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第7章:未来への学びと絆
第251話「新しい風を暮らしの中へ――住宅街導入開始」
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王都アルヴェイン西部、シュレイン地区――。
石畳の道が交差し、低めの塀に囲まれた住宅が整然と並ぶ静かな住宅街。空にはうっすらと雲が流れ、時折、風に乗って子供たちの笑い声が聞こえてくる。
「このあたりが、最初の導入エリアだね」
エルヴィンは、通りの中央で立ち止まり、転写核の地図と建物配置図を重ねて見比べた。
この日は、住宅街への本格導入を前に、住民への説明と挨拶回りを行う初日だった。ロベルトの協力のもと、都市管理局にも正式な申請を済ませ、いよいよ“暮らしを支える魔力供給”の第一歩が始まろうとしていた。
「それにしても……商業区とは、雰囲気が全然違いますわね」
カトリーヌが、通りに並ぶ窓の多い家々を見上げながら呟く。
「うん。この辺は魔道具の更新が進んでなくて、手動で魔力を注ぐタイプが多いから、供給システムを使ってもらえれば、生活はかなり楽になると思う」
エルヴィンは歩きながら、一軒の家の前で足を止めた。
扉の前には木製の表札がかかっており、“ノエル家”の文字が丁寧に彫られている。
「じゃあ……最初のご挨拶、行ってくるよ」
エルヴィンが深呼吸し、扉をノックすると、しばらくして奥から年配の女性が顔を出した。白髪を丁寧にまとめたその婦人は、目を細めて彼らを見上げた。
「まあ……学院の子かね?」
「はい、失礼します。僕たちはカレドリア学院で魔道工学を学んでいる者です。現在、住宅街で新しい魔力供給の仕組みを導入する計画を進めておりまして……」
エルヴィンは、資料と簡単な説明図を差し出しながら丁寧に説明した。
「ふむふむ……魔力の線を家まで通して、灯りや暖房に使えるようにする、という話かい?」
「そうです。今お使いの魔道具をそのまま使っていただけるように、供給量を調整しながら動かします。魔力を注ぎ足す手間も減りますし、魔力結晶の交換も不要になります」
「へぇ……それは便利だねぇ。でも、費用の方はどうなんだい?」
「今回の試験導入については、王宮と商業ギルド、そして都市管理局の支援を受けておりますので、住民の皆さんには費用は発生しません」
女性は少し考え込み、それから目を細めて微笑んだ。
「それなら、ぜひやってもらおうかねぇ。腰が痛くて、あの重い魔力結晶を持つのも大変でねぇ……」
「ありがとうございます! 装置の設置と配線作業は、明日以降に担当技師が順次進めていきますので、よろしくお願いします!」
エルヴィンは深々と頭を下げ、婦人も小さく手を振って応えた。
◇
午後、通りを一軒ずつ回りながら、住民たちの生活に寄り添うように丁寧な説明が続けられた。
「おばあちゃん、これが新しい魔力供給なんだって!」
子供が資料の図を眺めながら無邪気に声を上げ、隣の母親が笑いながらそれを見守る。
「灯りが勝手につくのって、なんか不思議ね」
「ほら、昔の魔道具みたいにいちいち魔力入れなくていいって言ってたでしょ。便利になるわよ」
リヴィアが軽く頭を下げながら、近所の主婦たちに静かに説明を続ける様子は、見ていてどこか落ち着きを与えるものがあった。
「リヴィア、やけに慣れてるな……」
レオンが小声で呟くと、エルヴィンが小さく笑った。
「実家が商会だからね。こういうやり取りには強いんだよ、リヴィアは」
「まったく、隠れた営業職って感じだぜ……」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておきます」
リヴィアが聞こえていたのか、静かに笑って振り返った。
その日の夕方、導入予定区画の住民のうち、およそ七割が“導入に協力する”という意思を示した。
「予想以上にスムーズでしたわね」
カトリーヌが地図を見ながら微笑む。
「うん。生活に直結するからこそ、皆さん本当に真剣に聞いてくれた」
「やっぱ、こういうのは“人”を見て信じてくれるんだな。技術だけじゃねぇってのは、よくわかった気がするぜ」
レオンの言葉に、エルヴィンは頷いた。
「これで、シュレイン地区での正式な運用が見えてきた。明日からいよいよ、配線と転写核の設置作業を始めることになる」
