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第1章
20 報告
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***レルア視点です。***
逃げた二人組について行くと、怪我を負った一人は救護室、もう一人は奥の部屋へ向かった。
兵舎の中ではあるが、隠蔽を使っているので気付かれることはない。
男に続いて奥の部屋へ向かい、扉の開いたタイミングで慎重にくぐり抜ける。
「――また通信結晶でお伝えしていた通り、本作戦でセリザール隊長を含む計三名が死亡。報告は以上です」
「ふーん、ゴーストね……あのあたりに自然発生はしないはずよね」
「はい、風属性の小物以外は今まで観測されたことはありませんでした」
団長なる人物は、少女だった。その落ち着きよう、そして魔力量からしても、見た目通りの年齢ではないことは明らかだったが。
そういえば、死ぬまで若い見た目のままという種族がいた。確か、魔術が得意な反面筋力などは弱かった――名をエルフ。文献では抗争により滅びたとのことだったが、その生き残りだろうか。
「変異種というわけでもなさそう。それに、家、ですって? ゴースト系は精々墓地をうろつく程度の存在でしょう? 突然レイスに進化するというのも聞いたことがない……私が生きてきた中で一度も、ね」
「……恐らく上位の存在だと思われます。元隊長の声や姿を真似ただけでなく、記憶から使う魔術まで全てが一致していました。セリザール隊長が元隊長の家に火を放ったなどの虚言を吐いたことからも、とても高い知能を有すと――」
ガタン! と派手に椅子を倒して少女が立ち上がった。
「どうしてそれを早く言わないの! それは本物よ。彼自身。ゴーストと化してもなお生前の記憶を持ち続けるということは、召喚者がいるのかしら?」
ぶつぶつと呟きながら部屋を歩き回る。
「いや、そんなはずがないわ。あってはならない。私達はもう、あの悪夢を繰り返すわけにはいかないの」
少女は足を止め、アイウズを見つめる。
「――――――――アイウズ・ウェルヒルト」
「は、はい」
「貴方を遊撃隊隊長に任命します。副隊長は同行したフィルに。そして、同時に召喚者……いえ、レイスの討伐隊を編成します。遊撃隊から、優れた者を数名選出して。私は各隊長に連絡する。行きなさい」
「はっ。失礼します」
アイウズは一礼すると部屋を出て行った。
む、少女が邪魔になって外に出れない。最悪転移で戻れはするが、この間のお遣いもこなしたい。少し待つとしよう。
「――で、そこの貴方。いつまで隠れているつもりなの?」
私のことだろうか。いや、気付かれるわけがない。
「つい先ほど、私が立ち上がったタイミングで魔力が強まったのを感じたわ。出て来たらどう?」
無意識に防御魔術を発動した? そんな馬鹿な。もしそうだとしても魔力の揺らぎは僅かなはずだ。
あちらはまだ仕掛けてこない。今のうちに眠らせるか。いや、私の魔力を感じ取れるような相手に無詠唱が通るとは思えないし、詠唱したら殺さざるを得なくなる。不味い。諦めて今すぐ転移を使うしかないか――
「…………ふん、気のせいかしら。嫌な汗をかいたわ。窓を開けましょう」
少女が指を鳴らす。部屋の窓は全て開け放たれた。
魔術によるものだ。罠だと思ったが、窓付近に仕掛けは見当たらず、またそれらしい魔力の動き、素因の流れも見えなかった。
落ち着いて窓に手をかけ、身を乗り出す。やはり罠はない。音を立てないよう慎重に着地し、傍の路地裏に駆け込んだ。
「――危ないところだった」
思わず溜め息がこぼれる。交戦を避けることが出来て良かった。今度こそお遣いもこなせそうだ。
私は隠蔽を解除し、商店街へ向けて歩き出した。
* * *
「……はぁぁぁ。死ぬかと思った」
そう一人部屋で胸をなで下ろしたのは、シレンシア騎士団団長、アナ。
アナは、椅子から立ち上がった瞬間に死を覚悟していた。突如湧き上がった細い糸のような意識が、冷たさと鋭さをもって彼女の首筋を舐めたからである。
部屋の隅から放たれたそれに敵意は感じられなかった。例えるなら、ただ観察するだけのような。
しかし、一度気付いてしまえば、最早見逃すことなど出来ない。戦闘もやむなしと考えていたが。
「もう、一体何が目的だったの? 情報?」
気配は、素直に窓から去っていった。相手もアナが気付いていたことは知っていたはずだし、殺さない理由はないと思われた。
なんらかの理由で命を狙いにきた刺客だと思っていたが、違うのだろうか。
情報にしても、怪しげなレイスの存在、遊撃隊長の死亡および交代、これは確定ではないが召喚者の誕生。この程度だ。
「ほんっと訳が分からない」
また、気配を隠したままこの部屋に入るなど不可能だと思っていた。仮にも元Aランク冒険者だ。
それが、姿すら確認できなかった。
「力量は確実にAランク以上、ね……」
加えて、闇に葬られた放火事件の犯人。怪しまれていた張本人が死んでは裁きようもない。
レイスと化したゼーヴェとの和解は可能なのだろうか? 討伐隊に同行すべきなのだろうか? 彼は冷静だが忠誠心に溢れた騎士だ。新たな主が居るなら、それと和解しなければならないが……レイスを召喚するような邪悪な存在と対話出来る気がしない。
