辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

第7章：未来への学びと絆

第191話「魔力の揺らぎ――実地試験の課題」

王宮での技術報告会を無事に終えたエルヴィンたちは、正式に王国の支援を受けて実地試験を行う許可を得た。

翌日、彼らは王都アルヴェインの一角にある広場で、魔力供給システムの試験運用を開始することになった。

試験が行われるのは、王都アルヴェインの商業区と貴族街の境に位置する広場だ。

この広場には十数本の魔道灯が立ち並び、夜になると個別に魔力を消費して点灯する仕組みになっている。しかし、今までの魔道灯はそれぞれ独立していたため、魔力の消費にムラがあり、効率が悪かった。

「ここで新しい魔力供給システムを試験運用するんですね。」
リヴィアがノートを確認しながら言う。

「うん。この広場に設置された魔道灯をすべて中央の魔力供給装置で管理し、均等に魔力を配分する。それがうまくいけば、王都全体に広げることも可能になる。」
エルヴィンが説明すると、レオンが腕を組んで頷いた。

「そんじゃ、ちゃっちゃと設置しちまおうぜ！」

「ええ。準備に取りかかりますわ。」
カトリーヌが護衛の騎士たちに指示を出し、事前に準備されていた魔道具や配線を広場の中央へ運ばせる。

エルヴィンたちが試験区域に選んだのは、商業区に隣接した広場で、人通りが多く、街の主要な道路にも面している。ここでの実験が成功すれば、王都の各地区へシステムを広げる計画だ。

「設置完了！ あとは魔力供給装置を起動するだけだな！」
レオンが大きく伸びをしながら言った。

エルヴィンは装置の最終確認を行い、深呼吸をした。

「それじゃあ、魔力供給システム・試験運用開始！」

スイッチを押すと、魔道炉に蓄えられた魔力が、伝達線を通じて魔道灯へと流れ込んでいく。

――ブゥゥゥゥン……

淡い光が魔道灯の中を駆け巡り、次々と街灯が灯り始める。

「成功……？」
リヴィアが測定器を確認する。

「魔力供給量、安定。分岐装置も正常に動作している。」

「よし！ これで夜になっても、王都の広場が明るく保たれるぞ！」
レオンが嬉しそうに言った。

「ですが、本当に安定しているかどうかは、夜間の長時間運用を見てから判断するべきですわ。」
カトリーヌが慎重な意見を述べる。

「そうだね。もう少し様子を見よう。」

太陽が沈み、街の灯りがひとつ、またひとつと灯り始めるころ。

エルヴィンたちは、魔力供給システムが正常に稼働しているかをじっくり観察していた。

「魔道灯、問題なし。魔力の供給量も均等に分配されている。」
リヴィアが冷静に報告する。

「ふむ、今のところ順調ですわね。」
カトリーヌが手元のメモを確認する。

広場を照らす魔道灯は、今までの個別点灯方式とは違い、すべてが均一な明るさで光っていた。

「おおっ、見ろよ！ まるで昼間みたいに明るいぞ！」
レオンが驚いたように周囲を見渡す。

近くを通りがかった商人や市民たちも、新しい魔道灯の光に気づき、興味深そうに立ち止まっていた。

「今までの魔道灯よりも、光が柔らかくて見やすいな。」
「おお、確かに。眩しすぎないのがいい。」

「これなら、夜の市ももっと開けるな！」
「防犯の面でも役に立つかもしれない。」

市民たちの間でも、魔力供給システムの効果は上々のようだった。

「いい反応ですね、エルヴィン様。」
リヴィアがほっとしたように微笑む。

「うん。だけど、これが本当に持続するかどうかは、まだ分からない。」
エルヴィンは慎重に考えていた。

実際の運用では、長時間の稼働による負荷や、予期せぬトラブルが発生する可能性もある。

「油断は禁物ですわね。今夜はしっかりと監視を続けましょう。」
カトリーヌも同意する。

時計が深夜を指すころ――。

エルヴィンたちは、広場に設置されたベンチで魔道灯の状態を見守っていた。

「……魔力供給量、問題なし。」
リヴィアが測定器を見つめながら報告する。

「じゃあ、このまま最後までいけそうか？」
レオンが欠伸をしながら尋ねた、その時だった。

――バチッ！

突如、広場の中央にある魔道灯の光が揺らぎ、明るさが一瞬落ちた。

「……！？」

エルヴィンがすぐに装置を確認する。

「魔力供給に乱れ……！？ いや、供給装置自体は正常だ。」

「ならば、どこかの伝達線に問題が？」
カトリーヌが尋ねる。

リヴィアが急いで周波数の変動を測定する。

「……これは、供給される魔力が一時的に圧縮されている現象かもしれません。」

「魔力圧縮……？」
レオンが首をかしげる。

「供給量自体は変わっていないのに、魔力が流れる速さが均一ではなくなっているんです。魔道灯へ届く魔力が、まるで川の水がせき止められたように、時々詰まるんですわ。」

「つまり、魔力が一時的に滞って、灯りが不安定になるってことか。」
エルヴィンが考え込みながら言う。

「ええ。おそらく、魔力伝達線の材質や流れの仕組みにまだ問題があるのでしょう。」
カトリーヌが推測する。

エルヴィンは、広場の中央に立ち、魔道灯をじっと見つめた。

「……やっぱり、実際に動かしてみないとわからない問題があるな。」

「ま、だからこそ、こうやって試験運用してるんだろ？」
レオンがニッと笑う。

「うん。明日、問題点を洗い出して改良に取りかかる！」

王都を照らす新たな技術は、まだ進化の途中だった。