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第1章 商業都市『ベレンツィア』聖カルメア教会 初任務 編
6.『ベレンツィア』の夕飯テロと、作戦会議
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「やあ、アイリス!少し休んだら、そろそろお腹が空いてきただろう?
夕食がてら、『ベレンツィア』市街に出掛けてみよう!」
2人と1匹は、連れ立って宿を出て、すっかり空に星の瞬く、商業都市『ベレンツィア』の夜の街へと繰り出していった。
「雨のペンタクルは、部屋に入ってからすぐに僕が消したからね、すっかり天気もいいみたいだよ。――わぁ、星空がとっても綺麗だね!」
はしゃぐエルに、リアードは「雨も全部、お前の仕業だろう」と心の中で思ったが、狼の姿のままでは、悪態を吐くことはできなかった。
商業都市『ベレンツィア』は、街のいたる所に運河が張り巡らされた、東西の中継地として、商業で栄えた都市である。
昼間は、運河を商人たちが商売道具である香辛料やら果物やらの品物をゴンドラに乗せて運ぶ、活気ある風景が、至る所で見られる。
夜になると、オレンジ色の温かなガス街灯の光が点り、運河ではゴンドラに乗った吟遊詩人が楽器を奏で、商人らは夜通し歌い踊る――趣の深い街へと様変わりする。
運河に面した道には、レストランのテラス席がたくさん設けられ、どの店も大いに賑わっていた。
「う~ん、おいしいねぇ!僕、こんなおいしい食事、初めて食べたよ」
エルは口元にたくさん白いソースを付けながら、目の前の食事を頬張った。
――テーブルには、マッシュルームクリームのホワイトシチュー、チキンの香草オーブン焼き、トマトミートパイが並んでいる。熱々のおいしそうな料理を、2人と1匹は目をキラキラと輝かせて、夢中で頬張っていった
「大聖堂都市『イストランダ』の外には、こんなにもおいしいものが、たくさんあるんだね!
……僕たち、神様に仕えし史徒だから――いつもは、野菜と豆のスープに、ミルクで混ぜたマッシュポテト、固いパン……なんていう食事が、基本だからさ。
今度、文書館厨房長のオランジェさんに、食事の改善をお願いしてみようかな?」
よく喋るエルとは対照的に、テーブルの下では、リアードが黙々とチキンに齧り付いている。
アイリスはしゃがみこんで、リアードの口元にパイをちぎって運んでやった。リアードはアイリスの指ごとパクリと口に入れ、ぺろぺろ舐めた。
「あはは!もうリア、ダメだよ、くすぐったいよぉ」
「こら、リア!ぺろぺろしちゃ、ダメだろ。――アイリス、リアには僕が食べさせるから!」
ダメだろ、めっ!と叱るエルに、リアードは不満そうに唸ったが、すぐにまたチキンに夢中になった。
◆
――食事を終え、さて本題とばかりに、エルが話し始めた。
「――それで、広場での話の続きなんだけど……僕たちの初任務っていうのが、実は、『聖カルメア教会』の書庫に保管されている、書物の検閲なんだ」
アイリスは、ピンク色の瞳を、大きく見開き驚いている。
エルは、頭に叩き込んでいた初任務の『検閲許可書』を思い浮かべながら、話を続けた。
「――しかも、事の発端は聖カルメア教会の修道士からの内部告発だよ。
告発者の名前は、モリリス修道士。彼の告発によると、聖カルメア教会のガレリア司祭が、夜中に一人でこっそり聖堂で、何やら古書のようなものを広げて、黒魔術の類の儀式を行っていたというんだ。
――つまり、今回の任務は、その怪しげな古書の禁書記録をとることだよ」
エルの何やら不穏な説明に、アイリスは不安気な面持ちで、考え込んでいる。
「……お父さんたちの失踪と、その黒魔術に関する古書は――何か関係があるのかな…?」
「僕は2つの出来事は、関係があると思っているよ。だから、アイリスには話しておかないといけないと思ったんだ。――アイリス、明日、僕らと一緒に聖カルメア教会へ乗り込もう!」
エルは、ぱぁっと笑顔を向け、アイリスに手を差し伸べた。
アイリスの顔には、一瞬戸惑いの表情が浮かんだ――だがしかし、アイリスは意を決し、確かな覚悟をもって、エルの手を取った。
「うんっ!私だけじゃ、きっと真相に辿り着けない――エルの力を貸してほしい。お願い!私も一緒に連れていってください!」
エルとアイリスはしっかりと、手を取りあった。
エルは明日の詳しい作戦を語った。
「――いいかい?僕ら史徒は、表立って『禁書記録のための検閲に来ました!』、なんてことは言わないよ。相手が不審がるからね!
僕らは、『教会の書庫に、神に祝福されるに相応しい正典が見つかって、その認定記録を取りに来ました!』ってことにするんだ。そうすれば教会側は、僕らを歓迎して招き入れてくれるからね!
――ただし、ガレリア司祭……と仲間がいれば、その仲間は、僕らの動きを警戒するだろうね。
アイリスは外見からすぐにアミリア族であることが分かるから、ガレリア司祭が、アイリスのお父さんや魔獣たちの失踪に関係があるならば、尚更さ。そうなれば、ますます怪しい!
