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第1章 商業都市『ベレンツィア』聖カルメア教会 初任務 編
7.いざ、聖カルメア教会へ
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「ふぇっ?!そ、そちらはどなた様……?」
「……教会には、獣の姿のままじゃ入れない。元の姿に戻っただけだ」
アイリスは、初めて見るリアードの真の姿に驚き、まじまじと足元から頭先まで視線を動かす。
黒髪の褐色肌の少年の姿だ――リアードは、心底面倒くさそうにそっぽを向いている。
「リアは、僕が『召喚魔獣ー伝説の聖獣編ー』で喚び起こした人狼なんだよ!アイリスの前でこの姿になるのは、初めてなんだっけ?」
隣では、エルがマントの紐をおたおたと結びながら、すっとぼけたことを言っている。
アイリスは昨日のリアードとのやり取りを思い出して、思わず頬を赤くした。
「さあ!いざ、聖カルメア教会へ乗り込もう!」
◆
――3人は、辿り着いた聖カルメア教会の前で、建物の全貌を眺めた。
そびえたつのは、荘厳な雰囲気に包まれた、美しい教会だ。4つの角に尖塔が立ち、正面の丸窓には薔薇ステンドグラスが嵌め込まれている。教会を一周するように囲った分厚い壁には、無数のガーゴイルの彫刻が施され、来るものを拒んでいるようにも、威嚇しているようにも感じられる。
エルは、扉についた獅子の彫刻が施されたドアノッカーを掴み、3回ノックした。
「――すみません。僕は、大聖堂都市『イストランダ』の聖ヨハネウス史徒文書館から派遣された、史徒の、エルです!こっちは、僕の使い獣…今は人の姿をしていますが、人狼のリアードです。道中で出会った、アイリスも一緒です。
――どなたか、いらっしゃいませんか?」
教会の中から返事はない。――エルは、再度ドアノッカーを掴んで、ドンドンドンっと扉を叩いた。
「すいませ~~んっ!どなたか、いらっしゃいませんか?僕は、史徒《ヒストリア》のエルと、使い獣の…人の姿をした人狼《ウルフ》で出会った、―――っいたた!」
扉は急に開かれ、中から厳格で生真面目そうな初老の神父が現れ、エルらを不機嫌そうに、ジロリと見た。神父の周りには、年若い少年修道士たちが、何事かと興味津々に覗いている。
「昼の礼拝中ですぞ。それを、大声でドカドカと…神の御前で、不謹慎極まりない!」
初老の――フーゴ神父は、眼鏡の下で目じりをピクピクさせ、相当に怒っている。
「あっ!すみませんでした。僕らは、えっと、エルと人で人狼の……」
「えぇ、えぇ、聞こえていましたとも。『イストランダ』の史徒殿が、こんなちびっこで、無礼者だとは思ってもみませんでした。……ここでは皆の目があります――何はともあれ、中で話を聞きましょう」
フーゴ神父は扉を大きく開き、3人を教会の中へと招き入れた。珍しいもの見たさで集まってくる少年修道士たちを叱りつけながら、回廊をどんどん進み、突き当りの部屋の前で止まった。
重厚なドアのその部屋は、司祭室だ。フーゴ神父が真鍮のドアノッカーを2回鳴らす。
「ガレリア司祭、来客です」
「どうぞ、お入りください」
中から、穏やかに歌うような声が聞こえた。――フーゴ神父がドアを開け、3人に部屋の中へ入るよう促した。
部屋の中は、アンティークの調度品で上品に整っている。壁には十字教国建国の神、聖ヨハネウスの像が嵌め込まれ、聖母帝マリア・テレアを象ったステンドグラス窓から色鮮やかな光が入り込んでいる。
――それを背景に、ガレリア司祭は、書斎机の前に立っていた。
「おや?これは随分と思いがけないお客様ですね」
ガレリア司祭は、目を見張って3人を眺めている――30代半ば程だろうか。ガレリア司祭はエルが想像していたより、随分と若かった。ブロンドの髪は肩につく長さで切り揃えられ、白い司祭服がよく似合う品のよい容姿をしている。
「ガレリア司祭、こちらは……本人が言うには、『イストランダ』から派遣されてきた、史徒殿だそうです。――名は、えっと…」
「初めまして、ガレリア司祭様!僕は、こちらの神父さんの紹介のとおり、イストランダの史徒文書館から派遣されてきた、史徒のエルです!こっちは僕の使い獣で、今は人の姿をしていますが、人狼のリアードです。――そして…」
