転生ニートは迷宮王

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第1章

34 玉座の間

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「どこまで行ってもゴーストばかりだな」
「レイス、出ませんね」
「……っと、また階段か」
 
 やっと地上3階か。慎重に動きすぎるせいで凄い時間かかってるぞ、君たち。
 時間制限ある階層ならとっくに全滅罠でお陀仏だ。いかに王国騎士団と言えども、城の皮を被った迷宮探索は慣れてないのか?
 
「――伏せろ!」
 
 先頭のアイウズが叫ぶ。良い判断だ。伏せなかったら後続は今の中規模魔術で全滅だったな。
 不意打ちがすぎるって? 地下迷宮入り前、つまりは本番前の最後の階層なんだぜ。そりゃ少しは悪戯したくなるだろ。
 地上3階の造りは、ルセペ城とは少し変えて玉座の間だけにしてある。つまり、階段をのぼった先にゴースト五十体が待ち受けてるってわけだ。
 戦術なんかは念話でゼーヴェから指示がいく。魔術も、第一波は外したが既に第二波の詠唱に入っている。
 
「何を呆けている、聖浄リファイスを撃て! 前線の盾を持つゴーストは俺が受け持つ――」
「俺も盾の処理を手伝います。その間の指示はパミル、君に任せた」
「え、えぇ!? 私ですか?」
「何もおかしなことはないさ。パミル、君の状況判断力には目を見張るものがある。何、今回は聖浄リファイスで狙う場所程度の指示で構わん。さて――行くぞ、フィル」
「は、はい! ――防御結界プロテクション
 
 フィルとアイウズの周りに青く光る半透明のベールがかかった。聖盾セイリードとは少し違うな。物理攻撃への防御に特化した魔術か?
 
「ええと、中段右注意ですっ! 解呪ディスペルで捌ききれない分は魔術障壁マジックバリアで耐えて下さい! 治癒ヒールは合間に詠唱します――解呪ディスペル!」
 
 あの二人が買うだけあって、パミルは中々全体を見るのが上手い。詠唱中の方向へ聖浄リファイスを撃たせるのもそうだが、誰よりも早くゴーストの魔術に解呪ディスペルをかけるし、何より合間を縫って治癒ヒールまで詠唱しているのには驚かざるを得ない。平騎士のくせにやりよる。
 
「詠唱完了だ。上手く躱せ、フィル。風撃閃ウィラーセル!」
 
 アイウズが細剣を突き出すと、一瞬で前衛のゴーストが吹き飛んだ。
 ただの突きじゃないな。お頭と同じスキル組み合わせ系。ゼーヴェは属性付与エンチャントの一種だって言ってたな。
 ただ、詠唱が必要だったってことはお頭よりレベル低い、のか? 盗賊より弱いって大丈夫か、シレンシア騎士団。
 ……いや、あの二人組が異常に強かっただけか。多少手抜きだったとはいえ、かなりのスピードで攻略されたしな。
 
「ふぅ、ここは一通り片付きましたね」
「らしいな。この階層はこの部屋だけ……か。あのレイスが見当たらないのは何故だ?」
 
 部屋の四方に散らばって隠れる場所を探し始める。あ、フィル。その玉座触った瞬間転移するから注意しろよ――って。
 
「!」
「フィル?」
 
 アイウズが振り返る頃には転移済みだ。さて、転移先には――早速マジックスライムがお出迎え。
 
「なっ、俺、え? うわ!」
 
 ふむ。慌てながらもキッチリ剣を振れると。平騎士なら死んでいたであろう一撃も、なんなくいなして逆に仕留める。
 
「先輩、聞こえますかー!」
 
 大声で叫んだところで聞こえんて。そら、次はゴブリンの群れだ。
 
「次から次へと! ――炎弾ファルダ
 
 少し大きめの火球で焼き尽くした。うーん、この階層の魔物は敵じゃなさそうだな。単独でも下へ向かって欲しいが、どうも動きそうにない。
 
「たたたた隊長、パミルまで消えました!」
「なんだと? やはり手分けして他の階層を捜すぞ」
 
 ああ、そっちじゃない。確かに他の階層だが反対側だ。玉座以外からのアクセスは出来ない。
 てか、パミルが消えた? それはつまり……
 
「ぱ、パミル?」
「あ、副隊長! 隊長ー! 副隊長いましたよ……って。ここは?」
「パミルも来ちゃったか。ここはどうやらさっきの場所とは違うらしい。ゴースト以外の魔物も出るから気をつけて」
「副隊長、一体何が起こって――」
 
 フィルは肩を竦める。
 
「俺だって知りたい。玉座に触れた瞬間これだったからね」
「わ、私もそれです! 気がついたらここにいて……」
 
 飛ぶ瞬間を見てないのが痛いな。アイウズたちは城の他の階層に行ったようだし、玉座のギミックに気付くのは少し遅れそうだ。
 敵はゴブリンとスライム程度だぜ? 進んでみないか、副隊長さん。
 
「隊長たちは?」
「えと、なんか城の中をくまなく捜してみるとか言っていたような……」
 
 フィルは溜め息をつく。
 
「なら仕方ない。俺らは俺らでここから出る方法を探そう。幸い、それほど強い魔物は出ないみたいだし」
「了解です! 副隊長がいれば安心ですし!」
 
 よぉし、いいぞ! ワイズスライム部屋前までは、二人いればあっさり攻略出来ることは証明済みだ。ガンガン行っちゃってくれ。
 
「俺が前衛で魔物を蹴散らす。パミルは後衛で補助回復、余裕があれば俺の手の回りきらない場所の魔物に攻撃してくれ」
「わかりました! 頑張りますよー!」
 
 
* * *
 
 
「副隊長、左をお願いします! ――鼓舞エンクル!」
「了解。はぁっ!」
「土の精霊よ、我が願いを聞き届けたまえ。永久の契約に従い、その力を貸し与えたまえ。さすれば、汝が器を我が力で満たさん! 彼の者らを切り裂け――土刃グライス!」
 
 良いペースで進んできてるな。パミルの補助魔術で火力の上がったフィルが、剣の一振りでゴブリンの首を次々跳ね飛ばしていく――ってな感じだ。複数出てきた場合は、今みたいにパミルが魔術で一掃する。システムは出来ているが盗賊ほどのクソゲーじゃない。むしろこういう攻略を待ってた。
 あのあと玉座から二人転移してきたが、そいつらはその場で待機したままだ。意気地なしめ。いや隊長格がいない場合はそれが正しいのかもしれんが。
 そろそろ地下1階も終わりだ。魔物に気を払いすぎて宝箱を一つも発見してないのが残念だが、それは後からアイウズたちが開けてくれることだろう。
 今はこの二人だけでどこまで行ってくれるかが楽しみだ。
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