辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

第7章：未来への学びと絆

第216話「隠された真実！」

カトリーヌとエルヴィンは、研究塔の最上階にある主任室を訪れていた。塔の中でもひときわ格式を感じさせるその部屋は、重厚な木の扉と緻密な魔道装飾に囲まれており、まさに“中央管理”の名にふさわしい威厳を湛えていた。

「主任様、お時間をいただきありがとうございますわ。」

カトリーヌは上品に一礼し、優雅な笑みを浮かべる。隣のエルヴィンも小さく頭を下げた。

主任は、白銀の髪を持つ壮年の男性で、落ち着いた口調ながら、その瞳はどこか探るような鋭さを持っていた。

「いえいえ、お二人とも。貴族街の広場での技術実演、拝見させていただきましたよ。あの魔力供給システム……実に興味深い。」

「恐縮です。その件で、少しお時間をいただきたいことがありまして。」

エルヴィンが資料の束を差し出す。

「これは……？」

「はい。現在、王都各地に導入を進めている魔力供給システムの概要と、農地での試験報告です。私たちの開発は、単に魔力を分け与えるだけでなく、消費量を抑え、魔道具の制御を安定させることにも重きを置いています。」

主任は一枚一枚を丁寧にめくりながら、内容に目を通していたが――ふと、手を止めた。

「ほう……この流量制御バルブ、なかなか精巧だ。だが……王宮の魔道炉と連携している？」

エルヴィンは一瞬、表情を引き締めた。

「ええ。現在、王宮より正式な供給許可をいただき、王都の広場での試験運用を行っております。ですが、私たちは最近、気になる点に直面していまして……」

カトリーヌがその言葉を引き継ぐように、自然な調子で話す。

「王宮の魔道炉とは別に、こちらの研究塔の魔力循環に不自然な魔力の波があることに気づきましたの。」

主任の指が資料の上で止まる。

「ほう……不自然、ですか？」

「ええ。それが、王宮の魔道炉と同期するような周期で増幅・放出を繰り返しているように見えます。まるで、連動しているかのように。」

主任はしばらく沈黙した後、椅子の背にもたれて目を細めた。

「……なるほど。どうやら君たちは、相当に深いところまで見ているようだ。」

「私たちは、王都全体の魔力の安定供給を目指しています。そのために、あらゆる可能性を検証しなければなりません。」

エルヴィンの言葉は、少年ながらも真剣そのものだった。

すると主任は、ふっと小さく笑った。

「……そうですね。よろしい。ここまで話をした以上、隠しても意味はない。」

カトリーヌとエルヴィンが思わず息をのむ。

「この塔の魔道炉は、王宮の魔道炉と間接的に繋がっています。あちらの魔力が安定したとき、余剰魔力を一部受け取るように設定されているのです。」

「やっぱり……！」

エルヴィンの目が真剣な色を増す。

「しかしこれは正式な王宮の命によるもので、違法なものではありません。王都の東部――特に農地や旧区画における魔力不足を補うための“影の供給炉”として存在しているのです。」

主任の語り口は冷静で、隠し立てのない誠実さがあった。

「それなら、なぜ公表されていないのですの？」

カトリーヌが静かに尋ねる。

「政治的な理由です。『王宮の魔力は特別なものであり、民に等しく与えるべきものではない』という古い考えが、いまだに一部で根強いのですよ。」

「そんな……」

エルヴィンは唇をかみしめた。

「それでも私は、君たちの技術がその壁を打ち壊すかもしれないと期待している。」

主任は立ち上がり、窓の外――王都の街並みを見下ろした。

「君たちが正しく力を使い、人々に安定と希望を与えようとしている限り、私も可能な限りの協力を惜しまないつもりです。」

エルヴィンとカトリーヌは顔を見合わせ、静かに頷き合う。

「……ありがとうございます。これからも、正しい魔力の使い方を追求していきます。」

「ふふ、頼もしいお言葉ですね。今後の研究、楽しみにしていますよ。」

主任の声は柔らかく、しかし芯のある響きを持っていた。

こうして、エルヴィンたちは塔の“隠された真実”を知るとともに、より大きな信頼と責任を背負うことになった――。