転生ニートは迷宮王

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第1章

38 狂化

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狂化バーサク!? 駄目です副隊長、危険すぎます!」
「何、ここで黙って死ぬのを待つよりはマシさ。足掻いてみようじゃないか」
 
 狂化バーサクって、俺が邪竜剣から受けた呪いみたいなもんか。また随分と危険な賭けだな。
 今の邪竜剣はもういくら触っても大丈夫、振っても剣術スキルが上がるくらいだが、あれに込められていた呪いは冗談抜きにヤバいもんだった。
 狂化バーサクがあのレベルで精神を侵してくるなら、フィルがうっかりパミルも殺してバッドエンド――ってな感じになりかねない。
 
炎弾ファルダを二発撃つより、狂化バーサクのかかった俺が剣を握って、あとからパミルに浄化キュアをかけてもらう方が奴に勝てる可能性は高い。そうだろ?」
「でも……副隊長は奴隷ではありませんし、今は戦争中ですら」
「そんなことを言ってる場合じゃないだろう。危険は百も承知さ。最後の希望エレメントが散る前に、早く」
 
 狂戦士バーサーカーには狂戦士バーサーカーを当てる。それだけ聞けば良い方法のようにも思えるが。
 まぁ、俺がどうこう出来る話でもない。ミノっちのステータスを弄る気もないし――恐らく弄れないだろうが――彼らに頑張ってもらうのみだ。
 
「……副隊長!」
 
 斧が地面を叩き割りまくる轟音の中、パミルはまっすぐにフィルを見つめる。
 
「ご武運を――狂化バーサク!」
「ああ。――ァ――ァア゛アアア゛アア!!」
 
 微笑んだフィルだが、その表情はすぐに苦悶のそれへと変わる。次いで、激昂の雄叫び。
 鬼神の如き速度で剣を取り、勢い良く地面を蹴ってミノっちの腹に――一閃。
 
「ブルモァァァ!」
「ァア゛アアアァァ゛ァアアア!!」
 
 目を見開いて無我夢中で切りつける姿はまさしく狂戦士バーサーカー
 パミルはしっかり後ろに下がっている。これなら安心だな。多分。
 
「ガア゛ッ」
 
 ミノっちが器用にもフィルを壁に叩きつける。剣と小盾バックラーでカバーしたようだが、確実に骨とか折れてる音だった。内臓にもダメージいってそうだな。
 案の定、フィルは血を吐いた。が。
 立ち上がる。
 
「――――ラァアアア゛ァァア゛!!」 
 
 再びの猛攻。血みどろで、ガタガタの身体で、尚速度は落ちない。
 
 と――
 そんな好機を逃すフィルではない。理性は失えども、技は副隊長のそれだ。
 
 上に大きく跳び、先の炎熱斬ファライヴによる傷口に兜割りの構え。
 終わりだ、と聞こえた気がした。
 
「アア゛ア゛ァァアァ゛アアァァア゛ア!!!!」
 
 ミノっち顔負けの咆哮。何も特殊ではない、全力の振り下ろしは。
 
「ブル――ァ――」
 
 ミノっちの頭蓋を叩き割り、頭部を完全に両断した。
 ズズゥンという地響きの後、倒れ伏したミノっちの身体が塵になっていく。
 
「――浄化キュア! 副隊長!」
 
 狂化が解けて崩れ落ちるフィル。生きてるよな? 死んでたら困る。俺が悲しい。
 
「パ……ミル。終わった……のか……」
「はい。副隊長のお陰です」
 
 フィルは震える手で涙目のパミルを撫で――目を閉じた。
 ……死んでないよな?
 
「副隊長?」
 
 パミルは力を失ったフィルの腕に縋りつき、大粒の涙を流しながら叫ぶ。
 
治癒ヒール! 治癒ヒール!」
 
 何も起こらない。当然だ。魔力が残ってない。
 てかフィル死んでないよな? 生死判断の機能ついてないの?
 
