21 / 252
第1章
21 ルドゥード
しおりを挟む
***レルア視点です。***
「……本当に机、椅子、箪笥にベッドまで一式お買い上げになられるので?」
「ええ。お幾らでしょう?」
「合計で48,000ルナになりますが……あの、お持ち帰りの方は? 見る限りお客様しかいらっしゃらないようですが」
店長に小金貨五枚を渡すと、更に驚かれた。もしかすると一括払いは珍しいのだろうか。しかし、分割で払うような仕組みが出来上がっている世界だとは思えない。
まあ言われてみれば、見た目が少女の私がする買い物ではなかった。しかし、従者をつけているということにしても幻影では流石に怪しまれるだろうし……どうしたものか。
単純に持ち上げるのは苦ではないが、運ぶとなると少しかさばる。第一、そんなことをしている少女など注目を集めるだけだ。帰るときは転移で帰りたい。
そうだ、マスターに聞いた空間魔術とやらを使ってみよう。
見様見真似ですらないが、要は開いた空間に物を詰め込めばいいだけの話。
詠唱は勿論知らない。昔読んだ本に、魔術は雰囲気と勢いと思い込みが大切と書いてあった。きっと大丈夫だろう。
「――開け」
魔力を纏った手で宙を撫でる。
小さい切れ込みが入り、それは徐々に大きくなっていった。中の色はマスターの転移門と同じ青色。恐らく成功。
「よい、しょ」
用意してもらった家具を一つ一つその隙間に投げ込んでいく。少し中を覗いたが、空中でふわふわ浮いているだけだったので破損の心配もなさそうだ。
「――閉じよ」
「お客様、貴方いったい……」
「ただの冒険者見習いですよ。ではまた」
詮索されるのも面倒なので、お釣りの大銀貨2枚を受け取るが早いか店を出る。
あとは剣、鎧、魔道具。
「おーい、嬢ちゃん。腹減ってないか? ルドゥード出来たてだぞ!」
む、私に言っているのか。屋台で腹ごしらえをしている場合ではないので、丁重にお断り――
いや。
確かマスターは美味しい食べ物を探していた気がする。私に観光させるための言い回しかもしれないが、感想を言うためにも一応食べておくか。
単純に気になるというのもある。マスターの世界の情報は一部持っているが、こちらの情報は――特に食べ物や生活習慣などは、一切知らない。
「いただきます」
「よしきた! 先払い、35ルナだ」
や……安すぎる。小銭がない。
「あの、これで大丈夫でしょうか」
大銀貨を差し出す。案の定相手は苦笑いした。
「おっと、大銀貨なんて貰っても釣りが出せねぇや。嬢ちゃん貴族か何かかい?」
「ええ、そんなところです。申し訳ありません、今小銭の持ち合わせがなくて……」
相手は腕を組んで唸った後、こちらを見てニヤリと笑った。
「よし、今回はツケといてやろう。次来るときにでも払ってくれや。安心しな、旨さには自信がある。ささ、冷めないうちに食っちゃってくれ」
貴族相手にそれだけ言うなら美味しいのだろう。皿に盛られた焼きそばのようなものからも良い匂いが漂ってくる。
「では、頂きます」
手を合わせて、横にあるフォーク状のものを手に取る。箸の使い方は知っているので、この麺なら箸の方が食べやすそうだが……マスターの世界でさえ一部しか使っていなかったらしいし、仕方ない。
まず、一口目。もっちりとした食感と共に、何か魚介の旨みのようなものが口いっぱいに広がった。続けて、何か調味料の香ばしさが追い付いてくる。
極めつけは、鼻へ抜ける香辛料の香り。どうやら後味をすっきりさせる効果も持っているらしい。香ばしさの割に食べやすいのはこれのお陰か。
二口目、三口目と食べていると、気付けば皿は空になっていた。これで35ルナとは。きっとマスターも気に入って下さるだろう。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「はは、ご馳走だなんてとんでもねぇ! だが、貴族様の口に合ったようで良かったぜ。また来てくれよな!」
「はい、ありがとうございました。貴方に天使の加護があらんことを」
店の主に手を振って別れる。これだけ美味しいのにたった35ルナ、それもツケとなっては申し訳ないので、天使直々の加護を贈っておいた。きっと一週間程は幸運に恵まれるはずだ。
さて、改めて武器などを買いに行こう。
「……本当に机、椅子、箪笥にベッドまで一式お買い上げになられるので?」
「ええ。お幾らでしょう?」
「合計で48,000ルナになりますが……あの、お持ち帰りの方は? 見る限りお客様しかいらっしゃらないようですが」
店長に小金貨五枚を渡すと、更に驚かれた。もしかすると一括払いは珍しいのだろうか。しかし、分割で払うような仕組みが出来上がっている世界だとは思えない。
