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第3章
79 初ボス戦
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「「「 !!」」」
うわ出た出ました紫ゼリー。また階段直後に大量発生か。もう会いたくなかったがこうなっちまったら仕方がない。ここで会ったが百年目。先手の閉空で方を付けるしか……
「ぅにゃっ!?」
突然先頭のユネが前方に吹っ飛ぶ……で、そのままゼリーの群れの真ん中に突っ込んだ。
「に……ゃ……」
って溺れてるぞ、どうすりゃいいんだ圧空だとユネごと潰しちゃうし���閉空でも多分巻き込む。
そうだハルティアさんなら、
「アヤト君、そこ、危ないよう?」
「な――!」
後ろからの声に振り返れば、細い目を更に細めた満面の笑みのハルティアさん。
魔術素人でもわかる。空気が揺れてるっていうかなんというか。とにかくこの魔力の集まり方はヤバい。
「――大嵐!」
咄嗟に屈むと、頭上を巨大な風の塊が通り過ぎていくのを感じた。
「うーん、やっぱりまとまってくれると楽でいいねえ!」
セリフの最後に音符か星でも付いてそうなほどの上機嫌な声。一瞬屈むの遅れてりゃ今頃俺の上半身は木っ端微塵だぜ? 勘弁してくれよ……。
っつーか思いっきり巻き込まれたユネは大丈夫なのか。姿が見えないんだが、まさか。いや流石に大丈夫だよな。
「やれやれ、危ないとこだったにゃ」
良かった生きてた、って……どっから声聞こえんだ?
「にゃっ」
ぴょん、と下からユネが飛び出してくる。落とし穴か。
ソロだと窒息しながら穴の底で静かに死を迎える……と。パーティ組んでて良かった。
「全く、ルファスがいないからって羽目を外しすぎにゃー。ぼくはいいけど、アヤトはルファスじゃないってわかってるにゃ?」
「いやあ、警告もしたし、アヤト君なら避けてくれるって信じてたよう。それに、最悪当たっちゃってもまた治せばいいしねえ?」
ニコニコしながらこっちに同意を求めてくるがちょっと冗談キツいっすよ先輩。これやっぱボス倒したらさっさと迷宮出るのが吉か?
「大体の人は同意しかねると思うにゃー……」
「でも、これでこの階のスライムも一掃できたと思うよう? そう考えれば多少の危険があったくらい、ねえ?」
ヤーソデスネ、ソノトーリデス、ハイ。
普段こんなのと一緒にいるルファスとかいう奴も大概バケモンだな。心臓がいくつあっても足らん。怪我は治してくれるらしいが。
「むー。ま、あとは罠に気を付けて進むだけにゃー」
……そうか。そう考えると確かに凄いは凄い。
俺がソロで死にかけながら戦った紫スライム――奴らは全員、ハルティアさんの魔術一発で即死した。
まさにレベルが違う。ステータスにレベルなんて欄はなかったしレベル自体はない世界なのかもしれないが、そうとしか形容できない。
最近までヌルい現代の中でも更にヌルいニートなんてやってた俺は、どうやら勇者になってもそこら辺の騎士様より弱いらしい。いやまぁそんなもんか? 知識も経験も足りてないしな。
仮に俺があの規模の魔術を使えたとして、あそこまで上手く操れる気もしない。
「アヤト、どうかしたにゃー?」
「ああいや、ハルティアさんの魔術って凄いなと思ってさ」
「ふふん、それは当然にゃ! ハルティアは聖騎士の中でも最も魔力量が多いからにゃ」
聖……騎士? なるほどにゃ。どーりで強いわけだにゃ……ぜ。
普通の騎士の進化版みたいなもんだろ? SSランク騎士みたいな。
「あれ、その顔。もしかして聖騎士知らなかったにゃ? アヤトって本当に田舎から来たんだにゃー」
「いやーははは。名前くらいは聞いたことあったんだけどな。まさかこんな所で会うとは」
聖騎士ってそんな有名なのか。誰でも顔見たら名前わかるレベル? いやそんなことねーよなさっき名乗ってたし。
ま、そこらへんは超絶田舎出身だし仕方ない。ってかなんで俺誤魔化してんだっけ。俺勇者ですって言ってもよくね?
