30 / 35
負けない強さは全て君にもらった-1
しおりを挟む私は、夏休みが終わっても生きていた。
はぁっと深いため息を吐いて、教室の前で立ち尽くす。
クラスメイトたちのメッセージを無視したまま、学校が始まってしまった。
どんな反応が来るか、恐怖で足が震える。
今までの嫌がらせよりひどいかもしれない。
それでも、学校に来ないという選択肢はなかった。
怖くて仕方ないけど、ワタくんのためだからと決意して来た。
ワタくんが、私が普通の日常を送ることを望んだから。
できることなら、学校を全部休んで、ワタくんの隣で色々な話をしたかった。
でも、ワタくんを困らせたいわけではないし、それは私のワガママだとわかっている。
だから、こうやって学校に来たんだけど……
教室の扉がいつもより、やけに重く感じられる。
横にぐっと引っ張れば、ガララという音を立ててしまった。
すでに登校していたクラスメイトたちが、一斉にこちらを見る。
西音さんともばっちり目が合ってしまった。
「おはよう!」
お腹の底から出した声は、教室に響き渡る。
クラスメイトたちは、シィーンっと黙り込んだ。
そして、普通の顔で「おはよー」と返事をしてくれる。
もしかして、私がメッセージを無視し続けてる間に、飽きた?
期待が胸の奥から膨らんでいく。
そんなことで飽きる人たちだとは思えないけど……そうだったら、いい。
西音さんも普通の表情で「おはよー」とだけ、返してくれた。
本当に、終わったのかもしれない。
ホッとしながら、席に着く。
机の中にもいたずらの痕跡はない。
終わった……
こんなあっさりと終わるだなんて。
なんとも言えない感情が胸の中を駆け巡っていく。
スマホがポケットの中で揺れて、メッセージを知らせる。
取り出せば、ワタくんからの「学校着いた? 新学期だよね?」という心配のメッセージだった。
安心させる文面を作って、送り返す。
あとで、学校内の写真でも撮って送ろう。
私が学校に行くのを辞めることを、本当に心配していたから。
* * *
久しぶりの学校は、何事もなく終わる。
今日は始業式だから、お昼までの短縮授業でよかった。
安心した気持ちを胸にしまいながら、急いで教室を取り出す。
ワタくんの口ぶりから、残された時間は多くないことを知っていたから。
見慣れたビルを見上げながら、ちょうど一階にあるエレベーターに飛び乗った。
早く早くと気持ちが急く。
今日は元気だから屋上に来てるよ、とワタくんはメッセージに書いていた。
元気な姿を見て、少しでも安心したい。
そんな気持ちが、ボタンを押す指を急かす。
エレベーターがぐんぐんと上昇していくにつれて、私の気持ちも一緒に上昇していく。
いじりが無くなったことを報告したら、ワタくんは喜んでくれるかな。
チンっと楽しそうな音を鳴らして、エレベーターの扉が開いた。
屋上の扉を開けば、瑞々しい野菜たちが出迎えてくれる。
畑の周りには人がまばらにいて、お互いの野菜を交換したりしてた。
その中にサイトウさんも居て、いつものようにスーツ姿で、野菜をカゴいっぱいに詰めている。
涼しげな風が、私の制服をひらひらと揺らす。
押さえながら空を見上げれば、白いトマトみたいな雲がゆっくりと流れていた。
今日の空も、青々と輝いていてキレイだ。
胸いっぱいに、空気を吸い込む。
手を伸ばせば、雲も掴めそうな気がするくらい、澄んでいる。
ペントハウス横のベンチに顔を向ければ、ワタくんは真剣な表情でカタカタとパソコンに打ち込んでいた。
邪魔をしないように、ゆっくり足音を立てずに近づく。
ピタリ、止まったかと思えば、急に私の方を見る。
「気づいてるよ」
イタズラっぽい笑顔で、こちらに顔を向けてパソコンを閉じる。
カバンに入れようとした瞬間、強い風がワタくんのブランケットを持っていきそうになった。
慌てて駆け寄って、ブランケットを押さえる。
「ありがと、ごめんごめん」
素直に感謝しながら、ワタくんはブランケットを掛け直した。
微かに触れた太ももが前よりも、明らかに細くなってる。
ごはんすら、まともに食べられていないのかもしれない。
ワタくんの状況を想像して、私の方が泣きたくなる。
どれくらい、しんどいのか。
それなのにどうして、屋上に来たのか。
元気だから屋上に行くよという言葉は、嘘だったのかとも思った。
でも、今の状況の中では元気なのかもしれない。
気付かないふりをして、ワタくんの隣のベンチに座る。
太陽を吸収したのか、ベンチは熱くなっていた。
「ワタくん、小説見せてくれないねぇ」
病状には触れず、ふざけたように口にすれば、「完結してないからね」と答えてくれる。
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
女子高生のワタクシが、母になるまで。
あおみなみ
青春
優しくて、物知りで、頼れるカレシ求む!
「私は河野五月。高3で、好きな男性がいて、もう一押しでいい感じになれそう。
なのに、いいところでちょいちょい担任の桐本先生が絡んでくる。
桐本先生は常識人なので、生徒である私にちょっかいを出すとかじゃなくて、
こっちが勝手に意識しているだけではあるんだけれど…
桐本先生は私のこと、一体どう思っているんだろう?」
などと妄想する、少しいい気になっている女子高生のお話です。
タイトルは映画『6才のボクが、大人になるまで。』のもじり。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる