても厄介なことになったの」
「もしかして、あの槍も君が?」
「かかか! その通りよ。久々の運動は気持ちが良いの!」
 
 爽快に笑う少女。敵じゃなさそうだが、ヤバそうなのも確かだ。
 
「む、聖騎士が近付いておるな。我は彼奴等には敵わん、暫し身を隠す。童もく逃げよ。魔術を使えばすぐであろう?」
「え、ええ?」 
 
 茂みから体を出したかと思えば、次の瞬間にはその姿は消えていた。どいつもこいつも急に現れて急に消えやがって。やべーとこだなシレンシア王城。
 
「もしかして、アヤト、にゃー?」
「……ユネか」
 
 少女が消えた直後、茂みを覗き込むユネと目が合った。残念ながら、見逃してくれそうな雰囲気ではない。いっそルファスの方なら良かったのに。
 
「……今戻ればまだ間に合うにゃ。ぼくも王様に掛け合ってみるし、勇者もそんな悪いものじゃないにゃ」
「……悪い、ユネ。俺はそれでも」
「ここにいたか、勇者」
 
 新たな声に振り向く前に横に避ける。運ゲー成功、視界の端に剣の先端が映った。今さっきまで俺の首があった場所だ。
 急いで距離をとるが二撃目は来ない。
 
「ルファス!」
「何、多少の傷は優秀な王宮治癒士が治すさ。それに、何としても――器だけでも取り戻せとのお達しだ」
「でも……」
「どうした、ユネ。下らない感情は捨てろ。魔王を殺すためには、勇者の力が必要不可欠!」
 
 いっそルファスの方ならとは言ったが、ルファスも来いとは言ってないぞ。
 
「――聖浄リファイス!」
 
 ルファスの手から浄化の光が伸びる。当たっても痛みはなかった……が、影から黒い靄が立ち上がり、消えた。
 
「邪悪な……影の一族とも繋がっていたか。勇者の力も、使い方を誤れば我々にとって最悪の兵器となりかねん」
「でも、アヤトはそんなことしないにゃ!」
「は! 何故そう言い切れる。迷宮探索に戻るからか? そんなもの、冒険者にさせておけばいい」
 
 さて、とルファスが剣を構え直す。とりあえず俺も剣を抜いたが膝がガクガク言いやがる。なんだこの迫力。殺気。こんなん勝てねえだろ。マジで勝てる気がしない。
 
「再召喚の時間だ。器を返してもらうぞ――欠陥品!」 
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