転生ニートは迷宮王

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第2章

63 干渉

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「リフィストっていうと……あの?」
「うむ、いかにも。我こそが『リフィスト教』で祀られている天使ぞ。このような小娘で驚いたかえ? ま、童も考える通り……見たままの年齢ではないがの」
 
 小娘で驚いたというか……リフィストって死んだんじゃなかったっけ? レルアの思い違いか?
 
「いや、我は確かに一度死んだとも。先程我が使った聖雷イクセアリ……神の遣いの放ったあれで、この体は燃え尽きた」
「じゃあなんで」
「……はずだったのだがのう」
 
 リフィストはどこか遠い目で宙を眺める。
 
「気付けば我は教会に幽閉されていての。狂った神父共は我の顕現――復活を喜んではいたが、結局はわけのわからない儀式に付き合わされるだけの毎日。あれは我でもなければ確実に堕ちていたであろうよ」
「え……っと、なんで復活したかは?」
「わからぬ。神父共は信仰の力などと言っておったが、大方禁術で『かつて生きていた我』の偽物を作り出しただけであろう。魔力の波長こそ変わらないが、この魂は穢れきっておる」 
 
 そう言って溜息をつくリフィスト。見た目とのギャップが凄いな。銀髪ロングツインテの女の子だぜ? ロリBBAみたいだ。
 
「たわけ、我はまだ老いぼれておらんわ!」 
「いやなんでもないです、てか勝手に心読むのやめろよ!」
「ふん、癖ゆえな。気にするでない」 
 
 いや気にするだろ。心読まれなくなる魔術とかあったら習得したいな。
   
「あることにはあるがの。我はこれでも天使、そうそう簡単には――」 
 
(ろ、ロード!)
(ゼーヴェ? どうした)
 
 念話でやたら焦った声が届く。異常事態か?
 
(我に黙って内緒話かえ。悲しいの)
(なんで念話までわかってんだよ。てかそれよりゼーヴェ、何があった?)
  
 数十秒経っても、ゼーヴェからの返事はなかった。嫌な予感がする。城はもうすぐそこだし急いで――
 
 ――世界が歪んだ。空気が重みを持った。
 
「天使の魔力とな!? しかし、これではまるで」
「……レルアだ」 
  
 なんと言えばいいかわからない。無色透明な、機械的な、無機質な、そんな風に変質してはいるが、これは間違いなくレルアの魔力だ。
 
「童」
「ああ、ヤバいってことは俺でもわかる。行くぞ――転移ラムルト
 
 だが、青い光は現れない。空気中の素因エレメントを上手く集められない。
 
「童の天使は魔力暴走スタンピードを起こす趣味でもあるのかえ?」 
「なわけあるかよ、クソ――転移ラムルト!」
 
 またも魔力は俺の掌で止まった。精一杯集中しても、素因エレメントは何か大きな力に引かれるようにして離れていく。
 
「仕方ないの、少し疲れるが我が飛んでいってやろうぞ。童、かがんで両手を上げよ――恥じらっている場合ではないであろう?」
「すまん……助かる」 
 
 リフィストの細い指が俺の手首を包み込む。
 
「多少の痛みは我慢するが良いぞ!」 
 
 足が地を離れた。うわ確かに結構痛え、あと酔いそう。俺も空を自由に飛びたい。タケ〇プターみたいな魔道具とかないのかね。
 とか考えてるうちに裏庭の茂みに着いた。なるほど隠し転移門ゲートの位置も、心を読んでお見通しってわけか。
 
(レルア? ゼーヴェ? 誰でもいい、返事をしてくれ)
 
 全員に聞こえるように念話を飛ばしたがやはり返事はなかった。三騎将もやられたとか?
 ……行ってみないことにはわからないか。リフィストを転移門ゲートに登録。
 
『ゲスト:リフィストの登録を完了しました』 
 
 これでよし、と。
 
「行こう」 
 
 リフィストと共に転移門ゲートを踏む――
 
 
* 
 
 
 そこは真っ白い空間だった。見慣れたクリスタル床の地下39階ではなかった。ただ無限にコピー用紙のような白が広がっていた。不思議と眩しさはないが、とにかく何もない。
 
「随分とお洒落な場所に住んでいるのう。部屋は片付いていないと気が済まない性分かえ?」 
「心読んでるならわかってるだろ、マジでヤバいんだよ。どこだよここ」 
 
(ロード! ご無事でしたか!)
(ゼーヴェ!? お前もこのわけわからん空間に……ってかここどこなんだ)
(ここはラビ殿の作り出した空間ですが、順を追って説明している暇はありません、とにかくレルア様を見かけたら全力でお逃げ下さい)
 
「構えよ、童」 
 
 背後に凄まじい魔力の圧。ああ、逃げるにしてももう遅いってことはよくわかった。
 
「魔力一致率78%。個体名リフィストと認識。対古代種魔術兵装を展開、術式の構築を開始」 
 
 全く抑揚のない一本調子の声が響き渡る。明らかに様子がおかしいが、この声は間違いなく、
 
「レルア?」
「ッ――防御結界プロテクション!」 
「――覇撃」 
 
 とてつもない揺れと衝撃波に吹き飛ばされる。待て待てこれ俺死ぬぞ普通に。
 と、ふわっとした感覚と共に身体が止まった。助かったぜ。サンクスリフィスト。
  
「童、天使の階級は?」
「階級――ああ、確か上級天使エイフリッドだったか」
「分が悪すぎるのう、一旦引こうぞ」
 
 退くってどうやって。気合か? 体育会系嫌いじゃないぜ。
 てかそもそもなんでレルアと戦わなきゃならんのだ。
 
「排除失敗、術式の再構築を開始――」
「おい逃げられそうにないぞ」
「だが迎え撃っても勝てるはずなかろうて、何か策はないのかえ?」
 
 ないが。俺の遅延ディロウとか効く気がしないし。お手上げです。
 
「そうすぐ諦めるでない……ああ、なるほどのう。あれは童の知る天使ではない。神による干渉を受けて傀儡となっておる」
「干渉?」
「うなじの辺りから伸びる線が見えるかえ?」  
 
 いや、特には。これでも視力はいい方なんだけどな。
 
「見えない、とな……いや、それで確信した。あれは天界で生まれた者にしか見えないものゆえな。上級天使エイフリッドならむしろ接続が安定しないはずよ。だが、ともすれば――」 
「――崩天」 
 
 無限に続くかのように見えた白い空が、パズルのピースのように崩れて降ってきた。俺は為す術もなく、大量の空だったものに潰れて死んだ。
 
「しっかりせい!」 
「……はっ!」 
 
 あれ、死んだはずじゃ?
 
「言ったであろう、接続が不安定だと。あれは本来天使級の存在を消費して行使する『ことわりの外側』の魔術だが、無尽蔵の魔力にものを言わせて無理やり撃ったところで消滅するのが関の山だろうて」 
 
 ??? なんだって?
 
「つまりは見た目だけの偽物ということよ。本来の一割の威力すら出せておらん」 
「でもさっきの覇撃とかいうのは」 
「本物なら防御結界プロテクションごときでどうにかなる魔術ではない。我も童も、一瞬で塵も残さず消滅するとも」
 
 なるほどつまり?
 
「物分りの悪い童よの。我らはまだ死なずに済むかもしれないということよ。今の天使の魔術は我らを殺すには至らぬ、それどころか童の時空魔術も効くかもしれんの」
「で、でもどうやって止めるんだ? まさかレルアをその、こ、殺すとか言わないよな?」 
「まさか。我は下級天使サイティミックぞ。精々神との接続を切るのが限界であろう」 
 
 ああよかった。ここで殺して止めるとか言われたら……いや、考えたくもないな。
 
「童、準備は良いかえ? 我は童の時空魔術での妨害に合わせて仕掛ける。神が魔術の出力を調整する前に決着を付けようぞ」 
「おーけーリフィスト。いつでも行けるぜ」 
 
 俺の時空魔術なら間違っても殺すことはない。そもそも下級天使サイティミックで殺せないような相手を殺すとか無理だし。
 さて――反撃、開始だ。
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