エルがアイリスを紹介しようとするのを遮って、ガレリア司祭はついっと前へ進み出て、アイリスの手をとった。
「君は、ドリドルンの娘、アイリスですね!驚きました……私は、君がうんと小さい頃、ドラコーンの森で君と会っているのですよ」
アイリスは、ガレリア司祭の予想外の言葉に、目を見張った――ドリドルンたちのことで、後ろめたい気持ちがあるなら…きっと、ガレリア司祭はしらを切ると思っていたのだ。
「ふぇ?!ご、ごめんなさい!私、あんまり覚えていなくって…私はアイリスです。父ドリドルンから、聖カルメア教会に古い友人がいると聞いていました。ガレリア司祭様のことだったんですね」
「えぇ、私は聖職に就く以前は、生物学者をしていましてね。よく世界中を旅して、様々な生き物について研究したものです。
それで、ドラコーンの森の魔獣たちについても、とても興味深く思っていて、森へ探索に向かったのです。――しかし、森へ入ったはいいものの、道がわからなくなり遭難してしまい……
そんな時に、君の父ドリドルンに助けられたのですよ。アイリス、君にもその時に」
ガレリア司祭は、聖職者となった後も、ドリドルンとの交友を続けていたという。
アイリスは、ガレリア司祭にドリドルンたちの失踪について、切り出すべきか、それとも真相を探るためにも黙って様子を伺うべきか、一寸考えていた。
――すると、ガレリア司祭は、さらにアイリスに思いがけないことを話し始めた。
「……実は、ドリドルンのことは、私も気掛かりだったのです。
というのも、私は彼から、『アミリアの部族長を継承した。今年の冬季は都市へ一団を率いて出稼ぎにやってくる』、と便りをもらい聞いていました。
それで、働き口を探していると相談を受けていたのです。私は、友人の頼みならと、ちょうど職人ギルドでブルワイン河川工事の働き手を必要としていたので、紹介して差し上げたのですよ。
……しかし、ドリドルンは約束の時期になっても、現れませんでした」
――アイリスは、ガレリア司祭の言葉に、足元が崩れていくような絶望を感じた。
『聖カルメア教会に行く』という父の言葉だけを手掛かりに、森を出て、ここまでやって来たのだ。
父は、聖カルメア教会に辿り着く前に、何か事件に巻き込まれた――?アイリスは、これからどうやって父を探したらよいのかと、途方に暮れた。
「……教会には、獣の姿のままじゃ入れない。元の姿に戻っただけだ」
アイリスは、初めて見るリアードの真の姿に驚き、まじまじと足元から頭先まで視線を動かす。
黒髪の褐色肌の少年の姿だ――リアードは、心底面倒くさそうにそっぽを向いている。
「リアは、僕が『召喚魔獣ー伝説の聖獣編ー』で喚び起こした人狼なんだよ!アイリスの前でこの姿になるのは、初めてなんだっけ?」
隣では、エルがマントの紐をおたおたと結びながら、すっとぼけたことを言っている。
アイリスは昨日のリアードとのやり取りを思い出して、思わず頬を赤くした。
「さあ!いざ、聖カルメア教会へ乗り込もう!」
◆
――3人は、辿り着いた聖カルメア教会の前で、建物の全貌を眺めた。
そびえたつのは、荘厳な雰囲気に包まれた、美しい教会だ。4つの角に尖塔が立ち、正面の丸窓には薔薇ステンドグラスが嵌め込まれている。教会を一周するように囲った分厚い壁には、無数のガーゴイルの彫刻が施され、来るものを拒んでいるようにも、威嚇しているようにも感じられる。
エルは、扉についた獅子の彫刻が施されたドアノッカーを掴み、3回ノックした。
「――すみません。僕は、大聖堂都市『イストランダ』の聖ヨハネウス史徒文書館から派遣された、史徒の、エルです!こっちは、僕の使い獣…今は人の姿をしていますが、人狼のリアードです。道中で出会った、アイリスも一緒です。
――どなたか、いらっしゃいませんか?」
教会の中から返事はない。――エルは、再度ドアノッカーを掴んで、ドンドンドンっと扉を叩いた。
「すいませ~~んっ!どなたか、いらっしゃいませんか?僕は、史徒《ヒストリア》のエルと、使い獣の…人の姿をした人狼《ウルフ》で出会った、―――っいたた!」
扉は急に開かれ、中から厳格で生真面目そうな初老の神父が現れ、エルらを不機嫌そうに、ジロリと見た。神父の周りには、年若い少年修道士たちが、何事かと興味津々に覗いている。
「昼の礼拝中ですぞ。それを、大声でドカドカと…神の御前で、不謹慎極まりない!」
