転生ニートは迷宮王

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第1章

37 ミノっち、死す?

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 あんなヤバい杖だったのか? それとも、単にパミルの魔力が尋常じゃないだけか。
 てか、階段前の部屋に中ボスのミノタウロスだ。この勢いじゃアイウズたちは戦闘開始には間に合わないな。
 
「副隊長、また宝箱です!」
「どこに……ああ、あんな暗い場所に。パミルは目が良いね」

 おっ、宝箱発見。今度は少し違う仕掛けだぞ。それもなかなか初見殺し。
 
「俺が開けよう――炎弾ファルダ
 
 引っかかった!
 
「!?」
 
 フィルは跳ね返る炎弾ファルダに目を丸くする。宝箱の周りには軽い魔術を跳ね返す結界が張ってあるのさ。面白い罠だろ?
 
魔術障壁マジックバリア!」
 
 と、パミルの張った半透明のベールが火球を吸収した。あっさりしたもんだ。威力倍加のオプションもつけとけば良かったな。
 
「ありがとうパミル、助かった。にしても無詠唱で止めるとは凄いね。結構本気で撃ったんだけど」
「半ばダメもとのつもりでしたが、前より格段に障壁の質が上がってるみたいです」
 
 パミルは杖をしげしげと眺める。
 杖との相性とかありそうだな。俺が試しに使ったときはマジで大したことなかった。
 
「では気を取り直して開けてみましょう。なんだか良い物が出る気がします」
「他に罠は……ないみたいだね。よっと」
 
 フィルが宝箱の上部を切り飛ばす。鍵付いてないっすよそれ。
 ミミック対策か? 皆が普通に開けないなら本当に配置しちゃうからな。
 
「片手剣……?」
「片手剣!? やりましたね副隊長、大当たりじゃないですか!」
 
 いやいや待て待て待て待て。なんで二人とも自分の武器エモノ揃えちゃってんの。強運すぎる。神に愛されてんのか?
 
「しかも属性付与エンチャントされてるみたいだ。効果も永続、属性は火……って、俺にぴったりの武器じゃないか」
 
 やべえ。ミノっち瞬殺されるわこれ。次回、ミノっち死す!
 なんでそんな噛み合ったのが都合良く出るんだ。俺そんなの入れたっけ。
 パミル実は宝箱内のアイテムコード不正に改竄してないか? 垢バンされるぞ。てか疑惑で一週間くらい停止したい。俺にはGM権限があるんだ。これは不当行使じゃない。
 
「しかも軽い。見たことのない光り方だ……迷宮産の未知の金属かな」
「かもしれませんね。私の杖の魔石も天然モノのような大きさでしたし」
 
 確かにレルアが買ってきてくれたのよりは大きめだが。
 それに、金属っても迷宮掘ったら出てきただけだからレアかは知らんぞ。こんな上層で採れるんだしな。単にこのあたりを掘る採掘士がいないだけじゃないか?
 魔力を多分に含んでいるってことくらいしか情報もなし。……杖が強いのには納得がいった。
 
「次、敵が現れたらこの剣で戦ってみるよ。思った以上にしっくりくるんだ」
「あのスライムみたいなのとか丁度いいですね! この階層にはもういなそうですが……あれ?」
「ん、扉か。もしかして出口かな」
 
 視線の先には重厚な扉。
 フィルが手を伸ばすと、ゴゴゴ……という地響きと共にそれは開いた。
 見下ろすは牛頭の怪物ミノタウロス
 
「!」
 
 二人は突然振り下ろされた斧を間一髪で躱した。さぁ、ボス戦の始まりだ! 
 
「こいつは!?」
防御結界プロテクション魔術障壁マジックバリア……ええと、鼓舞エンクル加速アクサール!」
 
 開幕本気バフ。逃げるって選択肢はナシか。よしよし。
 まぁアイウズたち来てるって知らないしな。
 
「おかしい、ミノタウロスなんてとっくの昔に絶滅してる!」
「れ、錬金術に使えるんでしたっけ?」
「うん、角から尻尾まで全身が素材だから乱獲されたんだ……っ危ない!」 
 
 切り込むタイミングを窺うフィルに、連続の振り下ろし。轟音と共に地面が抉れていく。
 
「とりあえず、今はこいつに集中だ。大きさからしてもボスに違いない。倒せば帰れる、焦らずいこう!」
「はい!」
 
 今回はちゃんとフィルが前衛してるな。ミノっちの振り下ろし、当たればヤバいが精度が低い。ついでに隙もデカいときた。
 フィルのソロ攻略なら微妙に厳しかったかもしれないが、パミルの土鎖グライドがいい感じにミノっちの動きを阻害してる。
 
「! 刃が通らない!」
 
 切り込みが浅すぎる。焦らずって言う割には結構焦ってやんの。
 まぁ確かに前衛タンクやるなら攻撃のタイミングはなかなかにシビアだ。もう一人アイウズあたりが前衛アタッカーでいれば安定しそうだな。
 
「ぐっふ……」
 
 フィルが返す斧、峰での強打を食らって壁まで吹き飛ぶ。両刃斧なら死んでた。
 いや、防御結界プロテクションあるから大丈夫なのか? ひどく痛そうな音だったがすぐ立ち上がれる程度のダメージらしい。
 