注意して、相手に気付かれないように――真相を探るんだ!」
アイリスは固唾を飲んで、ゆっくりと深く頷いた。
明日の朝――いよいよ、聖カルメア教会へと乗り込む。
夕食がてら、『ベレンツィア』市街に出掛けてみよう!」
2人と1匹は、連れ立って宿を出て、すっかり空に星の瞬く、商業都市『ベレンツィア』の夜の街へと繰り出していった。
「雨のペンタクルは、部屋に入ってからすぐに僕が消したからね、すっかり天気もいいみたいだよ。――わぁ、星空がとっても綺麗だね!」
はしゃぐエルに、リアードは「雨も全部、お前の仕業だろう」と心の中で思ったが、狼の姿のままでは、悪態を吐くことはできなかった。
商業都市『ベレンツィア』は、街のいたる所に運河が張り巡らされた、東西の中継地として、商業で栄えた都市である。
昼間は、運河を商人たちが商売道具である香辛料やら果物やらの品物をゴンドラに乗せて運ぶ、活気ある風景が、至る所で見られる。
夜になると、オレンジ色の温かなガス街灯の光が点り、運河ではゴンドラに乗った吟遊詩人が楽器を奏で、商人らは夜通し歌い踊る――趣の深い街へと様変わりする。
運河に面した道には、レストランのテラス席がたくさん設けられ、どの店も大いに賑わっていた。
「う~ん、おいしいねぇ!僕、こんなおいしい食事、初めて食べたよ」
エルは口元にたくさん白いソースを付けながら、目の前の食事を頬張った。
――テーブルには、マッシュルームクリームのホワイトシチュー、チキンの香草オーブン焼き、トマトミートパイが並んでいる。熱々のおいしそうな料理を、2人と1匹は目をキラキラと輝かせて、夢中で頬張っていった
「大聖堂都市『イストランダ』の外には、こんなにもおいしいものが、たくさんあるんだね!
……僕たち、神様に仕えし史徒だから――いつもは、野菜と豆のスープに、ミルクで混ぜたマッシュポテト、固いパン……なんていう食事が、基本だからさ。
今度、文書館厨房長のオランジェさんに、食事の改善をお願いしてみようかな?」
よく喋るエルとは対照的に、テーブルの下では、リアードが黙々とチキンに齧り付いている。
アイリスはしゃがみこんで、リアードの口元にパイをちぎって運んでやった。リアードはアイリスの指ごとパクリと口に入れ、ぺろぺろ舐めた。
「あはは!もうリア、ダメだよ、くすぐったいよぉ」
「こら、リア!ぺろぺろしちゃ、ダメだろ。――アイリス、リアには僕が食べさせるから!」
ダメだろ、めっ!と叱るエルに、リアードは不満そうに唸ったが、すぐにまたチキンに夢中になった。
◆
――食事を終え、さて本題とばかりに、エルが話し始めた。
「――それで、広場での話の続きなんだけど……僕たちの初任務っていうのが、実は、『聖カルメア教会』の書庫に保管されている、書物の検閲なんだ」
アイリスは、ピンク色の瞳を、大きく見開き驚いている。
エルは、頭に叩き込んでいた初任務の『検閲許可書』を思い浮かべながら、話を続けた。
「――しかも、事の発端は聖カルメア教会の修道士からの内部告発だよ。
告発者の名前は、モリリス修道士。彼の告発によると、聖カルメア教会のガレリア司祭が、夜中に一人でこっそり聖堂で、何やら古書のようなものを広げて、黒魔術の類の儀式を行っていたというんだ。
――つまり、今回の任務は、その怪しげな古書の禁書記録をとることだよ」
エルの何やら不穏な説明に、アイリスは不安気な面持ちで、考え込んでいる。
「……お父さんたちの失踪と、その黒魔術に関する古書は――何か関係があるのかな…?」
「僕は2つの出来事は、関係があると思っているよ。だから、アイリスには話しておかないといけないと思ったんだ。――アイリス、明日、僕らと一緒に聖カルメア教会へ乗り込もう!」
エルは、ぱぁっと笑顔を向け、アイリスに手を差し伸べた。
アイリスの顔には、一瞬戸惑いの表情が浮かんだ――だがしかし、アイリスは意を決し、確かな覚悟をもって、エルの手を取った。
「うんっ!私だけじゃ、きっと真相に辿り着けない――エルの力を貸してほしい。お願い!私も一緒に連れていってください!」
エルとアイリスはしっかりと、手を取りあった。
エルは明日の詳しい作戦を語った。
「――いいかい?僕ら史徒は、表立って『禁書記録のための検閲に来ました!』、なんてことは言わないよ。相手が不審がるからね!
僕らは、『教会の書庫に、神に祝福されるに相応しい正典が見つかって、その認定記録を取りに来ました!』ってことにするんだ。そうすれば教会側は、僕らを歓迎して招き入れてくれるからね!
――ただし、ガレリア司祭……と仲間がいれば、その仲間は、僕らの動きを警戒するだろうね。
アイリスは外見からすぐにアミリア族であることが分かるから、ガレリア司祭が、アイリスのお父さんや魔獣たちの失踪に関係があるならば、尚更さ。そうなれば、ますます怪しい!
注意して、相手に気付かれないように――真相を探るんだ!」
アイリスは固唾を飲んで、ゆっくりと深く頷いた。
明日の朝――いよいよ、聖カルメア教会へと乗り込む。
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