転生ニートは迷宮王

三黒

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第2.5章

67 役目

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***第2.5章は誠視点です。***



「誠、そっちに行ったぞ!」
「うわ、あ」
「チッ……閃光ナーシャ
 
 僕の目の前に迫っていた蜥蜴男リザードマンは、その腹に大きな穴を開けて絶命した。
 
「ルイン、あの、ありがとう」
「ふん、雑魚が……」
 
 僕に対する言葉なのか、それとも今しがた殺した魔物に対する言葉なのか。まぁ前者なんだろうけど。
 ルインと僕の関係はいつまで経っても変わることはない。彼女には――既に僕にも、歩み寄る気はない。
 きっとそれが互いのためなんだと思う。彼女は僕が嫌いだろうけど、僕が死んだら困るから守る。それでいい。
 
「誠、怪我ないか? 全員やったと思ったら撃ち漏らしがあってな」
「うん、僕は大丈夫。それより、これでこのあたりのリザードマンは一掃できたかな」
「ああ、多分な。んーと、依頼にあったのはここと……あとはあの洞窟くらいか。討伐証明部位取って、さっさと済ませちまおうぜ」
 
 そう言うと、龍牙は器用に顎の裏の逆鱗を剥いでいく。こういう作業も、もう何度もした。
 初めは僕もかなり抵抗があったけど、やっていくうちに何も感じなくなった。どうしても臭いがこびりつくときは、龍牙が石鹸の泡みたいなものを創造クリエイトしてくれるし。
 鼻やら耳やらを要求されることも多いから、それに比べれば今回の依頼は楽な方だ。
 
「そういや誠、今のでレベル上がったか?」
「あー、うん。龍牙ほどは上がってないと思うけど、それなりに」  
「よしよし! これで解析アナライズの質も鰻登りってやつだな!」 
「はは、そんな実感ないけどね」 
 
 少し青みがかった緑の皮膚に刃を入れ、持ち上げるようにして逆鱗を剥がす。前はこんな簡単な作業ですら大変だったけど、レベルアップのお陰で多少はマシになったみたいだ。
 ただ、相変わらず解析アナライズは数回使えば疲れる。内容の方も、リザードマンだと精々「どんな攻撃をしてくるか」くらいまでしか見えない。
 
創造クリエイト――明火トーチ
 
 龍牙がほら、と松明のようなものを手渡してきた。創造クリエイトって本当に便利な魔法だと思う。
 
「俺が先行くから、誠はあとからついてきてくれよな。ボスっぽいの出たら念のために解析アナライズ頼む!」
「うん。ボスともなるとかなり時間かかりそうだけど、頑張るよ」
 
 龍牙は頷くと、洞窟の中にずんずん入っていく。加速アクサールもかかってないのに恐るべき足の速さだ。
 あっという間にその背中は見えなくなり、松明の光だけが微かに見える程度になった。
  
「――……創造クリエイト炎弾ファルダ!」
 
 少し反響した声が遠くから聞こえてくる。……僕、いらないんじゃないかな。
 ああ、一応レベリングも兼ねてるからいないとダメだ。レベルのシステムはまだよくわかってないけど、どうやら龍牙の入手した経験値の一部が僕にも入るらしい。
 ただ、レベル毎のステータスの上がり幅は酷いものだ。これじゃレベル1,000になっても今の龍牙に追い付けない、ってくらいには。
 
「――何をもたついている。勇者の足を引っ張るな」
「……別に、僕はあとからついて行くだけでいいんだ。龍牙だって、それをわかった上での速度だと思うよ」
「何を言っている。いざとなれば盾となって死ぬのが、貴様のような無能の役割だろうが」
 
 ルインはそう吐き捨てるように言うと、暗闇に溶けていった。姿を見せれば悪態しかつかない。最悪だ。
 もう一人の勇者もこんな感じだったらいいのに。僕と同じようにハズレ職を引いて、僕と同じようにハズレ天使に罵倒される。
 っと、走らないとまたルインになんか言われるかな。水溜まりやらやら、足場が悪いし走りたくはないんだけど……。
 
* 
 
「おー、誠! これ右左どっちがいいと――ってどした、そんな息切らして」
「ルインが――早くしろって――言うから」 
「あ! り、加速アクサールまた忘れちまってた」
 