アナは山積みの問題に特大の溜め息をつきつつ、通信結晶に魔力を込めた。
逃げた二人組について行くと、怪我を負った一人は救護室、もう一人は奥の部屋へ向かった。
兵舎の中ではあるが、隠蔽を使っているので気付かれることはない。
男に続いて奥の部屋へ向かい、扉の開いたタイミングで慎重にくぐり抜ける。
「――また通信結晶でお伝えしていた通り、本作戦でセリザール隊長を含む計三名が死亡。報告は以上です」
「ふーん、ゴーストね……あのあたりに自然発生はしないはずよね」
「はい、風属性の小物以外は今まで観測されたことはありませんでした」
団長なる人物は、少女だった。その落ち着きよう、そして魔力量からしても、見た目通りの年齢ではないことは明らかだったが。
そういえば、死ぬまで若い見た目のままという種族がいた。確か、魔術が得意な反面筋力などは弱かった――名をエルフ。文献では抗争により滅びたとのことだったが、その生き残りだろうか。
「変異種というわけでもなさそう。それに、家、ですって? ゴースト系は精々墓地をうろつく程度の存在でしょう? 突然レイスに進化するというのも聞いたことがない……私が生きてきた中で一度も、ね」
「……恐らく上位の存在だと思われます。元隊長の声や姿を真似ただけでなく、記憶から使う魔術まで全てが一致していました。セリザール隊長が元隊長の家に火を放ったなどの虚言を吐いたことからも、とても高い知能を有すと――」
ガタン! と派手に椅子を倒して少女が立ち上がった。
「どうしてそれを早く言わないの! それは本物よ。彼自身。ゴーストと化してもなお生前の記憶を持ち続けるということは、召喚者がいるのかしら?」
ぶつぶつと呟きながら部屋を歩き回る。
「いや、そんなはずがないわ。あってはならない。私達はもう、あの悪夢を繰り返すわけにはいかないの」
少女は足を止め、アイウズを見つめる。
「――――――――アイウズ・ウェルヒルト」
「は、はい」
「貴方を遊撃隊隊長に任命します。副隊長は同行したフィルに。そして、同時に召喚者……いえ、レイスの討伐隊を編成します。遊撃隊から、優れた者を数名選出して。私は各隊長に連絡する。行きなさい」
「はっ。失礼します」
アイウズは一礼すると部屋を出て行った。
む、少女が邪魔になって外に出れない。最悪転移で戻れはするが、この間のお遣いもこなしたい。少し待つとしよう。
「――で、そこの貴方。いつまで隠れているつもりなの?」
私のことだろうか。いや、気付かれるわけがない。
「つい先ほど、私が立ち上がったタイミングで魔力が強まったのを感じたわ。出て来たらどう?」
無意識に防御魔術を発動した? そんな馬鹿な。もしそうだとしても魔力の揺らぎは僅かなはずだ。
あちらはまだ仕掛けてこない。今のうちに眠らせるか。いや、私の魔力を感じ取れるような相手に無詠唱が通るとは思えないし、詠唱したら殺さざるを得なくなる。不味い。諦めて今すぐ転移を使うしかないか――
「…………ふん、気のせいかしら。嫌な汗をかいたわ。窓を開けましょう」
少女が指を鳴らす。部屋の窓は全て開け放たれた。
魔術によるものだ。罠だと思ったが、窓付近に仕掛けは見当たらず、またそれらしい魔力の動き、素因の流れも見えなかった。
落ち着いて窓に手をかけ、身を乗り出す。やはり罠はない。音を立てないよう慎重に着地し、傍の路地裏に駆け込んだ。
「――危ないところだった」
思わず溜め息がこぼれる。交戦を避けることが出来て良かった。今度こそお遣いもこなせそうだ。
私は隠蔽を解除し、商店街へ向けて歩き出した。
* * *
「……はぁぁぁ。死ぬかと思った」
そう一人部屋で胸をなで下ろしたのは、シレンシア騎士団団長、アナ。
アナは、椅子から立ち上がった瞬間に死を覚悟していた。突如湧き上がった細い糸のような意識が、冷たさと鋭さをもって彼女の首筋を舐めたからである。
部屋の隅から放たれたそれに敵意は感じられなかった。例えるなら、ただ観察するだけのような。
しかし、一度気付いてしまえば、最早見逃すことなど出来ない。戦闘もやむなしと考えていたが。
「もう、一体何が目的だったの? 情報?」
気配は、素直に窓から去っていった。相手もアナが気付いていたことは知っていたはずだし、殺さない理由はないと思われた。
なんらかの理由で命を狙いにきた刺客だと思っていたが、違うのだろうか。
情報にしても、怪しげなレイスの存在、遊撃隊長の死亡および交代、これは確定ではないが召喚者の誕生。この程度だ。
「ほんっと訳が分からない」
また、気配を隠したままこの部屋に入るなど不可能だと思っていた。仮にも元Aランク冒険者だ。
それが、姿すら確認できなかった。
「力量は確実にAランク以上、ね……」
加えて、闇に葬られた放火事件の犯人。怪しまれていた張本人が死んでは裁きようもない。
レイスと化したゼーヴェとの和解は可能なのだろうか? 討伐隊に同行すべきなのだろうか? 彼は冷静だが忠誠心に溢れた騎士だ。新たな主が居るなら、それと和解しなければならないが……レイスを召喚するような邪悪な存在と対話出来る気がしない。
アナは山積みの問題に特大の溜め息をつきつつ、通信結晶に魔力を込めた。
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