夕暮れの空に、魔道街灯の柔らかな光が灯り始める。
その下で立つエルヴィンたちの背に、穏やかな風が吹いていた。
石畳の道が交差し、低めの塀に囲まれた住宅が整然と並ぶ静かな住宅街。空にはうっすらと雲が流れ、時折、風に乗って子供たちの笑い声が聞こえてくる。
「このあたりが、最初の導入エリアだね」
エルヴィンは、通りの中央で立ち止まり、転写核の地図と建物配置図を重ねて見比べた。
この日は、住宅街への本格導入を前に、住民への説明と挨拶回りを行う初日だった。ロベルトの協力のもと、都市管理局にも正式な申請を済ませ、いよいよ“暮らしを支える魔力供給”の第一歩が始まろうとしていた。
「それにしても……商業区とは、雰囲気が全然違いますわね」
カトリーヌが、通りに並ぶ窓の多い家々を見上げながら呟く。
「うん。この辺は魔道具の更新が進んでなくて、手動で魔力を注ぐタイプが多いから、供給システムを使ってもらえれば、生活はかなり楽になると思う」
エルヴィンは歩きながら、一軒の家の前で足を止めた。
扉の前には木製の表札がかかっており、“ノエル家”の文字が丁寧に彫られている。
「じゃあ……最初のご挨拶、行ってくるよ」
エルヴィンが深呼吸し、扉をノックすると、しばらくして奥から年配の女性が顔を出した。白髪を丁寧にまとめたその婦人は、目を細めて彼らを見上げた。
「まあ……学院の子かね?」
「はい、失礼します。僕たちはカレドリア学院で魔道工学を学んでいる者です。現在、住宅街で新しい魔力供給の仕組みを導入する計画を進めておりまして……」
エルヴィンは、資料と簡単な説明図を差し出しながら丁寧に説明した。
「ふむふむ……魔力の線を家まで通して、灯りや暖房に使えるようにする、という話かい?」
「そうです。今お使いの魔道具をそのまま使っていただけるように、供給量を調整しながら動かします。魔力を注ぎ足す手間も減りますし、魔力結晶の交換も不要になります」
「へぇ……それは便利だねぇ。でも、費用の方はどうなんだい?」
「今回の試験導入については、王宮と商業ギルド、そして都市管理局の支援を受けておりますので、住民の皆さんには費用は発生しません」
女性は少し考え込み、それから目を細めて微笑んだ。
「それなら、ぜひやってもらおうかねぇ。腰が痛くて、あの重い魔力結晶を持つのも大変でねぇ……」
「ありがとうございます! 装置の設置と配線作業は、明日以降に担当技師が順次進めていきますので、よろしくお願いします!」
エルヴィンは深々と頭を下げ、婦人も小さく手を振って応えた。
◇
午後、通りを一軒ずつ回りながら、住民たちの生活に寄り添うように丁寧な説明が続けられた。
「おばあちゃん、これが新しい魔力供給なんだって!」
子供が資料の図を眺めながら無邪気に声を上げ、隣の母親が笑いながらそれを見守る。
「灯りが勝手につくのって、なんか不思議ね」
「ほら、昔の魔道具みたいにいちいち魔力入れなくていいって言ってたでしょ。便利になるわよ」
リヴィアが軽く頭を下げながら、近所の主婦たちに静かに説明を続ける様子は、見ていてどこか落ち着きを与えるものがあった。
「リヴィア、やけに慣れてるな……」
レオンが小声で呟くと、エルヴィンが小さく笑った。
「実家が商会だからね。こういうやり取りには強いんだよ、リヴィアは」
「まったく、隠れた営業職って感じだぜ……」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておきます」
リヴィアが聞こえていたのか、静かに笑って振り返った。
その日の夕方、導入予定区画の住民のうち、およそ七割が“導入に協力する”という意思を示した。
「予想以上にスムーズでしたわね」
カトリーヌが地図を見ながら微笑む。
「うん。生活に直結するからこそ、皆さん本当に真剣に聞いてくれた」
「やっぱ、こういうのは“人”を見て信じてくれるんだな。技術だけじゃねぇってのは、よくわかった気がするぜ」
レオンの言葉に、エルヴィンは頷いた。
「これで、シュレイン地区での正式な運用が見えてきた。明日からいよいよ、配線と転写核の設置作業を始めることになる」
夕暮れの空に、魔道街灯の柔らかな光が灯り始める。
その下で立つエルヴィンたちの背に、穏やかな風が吹いていた。
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