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第1章
13 雑魚狩り
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***前半レルア視点・後半三人称視点です。***
思ったほど失望はされなかった。期待されていなかったわけではなさそうだが……とにかく今はDPを稼ぐとしよう。
少し飛ぶと、視界の端に赤茶色の岩のような皮膚が映った。この巨体に特徴的な角。オーガだろう。
周囲に他の個体は見られない。ある程度まとまった数で行動する魔物だったはずだが、よく見れば角が少し小さい。大方群れから追放された個体といったところだろうか。
「風の精霊よ、我に従え。彼の者を切り裂け――風刃」
すかさず風の刃で切り裂く。精霊魔術は消費魔力が少ないので、多少威力を上乗せしても問題ない。
オーガは、手に持った棍棒――まるで大木のような大きさだった――を落とすと、断末魔の叫びも上げずに崩れ落ちる。
二度連続した地響きに驚いてか、木陰から大量のクロウルが飛び立った。
屍肉を啄む、烏のような魔物だ。こちらへ来るのかと思えば、私の魔力を察知して逃げていった様子。生憎だがそうやすやすと逃がしはしない。
「風の精霊よ、我に従え。彼の者らを射抜け――風矢」
掌から無数の風の矢を放ち、逃げ惑うクロウルを一羽も逃さず正確に撃ち落とす。黒い羽が雪のように舞った。
やはり天界にいた頃に比べれば威力は落ちている、が、勘は鈍っていないようだ。
死体の落ちた先に群がるはバグラス、これまた魔物の死体を餌にする魔物だ。一匹一匹はコバエのようなものだが、集団で囲まれると厄介な魔物だったはず。
死体が消えて散らばられる前にまとめて殺したいところだ。
「炎の精霊よ、我に従え。彼の者らを燃やし尽くせ――炎界」
炎の幕を薄く広げてバグラスを囲い、周囲の木々ごと焼き尽くす。後に残るは焼け焦げた地面のみ。
こんなペースで次々と狩っていると、ものの半刻ほどで周辺の魔物は消え去った。
……少しやりすぎたかもしれない。マスターの命と言えど、殺しすぎるのも考え物だ。
だが、数を狩ったので恐らくそこそこの量のDPが手に入っているはず。以前の邪竜には遠く及ばないかもしれないが、きっとご満足いただけるだろう。
そろそろ戻るか、と転移しようとした、その時。
遠くに人影が見えた。
この何もない草原を、真っ直ぐ迷宮に向かって進んでくる。
目的が迷宮だというのは火を見るよりも明らか。
引きつけてから迎撃するか、いや、やはり先手必勝だろうか?
今なら詠唱も省略せず最高火力で焼き払える。
――いや、まずはマスターに連絡だ。ここなら、迷宮からもそう遠くない。念話も届くはず。
(マスター)
(お、レルアか。どうした?)
(迷宮へ向かってくる人影を確認しました。いかが致しますか?)
少しの間のあとに、返答がくる。
(今は放っておいていい。敵意があるかどうかも分からないしな。ただ、一応入口のゴーストには伝えとくよ、ありがとう)
(いえ、感謝されるほどのことでは。只今より帰還します)
(了解ー)
確かに、あちら側が危害を加えてきた訳でもない。そんな相手をいきなり焼き払うなんて言語道断というものだろう。危ないところだった。
また、仮に攻めてくるとしても、先手を打っておく必要はない。迷宮付近、内部まで来たところでいくらでも対処できる。指導役らしきBランク冒険者とやらであの程度だったのだから、この世界においても私の力が上位にあるのは確かだ。
そんなことを考えながら、私は迷宮入り口へ転移した。
* * *
草原を、エクィトスに跨がり疾走する男が五人。
「隊長、やっぱり帰りませんか? 一度班を再編成した方が……」
「何を抜かす。これは我々に与えられた立派な任務だ。遂行せずして何とするか」
「隊長も見ましたよね? あの火柱に雷撃! 巻き起こる竜巻! 吹き荒れる吹雪! 降り注ぐ大岩――」
「この腑抜けが!」
隊長に一喝された気の弱そうな男は、その威圧に押され黙り込む。
「どうせ、謎の魔力反応ってのもどっかの馬鹿な魔術師が魔力暴走起こしただけだろ。その影響で、魔物の使う魔術が全て異常なまでに強化されてるだけさ」
「で、でも先輩、この辺りにあんな魔術を使う魔物はいなかったはず……」
「魔物といえば、ここに来る途中全く出会さなかっただろう? きっとあの魔力が濃い部分に密集してるんだ、気を引き締めていくぞ」
そう、本来こんな辺境に複数の属性の魔術を使える魔物など存在しない。魔術が使える魔物でも風属性がそのほとんどを占めている。
いかに魔力暴走と言えども属性を変更することなど出来ない。そんなことは、とうにこの場にいる五人全員が理解していた。
――何かがおかしい。
「かなり魔力が濃く……ん、何か見えてきたな。あれは家、か?」
――シレンシア騎士団遊撃隊の五人組は、既に迷宮の近くまで迫っていた。
思ったほど失望はされなかった。期待されていなかったわけではなさそうだが……とにかく今はDPを稼ぐとしよう。
少し飛ぶと、視界の端に赤茶色の岩のような皮膚が映った。この巨体に特徴的な角。オーガだろう。
周囲に他の個体は見られない。ある程度まとまった数で行動する魔物だったはずだが、よく見れば角が少し小さい。大方群れから追放された個体といったところだろうか。
「風の精霊よ、我に従え。彼の者を切り裂け――風刃」
すかさず風の刃で切り裂く。精霊魔術は消費魔力が少ないので、多少威力を上乗せしても問題ない。
オーガは、手に持った棍棒――まるで大木のような大きさだった――を落とすと、断末魔の叫びも上げずに崩れ落ちる。
二度連続した地響きに驚いてか、木陰から大量のクロウルが飛び立った。
屍肉を啄む、烏のような魔物だ。こちらへ来るのかと思えば、私の魔力を察知して逃げていった様子。生憎だがそうやすやすと逃がしはしない。
「風の精霊よ、我に従え。彼の者らを射抜け――風矢」
掌から無数の風の矢を放ち、逃げ惑うクロウルを一羽も逃さず正確に撃ち落とす。黒い羽が雪のように舞った。
やはり天界にいた頃に比べれば威力は落ちている、が、勘は鈍っていないようだ。
死体の落ちた先に群がるはバグラス、これまた魔物の死体を餌にする魔物だ。一匹一匹はコバエのようなものだが、集団で囲まれると厄介な魔物だったはず。
死体が消えて散らばられる前にまとめて殺したいところだ。
「炎の精霊よ、我に従え。彼の者らを燃やし尽くせ――炎界」
炎の幕を薄く広げてバグラスを囲い、周囲の木々ごと焼き尽くす。後に残るは焼け焦げた地面のみ。
こんなペースで次々と狩っていると、ものの半刻ほどで周辺の魔物は消え去った。
……少しやりすぎたかもしれない。マスターの命と言えど、殺しすぎるのも考え物だ。
だが、数を狩ったので恐らくそこそこの量のDPが手に入っているはず。以前の邪竜には遠く及ばないかもしれないが、きっとご満足いただけるだろう。
そろそろ戻るか、と転移しようとした、その時。
遠くに人影が見えた。
この何もない草原を、真っ直ぐ迷宮に向かって進んでくる。
目的が迷宮だというのは火を見るよりも明らか。
引きつけてから迎撃するか、いや、やはり先手必勝だろうか?
今なら詠唱も省略せず最高火力で焼き払える。
――いや、まずはマスターに連絡だ。ここなら、迷宮からもそう遠くない。念話も届くはず。
(マスター)
(お、レルアか。どうした?)
(迷宮へ向かってくる人影を確認しました。いかが致しますか?)
少しの間のあとに、返答がくる。
(今は放っておいていい。敵意があるかどうかも分からないしな。ただ、一応入口のゴーストには伝えとくよ、ありがとう)
(いえ、感謝されるほどのことでは。只今より帰還します)
(了解ー)
確かに、あちら側が危害を加えてきた訳でもない。そんな相手をいきなり焼き払うなんて言語道断というものだろう。危ないところだった。
また、仮に攻めてくるとしても、先手を打っておく必要はない。迷宮付近、内部まで来たところでいくらでも対処できる。指導役らしきBランク冒険者とやらであの程度だったのだから、この世界においても私の力が上位にあるのは確かだ。
そんなことを考えながら、私は迷宮入り口へ転移した。
* * *
草原を、エクィトスに跨がり疾走する男が五人。
「隊長、やっぱり帰りませんか? 一度班を再編成した方が……」
「何を抜かす。これは我々に与えられた立派な任務だ。遂行せずして何とするか」
「隊長も見ましたよね? あの火柱に雷撃! 巻き起こる竜巻! 吹き荒れる吹雪! 降り注ぐ大岩――」
「この腑抜けが!」
隊長に一喝された気の弱そうな男は、その威圧に押され黙り込む。
「どうせ、謎の魔力反応ってのもどっかの馬鹿な魔術師が魔力暴走起こしただけだろ。その影響で、魔物の使う魔術が全て異常なまでに強化されてるだけさ」
「で、でも先輩、この辺りにあんな魔術を使う魔物はいなかったはず……」
「魔物といえば、ここに来る途中全く出会さなかっただろう? きっとあの魔力が濃い部分に密集してるんだ、気を引き締めていくぞ」
そう、本来こんな辺境に複数の属性の魔術を使える魔物など存在しない。魔術が使える魔物でも風属性がそのほとんどを占めている。
いかに魔力暴走と言えども属性を変更することなど出来ない。そんなことは、とうにこの場にいる五人全員が理解していた。
――何かがおかしい。
「かなり魔力が濃く……ん、何か見えてきたな。あれは家、か?」
――シレンシア騎士団遊撃隊の五人組は、既に迷宮の近くまで迫っていた。
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