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第1章 商業都市『ベレンツィア』聖カルメア教会 初任務 編
9.モリリス修道士の密告
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『――コン、コン、』
次の作戦を練ろうという矢先に、3人の部屋のドアが外からノックされた。
「――おや、誰だろう?フーゴ神父かな?は~い、今、開けますよ」
エルがドアを開けると、そこには3人と同じくらいの年格好の少年修道士が、きょろきょろと周りを気にしながら、立っていた。
「お部屋へ入れてください!僕はモリリス……イストランダへ、聖カルメア教会の危機を報告した修道士です!」
「!」
モリリス修道士は内緒話をするように、エルにそっと伝える。エルもドアの外を右左と目視し、周囲に誰もいないことを確認して、部屋へモリリス修道士を招き入れた。
モリリス修道士は、部屋の中に入ると、ほっとしたように、深く息をついた。
「はぁ~……僕は修道士のモリリスです。皆さんがいらっしゃるのを、この数日、まだかまだかと、心待ちにしていました」
「モリリス修道士……そうすると、きみがガレリア司祭の黒魔術的儀式を目撃したっていう、密告者なんだね?」
「はいっ!僕が、皆さんへ聖カルメア教会の禁書所持について報告をした、モリリスです!」
エルは、モリリスを足元から頭先まで観察した。くりくりとカールした栗毛でそばかすの目立つ、幼い見た目の少年修道士だ。――一方で、モリリスもエルをじっと見ている。
「……それにしても、報告書にも記しましたが、事はかなりの邪悪さなのに、いらっしゃった史徒様が、こんな、僕と同じくらいのちびっこだなんて……あの…、失礼ですが、大丈夫なのでしょうか…?」
「大丈夫じゃない。こいつはこれが初任務だし、なんていったって、かなりのおっちょこちょいだ」
エルの隣にやってきたリアードが、モリリスに向かって残酷にも言い放った。
「あぁっ…!神は、聖カルメア教会をお見捨てになられたのですね…!」
モリリスは、リアードの言葉にショックを受け、打ちひしがれている。
「――こら、リア!心配されるようなことを言うなよ!……心配には及ばないさ、モリリス修道士。
僕は、正真正銘、イストランダの史徒文書館から派遣されてきた、史徒のエルです!
モリリス修道士から報告をいただいた禁書については、僕らがしっかり引き受けます――神に誓って」
エルは、左手で胸元のロザリオに触れ、右手で魔法の杖を掲げた。
「『我らに静寂と沈黙を、≪サイレント≫』」
――すると、部屋の中にキラキラとした細かい粒子が満ち、ヴェールのように4人を包み込んだ。
「これで、たとえ聞き耳を立てる者がいようとも、この部屋の守秘義務は守られますよ。
さぁ、モリリス修道士!安心して、きみが見聞きしたことを、僕たちに話してみておくれよ」
◆
「――ガレリア司祭は、そんな感じで、『『大罪の黙示録』の所有者~…』だとか、『強欲の罪~…』だとか…
――全部は覚えていないですけど、呪文を唱えて、次の瞬間……ぱっと主祭壇の前から消えてしまったのです!そのとき、暗くてよく見えなかったですが、確かに手元には書物を開いていました!」
モリリス修道士は、あの晩のことを思い出しながら語り、恐怖に震えて興奮している。
エルは、顎に手を当てて考え込んでいたが、
「………何のことだろう?」
さっぱり訳がわからず、まったくお手上げだった。
「あぁっ…!なんと頼りない!」
そんなエルに、モリリス修道士は、また打ちひしがれた。
「……し、心配しないで、モリリス修道士!きみの証言から考えるに、やはりガレリア司祭は、その書物の魔力を利用して、夜な夜な何やら怪しい儀式を行っているようだね
――ほかに何か、知っていることはあるかい?」
「ほかには…そうですね。この聖カルメア教会では、夜な夜な、どこかから、獣のようなものが唸る声が聞こえるのです。ここは山や森からは遠いですから、獣の棲み処などは近くにないはずなのに。
皆は、地獄に通じる門が、聖カルメア教会にはあるのではないかと、恐れています」
モリリス修道士の話にピンときて、エルは訊ねた。
「獣の声!それは、いつ頃から?」
「僕は聖カルメア教会に来て、半年と間もないので、いつ頃からかは分かりません。
ただ、先輩修道士たちの話だと、もうずっと昔から、毎晩毎晩続いているのだと言っていました。
気味悪がって、皆、夜は自室から出ないように努めています」
「う~ん…ずっと昔からか……」
ならば、その獣の声は、アイリスの父親たちの件とは、関係ない?
