辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐

文字の大きさ

大中小

57 / 174

第6章：帝国の陰謀と赤き核

第103話「魔物を操る力――ゼクトス帝国の陰謀」

しおりを挟む

影の魔物「ダーク・ストーカー」を生み出し、さらにそれを制御するゼクトス帝国。その手掛かりを掴むべく、エルヴィンたちはエーリヒ・ヴォルフラムの指示のもと、砦から少し離れた古代遺跡へと向かうことになった。護衛部隊と共に遺跡へ進む道中、彼らの表情には緊張が走る。

「なあ、エルヴィン。この遺跡って、どんな場所なんだ？」
ガルドが馬車を揺らしながら、何気なく質問を投げかける。

「もともと古代の魔法文明が使っていた施設の跡だと聞いてる。でも、今は帝国がそこを占領して、何らかの研究を行っているらしい。」
エルヴィンは地図を見ながら答えた。

「古代の施設ねえ……。妙にロマンはあるけど、命がけで行くには割に合わない気もするな。」
ユリウスが軽口を叩くと、ガルドがすかさず返す。

「おいおい、ユリウス。今さら何を怖気づいてんだ？お前のその口の軽さが、真っ先に罠を踏むきっかけにならなきゃいいけどな。」

「俺をそんな危なっかしい奴扱いするなよ、ガルド。まあ、罠に引っかかるなら、お前の鈍臭い足元が最初だろうけどさ。」
ユリウスが肩をすくめて笑う。

「何だと！？ ……まあいい、俺がしっかり前を見張ってやるから、安心してくっついて来い。」
ガルドが斧を肩に担ぎ、胸を張る。

「本当に仲がいいんだね、二人とも。」
エルヴィンは苦笑しながら会話に加わる。

護衛部隊の隊長も微笑ましげに振り返りつつ、軽く注意を促す。
「油断するな。ここから先は帝国の監視が強い地域だ。静かだが、それが逆に不気味だ。」

夕暮れ時、エルヴィンたちは遺跡の入り口に到着した。そこは、崩れかけた黒い石の門と、古代文字が刻まれた壁に囲まれていた。門を抜けると、中から冷たい風が吹き抜け、明らかに普通ではない魔力の波動が漂っている。

「……これは、ただの遺跡じゃない。魔力がまるで生きているみたいだ。」
エルヴィンが立ち止まり、慎重に遺跡の内部を観察する。

「なんか嫌な雰囲気だな。この中に本当に帝国の研究があるのか？」
ガルドが斧を構えながら警戒する。

「帝国が何をしているかは分からないけど、この魔力……ただの研究施設じゃない気がする。何か……もっと大きな目的が隠されているかもしれない。」
エルヴィンは眉をひそめた。

護衛隊の隊長が兵士たちに鋭く指示を飛ばす。
「おい、気を引き締めろ！この中は通路が狭いんだ、列を乱すなよ！散開して動いたら、首取られるのはてめえらだからな！」

「了解！」
兵士たちは一斉に応じ、緊張感をもって整然と遺跡の中へと足を踏み入れた。

遺跡の内部は薄暗く、石造りの通路には所々に壊れた石像や瓦礫が散乱していた。壁には古代文字がびっしりと刻まれ、その一部には魔力が込められた痕跡が見られる。

「この文字……どうやら魔力を流すための術式みたいだ。帝国がこれを利用して、何か実験をしていたのかも。」
エルヴィンが壁を指差して説明する。

「そんなに古臭い文字で、あいつら何をしようってんだ？魔物を改造するには、もっと新しいやり方があるんじゃねえのか？」
ガルドが疑問を口にする。

「新しい技術だけじゃなく、古代の術式を利用することで、より効率的に魔力を増幅できることがあるんだ。この遺跡全体が……一種の巨大な魔力増幅装置になってる可能性が高い。」
エルヴィンが冷静に推測する。

「なるほど。つまり、ここでダーク・ストーカーの元になる魔物を作り出して、さらに強化してるってわけか。」
ユリウスが鋭く言い当てる。

「その通りだと思う。だけど、まだ証拠が足りない。この先を調べないと。」
エルヴィンはさらに奥へ進むよう促した。

通路を進むと、やがて遺跡の中心に到達した。そこには巨大な広間が広がり、中央には赤いクリスタルのような物体が鎮座していた。その周囲にはいくつもの魔法陣が描かれており、奇妙な光を放っている。

「……あれが、ダーク・ストーカーを生み出している魔導核か。」
エルヴィンが慎重に近づきながら呟く。

「どうする？壊しちまうのか？」
ガルドが斧を握りしめる。

「待って。下手に壊せば、ここに溜まっている魔力が暴発する可能性がある。」
エルヴィンが止めると、ユリウスもクリスタルに目を向けた。

「でも、こんなもんを帝国に使わせるわけにはいかねぇだろ？」

「そうだね……まずは仕組みを解明して、使えなくする方法を考える必要がある。」
エルヴィンが魔導核の周囲を調べ始めたその時――。

突然、広間に黒い霧が渦を巻き始めた。クリスタルが振動を始め、その周囲から複数のダーク・ストーカーが出現する。

「くそっ、また出やがった！」
ガルドが即座に構えを取り、ユリウスも剣を抜く。

「魔物を守るために、この魔導核が呼び寄せたんだ……！」
エルヴィンは状況を把握しつつ、護衛隊に指示を出した。

「敵の動きを見極めろ！間合いを詰めすぎるな！ここで死にたくなけりゃ、クリスタルに触れさせるんじゃねえ！」
隊長の鋭い指示に、兵士たちは即座に応じ、陣形を整える。

ダーク・ストーカーたちは、これまで以上に凶暴な動きを見せ、護衛隊に向かって突進してくる。エルヴィンたちは果たして、この危機を乗り越え、帝国の陰謀を暴くことができるのか――。

しおりを挟む