転生ニートは迷宮王

三黒

文字の大きさ
上 下
46 / 252
第1.5章

44 教会

しおりを挟む
「我々が毎日欠かさず祈り清めているのだぞ。レイスなどいるはずがあるまい」
「でも、ギルドはここにレイスが出ると――」
「何を言うか! 元々、どこぞの迷宮で隊長が死んだとかいう話だったはずだろう。レイスが原因かどうかも定かとは言えん、生きて帰ったのがたった二人というのではな!」
 
 迷宮? レイスの目撃情報が出たのはここではないってことかな。
 
「良い機会だと言わんばかりに我々聖職者に罪を着せるのだ。どうも冒険者ギルドとはそりが合わん」
「レイスなどという悪しき存在はリフィスト様が滅して下さる。我々は祈りこそすれど、心配などする必要はないというのに……」
 
 祈る、か。僕がここに入ったとき、二人は酒樽のようなものを囲んで馬鹿笑いしていたような。
 大体、祈りで悪しき存在とやらが滅されるなら、このゴーストの量はなんだ。……まあ、ここの神父共が真面目に祈ってるようにも思えないけど。だからギルドが冒険者を派遣するんだろう。
 ここの神父の怠慢も報告しておいた方が良いかもしれない。そういえば、シレンシア城下街――僕らが出発した街にも教会があった。そこの人たちはまともなのかな。
 
 あまり有益な情報は得られなかったけれど、一応礼を言って椅子に座る。
 鼓舞エンクルでは魔力は回復しないみたいだ。エナジードリンクを飲んだときの感覚に近いかな。
 定期的に椅子に解析アナライズをかけようとしてるけど、謎の脱力感に襲われて上手くいかない。鼓舞エンクルで一時的に元気なだけで、効果が切れたら動けなくなるような気がする。
 神父共は僕の目も気にせずに酒盛りを再開した。あの酒を買う金はどこから出ているんだろう。神へのお布施? こんな教会に納めるような物好きがいるとは思えないけど。
 暇になった。本もないし話し相手が欲しい……でも、あの天使ルインは嫌だな。その暇を使って自己研鑽に励めとか言われそうだ。
 解析アナライズのイメージトレーニングでもしておこう。意味があるかは別として、気休めにはなるし。
 
 
「おーす誠! お待たせ」
 
 暫くして、龍牙が教会に入ってきた。神父共は一瞬こちらを見たが、僕の連れだとわかった途端酒盛りに戻る。
 
「レイスは見つからなかったけどよ、ゴーストの魂石はこんなに集まったぜ! ほら」
 
 龍牙の持つ袋の中には、拳大の石――青く光る半透明の結晶が大量に入っていた。
 
「火力調整しないと討伐証明の魂石まで溶けちゃってな。最初の方は大変だったけどすぐに慣れたから楽しかったぜ。そっちは?」
「……あぁ、どうやらレイスの目撃情報があったのはここじゃないみたいだ」   
「げ、マジか! どーりでゴーストしかいねーわけだ」
 
 龍牙はがっくりと肩を落とした。けど、すぐに顔を上げて僕を見る。
 
「でもさ、こんだけ魂石が手に入ったんだ。換金すれば美味いもんとかいっぱい食えんじゃね?」
「別に買い食いなんてしなくても、城に戻れば夕食は出るんじゃないかな」
「わかってねーなぁ、買い食いにこそロマンが宿るってもんだろ? 結構腹も減ってきたしさ」
 
 食事は行きの馬車で昼食――乗車前にサンドイッチのようなものを買った――を食べたきりだ。
 ほとんど動いていないからか空腹感はないけど、曖昧に頷いておく。
 
「俺さー、あの串焼きみたいなの気になってんだよな! その近くにあった焼きうどんっぽいのも食いたいし――」
 
 窓から差し込む光で予測は付いていたが、日が暮れかけていた。
 ……今日何をしていたかなんて考えても良いことがない。やめておこう。たまたまダメな日だっただけだ。
 城に戻って魔力が回復していたら、少しは解析アナライズの練習をしようかな。そうすれば、必要魔力が少なくなったり最大魔力が多くなったり……或いは、その両方が起こったりするかもしれない。
 