……信じるはずもないし言わなくていいか。こっちの世界のおとぎ話に勇者が存在するかもわからん。仮に存在したとして、俺がそれだと信じろってのも無理な話だ。召喚系の喚ばれ方なら別だが、大して強くないのに俺勇者ですって信じられるか?
頭おかしい奴だと思われて終わりだ。うん。
「あれえ、もしかしてボスの部屋ってやつかなあ?」
代わって先頭を歩いていたハルティアさんが立ち止まる。杖でコツコツと叩いた扉は、俺の身長の三倍はありそうな大きさだった。
間違いなくボス部屋だな。丁度地下10階だし。
「にゃー! 早速突っ込むにゃ」
「そうだねえ、どんなのが出てくるのか楽しみだなあ――風刃」
扉に線が一本入り、次いで亀裂、地響き。
ぶっ飛んだ扉の開け方っすね。これが聖騎士流か。
「おお、随分とでっかい獲物だにゃー!」
「古代の魔物かあ、腕が鳴るねえ」
見上げる先には迷宮ボスの代名詞、牛頭の怪物ミノタウロス。ここがラビュリントスなら俺らはテーセウスってとこか。
「ブルモォォォ!」
飯の時間だと言わんばかりに唾液を撒き散らして吼える。そういや神話じゃ人肉食うみたいな描写あったよな。俺みたいなカップ麺ニートは食っても美味くないぜ。
「来るよう!」
瞬間、目の前の地面が割れた。
「――え?」
「アヤト、危ないにゃー!!」
斧だ。斧が振り下ろされた。その巨体に似合わない速度で。
待て待て待て待て速すぎるまずい。
「――遅延!」
一瞬遅くなった隙に前に転がり、股の下をくぐって背後に出る。ナイス判断だ俺。横なら次の一撃で死んでた。
「じゃ、今度はこっちからいくねえ――風刃」
揺らめく風の刃がミノタウロスの腹に刺さる。が、薄く傷を付けただけで霧散した。
「ハルティア! 何手抜いてるにゃ!」
「うーん、手を抜いたつもりはなかったんだけどねえ。――風の精霊よ、我が願いを聞き届けたまえ。彼の者を切り裂け――風刃!」
先程よりも大きい刃。だがこれも同じように霧散した。詠唱までしたってのに。
「ブルァ!」
ターゲットは完全にハルティアさんに移った。俺や、足元でひたすら脛あたりを切りつけてるユネには目もくれない。
逃げるハルティアさんを追いかけ回すミノタウロス。その距離は次第に縮まっていく。
「困ったなあ、僕は、運動は、得意じゃない、んだけど――風槍」
杖から飛び出した槍も、その巨体を貫くには至らない。
狙われてるから落ち着いて詠唱もできないのか。つまり俺が注意を引くしかないってわけね。
……って今気付いたが、俺の魔術にボス系単体に刺さるのがない。デカい魔術投げればなんとかなるかな。
ついでに全力で大声出してアピールしてみるか。
「ミノタウロスきゅーん!! こっち見てー!!!! ――圧空!」
顔面のあたりに圧空。勿論傷なんて一つもついてないが、イラッとした様子で一瞬俺の方を見る。
なるほどイラっと。オーケーそれでいこう。そういう意味じゃ遅延とか絶対効くだろ。
「手ぇ振ってー!! ――遅延!」
振り下ろす腕、斧に遅延。ついでに――
「ウインクしてー!! ――遅延!」
足の方にも遅延だ。狙い通り、俺のことを滅茶苦茶に殺意こもった目で睨んでくる。よせやい、そんなに見つめられると照れるぜ。
「ブルァァァァァァアアァァァァアァァアアァ!!」
「ハルティアさん! 今のうちに詠唱を!」
猪突猛進、って感じで突っ込んでくるミノタウロスをギリギリ躱して叫ぶ。試しにカウンターで切りつけてみたが案の定刃は通らない。
「わかったよう、ちょっとの間だけお願いねえ!」
任せろ俺は勇者だ。†聖剣†がポンコツでも泣いてなんかいない。俺には時空魔術がある。