――聖カルメアには実に奇妙なことが多い…多いのに、それが点在していて、線として繫がらない。
「……モリリス修道士、あなたの勇敢なる告発、無駄にはしません。必ず、僕たちが聖カルメア教会もモリリス修道士も、救ってみせます!」
エルは、左手で胸のロザリオへそっと触れ、≪サイレント≫を解いた。
「――さぁ!もうすぐ夕礼の時刻だよ。皆が動き出す前に、こっそりとここを出てください」
モリリス修道士は、来た時と同じように、ドアをそろ~っと開け、外をきょろきょろと確認した。誰もいないことを確認し、3人に向かってペコッとお辞儀をした。
「――あっ!モリリス修道士。今晩、またガレリア司祭が例の儀式をするかもしれない。
僕たちも、こっそり見たいんだ。前回目撃した時刻に合わせて、僕たちを案内してもらえないかい?」
モリリス修道士は、ぎょっとしている。
「ぼ、ぼくが案内するのですか!?あぁ、あんな恐ろしいものを、再び目の当たりにしないといけないなんて…!」
「これも、聖カルメア教会を救うためです。頼みますよ!勇敢なモリリス修道士」
モリリスは、上手く丸め込まれた気持ちになったが、これも神が自分に与えた使命であると思うことにして、なけなしの勇気を奮い立たせるのだった。
次の作戦を練ろうという矢先に、3人の部屋のドアが外からノックされた。
「――おや、誰だろう?フーゴ神父かな?は~い、今、開けますよ」
エルがドアを開けると、そこには3人と同じくらいの年格好の少年修道士が、きょろきょろと周りを気にしながら、立っていた。
「お部屋へ入れてください!僕はモリリス……イストランダへ、聖カルメア教会の危機を報告した修道士です!」
「!」
モリリス修道士は内緒話をするように、エルにそっと伝える。エルもドアの外を右左と目視し、周囲に誰もいないことを確認して、部屋へモリリス修道士を招き入れた。
モリリス修道士は、部屋の中に入ると、ほっとしたように、深く息をついた。
「はぁ~……僕は修道士のモリリスです。皆さんがいらっしゃるのを、この数日、まだかまだかと、心待ちにしていました」
「モリリス修道士……そうすると、きみがガレリア司祭の黒魔術的儀式を目撃したっていう、密告者なんだね?」
「はいっ!僕が、皆さんへ聖カルメア教会の禁書所持について報告をした、モリリスです!」
エルは、モリリスを足元から頭先まで観察した。くりくりとカールした栗毛でそばかすの目立つ、幼い見た目の少年修道士だ。――一方で、モリリスもエルをじっと見ている。
「……それにしても、報告書にも記しましたが、事はかなりの邪悪さなのに、いらっしゃった史徒様が、こんな、僕と同じくらいのちびっこだなんて……あの…、失礼ですが、大丈夫なのでしょうか…?」
「大丈夫じゃない。こいつはこれが初任務だし、なんていったって、かなりのおっちょこちょいだ」
エルの隣にやってきたリアードが、モリリスに向かって残酷にも言い放った。
「あぁっ…!神は、聖カルメア教会をお見捨てになられたのですね…!」
モリリスは、リアードの言葉にショックを受け、打ちひしがれている。
「――こら、リア!心配されるようなことを言うなよ!……心配には及ばないさ、モリリス修道士。
僕は、正真正銘、イストランダの史徒文書館から派遣されてきた、史徒のエルです!
