白い塔―ある社会への風刺―

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ある社会への風刺

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 その国の中心には大きな塔が建っていた。その塔は、白く、窓も飾りもついていないのっぺりとした塔だった。

 塔の中には、この国の住民が全員住んでいた。住民は塔の中で、5歳になったら皆同じ仕事に就くことになっていた。それは、エネルギーを生み出す仕事だ。塔の中の大部分の空間はエネルギーを生み出すための機関になっている。その機関は、歯車のようなものが無数についており、歯車が回ることでエネルギーを生み出せるようになっている。子供たちはその歯車を回す仕事に就く。最初は小さな歯車から、成長していくにつれて段々と大きな歯車を回す仕事に就いていく。そして、もう歯車を回すほどの体力も少なくなってくるような老人になると、彼らは仕事から解放されて自由に過ごすことが許されるようになる。
 塔の中での生活は、住民が生み出すエネルギーによって賄われていた。彼らの所有している機関が生み出すエネルギーは、万物に変換することができた。食事、衣類、水、熱、電気、ありとあらゆるものに変換することができた。塔の中で歯車を回す仕事に就いていると、その日の仕事に対して、食べ物や飲み物などが与えられるようになっており、労働者も生活には不自由していなかった。
 一方、老人達は、生み出されたエネルギーを自由に変換することができる権利を与えられていた。彼らはもっぱら、自分たちの満足のために食事にエネルギーを変換させていた。

 ある日のこと、彼ら住民の長が住民に大事な話があるといって話し始めた。彼の話では、この塔の機関が経年劣化してきたためか、今までよりも多く歯車を回さないと、今までと同じだけのエネルギーが生み出せなくなった、とのことだった。労働者たちは今までよりも長い時間を労働にあてることになってしまった。
 労働にあてる時間は、長い年月が経つにつれて次第に増えていった。多くの労働者が疲弊していった。すると、今度は仕事のために他人と関わる時間が減り、労働者に分け与えられる食事も少なくなっていったことから、塔の中の子供の数が次第に減っていった。
 ある日のこと、彼ら住民の長が住民に大事な話があるといって話し始めた。彼の話では、この塔の中の子供の数が減って人手が足りないので老人にも働いてもらう、とのことだった。仕事を辞めて自由に過ごしていた老人達も、健康であれば歯車を回す仕事を続けることになった。

 それでも、塔の中の子供の数は年々減っていき、老人の数が増えていく一方だった。塔の中の機関も、どれだけ歯車を回しても生み出せるエネルギーは年々減っていく一方だった。住民一人が使えるエネルギーの量も年々減っていった。住民の中には、この先の未来に絶望して自殺する者もいた。塔から逃げ出す者もいた。
 そして塔からは若者がいなくなり、老人達だけになってしまった。老人達もどうにか自分で歯車を回してエネルギーを生み出していたが、次第にそれもできなくなっていってしまった。
 そして最後には、塔の中には誰もいなくなった。
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