うわ出た出ました紫ゼリー。また階段直後に大量発生か。もう会いたくなかったがこうなっちまったら仕方がない。ここで会ったが百年目。先手の閉空で方を付けるしか……
「ぅにゃっ!?」
突然先頭のユネが前方に吹っ飛ぶ……で、そのままゼリーの群れの真ん中に突っ込んだ。
「に……ゃ……」
って溺れてるぞ、どうすりゃいいんだ圧空だとユネごと潰しちゃうし���閉空でも多分巻き込む。
そうだハルティアさんなら、
「アヤト君、そこ、危ないよう?」
「な――!」
後ろからの声に振り返れば、細い目を更に細めた満面の笑みのハルティアさん。
魔術素人でもわかる。空気が揺れてるっていうかなんというか。とにかくこの魔力の集まり方はヤバい。
「――大嵐!」
咄嗟に屈むと、頭上を巨大な風の塊が通り過ぎていくのを感じた。
「うーん、やっぱりまとまってくれると楽でいいねえ!」
セリフの最後に音符か星でも付いてそうなほどの上機嫌な声。一瞬屈むの遅れてりゃ今頃俺の上半身は木っ端微塵だぜ? 勘弁してくれよ……。
っつーか思いっきり巻き込まれたユネは大丈夫なのか。姿が見えないんだが、まさか。いや流石に大丈夫だよな。
「やれやれ、危ないとこだったにゃ」
良かった生きてた、って……どっから声聞こえんだ?
「にゃっ」
ぴょん、と下からユネが飛び出してくる。落とし穴か。
ソロだと窒息しながら穴の底で静かに死を迎える……と。パーティ組んでて良かった。
「全く、ルファスがいないからって羽目を外しすぎにゃー。ぼくはいいけど、アヤトはルファスじゃないってわかってるにゃ?」
「いやあ、警告もしたし、アヤト君なら避けてくれるって信じてたよう。それに、最悪当たっちゃってもまた治せばいいしねえ?」
ニコニコしながらこっちに同意を求めてくるがちょっと冗談キツいっすよ先輩。これやっぱボス倒したらさっさと迷宮出るのが吉か?
「大体の人は同意しかねると思うにゃー……」
「でも、これでこの階のスライムも一掃できたと思うよう? そう考えれば多少の危険があったくらい、ねえ?」
ヤーソデスネ、ソノトーリデス、ハイ。
普段こんなのと一緒にいるルファスとかいう奴も大概バケモンだな。心臓がいくつあっても足らん。怪我は治してくれるらしいが。
「むー。ま、あとは罠に気を付けて進むだけにゃー」
……そうか。そう考えると確かに凄いは凄い。
俺がソロで死にかけながら戦った紫スライム――奴らは全員、ハルティアさんの魔術一発で即死した。
まさにレベルが違う。ステータスにレベルなんて欄はなかったしレベル自体はない世界なのかもしれないが、そうとしか形容できない。
最近までヌルい現代の中でも更にヌルいニートなんてやってた俺は、どうやら勇者になってもそこら辺の騎士様より弱いらしい。いやまぁそんなもんか? 知識も経験も足りてないしな。
仮に俺があの規模の魔術を使えたとして、あそこまで上手く操れる気もしない。
「アヤト、どうかしたにゃー?」
「ああいや、ハルティアさんの魔術って凄いなと思ってさ」
「ふふん、それは当然にゃ! ハルティアは聖騎士の中でも最も魔力量が多いからにゃ」
聖……騎士? なるほどにゃ。どーりで強いわけだにゃ……ぜ。
普通の騎士の進化版みたいなもんだろ? SSランク騎士みたいな。
「あれ、その顔。もしかして聖騎士知らなかったにゃ? アヤトって本当に田舎から来たんだにゃー」
「いやーははは。名前くらいは聞いたことあったんだけどな。まさかこんな所で会うとは」
聖騎士ってそんな有名なのか。誰でも顔見たら名前わかるレベル? いやそんなことねーよなさっき名乗ってたし。
ま、そこらへんは超絶田舎出身だし仕方ない。ってかなんで俺誤魔化してんだっけ。俺勇者ですって言ってもよくね?
