転生ニートは迷宮王

三黒

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第2章

58 トランプ

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 恐れていたことが起こってしまった。
 
 人 が 来 な い。全然来ない。驚くほど来ない。
 
 恐らくあれから――看板立ててから二週間ほど経ったと思うが、一向に人が来る気配がない。
 てかここ時間わかりにくいな。時計はあるけど腹は減らないし眠くもならないし。実は二週間以上経ってたりして。
 時空魔術で外と景色だけ繋げた窓でも作るか。たまに日光浴びないと鬱っぽくなったりするらしいからな。まーセロトニンとかそういうのを今の俺が合成できるかは謎だが……。
 人じゃない何かになってるのは確かだ。見た目は人だし良いけどな。むしろ面倒な諸々がない分、人の頃よりはるかに楽だ。
 
「マスター、早くー!」
「あーり。俺の番か」 
 
 探索者が来なければDPは稼げない。魔物を狩って強引に稼ごうにも、レルア曰く狩りすぎは良くないとか。
 迷宮の拡張もできない。ちまちま罠を追加したりはしてるが、それもフィードバックがないとどうしようもないからな。大規模なものなら尚更だし、面白そうな罠の案は溜まっていくばかり。最近はDPがまた余り始める始末だ。
 
 つまりは暇ってわけ。そこで俺は人類の生み出した最強のカードゲームを布教した。
 シンプルかつ駆け引きは奥深い。そして同じカードで様々な遊び方ができる。
 そう――トランプである。
 
「ん……っ」 
「んな顔して引っ張ったって無駄だ。っしゃ、一抜け!」
「もー! マスターズルしてるでしょ!」  
 
 わかりやすすぎんだよ。ババ抜きに限らず大抵のトランプゲームにおいて子供はカモ!
 
「ほっほっほ、リフェア嬢は表情が豊かですからな」
「……マスター、大人気ない」
「そんなんじゃモテないわよ?」 
「いや……それは……すみませんでした」
 
 確かにモテたことはないけども。そんなに言わなくても。
 ……次は運が大きく絡んでくるやつにしよう。
 つーかそろそろ休憩するか。時計が正しければもう数時間はぶっ通しでトランプしてることになる。
 
「ここらで一旦休憩にしよう。俺ちょっとお茶淹れてくるわ」
「お菓子は!?」
「クッキーだろ、わかってるよ」
「やったー! マスター大好き!」 
 
 リフェアは最初の印象と比べてかなり子供っぽくなった気がする。多分背伸びしてたんだな。どことなくラビの口調真似してそうな部分あったし。
 トランプを通じて皆とも仲良くなれてそうで何よりだ。カインを除いて。
 あいつアイラに喧嘩売っては返り討ちにされ……を一生繰り返してるからな。よく飽きないもんだ。
 注意しようかとも思ったが、アイラもアイラで楽しんでるらしいので傍観している。
 
『徳用クッキーアソートパック(計120枚):400DP』
 
 それなりに人数いるしこれにするか。紅茶はこの前大量にティーパックを仕入れたからそれで。 
 お湯を沸かすのはもちろん魔道具。それもレルアが作った高性能のやつだ。
 これの少し形が違うものを使えば風呂だって沸かせる。レルア様々だぜ。

 ティーポットにお湯を注ぐと、あの独特の穏やかな香りが部屋に立ち込めた。リラックス。
 使い魔になってからリフェアも排泄の必要がなくなったらしいし、利尿作用に困らされることもない。
 飲み食いしたものがどこに消えてんのかは謎だが、便利な体を持ったもんだ。
 
「お待たせ」
「わー! 種類がいっぱいある!」
「紅茶のおかわりは自分でお湯足して飲んでくれ。で、クッキーつまみながら聞いてほしいんだが……」
 
 ちょうどいい、この休憩時間に聞いてみるか。何もないときにわざわざ集まってもらうのも悪いしな。
 
「皆も知っての通り、今この迷宮は深刻な探索者不足に悩まされている。これは早いとこなんとかしたい」
「しかしロード、先日の冒険者たちの行動次第では……」 
「ああ。恐らくこの迷宮は危険な場所として広まっているだろう。そこで皆に考えてもらいたい――この迷宮に、人を呼ぶ方法を」 
 
 暫しの沈黙。
 
「……お城をもっと大きくするとか?」 
「んー、城は十分デカい気がするんだけどな」
 
 城に繋がる道でも舗装してみるか? DPは少し余り気味だし。
 
「冒険者ギルドに、この迷宮の調査依頼を貼り出すというのはどうでしょう」 
「しかしレルア様、誰が依頼を……? それらしい組織を偽ることは可能でしょうが、シレンシアではエルイムの一件以来門兵がですな」
「あー、それなら多分大丈夫だ。レルアの転移ラムルトで適当に人気ひとけのないとこに飛べばいい」 
 
 一度行ったところに秒で行ける最強魔術。俺はまだ無理だけど。
 そういえば、スキルは使ってるだけでレベル上がるらしい。俺自身のレベルも。魔物とか倒さなくても。
 積極的に使っていきたいな。

「しかし、街を歩く上でも身分証明書は……」   
「そこは冒険者登録でなんとか。マスターが田舎から出てきたという設定で、私が隠蔽バルドでついて行けば問題はないでしょう」 
 
 そんなに警備が甘くなっているとは、とゼーヴェは苦笑した。

「アラ、でも最近はまた強化されたと思うわよ。少し前、街の方向に『暴食』の反応があったもの」  
 
 大罪か。まぁシレンシアって美味いもん沢山ありそうだしな。
 
「では、私の冒険者証明書を魔術で偽装しましょう。門兵が余程の実力者でもない限り、見抜くことはできません」 
「マスター街に行くの? 私も行きたい!」
 
 影の一族で大罪の契約者だが……まぁレルアいれば大丈夫、なのか?
 
「……冗談よ。お土産はよろしくね?」 
「ああ、任せとけ」 
 
 まぁヤバイよな。迷宮外で死んだら復活できないし。
 折角街に出るんだし色々見て回りたいな……待てよ? 街。迷宮街的なモノを作ればこの辺りが栄えていい感じになるんじゃないか?
 DPで独自の通貨作って、あっちの世界の食べ物の屋台とかも並べて。良さげだなこれ。
 参考にするためにもじっくり見てこよう。

「っし、じゃあ早速出かけるとするか」  
「ロード、くれぐれもお気をつけて。レルア様がご一緒なら大抵のことはどうとでもなるでしょうが……万が一ということも有り得ます。何か嫌な予感がするのです」
「大丈夫だって、一般人相手なら俺の時空魔術もそれなりに効くと思うしな」 
 
 万一チンピラに喧嘩売られても安心安心。街中で剣を抜くようなやべーやつはいないだろうし。
 ヤバそうなら遅延ディロウかけて全力疾走!
 
「マスターさん、大罪には今の天使さんの力ではまず勝てないわ。もし会ったら即逃げるコト。約束ね?」
「おーけー、まぁ会ったところでわかるか……」
「気配で判るわよ。きっと明らかに異質なモノだから」 
 
 ま、大罪退治なんて他の勇者とかに任せとけば良い。俺は街をエンジョイするんだ。
 
「んじゃ行こうぜ、レルア」
「はい――ゼーヴェ、私の隊のことをお願いします」
「お任せを」 
 
 転移門ゲートをくぐると、外では陽が出ていた。位置的にちょうど昼時くらいか。
 
「ではマスター、私に掴まって下さい」

 ……どこに掴まればいいかわからん。相手は女の子だぜ? 自慢じゃないが俺は童貞だ。
 とりあえず腕に掴まっとくか。
 あんな剣振り回してるのに細い。あと柔らかい。身体寄せたらすげーいい匂いする。なんか顔が熱くなってきた。俺が恥ずかしがってどうする。こんなことで。腕に掴まるくらいで。 
 
「……マスター? もう少し強く掴まらねば途中で振り落とされかねません」
「あ、ああ。すまんすまん」
「では、行きましょう――転移ラムルト」 
 
 俺は掌に人肌の温もりを感じながら、流れる景色を見送った。
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