まあ言われてみれば、見た目が少女の私がする買い物ではなかった。しかし、従者をつけているということにしても幻影では流石に怪しまれるだろうし……どうしたものか。
単純に持ち上げるのは苦ではないが、運ぶとなると少しかさばる。第一、そんなことをしている少女など注目を集めるだけだ。帰るときは転移で帰りたい。
そうだ、マスターに聞いた空間魔術とやらを使ってみよう。
見様見真似ですらないが、要は開いた空間に物を詰め込めばいいだけの話。
詠唱は勿論知らない。昔読んだ本に、魔術は雰囲気と勢いと思い込みが大切と書いてあった。きっと大丈夫だろう。
「――開け」
魔力を纏った手で宙を撫でる。
小さい切れ込みが入り、それは徐々に大きくなっていった。中の色はマスターの転移門と同じ青色。恐らく成功。
「よい、しょ」
用意してもらった家具を一つ一つその隙間に投げ込んでいく。少し中を覗いたが、空中でふわふわ浮いているだけだったので破損の心配もなさそうだ。
「――閉じよ」
「お客様、貴方いったい……」
「ただの冒険者見習いですよ。ではまた」
詮索されるのも面倒なので、お釣りの大銀貨2枚を受け取るが早いか店を出る。
あとは剣、鎧、魔道具。
「おーい、嬢ちゃん。腹減ってないか? ルドゥード出来たてだぞ!」
む、私に言っているのか。屋台で腹ごしらえをしている場合ではないので、丁重にお断り――
いや。
確かマスターは美味しい食べ物を探していた気がする。私に観光させるための言い回しかもしれないが、感想を言うためにも一応食べておくか。
単純に気になるというのもある。マスターの世界の情報は一部持っているが、こちらの情報は――特に食べ物や生活習慣などは、一切知らない。
「いただきます」
「よしきた! 先払い、35ルナだ」
や……安すぎる。小銭がない。
「あの、これで大丈夫でしょうか」
大銀貨を差し出す。案の定相手は苦笑いした。
「おっと、大銀貨なんて貰っても釣りが出せねぇや。嬢ちゃん貴族か何かかい?」
「ええ、そんなところです。申し訳ありません、今小銭の持ち合わせがなくて……」
相手は腕を組んで唸った後、こちらを見てニヤリと笑った。
「よし、今回はツケといてやろう。次来るときにでも払ってくれや。安心しな、旨さには自信がある。ささ、冷めないうちに食っちゃってくれ」
貴族相手にそれだけ言うなら美味しいのだろう。皿に盛られた焼きそばのようなものからも良い匂いが漂ってくる。
「では、頂きます」
手を合わせて、横にあるフォーク状のものを手に取る。箸の使い方は知っているので、この麺なら箸の方が食べやすそうだが……マスターの世界でさえ一部しか使っていなかったらしいし、仕方ない。
まず、一口目。もっちりとした食感と共に、何か魚介の旨みのようなものが口いっぱいに広がった。続けて、何か調味料の香ばしさが追い付いてくる。
極めつけは、鼻へ抜ける香辛料の香り。どうやら後味をすっきりさせる効果も持っているらしい。香ばしさの割に食べやすいのはこれのお陰か。
二口目、三口目と食べていると、気付けば皿は空になっていた。これで35ルナとは。きっとマスターも気に入って下さるだろう。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「はは、ご馳走だなんてとんでもねぇ! だが、貴族様の口に合ったようで良かったぜ。また来てくれよな!」
「はい、ありがとうございました。貴方に天使の加護があらんことを」
店の主に手を振って別れる。これだけ美味しいのにたった35ルナ、それもツケとなっては申し訳ないので、天使直々の加護を贈っておいた。きっと一週間程は幸運に恵まれるはずだ。
さて、改めて武器などを買いに行こう。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。
烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。
その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。
「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。
あなたの思うように過ごしていいのよ」
真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。
その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる