転生ニートは迷宮王

三黒

文字の大きさ
上 下
4 / 252
第1章

4 はぐれ邪竜

しおりを挟む
***レルア視点です。***



 やはり、マスター呼びはまずかったのだろうか――迷宮の外に出てからふと考える。
 しかし、こちらへ来る前に読んだ「勇者補佐の心得」には迷宮王の呼び方は載っていなかった。一般的に迷宮の王はマスターと呼ぶとマスター自身の記憶にあったのだが。

「笑われてしまいました」

 だがそれは決して嘲笑などではなかった。不快に思われた様子もなかったし、良しとしよう。
 それよりも。

「これが、世界……」

 草原に吹く心地よい風、あたたかな日差し、草木のこすれあう音、その全てが私には新鮮だ。
 ずっと、ずっとこの世界に憧れ続けた。天界で知識として得た世界が、目の前に広がっている。
 知識の中の少年、あるいは少女のように、この草原を駆け回りたい――

 ――遠くに竜種の鳴き声がした。どうやら浮かれている場合ではないようだ。
 気持ちを落ち着かせ、竜種の気配を探る。
 迷宮側の存在が他の魔物や敵対生物を殺した場合、その数や質に応じてDPとやらが入るらしい。私は使い魔に属するはずなので、恐らく迷宮側の存在として数えられるだろう。
 迷宮への侵入の危険はないだろうが、本来この辺りに竜種は生息しないはず。はぐれだろうか?
 ひとまず竜種の背後に転移する。

「こんにちは」
「ッルルォォォ!!」

 竜種が振り向きざまに放った一撃は空を薙いだ。私の背丈程もある凶悪な爪が鈍く光る。
 ほんの少し魔力をちらつかせただけでこれなら、確実に邪竜だ。堕ちているならば狩っても邪竜教以外からはお咎めがない。……そんな邪教はとうに廃れているが。

「土の精霊よ、我に従え。彼の者を拘束せよ――土鎖グライド

 地中から数本の鎖を呼び、黒く変色しかけた緑色の鱗を抉って拘束する。
 どうやら、力が天界での二割ほどに制限されているようだ。鎖が細く貧弱だし、数も少ない。

「ォ゛ォォォ!!!」

 邪竜が痛みにのた打ち回る。地は揺らぎ、亀裂が走った。鎖はもう数十秒と持たないだろう。にわかには信じがたい強度だが、これも受け入れるしかない。

「っ」

 竜種の放った鎌鼬が私の頬を掠めた。この程度眠っていても躱せたはずだが、反応速度までも鈍っているというのだろうか。

「加護を――治癒ヒール

 擦り傷を治している間に振り解かれる。なんという油断。仮にも戦闘中に掠り傷を治そうとするとは。
 だが、幸運なことに既に邪竜は瀕死だった。連続で鎌鼬を放つこともせず、ただ地に這いつくばっている。

「では、失礼。地の底に眠る焔よ、今この場に顕現せよ――イルズ

 天を突くような業火で邪竜の全身を包み込む。断末魔の叫びは燃え盛る火炎に掻き消された。
 頃合いを見て火を消すと、そこにはまだ黒焦げの死体が残っていた。

「確か……」

 死体が消えていく。やはりそうか。
 殺した相手は全てその場でDPに変換されるらしい。まともな竜種には遠く及ばないにしろ、DPも少なくない量が入手できているはずだ。

「戻るとしましょう」

 何故か転移先に迷宮が指定できなかったので、私は迷宮の入り口に転移する。



***



「なっ……」

 私は迷宮を見て驚愕した。
 洞窟の入り口があったはずの場所には、一軒家のようなものが建っていた。木造二階建て、この世界での一般的な一軒家だ。
 トントントン、と軽くドアをノックしてみる。

「はーい」

 マスターの声ではない。若い女性のような声だ。
 ドアが開く。

「どなたでしょう?」
「――!」

 ……知らない顔だ。思わず身構える。
 室内にはこの女を含めて計四人の男女がいた。一見普通の家族にしか見えない。
 集中して魔力を量る。一般人と同程度だ。その気になれば瞬殺できる。
 人間ではない。となるとゴーストだろうか? 無詠唱の聖浄リファイスならば今すぐにでも撃てるが、どうするか。
 母親然とした女が口を開く。

「あ、レルア様ですね。お帰りなさいませ! 迷宮内部は既に強化された転移無効の結界が張ってありますので、こちらの転移門ゲートをお使いください」
「……失礼ですが、あなた方は?」
「自己紹介が遅れ申し訳ございません。マスターによって生み出されたゴーストの一種です。迷宮外の環境にも適応できるよう、一般人程度の魔力タンクをいただいています」
「ふむ、なるほど」

 確かに、集中して魔力を探ればマスターの「色」を感じる。どうやら嘘は言っていないようだ。
 こちらの世界では迷宮の"外側"にも気を遣わなければならない。外装も含め考えることは多いのだろう。
 私は警戒を解くと、転移門ゲートへと向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた

ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。 遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。 「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。 「異世界転生に興味はありますか?」 こうして遊太は異世界転生を選択する。 異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。 「最弱なんだから努力は必要だよな!」 こうして雄太は修行を開始するのだが……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

外れジョブ「レンガ職人」を授かって追放されたので、魔の森でスローライフを送ります 〜丈夫な外壁を作ったら勝手に動物が住み着いて困ってます〜

フーツラ
ファンタジー
15歳の誕生日に行われる洗礼の儀。神の祝福と共に人はジョブを授かる。王国随一の武門として知られるクライン侯爵家の長男として生まれた俺は周囲から期待されていた。【剣聖】や【勇者】のような最上位ジョブを授かるに違いない。そう思われていた。 しかし、俺が授かったジョブは【レンガ職人】という聞いたことないもないものだった。 「この恥晒しめ! 二度とクライン家を名乗るではない!!」 父親の逆鱗に触れ、俺は侯爵領を追放される。そして失意の中向かったのは、冒険者と開拓民が集まる辺境の街とその近くにある【魔の森】だった。 俺は【レンガ作成】と【レンガ固定】のスキルを駆使してクラフト中心のスローライフを魔の森で送ることになる。

処理中です...