……信じるはずもないし言わなくていいか。こっちの世界のおとぎ話に勇者が存在するかもわからん。仮に存在したとして、俺がそれだと信じろってのも無理な話だ。召喚系の喚ばれ方なら別だが、大して強くないのに俺勇者ですって信じられるか?
頭おかしい奴だと思われて終わりだ。うん。
「あれえ、もしかしてボスの部屋ってやつかなあ?」
代わって先頭を歩いていたハルティアさんが立ち止まる。杖でコツコツと叩いた扉は、俺の身長の三倍はありそうな大きさだった。
間違いなくボス部屋だな。丁度地下10階だし。
「にゃー! 早速突っ込むにゃ」
「そうだねえ、どんなのが出てくるのか楽しみだなあ――風刃」
扉に線が一本入り、次いで亀裂、地響き。
ぶっ飛んだ扉の開け方っすね。これが聖騎士流か。
「おお、随分とでっかい獲物だにゃー!」
「古代の魔物かあ、腕が鳴るねえ」
見上げる先には迷宮ボスの代名詞、牛頭の怪物ミノタウロス。ここがラビュリントスなら俺らはテーセウスってとこか。
「ブルモォォォ!」
飯の時間だと言わんばかりに唾液を撒き散らして吼える。そういや神話じゃ人肉食うみたいな描写あったよな。俺みたいなカップ麺ニートは食っても美味くないぜ。
「来るよう!」
瞬間、目の前の地面が割れた。
「――え?」
「アヤト、危ないにゃー!!」
斧だ。斧が振り下ろされた。その巨体に似合わない速度で。
待て待て待て待て速すぎるまずい。
「――遅延!」
一瞬遅くなった隙に前に転がり、股の下をくぐって背後に出る。ナイス判断だ俺。横なら次の一撃で死んでた。
「じゃ、今度はこっちからいくねえ――風刃」
揺らめく風の刃がミノタウロスの腹に刺さる。が、薄く傷を付けただけで霧散した。
「ハルティア! 何手抜いてるにゃ!」
「うーん、手を抜いたつもりはなかったんだけどねえ。――風の精霊よ、我が願いを聞き届けたまえ。彼の者を切り裂け――風刃!」
先程よりも大きい刃。だがこれも同じように霧散した。詠唱までしたってのに。
「ブルァ!」
ターゲットは完全にハルティアさんに移った。俺や、足元でひたすら脛あたりを切りつけてるユネには目もくれない。
逃げるハルティアさんを追いかけ回すミノタウロス。その距離は次第に縮まっていく。
「困ったなあ、僕は、運動は、得意じゃない、んだけど――風槍」
杖から飛び出した槍も、その巨体を貫くには至らない。
狙われてるから落ち着いて詠唱もできないのか。つまり俺が注意を引くしかないってわけね。
……って今気付いたが、俺の魔術にボス系単体に刺さるのがない。デカい魔術投げればなんとかなるかな。
ついでに全力で大声出してアピールしてみるか。
「ミノタウロスきゅーん!! こっち見てー!!!! ――圧空!」
顔面のあたりに圧空。勿論傷なんて一つもついてないが、イラッとした様子で一瞬俺の方を見る。
なるほどイラっと。オーケーそれでいこう。そういう意味じゃ遅延とか絶対効くだろ。
「手ぇ振ってー!! ――遅延!」
振り下ろす腕、斧に遅延。ついでに――
「ウインクしてー!! ――遅延!」
足の方にも遅延だ。狙い通り、俺のことを滅茶苦茶に殺意こもった目で睨んでくる。よせやい、そんなに見つめられると照れるぜ。
「ブルァァァァァァアアァァァァアァァアアァ!!」
「ハルティアさん! 今のうちに詠唱を!」
猪突猛進、って感じで突っ込んでくるミノタウロスをギリギリ躱して叫ぶ。試しにカウンターで切りつけてみたが案の定刃は通らない。
「わかったよう、ちょっとの間だけお願いねえ!」
任せろ俺は勇者だ。†聖剣†がポンコツでも泣いてなんかいない。俺には時空魔術がある。
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