「ブルモォォォォォォ!」
土鎖グライド土刃グライス!」

 突進してきたミノっちに正面からの土鎖グライド。ついでに顔面に土刃グライス……だが、どうやら目は潰れてなさそうだ。
 って、大丈夫か? そんなに殴ったらヘイトがパミルに――
 
炎弾ファルダ! ミノタウロス、お前の敵はこの俺だ!」

 いい挑発だ。かっけえ。惚れた。
 
「パミル、ありったけの魔力で特大の土鎖グライドを頼めるか?」
「いけます! 拘束ですか?」
「うん、頼んだ。もしここで失敗したら一度撤退しよう」
 
 大技で決めにいくのか。わくてか。
 フィルがミノっちの連続振り下ろしを躱していく。
 
「土の精霊よ、我が願いを聞き届けたまえ。永久の契約に従い、その力を貸し与えたまえ。さすれば、汝が器を我が力で満たさん! 彼の者を拘束せよ――土鎖グライド

 先に無詠唱の土鎖グライドを撃ち、その拘束時間を利用しての――恐らく完全詠唱。
 巨大且つ頑丈な鎖に絡まれ、ミノっちは完全に動きを止めた。
 
「炎の精霊よ――」 
 
 フィルが抉れた地面を蹴り、剣を上段に構える。
 
「――その力を貸し与えたまえ――」 
 
 剣が朱く光る。同時に、周りから集まる光が炎となって刀身を覆う。
 
「――彼の者を両断せよ――」 
 
 勢いよく振り下ろされた剣は、
 
「――炎熱斬ファライヴ!」
 
 ミノっちの脳天を直撃した。
 
「ブルアアアァァァァァアアア!!」 
 
 ミノっちの咆哮。めっちゃ痛そう。こっちまで頭が痛くなってくる。
 だが、どうやら殺すには至らなかったらしい。嘘だろ? ミノっち強すぎね?
 
「なっ……!?」
 
 痛みと熱さとでブチ切れたミノっちが滅茶苦茶に斧を振り回す。
 その内の一振りが、パミルを捉えた。
 
「ひゃっ……」
「パミル!」
 
 フィルが間一髪でパミルを突き飛ばす。だが。
 
「副、隊長」

 感謝の念を述べようとしたパミルは、フィルの様子を見て青ざめた。
 
「っ、はは、ごめん。作戦は失敗だ」
「足が――」 
 
 フィルの右足は、膝を境に切断されていた。鮮やかな赤がひび割れた地面に広がっていく。
 
「……こうなったら、俺のことは良い。パミルだけでも」
「――嫌、嫌です、副隊長! その指示には従えません……っ」
 
 待て待て待て。ミノっち瞬殺どころか大変なことになってきたぞ。
 って、危ない。
 
「っ!」
 
 パミルは咄嗟にフィルを抱えて斧を躱す。幸いなことに、今の状態のミノっちは二人を狙えない。
 だが、失血死を考えるならミノっちよりフィルの方が先だろう。ミノっちの断面は焼けていて、その再生力もあってか出血はほぼ止まっている。
 切り込み自体も頭蓋骨止まりだし、このまま放置しても二人に勝機は見えない。
 
「副隊長、副隊長!」
 
 フィルが意識を失ったか。何をするにしても時間がないぞ、パミル。
 と、パミルはおもむろに杖から魔石を取り外し――叩き割った。そして、フィルの足を拾い、傷口に近付ける。
 ……気でも狂ったか?
 
「慈悲深き我らが天使リフィストよ、汝がしもべ、パミル・エムサランカが願う! 彼の者を癒せ――治癒ヒール」 
 
 杖もない状態での治癒ヒールごときでそんな傷がどうにかなるわけ、と思ったのも束の間。傷口がみるみるうちに塞がっていく。何が起こってんだ、一体。
 
「パミル……?」
「副隊長! 良かった、成功しました! さぁ、早く逃げましょう!」
 
 目を覚ましたフィルは、首を横に振る。
 
「何故ですか!?」
「助けてくれてありがとう。でも、もう遅いみたいだ」
 
 フィルの指さす先――扉は、めくれあがった地面に阻まれ、とても二人の側からは開きそうになかった。
 
「そんな。そんな。折角…………リフィスト様……」
「お祈りはまだ早いよ、パミル。俺のために魔石を割ってくれたんだろう? ならばまだ道はあるはずだ」
「……でも、治癒ヒールに使ったので素因エレメントはほとんど残っていませんよ? 杖も魔力もない状態で低級魔術を数回使ったところで、あの怪物には勝てません」
 
 ああ、なるほど。素因エレメントを増やしたのか。あの杖強かったしな。
 空気中の素因エレメントが豊富だと、魔術の質も上がるらしい。生息する魔物も強くなりがちって話だけどな。
 杖を持つのは魔石を通じて素因エレメントを使うからだとか。レルアに聞いたぞ。

「確かに、俺が炎弾ファルダを撃っても扉の前の岩すら壊せないだろう。だけど、同じ低級魔術でも人にかけるとなると話は変わってくる」
鼓舞エンクル、ですか? でも、」
「違うよパミル。俺にかけて貰うのは鼓舞エンクルじゃあない――」
 
 では何を、と言いかけるパミルを制し、フィルは不敵に笑う。 
 
「――狂化バーサクさ」 
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