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雪月夜狐

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第7章:霧の真実と王都の陰

第48話 霧の気配と精霊たちのささやき

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市場での買い物を終え、優馬たちはギルドへ戻る道をゆっくりと歩いていた。王都の街並みはいつも通り賑やかで、子供たちの笑い声や商人たちの声があちこちから響いている。だが、そんな平穏の中にも、彼らの胸には不安な気持ちが重くのしかかっていた。

「……やっぱり、街のどこかで霧の気配がしている気がする」

優馬は少し足を止め、辺りを見回した。彼のリュックに入れていた「浄化の霧」のポーションが、微かに揺れているのだ。これは、霧の魔力に反応した時に起こる現象で、何かが近くで異常を起こしている証拠だった。

リリアもまた、精霊石を握りしめ、目を閉じて精霊たちの声を探っていた。彼女の周囲には、薄く柔らかな風が巻き起こり、その風が何かを伝えようとしている。

「優馬さん……精霊たちが街の北側、湖の近くで異変を感じているみたいです。何か、強い気配が近づいていると……」

「ふむ……市場からそう遠くない場所だな。ここで感じた霧の反応と関係しているかもしれない。行ってみるべきだ」

カイが杖を握り、鋭い視線で北の方角を見つめる。優馬とリリアも頷き合い、コハクが「ワン!」と勇ましく声を上げた。

「よし、なら今すぐ行ってみよう。何か大きな異変が起きる前に、先手を打たないと」

優馬はリュックを背負い直し、リリアとカイ、そしてコハクと共に足早に北へと向かった。

街を抜け、湖へと続く道を進むと、次第に周囲の空気が変わっていくのが感じられた。湖から吹き込む冷たい風に混じって、どこか不自然な冷たさが漂っている。

そして、湖のほとりに差し掛かると、そこにはぼんやりと黒い霧が漂っていた。霧は湖の水面を覆い、まるでそこに立つ者たちを拒むかのように揺らめいている。

「……やっぱり、ここにも霧が出ていたんだな」

優馬は浄化のポーションを手にし、カイとリリアに警戒の合図を送った。リリアは精霊石を掲げ、精霊たちに語りかける。

「精霊たち……どうか、この霧の中に潜む真実を教えてください」

その声に応じるように、リリアの周りに淡い緑色の光が集まり、彼女の目に霧の向こう側が映し出される。霧の中心には、やはりあの禍々しい黒い影がぼんやりと立っていた。

「……優馬さん、またあの影が。精霊たちが、何かを訴えています……」

リリアは必死に精霊たちの声を聞き取ろうとし、眉をひそめる。その姿を見て、優馬はすぐに「浄化の霧」を影に向かって投げつけた。

「今度は逃がさないぞ……行け、浄化の霧!」

ガラス瓶が霧の中で砕け散り、淡い光が周囲に広がっていく。浄化の光が影を包み込み、霧が僅かに後退するのが見えた。だが、影はしぶとくその場に留まり、さらに黒い霧を吹き出し始める。

「リリア、カイ、俺たちも霧を抑えるんだ! 精霊の風で霧を引き裂けるか?」

「はい……精霊の風よ、『エアロバースト』!」

リリアが叫ぶと、彼女の精霊石が強く輝き、風の刃が影に向かって放たれた。風が霧を巻き上げ、影の姿が露わになる。しかし、その姿は以前のものよりもさらに禍々しく、大きな角を生やしたような異形の姿だった。

「優馬、リリア、気をつけろ! こいつはただの霧ではない。精霊の力をさらに歪めて、自らを強化している……!」

カイの警告に、優馬は焦りを感じながらも「浄化の霧」のポーションをさらに取り出す。そして、再び影に向かって投げつけるが、影はまるでそれを飲み込むかのように霧を巻き返してきた。

「くそっ、これじゃ浄化が追いつかない……!」

優馬は歯を食いしばり、カイに助けを求める。

「カイ、何か手がないか!? お前の魔法で、霧を抑えられないか?」

カイは一瞬だけ考え込み、そして決意を込めた表情で頷く。

「……ああ、私の結界魔法を使って、霧の流れを止めることはできるだろう。だが、しばらく動けなくなる。優馬、リリア、私が時間を稼いでいる間に何とかしてくれ」

そう言ってカイは杖を掲げ、複雑な呪文を唱え始めた。彼の周囲に青白い光の結界が広がり、黒い霧がその中で動きを鈍らせていく。

「リリア、今のうちに精霊たちの力を借りて、影を引き裂いてくれ!」

「わかりました……精霊たち、どうか私たちに力を!」

リリアは精霊石を強く掲げ、精霊たちの声を心で叫びながら、その力を最大限に引き出そうとした。彼女の手から放たれた風が、さらに強くなり、影を包む霧を押し返していく。

「今だ……優馬さん!」

リリアの声に応じて、優馬は全力でポーションを影に叩き込んだ。その瞬間、青白い光が爆ぜ、影が苦しげに身をよじらせる。

影が霧と共にかき消え、湖のほとりに再び静けさが戻った。浄化の光が湖面を照らし、冷たい風が彼らの頬を撫でる。

「……ふぅ、何とかやったか」

優馬は大きく息をつき、リュックに残ったポーションを確認しながら、リリアとカイに向かって笑みを浮かべる。リリアは疲れた表情をしながらも、優しく微笑み返した。

「はい……精霊たちも少し安堵しているようです。でも、この霧の背後に何があるのか、まだわかりません……」

カイもまた、少し疲れた様子で杖を杖に寄りかかりながら、彼女に同意した。

「そうだな。これだけの霧を操る何者かがいるのなら、次の対策を考えなければならない。我々が見たのは、まだその一端に過ぎないかもしれない」

コハクも彼らの足元で、少しだけ甘えるように体を寄せ、疲れを癒すようにゆっくりと呼吸している。

「ワン……」

優馬は彼らに頷き、そして次の言葉を紡ぐ。

「でも、俺たちは必ずその背後にいる奴を見つけてやる。王都のためにも、精霊たちのためにも……そして、俺たち自身のために」

彼の言葉に、リリアとカイは力強く頷いた。こうして、優馬たちは次の異変への対策を胸に、再び王都の街へと帰る準備を始めた。

湖のほとりで感じた異変は、まだ彼らにとって解けない謎のままだったが、それでも彼らの心には一つの決意が確かに宿っていたのだった。
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