 そのうっかりのせいで僕のストレスは数倍だよ。君がシエルと楽しく話してる間、僕はひたすら罵られながら走ってたんだ。
 
「いや――いいよ。君に盾が不要なら――」
「? おう」
 
 元より伝わるはずのない皮肉だ――いや事実だし皮肉でもない――けど、何もわかっていないような表情を見ると無性に腹が立つ。
 
「ねーそれよりさー! ボク絶対右だと思うんだけど!」 
「いや左だって……こっち足跡みたいなのついてんだろ? 誠はどう思う?」
 
 間違っても結局龍牙が秒速で全員焼き殺すことに変わりはない。心底どうでもいい……と答えようとしたのをぐっとこらえて、シエルに味方する。
 
「うーん、僕は右かな。なんとなく」
「さっすがマコトわかってる!」
「ええー? 足跡あるし左だと思うんだけどなあ……」
 
 シエルの僕に向けた笑顔が見れただけでも、回答した甲斐があったというものだ。龍牙はブツブツ言いつつも僕に加速アクサールをかけ、奥へ進む。
 
「! いた――炎弾ファルダ!」
「ほーら、ボクとマコトの言った通りだったでしょ? 天使の勘は当たるんだよ、ふっふーん!」

 どうやら当たりだったらしい。ってことは、このまま進めば今回の依頼の目玉――リザードマンの首領ボスに当たるってことかな。
 
「そらそら! いけいけー!」
 
 やることがなくなった。やたら上機嫌なシエルの声と共に、火球が次から次へと飛んでいくのを眺めるだけだ。
 暇潰しに、解析アナライズのイメトレでも――
 
「誠! 後ろだ!」
 
 ――え?
 
「うわぁっ!」
「――創造クリエイト炎弾ファルダ! くっそ、最初からこれが目的か!」
 
 突き出された槍をギリギリで躱すと、リザードマンは炎弾を顔面に受けて燃えながら吹っ飛んでいった。
 ……挟み撃ち。つまり左の道にもいたってことだろう。こんな大勢がたまたま外から帰ってくるなんて考えられないし。
 
「こうなったら炎界ファリジアで焼き尽くすしか……」
「いや龍牙、それはまずい。この狭い洞窟の中だ。そんなことしたら酸欠で僕たちまで死ぬことになる」
「だけど一々炎弾ファルダで処理してちゃキリがないだろ? ここは一か八か」
「そ、それはダメだよリョーガ。マコトの言うとおり。勇者と言っても所詮は人の子、死ぬときは死ぬんだよ?」 
 
 うんうん。まあいかに勇者と言えども酸欠には勝てないよね。
 
「龍牙、他の属性の魔術は使える?」
「あ、ああ。だが火以外は碌に練習したこともない。それに炎界ファリジアレベルの中級魔術ですら使えるか怪しいところだぜ」
「いや、それで大丈夫だよ。僕に考えがある――まず奥側に壁をお願い」
 
 囲まれてるから厄介なのであって、片方ずつならそう困らない。王立図書館で魔術書を読んだ限りでは、風魔術あたりは低級でも範囲魔術が多かったはずだ。
 
「――創造クリエイト土壁グラムロ! 次は!?」
「よし、じゃあ反対方向を見て風の刃……横に長いやつをよろしく」 
「任せろ――創造クリエイト風刃ウィレイス!」
 
 透明な刃が、一列に並んだリザードマンの胴体を切り裂いていく。成功。
 
「よし、いいね。それを何発か撃ったら今度は土壁の方だ。炎弾ファルダも撃ちすぎると酸欠が怖いし、風刃ウィレイスで処理できるところはそっちを使おう」
「了解、さんきゅな誠! 助かったぜ!」
「僕は戦力になれないからね。このくらいできないと」
 
 そうだ。解析士アナライザーっていうのは前線に立って戦うものじゃない。戦闘職じゃないんだし。
 こうやって的確な指示を出せればそれでいいんだと思う。ゆくゆくは解析アナライズ結果も加味して、より良い作戦を考える。
 ルインも何も言ってこない。やっと居場所を見つけた気がして、なんだか少しいい気分だ。
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