モリリス修道士から報告をいただいた禁書については、僕らがしっかり引き受けます――神に誓って」
エルは、左手で胸元のロザリオに触れ、右手で魔法の杖を掲げた。
「『我らに静寂と沈黙を、≪サイレント≫』」
――すると、部屋の中にキラキラとした細かい粒子が満ち、ヴェールのように4人を包み込んだ。
「これで、たとえ聞き耳を立てる者がいようとも、この部屋の守秘義務は守られますよ。
さぁ、モリリス修道士!安心して、きみが見聞きしたことを、僕たちに話してみておくれよ」
◆
「――ガレリア司祭は、そんな感じで、『『大罪の黙示録』の所有者~…』だとか、『強欲の罪~…』だとか…
――全部は覚えていないですけど、呪文を唱えて、次の瞬間……ぱっと主祭壇の前から消えてしまったのです!そのとき、暗くてよく見えなかったですが、確かに手元には書物を開いていました!」
モリリス修道士は、あの晩のことを思い出しながら語り、恐怖に震えて興奮している。
エルは、顎に手を当てて考え込んでいたが、
「………何のことだろう?」
さっぱり訳がわからず、まったくお手上げだった。
「あぁっ…!なんと頼りない!」
そんなエルに、モリリス修道士は、また打ちひしがれた。
「……し、心配しないで、モリリス修道士!きみの証言から考えるに、やはりガレリア司祭は、その書物の魔力を利用して、夜な夜な何やら怪しい儀式を行っているようだね
――ほかに何か、知っていることはあるかい?」
「ほかには…そうですね。この聖カルメア教会では、夜な夜な、どこかから、獣のようなものが唸る声が聞こえるのです。ここは山や森からは遠いですから、獣の棲み処などは近くにないはずなのに。
皆は、地獄に通じる門が、聖カルメア教会にはあるのではないかと、恐れています」
モリリス修道士の話にピンときて、エルは訊ねた。
「獣の声!それは、いつ頃から?」
「僕は聖カルメア教会に来て、半年と間もないので、いつ頃からかは分かりません。
ただ、先輩修道士たちの話だと、もうずっと昔から、毎晩毎晩続いているのだと言っていました。
気味悪がって、皆、夜は自室から出ないように努めています」
「う~ん…ずっと昔からか……」
ならば、その獣の声は、アイリスの父親たちの件とは、関係ない?
――聖カルメアには実に奇妙なことが多い…多いのに、それが点在していて、線として繫がらない。
「……モリリス修道士、あなたの勇敢なる告発、無駄にはしません。必ず、僕たちが聖カルメア教会もモリリス修道士も、救ってみせます!」
エルは、左手で胸のロザリオへそっと触れ、≪サイレント≫を解いた。
「――さぁ!もうすぐ夕礼の時刻だよ。皆が動き出す前に、こっそりとここを出てください」
モリリス修道士は、来た時と同じように、ドアをそろ~っと開け、外をきょろきょろと確認した。誰もいないことを確認し、3人に向かってペコッとお辞儀をした。
「――あっ!モリリス修道士。今晩、またガレリア司祭が例の儀式をするかもしれない。
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モリリス修道士は、ぎょっとしている。
「ぼ、ぼくが案内するのですか!?あぁ、あんな恐ろしいものを、再び目の当たりにしないといけないなんて…!」
「これも、聖カルメア教会を救うためです。頼みますよ!勇敢なモリリス修道士」
モリリスは、上手く丸め込まれた気持ちになったが、これも神が自分に与えた使命であると思うことにして、なけなしの勇気を奮い立たせるのだった。
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