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会えなくても大切な人には変わりないから-2
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信じられなくて、目を丸くする。
バカじゃないの。
違う、バカは私だ。
会いたいからって、ワタくんが体が弱いと言っていたことも忘れて、会いに来た私がバカだ。
両親は? と喉元まで出かかって、ぐっと押し込んだ。
玄関は相変わらず、靴もほとんど置かれていないし、部屋の中はただ沈黙が流れている。
ワタくんは、体調が悪いことすら、親にも隠しているのだろう。
この前泊めてもらった部屋を思い出す。
リビングの横だったから、階段を登るよりはたどり着くのは楽なはず。
ワタくんの右腕を肩に掛けて、力を入れる。
すんなりと持ち上がった軽さに、足元がふらついてしまいそうだった。
それでも、私の力はたかが知れてる。
軽々と持ち上げることはできず、肩を貸して歩くのが精一杯。
この前の部屋に入って、ワタくんを壁に寄り掛からせる。
「緊急事態だから、ごめんね」
謝りながら、布団を勝手に押し入れから取り出して敷き始める。
ワタくんは、笑顔を作ったまま、壁にもたれて話を続けようとした。
「玉ねぎ、持って来てくれたんでしょ」
「黙ってて!」
つい語気が強くなる。
ワタくんは底抜けのバカだ。
そんなに体調が悪いくせに。
でも、その優しさに私はずっと甘え続けていた。
ワタくんの中で、私は……そういう存在なんだ。
自覚して、瞳が潤んでくる。
布団を敷き終わり、ワタくんを布団に転がせばモゾモゾとおとなしく入っていく。
「来てくれたのにごめん」
「ごはんは? 食べられる?」
「うーん、ちょっとだけ、なら」
悩んでから小さく答えるから「わかった」とだけ告げる。
このままワタくんを置いていくのは、怖い。
でも、この家に何があるかわからない。
「ちょっとだけ出るから寝てて」
汗ばんだ髪の毛をそっと撫でる。
ワタくんの頬が緩んで、無理に作っていたであろう笑顔が和らいだ。
ワタくんの家を出ながら、スマホを取り出して父の電話番号を探す。
ぷるるるっというワンコールでお父さんは、電話に出た。
「もしもし」
「あ、お父さん。私、今日、友だちの家に泊まる! 両親いないのにすごい熱出してて、看病したくて。急でごめんなさい、でも、一人にできない」
焦った言葉は空回ってる。
父は、一瞬黙り込んだが、私の焦ってる様子に気づいたようだ。
そして、「わかった。何かあったらすぐ連絡しなさい」と言ってくれる。
「ありがとう。お母さんには伝えておいて。ごめんなさい」
電話を切って、近くのコンビニまで走る。
来た道の途中にあったはずだ。
食べられそうもの、冷やすやつ。薬は、わからない。
ただの風邪なのかも。
体が弱いって言ってたから持病なのかも。
私には何もわからない。
急いでワタくんの家に戻る。
ワタくんの様子を確認しに部屋に入れば、すうっと小さい寝息を立てて眠っていた。
安心して、リビングに戻ってキッチンを借りる。
サイトウさんがくれた玉ねぎと、買って来たパン。
オニオングラタンスープを作って、紙皿に注ぐ。
少しでも食べて、元気になってくれればいい。
買って来たタオルも水で冷やす。
用意したものを全て持って、先ほどの部屋に戻れば、ワタくんの呻き声が聞こえた。
「うぅ……いやだ……一人で……」
「ワタくん……?」
「死にたくない」
聞こえた言葉に耳を疑う。
今、死にたくないって言った?
それほど、ワタくんの体は悪いの?
