辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

第6章：帝国の陰謀と赤き核

第131話「黒い騎士との邂逅」

霧に覆われたシェリル峡谷の奥、エルヴィンたち調査隊は立ち止まり、目の前の黒い装甲を纏った騎士を見据えていた。その圧倒的な威圧感に、護衛の兵士たちでさえ緊張を隠せない。

騎士は静かに剣を構え、赤い魔力が刃を包み込んでいた。その光が霧を淡く染め、異様な雰囲気を漂わせる。

「エルヴィン、ここは俺たちが食い止める。お前は少し下がってろ！」
護衛の一人が盾を構え、エルヴィンを守るように前に出る。

「……分かりました。でも、装置を届けるまで絶対に止まりません！」
エルヴィンはバッグをしっかり抱えながら後方で護衛たちの動きを見守る。

黒い騎士は無言のままゆっくりと前に歩みを進めた。その動きは静かでありながら圧倒的な存在感を放ち、まるで獲物を狙う獣のようだった。

「来るぞ……！」
護衛の兵士たちが剣を構え、身構える。

すると、黒い騎士が突然疾風のようなスピードで間合いを詰めた。赤い魔力を纏った剣が一閃し、先頭の兵士の盾を一刀両断にする。

「な、なんて威力だ！」
護衛の一人が声を震わせる。

しかし、兵士たちもすぐに反撃を開始する。剣と槍を持った兵士たちが連携して騎士の動きを封じようとするが、その剣さばきは圧倒的だった。一つ一つの動作が正確無比で、全ての攻撃をいとも簡単に受け流してしまう。

「ダメだ、こいつ……普通の相手じゃない！」
兵士の一人が焦りの声を上げる。

その時、後方からガルドの声が響いた。
「遅れてすまねえ！ようやく出番ってわけだな！」

ガルドが霧の中から斧を担いで飛び込んでくると、ユリウスも剣を握りしめながら後に続く。そしてゼッド中尉も兵士たちを率いてその場に到着し、状況を一瞬で把握した。

「全員聞け！こいつの動きを止める！各自、注意を引きながらエルヴィンを守れ！」
ゼッド中尉が鋭く命令を飛ばす。

「待ってました！さっそく派手にいくぜ！」
ガルドが斧を構えながら笑みを浮かべる。

「無駄に派手なだけにならなければいいがな。」
ユリウスが皮肉を交えた声を返し、剣を構え直す。

ゼッド中尉、ガルド、ユリウスの三人は、それぞれの戦闘スタイルを活かして黒い騎士に挑んだ。

「行くぞ！」
ゼッド中尉が鋭く指示を飛ばしながら先陣を切り、剣を振り下ろす。だが、黒い騎士はその一撃を軽々と受け流し、反撃の斬撃を放つ。だが、その隙をガルドが見逃さなかった。

「お返しだ！」
ガルドの斧が激しい勢いで振り下ろされ、黒い騎士の剣に衝撃を与える。その力強い一撃で一瞬騎士の動きが鈍る。

「今だ！」
ユリウスが隙を突いて剣を突き出し、騎士の側面を狙う。鋭い一撃が騎士の装甲に命中したかに見えたが――。

「硬い……！」
ユリウスの剣が弾かれ、かすり傷を与えるのが精一杯だった。

黒い騎士は動きを止めることなく、再び猛攻を仕掛けてくる。その戦いぶりは、疲れを知らない精密機械のように完璧だった。

後方で戦いの様子を見守っていたエルヴィンは、バッグからクリムゾンオーブを組み込んだ装置を取り出し、迷いのない手つきで準備を始めた。

「これしかない……！あの騎士も魔力で動いているなら、この干渉波で動きを止められるはず！」

エルヴィンは装置を起動し、騎士に向けて干渉波を放つ準備を整える。だが、正確に狙いを定めるには、敵の動きをさらに封じる必要があった。

「ガルド、ユリウス、中尉！」
エルヴィンが叫ぶ。

「こいつを使います！騎士の動きを止めるので、その隙に一気に仕留めてください！」

エルヴィンの装置から放たれた干渉波が黒い騎士を包み込む。赤い魔力の輝きが徐々に弱まり、騎士の動きが鈍り始めた。

「今だ！」
ゼッド中尉が鋭く号令を飛ばし、ガルドとユリウスが同時に突撃する。

「これで終わりだ！」
ガルドの斧が騎士の肩に深く食い込み、ユリウスの剣がその胸元を正確に貫いた。

黒い騎士は大きく揺らぎ、赤い光を完全に失った。そして、崩れ落ちるようにその場に倒れ込む。

「よっしゃ！やったな！」
ガルドが肩で息をしながら笑みを浮かべる。

「……さすがだな。だが、次はもっと静かにやれよ。」
ユリウスが剣を収めながら軽く肩をすくめる。

エルヴィンは装置を手にしながら、仲間たちのもとに駆け寄った。
「皆さんのおかげです。僕一人では絶対に無理でした。」

「いや、お前もよくやった。」
ゼッド中尉が彼の肩を叩き、微笑む。

こうして、シェリル峡谷での最大の障害を突破したエルヴィンたちは、再び前へ進むことを決意した。次に待ち受けるものは分からないが、彼らは一歩も引かずに進み続ける――。