 馬車に乗り込むと、乗客は僕ら以外に一人だけだった。
 龍牙みたいに魔術で吹っ飛ばせないと効率は悪いし、そこまでの力があるならもっと美味しい依頼があるのかな。
 ゴーストの見た目も問題な気がする。龍牙はゲーム感覚で楽しめているのかもしれないけれど、あれはどこからどう見ても人だった。
 しいて言うなら、目が虚ろで少し動きがおかしいくらいだ。
 
 ふと前に座っている老人と目が合う。いや……髪が白いだけで顔は若かった。案外30代くらいだったりするのかな。どうもこの世界の人々は年齢がわかりにくい。まず黒髪が少ないし。
 その男性は微笑みながら話しかけてきた。
 
「やぁ、君たちもゴーストを狩りに?」
「はい。本当はレイスを探しに来たんですけど……」
「おっと、敬語はいらないよ。それにしても災難だったね。ここにレイスはいない。
「おっさん、なんか知ってんのか!?」
 
 考え事をしていた龍牙が食いつく。
 
「勿論。私は研究者で、魔力を使わない魔術なんかが専門なんだ。ゴーストやレイスが使うものも研究対象でね。生前との魔力量の差などについて調べたりしていた――っと、私の話になってしまったね」
 
 男性は咳払いを一つ挟む。
 
「レイスがいるはずがない理由だったね。レイスっていうものは実は特殊な条件下でしか生まれないんだ。先のエルイム大討伐では、生前に魔力量の多かった者が軒並みレイスになっていたらしいけど……あれは例外だ」
「でも最近ゴーストが増えているからレイスもいるはずだって、ギルドの人が」
「ははは、ギルドの情報は遅れているよ。エルイムでもほとんど騎士団任せ、挙げ句には碌に調査もせず���死霊術師ネクロマンサーの仕業などという仮説を立てて満足している。お陰で私は助かったけどね……ほら、ギルドが手抜きなら研究し放題だろう?」
 
 龍牙とその男性は暫くゴーストやらエルイム? やらの話題で盛り上がっていた。
 だが、そんなことより。「魔力を使わない魔術」、男性は確かにそう言ったはずだ。
 僕は多分魔力量が少ない。解析アナライズ以外に魔術が使えたらどんなに良いだろう。
 
「あの、先程魔力を使わない魔術って……」
「ふむふむ……そうか。いや、一般的には多い方だと思うよ。そして、この魔術は『魔力が一切ない者』専用なんだ。魔力を消費する魔術が一切使えなくなるなんていうデメリットもある」
「でも僕は――」
解析アナライズは大事にすべきだ。とても珍しいものだしね。手放すなんてとんでもない!」
 
 僕は解析アナライズなんて使えなくても龍牙みたいに色々出来た方が良いんだけどな。
 多分燃費の悪い魔術だし、地味だし、勇者のすることじゃない。
 
「魔力が少しでもあるなら、いずれ色々できるようになるだろう。それではそろそろ私は行くよ――」
 
 気付けば馬車は止まっていた。相変わらず速い。
 
「君たちとの会話は楽しかったよ。さらばだ、勇者の諸君」
 
 男性は馬車を降りるなり空気に溶けるようにして消えてしまった。不思議な人だ。
 
「おーい誠! 早く降りて来いよ、飯食いに行こうぜ!」
 
 遠くから漂ってきた芳ばしい香りが鼻腔をくすぐる。……なんだか少しお腹がすいてきた。
 夕食は少し減らしてもらえばいい。戻る前に少し屋台通りに寄るのもまた乙ってものかな。
 
「今行くよ」
 
 僕に加速アクサールを飛ばして、早くも駆け出していた龍牙を追う。
 なんだか買い食いが楽しみになってきた。……折角の異世界なんだ、楽しまないと損だよね。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

処理中です...