泣いているワタくんの肩を優しくさする。
ハッと目を開けたワタくんが、涙を袖で拭って起きあがろうとした。
背中を支えてあげれば、ワタくんは「ごめんね」と小さく謝罪した。
「オニオングラタンスープ、飲めそう?」
「一口貰うよ」
スプーンと紙皿を渡そうとすれば、ワタくんの手がプルプルも震えている。
渡すのをやめて、スプーンを構えた。
「はい、アーンして」
「えっ」
「アーン!」
ぐいっとスプーンをワタくんの口に近づければ、おとなしく飲み込む。
ごくんっと喉が動いて、ワタくんのお腹がらぐううっと鳴った。
「おいしい」
小声で呟くから、ついニンマリしてしまう。
よかった、まだ、ごはんは食べられる。
行き場のない焦燥感が、体を巡っている。
ワタくんに気づかれないようにと、スープを次から次へと口に差し出す。
結局、ワタくんは私が作ったスープを全て完食した。
ホッとしたら、私の力が抜けてしまった。
座ったまま、ふらふらとワタくんの膝に倒れ込む。
「よかったぁ……」
「ごめん、心配かけて」
「お互い様だからそれはいいんだけど。言ってよ、体調悪いから助けてって」
私が言えることじゃない。
でも、言って欲しかった。
一人で辛い思いをするくらいなら、助けを求めて欲しかった。
思ったよりもワガママな自分の胸のうちに、自分自身で変な気持ちになる。
私はそれくらい、ワタくんが大切だったんだ。
「ありがとう」
「ご両親には連絡した?」
「忙しい人たちだから。それに、いつものことなんだ、大丈夫」
少し落ち着いたのか、呼吸も落ち着き始めてる。
タオルを差し出せば、ワタくんは汗を拭い始めた。
首元が見えて、どきんと胸が鳴る。
「ワタくん、そんなに調子悪いの?」
「え、うーん、時々あるんだ」
見ないように声をかければ、わざとらしい作った声が返ってきた。
ワタくんの顔を見れば、また嘘の笑顔。
目の奥が、辛いと言っていた。
「嘘つき」
「えー?」
「わかるよ、それくらい」
ぽつりと言葉にする。
ワタくんは、また「ごめん」と小さく謝った。
私は、謝罪が欲しくてそんなことを言ったんじゃないのに。
先ほどのうなされていた寝言は、本当なんだと思う。
これを聞くのは多分、残酷だ。
でも私は最低な性格をしていて、自己中心的な人間だから聞く。
「ワタくんは、死ぬの?」
はっきりと言葉にすれば、体が芯から震える。
そんな事実ないって、嘘だって、本当の顔で言って欲しかった。
でも、ワタくんはまた嘘の笑顔を見せる。
バカじゃないの。
違う、バカは私だ。
会いたいからって、ワタくんが体が弱いと言っていたことも忘れて、会いに来た私がバカだ。
両親は? と喉元まで出かかって、ぐっと押し込んだ。
玄関は相変わらず、靴もほとんど置かれていないし、部屋の中はただ沈黙が流れている。
ワタくんは、体調が悪いことすら、親にも隠しているのだろう。
この前泊めてもらった部屋を思い出す。
リビングの横だったから、階段を登るよりはたどり着くのは楽なはず。
ワタくんの右腕を肩に掛けて、力を入れる。
すんなりと持ち上がった軽さに、足元がふらついてしまいそうだった。
それでも、私の力はたかが知れてる。
軽々と持ち上げることはできず、肩を貸して歩くのが精一杯。
この前の部屋に入って、ワタくんを壁に寄り掛からせる。
「緊急事態だから、ごめんね」
謝りながら、布団を勝手に押し入れから取り出して敷き始める。
ワタくんは、笑顔を作ったまま、壁にもたれて話を続けようとした。
「玉ねぎ、持って来てくれたんでしょ」
「黙ってて!」
つい語気が強くなる。
ワタくんは底抜けのバカだ。
そんなに体調が悪いくせに。
でも、その優しさに私はずっと甘え続けていた。
ワタくんの中で、私は……そういう存在なんだ。
自覚して、瞳が潤んでくる。
布団を敷き終わり、ワタくんを布団に転がせばモゾモゾとおとなしく入っていく。
「来てくれたのにごめん」
「ごはんは? 食べられる?」
「うーん、ちょっとだけ、なら」
悩んでから小さく答えるから「わかった」とだけ告げる。
このままワタくんを置いていくのは、怖い。
でも、この家に何があるかわからない。
「ちょっとだけ出るから寝てて」
汗ばんだ髪の毛をそっと撫でる。