『地下10階ボスエネミーの死亡を確認。自動修復、実行』 
 
 うわビビった。突然すぎる。
 地面も壁もみるみるうちに直っていく。相変わらずすげえ……けど、そうじゃなくて。
 
「フィル、パミル、そこにいるのか? ――突入!」
 
 扉を開けてアイウズ達が入ってきた。遅いって。
 
「おお、二人とも無事……か」

 言い切る前に、アイウズは異常に気付いたようだ。涙声で治癒ヒールを唱えるパミルに、生気を失ったフィル。
 
「フィル!」
 
 アイウズは駆け寄って胸に耳を当てる。
 
 ああ、表情でわかるさ。生きてたんだろ?
 
「脈はある! 総員、フィルに治癒ヒールを!」    

 次々と治癒ヒールを唱え始める隊員たち。いやー、フィルが生きてて良かった。ヒヤヒヤしたぜ。やっぱリア充には|爆裂罠__エクスプロードトラップ__#を踏んでもらわないとな。
 ま、一件落着。次の部屋に階段と外へ繋がる転移門ゲートがある。フィルを最低限治療したら、街に戻って新たな探索者を募ってくれるだろう。 
 さてと。色々と調整することがあるな。まず、宝箱周りの結界の魔術反射は威力倍加にしよう。ってか、いっそ弱めのミミック配置してもいいかも。
 ミミック殺したら低確率で少し下層のアイテム落とす、とかにすれば盛り上がりそうだ。その代わりそこらの魔物よりは多少強めに設定。
 あとは、魔物誘引の罠宝箱とかな。どうせ警戒されるならどんどん細工してった方が楽しい。
 他には……
 
(おいおい、めっちゃ面白いことになってンじゃねえか! なぁマスター、オレ行っていいよな? な?)
(行くって、どこに?)
 
 今のはカインの声だな。三騎将には兵舎待機を頼んであるはず。
 
「おいおめえらァ! 誰でもいい、オレと戦え!」
 
 こいつ。やりやがった。
 
「な……誰だ貴様!」
 
 全員臨戦態勢。マズいって。ここで戦われるのはシナリオにない。
 いや、戦わせるとどうなるんだ? 所詮Bランク。全員で戦えば割となんとかなったりするのか?
 
(ゼーヴェ、彼らとカインが戦ったらどうなる?)
(……お恥ずかしながら、遊撃隊側が全滅します。既にフィルが動けず、パミルという少女にも魔力が残っていない。アイウズ以外は戦力になりませんし、かといってアイウズ一人でどうにかなるわけもありません)
 
 それは困る。彼らには俺特製片手剣を持って帰ってもらいたいんだ。銘まで打ったんだぞ。まぁ自動だけど。
 とにかく。カインを止めないとな。
 
(カイン、今戦うのはダメだ。弱った相手と戦ってなんになる?)
(いいじゃねェか。ミノっちとやらが仕留めきれなかった分をオレが殺るだけだろ?)
 
 殺っちゃだめなんだが。だが何を言っても聞かなそうだ。
 ゼーヴェに止めに行ってもらう……ダメだ。止めるどころかもっと大変なことになる。
 レルア……も不味いな。この迷宮の存在として姿を晒すのは今じゃない。見られるからには皆殺しとかにしないと街で自由に動けなくなるし。

(アルデム、カインを止められるか?)
(……お爺ちゃんは腰痛。私が行く)
 
 アイラか。いつも図書館で本読んでそうなタイプに見えるんだが。
 
(じゃあアイラ、任せて大丈夫か?)
(……当たり前。もし戦いになっても、あんな単細胞に負けるはずない)
 
 凄い自信だな。
 まぁ、最悪失敗してもレルアに連れ戻させて、あとから眠らせるなり忘れさせるなりで対応すればいい。
 ただ、言っちゃ悪いが……あんなオラついたのに勝てそうには……。
 
(じゃあ、頼んだ)
(……任せて) 
 
 カインの後ろにアイラが転移する。さてさて、どうなることやら。
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