初老の――フーゴ神父は、眼鏡の下で目じりをピクピクさせ、相当に怒っている。
「あっ!すみませんでした。僕らは、えっと、エルと人で人狼の……」
「えぇ、えぇ、聞こえていましたとも。『イストランダ』の史徒殿が、こんなちびっこで、無礼者だとは思ってもみませんでした。……ここでは皆の目があります――何はともあれ、中で話を聞きましょう」
フーゴ神父は扉を大きく開き、3人を教会の中へと招き入れた。珍しいもの見たさで集まってくる少年修道士たちを叱りつけながら、回廊をどんどん進み、突き当りの部屋の前で止まった。
重厚なドアのその部屋は、司祭室だ。フーゴ神父が真鍮のドアノッカーを2回鳴らす。
「ガレリア司祭、来客です」
「どうぞ、お入りください」
中から、穏やかに歌うような声が聞こえた。――フーゴ神父がドアを開け、3人に部屋の中へ入るよう促した。
部屋の中は、アンティークの調度品で上品に整っている。壁には十字教国建国の神、聖ヨハネウスの像が嵌め込まれ、聖母帝マリア・テレアを象ったステンドグラス窓から色鮮やかな光が入り込んでいる。
――それを背景に、ガレリア司祭は、書斎机の前に立っていた。
「おや?これは随分と思いがけないお客様ですね」
ガレリア司祭は、目を見張って3人を眺めている――30代半ば程だろうか。ガレリア司祭はエルが想像していたより、随分と若かった。ブロンドの髪は肩につく長さで切り揃えられ、白い司祭服がよく似合う品のよい容姿をしている。
「ガレリア司祭、こちらは……本人が言うには、『イストランダ』から派遣されてきた、史徒殿だそうです。――名は、えっと…」
「初めまして、ガレリア司祭様!僕は、こちらの神父さんの紹介のとおり、イストランダの史徒文書館から派遣されてきた、史徒のエルです!こっちは僕の使い獣で、今は人の姿をしていますが、人狼のリアードです。――そして…」
エルがアイリスを紹介しようとするのを遮って、ガレリア司祭はついっと前へ進み出て、アイリスの手をとった。
「君は、ドリドルンの娘、アイリスですね!驚きました……私は、君がうんと小さい頃、ドラコーンの森で君と会っているのですよ」
アイリスは、ガレリア司祭の予想外の言葉に、目を見張った――ドリドルンたちのことで、後ろめたい気持ちがあるなら…きっと、ガレリア司祭はしらを切ると思っていたのだ。
「ふぇ?!ご、ごめんなさい!私、あんまり覚えていなくって…私はアイリスです。父ドリドルンから、聖カルメア教会に古い友人がいると聞いていました。ガレリア司祭様のことだったんですね」
「えぇ、私は聖職に就く以前は、生物学者をしていましてね。よく世界中を旅して、様々な生き物について研究したものです。
それで、ドラコーンの森の魔獣たちについても、とても興味深く思っていて、森へ探索に向かったのです。――しかし、森へ入ったはいいものの、道がわからなくなり遭難してしまい……
そんな時に、君の父ドリドルンに助けられたのですよ。アイリス、君にもその時に」
ガレリア司祭は、聖職者となった後も、ドリドルンとの交友を続けていたという。
アイリスは、ガレリア司祭にドリドルンたちの失踪について、切り出すべきか、それとも真相を探るためにも黙って様子を伺うべきか、一寸考えていた。
――すると、ガレリア司祭は、さらにアイリスに思いがけないことを話し始めた。
「……実は、ドリドルンのことは、私も気掛かりだったのです。
というのも、私は彼から、『アミリアの部族長を継承した。今年の冬季は都市へ一団を率いて出稼ぎにやってくる』、と便りをもらい聞いていました。
それで、働き口を探していると相談を受けていたのです。私は、友人の頼みならと、ちょうど職人ギルドでブルワイン河川工事の働き手を必要としていたので、紹介して差し上げたのですよ。
……しかし、ドリドルンは約束の時期になっても、現れませんでした」
――アイリスは、ガレリア司祭の言葉に、足元が崩れていくような絶望を感じた。
『聖カルメア教会に行く』という父の言葉だけを手掛かりに、森を出て、ここまでやって来たのだ。
父は、聖カルメア教会に辿り着く前に、何か事件に巻き込まれた――?アイリスは、これからどうやって父を探したらよいのかと、途方に暮れた。
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