ワタくんの頬が緩んで、無理に作っていたであろう笑顔が和らいだ。
ワタくんの家を出ながら、スマホを取り出して父の電話番号を探す。
ぷるるるっというワンコールでお父さんは、電話に出た。
「もしもし」
「あ、お父さん。私、今日、友だちの家に泊まる! 両親いないのにすごい熱出してて、看病したくて。急でごめんなさい、でも、一人にできない」
焦った言葉は空回ってる。
父は、一瞬黙り込んだが、私の焦ってる様子に気づいたようだ。
そして、「わかった。何かあったらすぐ連絡しなさい」と言ってくれる。
「ありがとう。お母さんには伝えておいて。ごめんなさい」
電話を切って、近くのコンビニまで走る。
来た道の途中にあったはずだ。
食べられそうもの、冷やすやつ。薬は、わからない。
ただの風邪なのかも。
体が弱いって言ってたから持病なのかも。
私には何もわからない。
急いでワタくんの家に戻る。
ワタくんの様子を確認しに部屋に入れば、すうっと小さい寝息を立てて眠っていた。
安心して、リビングに戻ってキッチンを借りる。
サイトウさんがくれた玉ねぎと、買って来たパン。
オニオングラタンスープを作って、紙皿に注ぐ。
少しでも食べて、元気になってくれればいい。
買って来たタオルも水で冷やす。
用意したものを全て持って、先ほどの部屋に戻れば、ワタくんの呻き声が聞こえた。
「うぅ……いやだ……一人で……」
「ワタくん……?」
「死にたくない」
聞こえた言葉に耳を疑う。
今、死にたくないって言った?
それほど、ワタくんの体は悪いの?
泣いているワタくんの肩を優しくさする。
ハッと目を開けたワタくんが、涙を袖で拭って起きあがろうとした。
背中を支えてあげれば、ワタくんは「ごめんね」と小さく謝罪した。
「オニオングラタンスープ、飲めそう?」
「一口貰うよ」
スプーンと紙皿を渡そうとすれば、ワタくんの手がプルプルも震えている。
渡すのをやめて、スプーンを構えた。
「はい、アーンして」
「えっ」
「アーン!」
ぐいっとスプーンをワタくんの口に近づければ、おとなしく飲み込む。
ごくんっと喉が動いて、ワタくんのお腹がらぐううっと鳴った。
「おいしい」
小声で呟くから、ついニンマリしてしまう。
よかった、まだ、ごはんは食べられる。
行き場のない焦燥感が、体を巡っている。
ワタくんに気づかれないようにと、スープを次から次へと口に差し出す。
結局、ワタくんは私が作ったスープを全て完食した。
ホッとしたら、私の力が抜けてしまった。
座ったまま、ふらふらとワタくんの膝に倒れ込む。
「よかったぁ……」
「ごめん、心配かけて」
「お互い様だからそれはいいんだけど。言ってよ、体調悪いから助けてって」
私が言えることじゃない。
でも、言って欲しかった。
一人で辛い思いをするくらいなら、助けを求めて欲しかった。
思ったよりもワガママな自分の胸のうちに、自分自身で変な気持ちになる。
私はそれくらい、ワタくんが大切だったんだ。
「ありがとう」
「ご両親には連絡した?」
「忙しい人たちだから。それに、いつものことなんだ、大丈夫」
少し落ち着いたのか、呼吸も落ち着き始めてる。
タオルを差し出せば、ワタくんは汗を拭い始めた。
首元が見えて、どきんと胸が鳴る。
「ワタくん、そんなに調子悪いの?」
「え、うーん、時々あるんだ」
見ないように声をかければ、わざとらしい作った声が返ってきた。
ワタくんの顔を見れば、また嘘の笑顔。
目の奥が、辛いと言っていた。
「嘘つき」
「えー?」
「わかるよ、それくらい」
ぽつりと言葉にする。
ワタくんは、また「ごめん」と小さく謝った。
私は、謝罪が欲しくてそんなことを言ったんじゃないのに。
先ほどのうなされていた寝言は、本当なんだと思う。
これを聞くのは多分、残酷だ。
でも私は最低な性格をしていて、自己中心的な人間だから聞く。
「ワタくんは、死ぬの?」
はっきりと言葉にすれば、体が芯から震える。
そんな事実ないって、嘘だって、本当の顔で言って欲しかった。
でも、ワタくんはまた嘘の笑顔を見せる。
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